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わたしはノーマルなんだからね! 〜私は男の子好きなのに、女の子が私に迫ってきて〜  作者: たられば
第一章 わたしはノーマルなんだから
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第十話 マコちゃん再び【後編】

 朝礼が始まり、尾崎先生の定例、「綾瀬、今日も登校しているな。愛してるぞ」という一幕を終え授業に入った。

 尾崎先生の名誉のために誤解を解いておくけど、教師としての尾崎先生は超一流だ。

 質問があれば的確に効率的に、しかも判りやすく教示する。専門教科は数学だけど、不得意なものはないのではないかと思うほど精通し、他の担当教員にも教示するほど。

 同性愛宣言やわたしへの固執がなければ、全国どこに出しても誇らしいスーパー教員なんだけど。

 如何せん前者があるため、どこにも出せない。まあ、尾崎先生へのヨイショはこれくらいでいいかな。


 そして休み時間中は、おトイレに行ったり、周りに友達と話をしたり、と目まぐるしく時は流れ、瞬く間にお昼休みの時間となった。

 授業の緊張感が緩み、代わりに食欲という欲求が室内を包む。室外で食事を取る人が、バラバラと出て行くなか、わたしはマコちゃんに訪ねた。



「マコちゃん、お昼持ってきているの?」


「はい。登校前にコンビニエンスストアにて、購入致しました」


「コンビニ?」



 コンビニで買ってこなくても、学校に食堂や購買がある。昨日は学校を案内する前に帰っちゃったから、知らなかったのはわかるけど。

 それでもなんかコンビニって買ってきたってことが、コンビニ弁当ってことが、帰国子女にマッチしない。マコちゃんがコンビニでお弁当を買う姿が想像できない。

 だけどそんなことは、わたしの思い込みでしかないわけで。

 気を取り直し、わたしは続ける。



「そ、そしたらみんなで食べようよ。一年生の時からクラスの女子は机囲んで食べているんだよ」


「承知しました。そのようにお願い致します」



 マコちゃんが発する声に聞き耳を立てていたのか、周りのクラス女子の顔にパッと花が咲き、ここぞとばかりに机を並べだした。

 教室を模様替えするように、テキパキと机を並べ替えている。昼休みの時間を無駄にしないために、無駄のない作業を感心しながら眺める。

 あ、いや、わたしも手伝わなくちゃ。

 わたしにしたら、一年生の時からもうすでに定例行事なのだけど、みんなはマコちゃんがどうするのかと様子を伺っていたみたい。

 沙織の例もあるし、この辺の気遣いができるクラスメイトはわたしの自慢だ。


 実のところ、屋上や食堂のフリースペースなど、昼食を取るのにいい場所が結構ある。

 でもせめて沙織と同じ空間で昼食を取りたい、というわたしのワガママで、こういう形になったんだ。

 当の沙織は自分の席で一人、黙々とお弁当を食べている。

 空気的には、決し沙織を無視しているわけではないことは、わかって欲しい。それはわたしだけじゃなく、クラスのみんなが。

 マコちゃんが「沙織さんはご一緒に食されないのですか?」と訊いてきたので、「うん、沙織はみんなと囲むと喉を通らなくなるから」と、苦笑い混じりに返答した。


 みんなでお弁当を広げると、「今日は豪華ね」とか「美味しそう」など、歓喜にも似た声が木霊している。

 今日は二年生になってから初めてのお弁当。

 みんないつにも増して、豪華なお弁当を持参したようだ。

 そしてマコちゃん様子を伺うと、なぜか恥ずかしそうにモジモジと肩を竦め、お弁当を出しづらそうにしていた。

 確かにみんなは手作りのお弁当。出しづらいのも納得だけど。



「マコちゃん、お弁当は? 朝買ってきたって言ってたけど」


「えっええ、そうなのですがわたくしが購入して参りましたのは、おっ、おにぎり一個でございますので、少し気恥ずかしいと申しますか」



 そう言って頬に桜を散らすマコちゃん。お嬢様が恥じらう姿は、なんとも神々しい。

 だけど…………おにぎり一個?

