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6 原作ではこうだったと思っちゃったのが運の尽き

 時は流れて。


 教育期間がつつがなく終了するっていうタイミングで、魔の森だかいうところに住む魔獣の活動が活発になっているという話が流れてきた。

 ああ、本格的に騎士団長ルートなんだなあ……と私とイレーヌは顔を見合わせた。リリカとも目が合う。貴方もお気づきでしたか。何よりだ。


 この魔獣大暴れイベントは、結界を破ってたくさんの魔獣が城下町の外れに出現し、育ての親を見舞って来ていたヒロインがそれに襲われて、騎士団長アイザックが助けに来るっていうものだ。

 ちなみにこの時、好感度が高ければ高いほど強く、最高値ならば一人で傷一つなくボコボコにして守り切ってくれるそうな。ちなみに私が見たのは庇ってかすり傷で見た目ボロになりつつも大きな怪我はないルートだったよ。


「ねえ」

「はいよ」

「好感度チェックイベント、見にいこうかと思っているのよ」

「お前……命が惜しくないのか……」

「惜しいわよ!でも優先順位があるの!教育期間が終わったら私たち基本的には皆離れ離れなのよ!一分一秒でも長く推しを見ていたいじゃない?!でも一人で行くの怖いから貴方も道連れよ」

「ナルホドナー?」

「わかりみが深い。推しが行くなら私も行きますとも。私こう見えて魔術は得意ですし?推しの露払いくらいはしますよ!」

「ナルホドナー?」


 トントン拍子で連れていかれる羽目になってしもた。

 行かねえっつってんだろ、と言いたいところだが数少ない実際のゲーム内容確認タイムだ。今後の身の振りを考えるために念のため確認したい気持ちはあった。でもディランに見てきてもらおうかなーと思ってたしなー。

 いいや仕方ない。何とかなるでしょ。怒られるの覚悟で庶民ファッション買ってきて大冒険だ。


 ——まあこの決断は結論から言うと大失敗だった。


 おお。見よ。我々三人娘はなんか廃屋の並ぶ寂れたスラムで、滅茶滅茶たくさんのねちっとしたスライムだの、変な色した巨大ナメクジだのといった魔獣たちに囲まれている。

 私たちも魔法で立ち向かっているが効いてるのか効いてないのかまるでわかりゃしない。表情ないしね。

 念のため申し上げておくがディランはいない。なんせ二人の様子の先行チェックに行かせてたからね!付いてきて貰えば良かったとも思ったが、後の祭りだ!


「馬鹿!馬鹿!お馬鹿!見るどころの騒ぎじゃないでしょこんなん!」

「このままでは先に彼岸が見えますよ!」

「いいわね彼岸!あの世からのほうがアリアを見守りやすそうね!」

「バッカもん貴重な同じゲームを愛した同志を死なせてたまるかコンチキショウ!魔力絞り出して!気張って!」

「ギャア!なんか足にくっついてもう嫌です!」

「女子にあるまじき悲鳴上げるんじゃないわよしっかりしなさい元モブ!」

「誰が元モブですか親友イベントなかったくせに!」

「言ったわねこの女!先にお前から燃やしてやろうかしら!」

「軽口叩く暇あったら1匹でも多く燃やしてくだち!」


 比較的効いてそうな火や雷の攻撃魔法を駆使してなんとか生き延びている形だ。ああ。ディラン先に行かせたりしなきゃよかった。父様母様お兄様お爺様。先立つ不孝をお許しくださいって思い始めてきたぞ。集中が途切れてる証だね!ヤバイね!


「聞いてください、私この子達追加ディスクで見たことあることを思い出しちゃいましたよ」

「あの18禁のだね?!」

「そう18禁イベントのお友達ですよ!私たち命だけじゃなくて貞操も危機ですよ!」

「もっと早く思い出してくれないかしら?!既にだいぶ追い詰められてるわよ?!」


 うっそだろお前。嫌ですよ初めての相手がナメクジとか。私の中の乙女な自尊心とノウブルな羞恥心が絶望してるんだけど。

 本当マジで誰か今すぐマッハで助けてなんでもしまうま——


「——お嬢様!」

「ディラン!ま、待ってたよぉー!!!!」


 ——そんなことを思った瞬間。上から両手にナイフを携えたディランが降ってきた。


「いやあ遅くなってすんません、大ナメクジの群れに足止めされたんで屋根の上通ってきたんですよ」

「うおお王子様より王子様してるぜお前!お前がヒーローだ!いやもう最高!泣くほど嬉しい!生きて帰る希望が見えた気がする!おうち帰るまでが遠足だよ!」

「うわっテンションおかしくなってる……おれが遅れたばっかりに……」

「蹴散らせそう?」

「まあ、後ろから魔法かなんかの遠距離攻撃で補佐して頂ければ何とかやって見せますよ」

「最高だなお前!私の審美眼は間違ってなかったってコトネ!」

「あんま持ち上げると照れるんでやめてくれます?!」


 いやもう最高のタイミングだよ。助けて欲しいと思った時に助けに来てくれるとか本当まじお前がナンバーワンだよ!


「……ふ、フォアアアアア!神展開きた!こんなんヒーロー以外の何だというのですヒョオオオオオオ」

「うるっさいわねちょっと黙ってちょうだい?!」

「アアア推しが尊いパワーで私ももっと火力出していきますよ!!!」

「暴走してるんじゃないわよ!でも確かに集中する時間長くなって助かるわ!元モブにしてはやるじゃない!」

「イレーヌもしかして原作で名前なかったやつ全員元モブって呼んでるな?!」


 横でリリカもテンションが振り切れておかしくなってるな。推しカプの受けのピンチに攻めが駆けつけるとか確かにテンションおかしくなるわ。わかる。自分で萌えられると複雑だけど。


 で。なんとか1匹倒し2匹倒しを繰り返して、私たち四人は無事に比較的安全な場所へと帰ってきたのだった。


「全然見れなかったわ……」

「命あっての物種さんだからしょうがないですよ。なんなら貞操も危機だったんですよ」

「嫌よ思い出したくない!二度とナメクジは見たくないわ」

「でもまあいい経験になったね。魔術騎士団入れそう」

「魔術騎士団に所属する公女とか初耳だわ」

「おれが全部影から守るはめになりそうなんでやめてください」

「いいですね、無限に推せます」

「バカ言わないの」


 物陰に隠したデイドレスに着替え直して、流しの馬車を拾って王宮へ向かう。

 今日は昼過ぎから夕方まで詩作の授業だ。

 うーむ。寝そう。なんとか寝なかったけど。

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