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おのころのくに

作者: 若松ユウ

 平成三十一年四月三十日、深夜。淡路島。


「おい、どうなってるんだ!」

「強風なんて、吹いてねぇじゃねぇか!」

「くそっ。圏外になってやがる」 


 明石海峡、鳴門海峡では、夕方六時から両大橋が封鎖され、フェリーなどの航路も同時に休止していた。

 十三万人の島民に加え、仕事や観光で来た人間が島に閉じ込められるかたちだ。

 いくら大型連休中とはいえ、翌朝に本州や四国に渡らなければならない人間は少なくなく、疲労と不満から怒りの声が上がっている。


――ドーン! ゴゴゴゴゴ……


「なんだ、なんだ?」

「怖いよぅ」

「誰か説明しろ!」


 元号が変わった、令和元年五月一日零時。

 突如、けたたましい爆発音とともに、地震のような揺れが襲った。

 そして、揺れが収まったタイミングで、その場に居合わせた人々のスマートフォンから、一斉に緊急アラームが鳴り出した。

 

  *


 淡路島の中に居る人々がパニックになっている時、島の外でも非常事態が起きていた。

 それは、島の周りを回っているヘリコプターが報じるニュースが、改元のおめでたさで浮かれているお祭り好きの日本人には、あまりにも信じがたい映像だったからだ。


「ご覧ください! 明石海峡大橋、ならびに大鳴門橋が、壊滅的な状況になっています。道路が寸断され、あきらかに通行は困難でしょう。何らかの人為的工作によるものと思われます! みなさん。これは、フィクションではありません」 


 映像には、どちらの橋も中腹から破壊され、ところどころ火の手が上がっている様子が映し出されている。


  *


 緊急アラームが鳴り止むと、人々は言葉を失い、奇妙な静寂が流れた。

 と、そこへ、さきほどまでカラーバーを映していたモニターが切り替わり、立体映像で作られた謎の人物による報道番組が始まる。


『淡路島の住民諸君、落ち着きたまえ。我々は、諸君の味方であり、新たにこの島を統べるものだ』


 映像が始まった途端、人々はざわめき立つ。その様子が伝わっているのか、謎の人物は、再度静粛を促してから続ける。


『話は、最後まで来きたまえ。くにうみで最初に生み出された島であり、また、淡路国として皇室へ美食を提供してきた地でありながら、今や県の片隅で三つの市を有するばかりの小さな存在に成り下がっている。我々は、それを嘆かわしく思い、この淡路島の地位を、一つのれっきとした国家に引き上げることに決めた』


 何を言ってるんだ、という声が上がっているのを見透かしてか、謎の人物は迂遠な話を止め、結論に入る。


『この島には、島民が自給自足していくのに十二分の環境と資源に恵まれている。そこで、本日只今を以って、日本国兵庫県の眷属を外れ、淡路島は新制「おのころのくに」として独立する!』


 こうして、瀬戸内海最大の島で、令和初の一大騒動が巻き起こった。 

 このあと、この謎の人物は、マスコミ、政府、警察、はては自衛隊まで相手どり、日本人ひとり一人が、国とは何なのか、法は何のためにあるのかを再考せざるを得ない事態へと発展させていく。

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