第四話 再会の兆し
そんな話をしていたら、チャイムが鳴り朝礼の時間となった。教室内のざわめきがその号令と共に沈静化していく。聞きなれたチャイムは、改めて新学期が始まったのだと認識させられる。
この学校では、チャイムが鳴ると間もなく先生が入室し、そして授業終わりのチャイムが鳴ると、直ちに退出する。授業も無駄なく遂行され、学校なのに塾のような教育方針だ。
だから一流大学への進学率もいい。
ちなみに去年の担任の先生は、授業も散々雑談が入り、大丈夫かなと疑問に感じていたのだけど、クラス全体の成績が学年トップで驚いた。なぜ、他の教科まで伸びたのだろう。成績の伸ばし方は、やり方次第なんだなと感じたところ。
まあ、わたしも少しばかり助力をしたということは、伏せておこうかな。
教室の前のドアから担任の先生が入ってくる。
今年の担任の先生も一年生の時と同じ、若くて綺麗な女の先生だった。
年齢は二十四歳。
名前は『尾崎 玲奈』さん。
黙っていたら、モデルのお姉ちゃんに匹敵するんじゃないかというくらい綺麗な人。背が高くてスレンダーで、背筋もピンと張っているものだから、凛々しく見える。
服装も落ち着いたパンツスーツで、胸元まで伸びたシャギーレイヤーのヘアースタイルが、かっこいい女性の代名詞的な存在を確立している。
だけど、中身が男そのもの。たぶん曇りガラスで声を変えたら、みんな男の人だと思うはず。
わたしの個人的な見解としては、勿体ないなって感じるところなんだけど、それが個人の性格なのだから仕方がない。
ただ致命的なのが、男の先生や男子生徒に「俺は同性愛者だから、誘いや告白はお断りだ」と断言していること。包み隠さず、堂々と、言い切っている。
教育者としてどうなの? って気がするけど、その堂々とした態度が素敵だということで、ファンも多いんだ。
その尾崎先生が教壇に上がると。
「みんな、おはよう。みんなとはまた同じクラスだから自己紹介はいらんな。
一年間よろしく頼む。
去年と同じことを言うが、お前らに壁は付き物なんだ。
考え悩んで乗り越えることが出来なくて、どうしても手に負えない時は俺に言え。
誰よりも力になると約束するからな」
凛としてそう話す尾崎先生。
このクラスのみんなは一年生の時、先生が信頼のおける人で、とても頼りになるのはわかっているから、示された言葉に誰も疑念の余地はない。
っていうか、よく見れば本当に一年生の時と同じクラスメイトだ。この学校は、クラス替え必須なはずなのに。
なぜ? 不思議。
でもその答えは、まもなく尾崎先生の口から、余計な言葉も混ざり発せられた。
「絢瀬、いるな。俺は教頭に無理言って、絢瀬率いるクラス全員を、次の年も引き継ぎたいと嘆願したんだからな。
教頭もクラス全員の成績が伸びていたのだから、無下にはできなかったようだ。
そもそも俺は、絢瀬と違うクラスなど絶対に耐えられない。
さすがに絢瀬とだけ同じクラスにしてくれと教頭には言えなかったから、希望が叶って良かったよ」
そうなんだよ〜。
なんか先生、わたしに固執してくるんだよね。
だからわたしにしたら、二年目が始まったかって感じ。
前に「俺は絢瀬のことを愛しているんだが、生徒間の恋愛は自由だから気にせずやってくれ。俺も大人だから縛ったりはしないぞ」と問題発言を口外していた時は、本当に先生なのかって疑ったけど。
まあそれで沙織と同じクラスになれたのだから、結果オーライなのかもしれないけどさ。
でも、だからクラスメイトが一緒だったんだ。
そういうカラクリがあったのか。いくら成績が伸びていたからって、そんなこと出来る筈はないと思うのだけど、私立の強みか、それとも尾崎先生に力があるのか。
その中身を知るすべは、持ち合わせていない。
まあわたしも、突っ込むべきところは突っ込んでおこう。
「先生、ここは学校なんですから、公私混同はやめてください。
あんまりそんなことばっかり言っていると、わたしは嫌いになりますよ」
「すまん、調子に乗った。あんまり嬉しかったもんだからついな。頼むから嫌いにならないでくれ」
そう言いながら顔の前で合掌するように、両手を合わせる尾崎先生。
困ったように眉間に皺を寄せている。クラスのみんなは苦笑い。これは昨年に見慣れた光景だから、もう笑うしかない。
そして……
「今日、更に俺にとってテンションが上がることがあるのでな。帰国子女ではあるが、俺好みの編入生だ」
編入生? 転校生の間違いでは? だけどそんな単純な間違いを尾崎先生がする筈ない。