王都はでかかった
「うわぁ~!あれが王都なんだぁー!」
ナナの歓喜の声が聞こえてくる。4日もかかった移動も終わり、目の前にはこの国の中心地である王都、《ローズマリー》が広がっていた。石で作られているにも関わらず無機質さを感じさせない、高さ10メートルほどの塀に囲まれ、その塀の外側を沿うように、そして王都上空を半球状に包む透明な結界。その見た目が、この王都の重要性をまじまじと伝えている。
このときばかりは険悪な雰囲気に落ち込んでいたナナも、そして俺も自然と笑みを浮かべていた。
「そろそろ王都に着きますから、準備をお願いしますね。」
この4日間の職務を全うしてくれた御者のサルドさんにそう言われた。この人だけはこの険悪な雰囲気を全く気にしていないようだった。
職務上、こう言うことはよくあるのかもしれないな。
俺とナナ、あとコラルドさんが荷物などの準備を始める。そのときには、護衛の二人・・・サリナとヴィズはもう準備を済ませていた。
「シュウ、荷物の準備も終わったよ。」
「そうか、ありがとな。それにしても、王都って思ってた以上にすごいな。」
「うん!すっごくおっきいね。」
「そりゃこのペチュニアの国のなかで最大の街だからね。ここには国のすべての物が集まってくる。魔法技術も最先端の場所だ。」
それから少しすると、塀にある入口のところに来た。二つの門があり、そのうち一つは中に入る人たちで長蛇の列ができている。それに比べてもうひとつのほうには全く人が通っていなかった。
「なんであっちの入口に行かないのかな。」
「あっちの門は王などのお偉いさんたちや、それ相応の理由がある人が使う門だからね。そういった人達を待たせる訳にはいかないからね。」
それ相応の理由というのは、まず商人など物を運んでくる人達、そして王などから直々に呼び出された人達などだ。商人は商人用の通行許可証を持っており、後者のほうは呼び出されたことが真実か確認さえすれば通れるらしい。
「つまり、俺たちはそっちを通れるのか?」
「そうだ。私が王からの通行許可証をもらっている。ただ、御者と護衛を一緒につれていくことはできないから、門の前でお別れだね。」
コラルドさんが王都へ報告に行ったときに、通行許可証をもらっていたらしい。だが、護衛などの他の人は簡単に通しては行けないらしく、そこから先は別れることになる。
ふと列のできている門のところを見てみると、王都に来た冒険者らしき人たち相手に入念に検査をしていた。まぁ危険なやつを入れるわけにはいかないしな。それが護衛などを通してはいけない理由なのだろう。
退屈そうに列に並ぶ人達を横目に、俺たちはもうひとつの方の門までやってきた。
「止まれ!何者だ!」
門兵が俺たちの馬車を止める。その直後、御者が馬車を止めて俺たちの方を見た。
「ここからは私にはどうにもできませんので、お客様たちでお願いします。」
「そうだね、ありがとう。じゃあシュウ君とナナさん、ここで降りようか。」
「あぁ、わかった。」
「はい!それじゃあ、ありがとうございました。」
ナナが御者のサルドさんにお礼を言ったので、俺も軽く頭を下げておいた。ついでに護衛の二人にも軽く会釈しておくが、未だに二人してそっぽを向いていた。
仕方ないので、そのまま俺たちは馬車から降りて門兵のところへ行った。
「お前たちは何者だ。」
「俺はラベンダーのギルド長、コラルド。こっちの二人は今回王に呼び出されたシュウとナナだ。」
「王直々に?ちょ、ちょっと待ってくれ。」
コラルドさんの言葉を聞いたとたん、門兵が少し焦り始めた。急いで懐からメモを取りだし、何かを確認している。
「た、確かにそのようだな。だが、その三人であると言う証明はできるか?」
「あぁ、これでいいか?」
コラルドさんが通行許可証と書かれた紙を三枚取り出す。俺たちの名前が一人ずつ書いてあった。
「えーと、《真偽》・・・本物のようだな。無礼な話し方をしてすまなかった。あれぐらいしないと嘘をついて通ろうとするやつもいるからな。仕方ないんだ。」
「大丈夫だよ。しっかりと仕事をしてて関心だね。今後も頼むよ。」
「は、はい!それでは、こちらへどうぞ。」
そして、無事王都へ入ることができた。その先には・・・。
「おぉー!これはすごいな!」
「ほんと、すごいね!」
圧巻だった。活気に溢れた街を老若男女、様々な人が行き交っている。どの人も顔には笑顔が溢れていて、その中にいるだけで笑顔になれるような雰囲気がある。
しばらくその活気に俺とナナが呆然としていると、
「さて、早速王宮のほうに向かおうか。できるだけ早く来てくれと言われてるからな。」
今から急いだところでそこまで変わらないんじゃ、とは思ったが、急ぐに越したことはないので早速向かうことにした。
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「これ、招待券があるんだが。通してもらえるか?」
「ひっ!・・・ふぅ。はい!どうぞ、こちらです!」
王宮入口にある受付で招待券を見せる。受付をしていた女の子は、招待券を見た瞬間ビクッとして立ち上がった。そして、深呼吸をしたあと落ち着いた様子で案内を始めた。
が、恥ずかしいのは変わりないのか、耳まで真っ赤にして、受付カウンターから出てくるところで角に足を引っかけて転びそうになってしまう。
「っ!危ない!」
「きゃ!・・・へ?」
とっさに走って受け止める。
「だ、大丈夫か?」
「・・・ひ、ひゃぅ!」
怪我をしてないか心配だったので確認するが、突然変な声をあげて離れてしまった。
・・・よくよく考えれば気持ち悪かったかもな。
「す、すまなかった。気持ち悪かったか?」
「い、いえ!助けていただきありがとうございます!そ、それと、すいませんでしたぁ!」
「い、いや、そんなに本気で謝らなくても。」
まぁ嫌がられてなかっただけよかったか。そう思って内心ほっとしていると、
「うぅぅ・・・。シュウは私の彼氏なのにぃ!」
「え、あーその・・・すまん!」
「むぅ、後で、ちゃんと埋め合わせしてね?」
「は、はい。わかってます。」
「ハハハ、なんだか大変そうだな!」
「まぁ、可愛いんで、」
「そ、そうか。」
なんか、変なこと言ったか?
そんなことを思いつつも、未だに顔を真っ赤にしたままの受付の女の子についていった。
次話で、王様も出てくるかな