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サリナとヴィズ

「荷物はちゃんと持ってるな?」

「あぁ、確認もしたし大丈夫だ。」

「はい!大丈夫です。」


翌日。空がまだ暗い青をしている早朝から、俺たちはギルドに来ていた。まだ夜は冷え込むため、このぐらいの時間は涼しくてとても過ごしやすい。


「それじゃあ、外に馬車を待たせているからついてきてくれ。」


ギルドに来ていた理由、それは他でもない王都への出発のためだ。王都へは馬車で移動するみたいだが、車のような乗り物とかはないみたいだな。

まぁ異世界っぽくていいか。


「とうとう王都だね。どんなところなのかなぁ~」

「俺はまだこの町の辺りのことしか知らないからな。すごく楽しみだ。」


俺が転移してきてからはずっとこの町にいたからな。この世界でももっとも栄えているという王都ってのは興味がわく。

しばらく歩いて町の外側に出てくると、木造の馬車があった。

そこには手綱を持った御者が一人と、あと二人馬車の横に立っていた。


「お待ちしておりました。この馬車の御者をつとめさせていただく、サルドと申します。」


俺たちに気づいた御者、改めサルドさんが自己紹介をする。それに合わせて俺たちも自己紹介をしておいた。


「この町のギルド長をしているコラルドだ。よろしく。」

「俺はシュウだ。よろしくな。」

「私はナナです。よろしくお願いします。」


一通り自己紹介を終えると、さっき馬車の横にいた二人がやって来た。若い男女のようだが、男のほうはその女性に引っ張られて嫌々つれてこられたって感じだな。


「どうも、私は冒険者をやってるサリナです。今回の護衛をやらせていただきます。あと、となりのこの人が・・・ほら、自己紹介して。」

「ちっ、なんで俺が獣人なんかの護衛を・・・。」

「ちょっと!大事なお客様なんだから、」


女性・・・サリナさんのほうはしっかりしてるみたいだが、男のほうはすごく嫌そうだな。

それに獣人嫌いなのか・・・。ナナがしょんぼりしてしまっている。後で撫でてやらないとな。


「ごめんなさいね、この人全然ちゃんとしてくれなくて。この人はヴィズ。私と冒険者でペアを組んでるの。」

「そうか、よろしくな、サリナ、ヴィズ。」

「はい、よろしく。」

「ちっ・・・。」

「ちょっと、ヴィズ!ほんとごめんなさいね・・・。」

「いえ、」


あからさまに嫌そうにしているが、移動中の4日間はずっと一緒にいるんだよな。大丈夫だろうか・・・。


「では、早速出発しますので、乗ってください。」


先が思いやられる気持ちになりながらも、俺たちは馬車に乗り込んで移動を開始するのだった。


─────────────────────────────────────


・・・・・・。

馬車の中は異常なほど静かだった。

というのも護衛の二人がいるからだ。正確にはその片方がいるからなのだが。

護衛といっても魔物や盗賊が出てこない限りは馬車の中にいる。そのため、ずっと不機嫌そうなヴィズが会話をしづらくしているのだ。

因みにコラルドさんは一人寝ているようだった。

そんな中で先陣を切ったのはサリナだった。


「あのー、コラルドさんはギルド長をしているときいたんだけど、シュウとナナは何をしてるの?」

「あー、俺は冒険者をしてる。色々あって俺は住むところとかそうゆうのはなくてな、ナナの家に住んでる、まぁ居候ってわけだな。」

「私は前までは薬草を売って生活してました。けど今はシュウが依頼を受けてそれについていって薬草を採ったりしてます。あと・・・シュウの恋人です!」

「そうなんですか!羨ましいなぁ~。」

「獣人の恋人か、バカみてぇだな・・・。」


せっかく話が弾んできたところをヴィズがボソボソと非難するせいでまた静まりかえってしまう。

