表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしはノーマルなんだからね! 〜私は男の子好きなのに、女の子が私に迫ってきて〜  作者: たられば
第一章 わたしはノーマルなんだから
4/82

第三話 始まりの教室

 校門を抜けると、住宅街とは一変、スッキリとした開けた空間が広がる。

 また公園に来たかのような噴水が玄関前にあって、その周りを色とりどりの花々が囲んでいた。

 さすが、私立高校。

 公立とはお金のかけ方が違う。

 ところどころにベンチもあって、朝なのに休憩している生徒たちもちらほら。

 長閑というか、ゆったりしているというか、とてもいい環境だなと感じる空間だった。

 自転車や自動車は、裏手から入ることになっているので、騒々しくないし忙しくもない。

 挨拶をするとその声は少し離れた人へも届き、挨拶もしやすくなっている構造なのかと感心してしまう。


 気がつくと、沙織はいなくなっていた。

 普段のんびりしている割には、こういうとき素早い。

 わたしが挨拶してる間に、サッと玄関に消えた沙織の後ろ姿。

 たとえ哀愁を帯びていても、大切なわたしの親友よ。


 ああ、大好きな親友がいて、仲の良い友達がいて、これでマコちゃんという彼氏がいてくれたら最高だなぁ。

 彼氏、彼氏か〜、うふふ。

 なんかわたしの人生うまくいってるかな、なんてね。

 思わすフラグってやつを立てちゃった。これでマコちゃんが帰ってこなかったら大変だ。


 玄関を入ると、下駄箱がずらっと並んでいる。全校生徒千二百人の下駄箱が並んでいるのだから、かなり壮観。

 天井も高く、開放的な玄関は、集まって来た生徒たちを包み込んでくれているよう。

 玄関でもたもたしていられないね。早く教室に行こっと。 



        ♀



 教室に到着すると、見慣れた友達がこちらを見て、わたしを迎えてくれた。ここでも、挨拶を交わしながら、自分の席に向かう。

 自席の位置は予め昨日メールで届いていたから、すんなり着くことができた。この席は、担任になる先生が決めていて、普通は五十音順なのだけど、なんか違うみたい。わたしの席はちょうど真ん中くらいだから。

 なぜかわたしの後ろが空席になっているけれど、それはわたしの知るところじゃない。


 そして自分の席に座ると、「おはよう、湊」と隣から訊こえてきた。


 爽やかな緋色の短髪に、切れ長の眼差し。通った鼻筋。

 女子にかなり人気の男の子だ。

 顔もいけているのに、頭も良くてスポーツもできるなんて、ちょっと反則。

 隣のこの席に座りたい子も多いはず。

 わたしが『マコちゃん』を好きじゃなかったら、惚れていたかな?

 いや、ないな、ないない。


 彼は『相馬そうま たける

 尊はわたしの家の向かいに住んでいる。

 そう、沙織と尊とはご近所さんなんだ。

 幼馴染ってやつ。

 沙織と尊はちょうど中学一年生の時に、引っ越して来たの。

 別に二人の間には縁もゆかりもなくって、二人ともたまたまお父さんの転勤に連れだって来たんだ。


 沙織はいつの間にか、わたしの部屋にいて一緒に遊んでいたという感じで、尊はおじいちゃんの道場の門下生。だから尊とは武道仲間ってところね。

 筋がいいから、おじいちゃんのお気に入りで、「心身ともに鍛え、湊を幸せにするんじゃぞ」と余計なことを、事あるごとに言っている。もしかしたら、尊がわたしの運命の人だと勘違いしているのかも。

 わたしには、マコちゃんがいるんだから、おじいちゃんの余計な言葉は結構、鬱陶しいんだ。


 沙織と尊には、マコちゃんのことを耳にタコができるほど言っているので、もう刷り込まれていると思うんだけどね。

 また結構話がそれちゃったな。いかんいかん。



「おはよう、尊。今回も同じクラスでしかも隣の席。なんか余計な巡り合わせだよねぇ」


「案外、引き寄せられているのかもな」


「朝から、なに言ってくれているの。そんなこと言ってたら、尊ファンから恨み買うからやめてよね」


「恨むような奴がいるなら、俺に言え」


「なに本気で言ってんの? 冗談に決まってるでしょ。

 そんなことより、沙織も同じクラスになって良かったわ。あの子、わたしか尊がいないと緊張して具合悪くなっちゃうからね。

 でも、もうそろそろ鍛えていかないとダメだと思うんだよね。今のままじゃいつまで経っても彼氏もできないし」



 わたしは前の方に座っている沙織に、目線を送りながら尊に言った。

 当の沙織は下を向き、相変わらず、誰も話しかけてこないでって感じのオーラを放出している。

 とほほな目をしながら、尊の方を向くと、尊もやれやれという表情を作っていた。


 沙織は尊にも「学校では話しかけないで」と言っているので、いつも一人のところを、わたしか尊が見守っているのが日常なの。

 尊には、暇さえあれば女子の取り巻きができるので、沙織には荷が重いのはわかるけど。


 また、沙織に目線を移すと、頑張ってこちらを向き、笑顔を造形している。

 でもどう見ても、引きつった苦笑いにしか見えない。



「よし、決めた! 二年生にもなったんだし、本腰入れて沙織を変えなくちゃ」


「普段いつも一緒にいるのに、その辺の話、しないのか? 例えば友達になれそうな人とか気になる人の話とか」


「うん。あの人カッコいいとか、その程度なんだよね。しかも芸能人とかそういう人。一応理想像みたいのはありそうなんだけどね。

 クラスメイトとかの話題を匂わせると、何でそんな話題出すのって顔するから、無理には訊いてないんだ。

 今の沙織には男の子どころか人と接すること自体があんまりだから、それ以上突っ込めないでいるのよ」



 わたしは勉強や合気道の練習以外は、ほとんど沙織と一緒にいる。

 どころか、ピアノの習い事も一緒に習っている。

 だから沙織と一緒に過ごす時間が結構多い。

 う〜ん。沙織が引っ込み思案のままでいるのは、わたしのせいなのかな。わたしもいつ現れるかわかなないマコちゃんの話ばかりしてないで、沙織のことも真剣に考えてみよう。だって親友なんだから。



「近々、沙織と話し合ってみる。やっぱりこのままじゃいけない。沙織改善計画、発動よ」


「そうか。まあ頑張れよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