 ダイエットしているのかな? 見る限りでは、全く必要ないよね。だって、わたしよりスレンダーだもの。マコちゃんがダイエットするなら、わたしが先にしなくちゃならない。

 だけどわたしは太ってはいない、、、と思う。

 それじゃここはお節介覚悟で。



「マコちゃん、良かったらわたしのお弁当一緒に食べない? 食事に制限をしているなら無理にとは言わないけど、今日はお母さんが奮発しちゃって、沢山持ってきてるんだ。口に合うものがあるかわからないけど、良かったら食べてよ」



 わたしの提案に、逡巡した様子を見せるマコちゃん。おにぎりをサワサワしながら、わたしのお弁当に視線を向けている。なんとなく生唾を飲んでいるような、感じにも見える。朝は何を食べたのかな?



「そのようなお心遣いは大変ありがたいのですが、湊様のお弁当をご拝借させて戴くということは、湊様の栄養バランスにもご影響されるのではないかと」



 戸惑いを隠せない素ぶりでそう応えた。お昼のお弁当で栄養バランスは崩れないわよ。お母さんには悪いけど、このお弁当が、栄養バランスを重視して作ってあるとは思えない。

 見るからに、美味しそうなものを詰めた、そんな感じ。

 お母さん、ごめんね。


 遠慮がちなマコちゃんに、どうしたら食べて貰えるかと首を捻る。一度拒否されてしまうと、それでも食べてって言うのは、どうにも押し付けれているような感じがして。

 すると周りのみんなが「そうしたらみんなで一緒に食べましょうよ」と、どこから持ってきたのか、取り皿に分けだした。三人寄れば文殊の知恵じゃないけれど、その良案に感嘆する。

 みんなでシェアできれば、誰のを食べたというより、みんなで食べたという事実の方が重要になるから。

 みんな優しい! ありがとう!


 美味しいね〜と感想を述べながら、それぞれが持ち合わせたお弁当をみんなで頬張った。こう見ると、まるでビュッフェだ。

 一口一口違うものを食べることができ、各家庭の味付けなんかも面白い。いろいろ工夫されて、お昼ご飯なのに、へぇ〜、と感心する。

 マコちゃんもクラスメイトと同化して、満足そうに食している。こう見ると風貌こそ違うけど、マコちゃんも普通の女子高生なのよね、と再認しちゃう。

 そう、マコちゃんは、わたしと同じ十七歳の女子高生。

 ここに沙織が入ってくれれば、言うことないのだけれど。

 でも、マコちゃんがこの輪の中に入れたように、環境は変えることができるのだし、沙織改造計画が成功した暁にはね。

 みんなと雑談を交え昼食を終えると、わたしはみんなに視線を投げてお願いをした。

 ワガママだとは思うけど、マコちゃんと二人でお話ししたい。マコちゃんのことを訊きたい。マコちゃんのことを知りたい。



「みんなの気持ちありがとね。すごく嬉しかったよ。

 輪をかけて甘えるのも申し訳ないんだけど、マコちゃんとは小さい頃の友人で、昨日再会したばかりなの。

 だから、残りのお昼休みの時間は、マコちゃんと二人でお話ししたいんだ」



 わたしは苦笑いをしながら、申し訳なさげにみんなの動向を伺った。

 実際、本当に申し訳なく思っている。こんなに良くして貰っているのに、席を外せと言っているのだから。

 そうしたらみんなは。



「そっか、積もる話ありそうだね」


「まだ一年始まったばかりだし、わたしたちのことはいいから気にしないで」


「美人二人を残していくのは心配だけど、何かあったら叫ぶのよ」



 なんて、気を使った言葉を残して、机を元に戻した後、教室から退出して行った。

 マコちゃんへは「明日からもお昼一緒に食べようね」って声を掛ける気遣いも忘れない。「嬉しゅうございます。是非お願い申し上げます」と、マコちゃんは屈託のない笑顔で応えていた。

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