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幕間1 じじいと話をしようじゃないか


 ——深夜。ヘーゼルを含む、邸のほとんどの者達がすっかり寝静まった頃。

 ラヴィリア公カールは静かに何もない壁際に向かって声をかけた。


「見ておるのであろう。出て来なさい」

「……」

「これ。呼ばれたら返事をせんか。私の生命力探知を舐めちゃあいかん」

「失礼致しました。主の命により、公爵様のご様子を拝見させていただいておりました」

「お主、魔力で探知される可能性も考えねばいかんぞ。まあ魔力が薄い相手に対する生命力を見てでの探知でここまでのものは現状多分私しかできんがの」

「精進いたします」


 壁の模様がドアのようにすっと開き、静々と黒い服を着たディランが現れる。

 それを見たラヴィリア公は満足そうにくつくつと笑うと、一口ワインを飲んで話し出した。


「して、ディラン・ブラスといったか。ヘーゼルとはどこまで行ったかの」

「……そのような……主に、お嬢様に大変目をかけていただいてはおりますが、お嬢様の名を地に落としめすようなことは、間違いなく、誓って、いたしておりません」

「なんじゃあつまらんのう。もう絶対チューくらいはしたじゃろ」

「恐れ入りますが、公爵様。私はお嬢様に命を救われた身。お嬢様の操をお守りすることは私の仕事、いえ使命。それを自らの手でどうにかしようなどと、決していたしません」

「……強情な。ここまで堅物になるとは思わなんだわ」


 呆れたように鼻で笑う公爵。わずかに逡巡したディランが静かに声を発した。


「……以前どこかでお会いしたことがありましたでしょうか」

「うん?教えてやったじゃろ、金庫室までの道をなあ」

「あの時の夜盗は公爵様が化けておられたのですか」

「うむ」

「なぜ、そのようなことを」

「うーん?いいじゃろそのくらい。ジジイの気まぐれじゃ」

「……左様でございましたか」

「じじいにもなるとな、子や孫の幸せがいちばんの楽しみになる。ディラン、お前さんはそれにぴったりだったから、孫に会わせたかったのだ。それだけだとも」

「……おれが」

「そうだ」


 公爵は先ほどとは打って変わって、優しさと真剣さが混ざったような表情を浮かべた。


「私はうちの領地と領民をお前やあの子に分けてやることができる。その用意も覚悟もある。あの子はついに、初めて、新しい幸せの形に手をかけたのだ。労力は惜しまん。ヘーゼルを、ヘーゼルの幸せを守りなさい」

「畏まりました、命に代えても」

「命には代えちゃいかん。ヘーゼルが泣く。お前の命はもうヘーゼルの幸せに入っておるんだ」

「……申し訳ございませんでした。他の何に代えても」

「それでよい」


 公爵の、真剣そうだった表情がゆるんと緩んで微笑む。そこにいるのはもうただの穏やかなおじいちゃんだった。


「さーてじじいは寝るかの!いやあどんなに夜更かししても夜明けには起きるとなるとな、つくづく年取った気がするわ。よしよしもうよい下がりなさい。じじいが寝るまで見張っててもよいがの、歯の掃除をして寝るだけだから何にも面白いもんはないぞ」

「では、主よりの命ですので。ご就寝までのお時間、お供させていただきます」

「ほんともう、こんな真面目になるとは思わなんだわ」


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