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わたしはノーマルなんだからね! 〜私は男の子好きなのに、女の子が私に迫ってきて〜  作者: たられば
第一章 わたしはノーマルなんだから
19/82

第十八話 告白……からの【後編】

 学校までの間、いや学校に入ってからも繋いでいると思われる三人の手。


 おそらく周囲からは、異様な光景に見えるだろう。昨日は高貴なマコちゃんと二人、次いで今日は読者モデル風の沙織と三人なのだ。異様でないはずがない。

 だけどわたしはすでに、恥ずかしさを凌駕していた。

 もっとも、手を繋いで恥ずかしいと感じたのはマコちゃんと再会した日だけで、わたしに好意を持って繋いでくれている手に何が恥ずかしいもんか、と思い直してから、それに対しての羞恥心がなくなっていたんだ。


 ただ、両手を繋いで歩くって無防備なものなんだなと感じた。

 このまま転んだら二人とも巻き込むことになるんだよね。

 一人で歩いているのなら、受け身もとれるのだけど、両手を引っ張られてしまえば受け身は不可能。貰い事故ってやつ。それは祈るしかない。


 あと、結構場所も取る。

 車が走っているところではやっぱり危ないので、わたしは振りほどき、ほどかれた方の手は後ろ髪を引かれた状態になる。ちょっと切ない瞬間。

 手を繋いでいるからって、道を変えるわけもなく、通らなくちゃならない場所もある。

 そう、ブティックホテルの前だ。

 前に差し掛かると、二人の熱を意識せざるを得なくなって、できるだけ自分の熱が発しないように試みるのだけど。ここに三人で入ったら、どうなってしまうのだろうと、考えずとも頭に浮かぶ。

 マコちゃんから強く握られたときには、それはもう妄想が捗り。

 ダメダメ、今は朝。朝っぱらから想像することじゃない。

 何とか雑念を消し、次へ進む。


 そうだ、これは言っておくよ。

 両手に好意が通った人と手を繋ぐっていうのは、すごく幸せな気持ちになる。変な意味じゃなくて。

 なんていうかなぁ、優しさに包まれた贅沢っていうか、愛情に囲まれた至福っていうか、一回やってみたら判るよ。

 なかなか試す機会はないと思うけど。


 校門を抜けるとやはり生徒たちが左右に割れていった。

 デジャヴ? フラッシュバック? 違うか。

 体験したこともあるし、トラウマでもないね。

 周囲からの興味津々な視線の中で、マコちゃんは威風堂々と手を振り、わたしは苦笑いをしながら挨拶を交わし、沙織は俯きわたしにくっついていて、文字通り三者三様。

 でも、沙織と一緒に校門を抜けたのは初体験。価値ある前進。


 それにわたしが誇らしかったのは、「おはよう」との挨拶に混じって「あの子誰?」とか「あんな可愛い子うちにいた?」とか、訊こえてきたこと。

 沙織は注目に緊張しすぎて、そんな言葉なんて耳に入っていないだろう。もし耳に入ったとしても、自分のことだとは思うまい。でも、あなたのことなのよ。

 沙織が羨望の眼差しを向けられるのなんて、これまでなかったことだから、わたしは嬉しくてしようがない。


 教室に入るまで、手を繋いでいたわたしたち。

 そうそう、両手を繋いでいるんだったら、カバンはどこにいったのって思うよね。

 実はわたしはいつもリュックなの。

 因みに沙織もお揃いのリュックだよ。


 沙織と離れ、自席に座る。

 そして横の尊に「おはよう、尊」と一言。

 尊は口を開けた阿呆な顔で、わたしたちが入ってきた時から見ていた。

 それにいちいち説明してはいられない。話せば朝礼に食い込むほど長くなってしまう。

「お、おはよう湊、瀬野さん」と、口にするなりわたしに物言いたげな顔を向けられても、見ないふりをした。

 後ろでは「おはようございます、尊さん」と、何事もなかったかのように振る舞うマコちゃんに、安心感さえ覚えた。


 朝礼が始まると、尾崎先生が唐突に切り出した。



「綾瀬、お前今朝、両手に花を侍らせて登校したらしいな」


「侍らせてなんていません」



 先生の問いに、わたしはそう断じた。確かに花ではあったけれど、侍らせるって何時代の言葉? 悪意を感じる。



「なあ、綾瀬。俺はダメとは言わん。だが、頼むから俺も混ぜてくれ。俺の気持ちはどうだっていいというのか?」



 その問いに、わたしはジト目で返したのだった。


 先生の気持ち? 悪いけどどうでもいいかも。



        ♀



 朝からイベント目白押しだったけれど、その中でも最高に良いことがあった。

 それはお昼休みのこと。



「西條さんもお昼一緒に食べない?」



 クラスメイトの暖かいお誘いだった。

 去年からクラスのみんなは、沙織が極度の引っ込み思案であることを認識していたため、無理に誘うことはしなかった。

 でも、今朝三人で手を繋いで登校していたのを見ていたみんなが、自分たちも仲良くなりたいと、積極的にきてくれたのだった。

 本当に良い人ばかりのクラスだ。他のクラスもこうであって欲しいと切に願う。


 沙織は初め、戸惑いを隠せない様子だった。

 いきなり一緒に食べようと言われても、そこまでは変われないよ、とわたしに目で訴えてきた。

 でもマコちゃんが「湊様のお隣で席をお寄せになれば、大丈夫かと存じますが」と提案され、なんとか沙織は頷いた。さっそく朋輩の力というものが発揮されたのだ。朋輩の力って何?

 今まで悩んできた懸案事項が、朋輩の力によって解決されたのなら、とてもいいことだけど。

 恐るべし、朋輩の力。


 わたしを挟み、マコちゃんと沙織が座るために作られた席は、ベンチシート状態。

 ご飯を食べようと腕を上げる度に、わたしの肘が沙織の肢体へと接触した。

 とても食べづらく、とても窮屈。お昼を食べる環境じゃないのだけど。

 まあ沙織と昼食を食べられるなら、良しとするか。

 今まで状況を打開できなかったわたしに、わがままを言う資格はないね。


 実は沙織、昔から料理が得意で、たまにお母さんが忙しい時とかには、わたしにお弁当を作ってくれていた。

 わたしは事情があって、料理やお弁当を作ったことがないのだけれど、それは今度説明します。

 なので、沙織のお弁当は大人気。


 マコちゃんが一緒に食べるようになってから、みんなでシェアするようになり、珍しさも相まって沙織弁当へと一極集中状態に。

 味良し、配置良し、色合い抜群。冷凍食品などなく、全てが手作り的に凝っていて、可愛いおかずも多数。これじゃ、仕方ない。

 緊張のあまり沙織は、わたしのお尻の下に手を入れて心を落ち着かせてきた。たぶん、直感的に入れたのだと思う。どこかに逃げたいといった感じで、潜り込むように入れてきたから。むず痒いけど我慢するしかないよね。

 するとそれを見ていたマコちゃんまで、わたしのお尻の下に手を入れてきて、二人の手がウネウネと動く座布団みたい。気持ちいとも悪いともわからない感触に、顔が引き攣りながら、頑張ってご飯を食べた。


 昼休み中のガールズトークは、他愛もない話。

 だけどわたしたちにとっては、穏やかな憩いの空間であり、最後の方では沙織にも笑みが見られたので、有意義な時間だったのは言うまでもない。


 何にしても、これからは充実した昼休みを過ごせることは間違いないと、わたしは確信したのだった。

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