それからしばらく沈黙が続き、今度はナナが話題をふった。


「お二人は冒険者だといってましたけど、始めてどれぐらいになるんですか?」

「獣人のくせに生意気に・・・。」

「えーっと。二人でペアを組んでから冒険者になったんだけど、始めて4年ぐらいになるかなぁ。」


ナナが質問したことにまたもや非難をしようとしたヴィズに被せるようにサリナが答える。ヴィズは「ちっ・・・。」と言ってそっぽを向いてしまった。



「もう4年かぁ。思ったより短かった気もするなぁ。」

「因みに、今のランクはどれぐらいなんだ?」

「今はBランクだよ。昇級試験を受けてCからBになったのが確か半年ほど前だったかな。シュウは?」

「俺は今Dランクだな。まだ始めて一ヶ月と少しだが、ぼちぼちやってるよ。」

「一ヶ月ちょっとでDランクかぁ。なかなか早いペースで上がってるね。」


実はそれなりに依頼をこなしていく中で、少し前にDランクへと上がっていたのだ。といっても薬草摘みばかりで大丈夫なのかと思っていたが、毎日の積み重ねがよかったみたいだな。


「シュウはね、ランクはまだDだけどCランクの魔物の群とかBランクのゴキャルなんかも倒してるんだよ。」

「そうなの!ならすぐに追い付かれちゃうかもね~。」


ナナが自分のことのように喜びながら自慢する。そう言ってもらっておれ自身もうれしくなっていたのだが・・・


「ゴキャルぐらい俺なら一瞬でたおせるっつーの。そんなことで自慢するなよ。獣人風情が!」


またヴィズが邪魔をしてくる。ほんと何がしたいんだ?

・・・それに、さっきからナナのことを見下すような言い方ばかり。さすがに我慢ならんな。


「あのさ、何が気に入らないのか知らないけど、うちのナナのこと見下すようなことはやめてくれないか。」

「シュウ・・・。」


ナナが心配するような目で俺のことを見ている。大丈夫だ、俺がちゃんと守ってやるから。


「あぁ?なんだよ彼女の前だからってカッコつけやがって。そもそも、獣人が人様の前にいることがおかしんだよ!」

「ヴィズ!」


サリナがヴィズにむかって叱りつけようとするが、ヴィズは止めない。


「てか、なんでBランク冒険者の俺が護衛なんて初歩的なことやんなきゃなんねぇんだよ!」

「そんなこと言ったって、最近は依頼の失敗続きで、そろそろ成功しないとランク下げられちゃうよ!」


サリナが言うには、最近は依頼に失敗してばかりで、ギルドからもランク降格の注意をうけたそうだ。それで比較的安全な護衛の依頼をうけたらしい。


「そんなの、ちょっと調子があった悪いだけだ!次はちゃんと成功するはずだ!」

「いっつもそんなこと言って失敗してたじゃん!」

「それはお前が下手だからだろ!」

「な、私のせいにするの!?・・・ほんと信じらんない。もう勝手にして!」

「あぁ、あぁ分かったよ!」


どうやら仲が決裂してしまったようだ。とても気まずいが、俺たちにどうこうできる問題ではないだろう。ふと見るとナナがおろおろとしていた。


「ナナ、こっちに来い。今は俺たちが話しかけるのはよくない。」

「・・・わかった。」


俺はナナにだけ聞こえる声でそういった。ナナも理解したのか、俺と二人で馬車の端のほうに寄ることにした。


それからは移動中も、食事のときも、寝るときでさえ二人は一言も話さず、目も合わせなかった。


そしてとうとう最終日の4日目になっても、その気まずい状態が続いたのだった。


「うぅぅ・・・。この雰囲気のせいで全然シュウといちゃいちゃできなかった・・・。」


ナナがそんなことを呟いていたが、その言葉に俺も深く同意した。

移動中の部分は大きくカット。(長くなると大変ですしね。)二人の関係はどうなるのか。

次回はとうとう王都に入ります。

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