絵描きと詩人
お読みいただきありがとうございます。今回の投稿は<閑話>になります。閑話は主人公以外の第三者の視点になります。主人公が知りえない事も出てるかもしれませんが、あくまでも三者視点として楽しんでいただければと思います。イメージが変わる可能性もあるので、苦手な方は飛んでも問題ありません。
VRMMOの新作<Life in the world of twins>という、VRゲームを始めたのは、ひょんなことからだ。家庭用ゲーム機に触れたのは子供頃以来になる。子供の頃はモニター画面の中で動くキャラクターを動かして遊ぶ時代。特にRPGで勇者とかになって魔王を倒す、そんな話のゲームにのめりこんだものだ。 とはいっても高校生ぐらいまでの話だ。部活やら他の遊びを知ればゲームからは遠ざかっていた。
とある日、職場の同僚にVRゲームのソフトを貰ってくれ! と言われた時は正直戸惑った。
VRゲーム。子供の頃を考えれば、とんだ技術が出来たものだと思った。
当初は医療や軍事用に作られた事はニュースで流れている程度には知っている。今やそれがゲームとして利用され、五感を刺激するプレイが出来るという。職場の同僚、学生時代からの友人でもあるが……そのソフトは、とても人気で限定数をなんとか手に入れたという。
しかし、家庭の都合、きっと嫁さんにばれたに違いない。ゲームに夢中になって都度怒られていたからな。しばらくゲームができなくなってしまったそうだ。
VRゲームか……ゲーム機材も結構な値段がするので迷った。今更ゲームなぁ? という気持ちだった。
けれど、テストプレイをしていた同僚曰く――まるでリアルと違う世界で暮らしているように思えるぐらいだという。そして数日間、どんなに楽しいかを口説かれソフトを手にすることになったのだ。
ゲームの謳い文句。もう一つの生活……今となっては、子供の頃に夢見た仕事。それでは食っていけない事を知っている年齢だ。ゲームの世界で、そういうのができるのか? そう考えてゲームを始める事になった。
ゲームサービスが正式に開始された。始める前にテストプレイをしていた同僚から、色々な情報を教えられていた。教えられたというか、無理やりというか。まあ、こういったゲームをするのは初めてだから参考にさせてもらった。
実際プレイを初めてみると、その技術力に感心するばかりだ。
酒場で飲んだ酒は、本当に酒の味がする。しかもリアルにない味だ。傷を負えば痛みをリアルに感じる。雨が降ってずぶ濡れになった。ゲームの住人達は、本当に生きているように会話をしてくる。面白いと思った。
同僚はガンガン敵を倒して、有名なプレイヤーになるという野望を持っていたようだ。ここまでリアルなゲームだと、まさしく現実では出来ない事が出来ると思ってしまった。それは子供の頃の夢ってやつだな。
父親が美術系の仕事をしていて、小さい頃から影響を受けて絵を描くことが好きだった。それなりに上手に描く能力はあったようで、美大に進学をして卒業した。が、絵画だけで食っていくことが出来る人間なんて、一握りだって学生時代で叩き込まれた。
夢追い人ではなく、現実的にサラリーマンの道を取ったわけだ。といっても、デザイン系の事務所に勤め15年は経っている。それなりにデザイナーとしてもやってきていた。が、やっぱり自由に感動したモノの絵を描きたいという思いはあり、趣味として楽しんでいた。
だから、ゲームの中では画家という職業であってもいいんじゃないか? と思った。同僚はネタプレイ?! って技能構成にケチをつけてきたが。どうやら、こういうゲームでマイナーなプレイをするのをネタプレイっていうらしい。
とりあえず、始まりの街で画材を買い揃えた。冒険者という自由業もどきで冒険気分を味わい、路銀を稼ぎ、放浪の画家気分でこの世界を楽しんでいた。
ゲームシステムの技能というやつで、絵を描く関連の技能もあった。リアルティのあるゲームは、どうやらリアルでの知識や経験も影響されるようだ。絵も初心者じゃないから、すぐさまになった。
幸い絵を描くことはゲームの中でも仕事になった。酒場で似顔絵を描いていたら、肖像画の仕事も舞い込んだりしたりな? 所持金に余裕ができたら、リアルにない景色を見に街から街を旅をして絵を描いた。
ゲームにはまったんだろうな。仕事を終わらせれば、ゲームにログインする日々となった。
同僚? 次のソフト販売に合わせて参加できるように、奥さんを説得中らしい。
そして色々なプレイヤーとも出会った。中には、自分と同じようにネタプレイをするプレイヤーもいた。やっぱりゲーム全体でみると、戦闘技能と生産技能以外をメインに据えるプレイヤーは少ないようだ。その中でも、踊り子のリリィ。そのリアル旦那というリブロ。手品師だというハイド、みな、気の合う仲間になっていた。
ある日、一人のネタプレイヤーに会った。シナ湖という土地で出会った。湖の絵を描きたくなっていった集落。その集落に数日滞在していた時だ。
ある日、吟遊詩人が来たから宴会を開くという。吟遊詩人ていうと、中世の欧州あたりに出てくる職業だ。楽器を奏で、歌い歩き、各地を旅するイメージだ。あれって、現代と違って情報伝達に時間がかかる時代だから、文化や政情等を伝える役割もあったとかなんとか、どっかで読んだきもする。
集落の住人に招かれるままに宴席へと紛れ込んだ。そこで見た吟遊詩人は……女性?!
いや、なんとなくイメージで男性ばかりだと思ってた。彩度の低い銀髪は肩下まで。その容姿といえば、はっきりとした美人ではないが、歌を楽しげに歌う明るい豊かな表情は、惹かれる奴はいると思う。リュートを抱え爪弾く様子は様になっている。素朴ながら美味しい料理と共に楽しむことができた。が、ある曲を奏でた時に――
プレイヤーか?!
思わず、叫びそうになってしまった。リアルで聞いた曲、ロックなナンバーがアレンジで聞こえてきた。足で床を踏んでリズムを取りたくなる名曲だ。軽い足踏みと共に上機嫌で彼女は弾いていた。その様子に声をかけずらかったが……翌日、湖の景色を描いていると、妙な動物に邪魔をされた。
そのキツネもどきの獣。召喚獣か? こんな人懐っこい獣が、普通の住民のペットではあるまい。こいつは、描きかけの絵の上に絵具を付けて、足跡を付けて遊ぶし、頭に乗ってくるとやりたい放題だった。首根っこを摑まえて主はどこだろう? 一言いってやりたい。――その主は、のんびりと釣りをしていた。
まあ、結果として美味しい朝食とケイという名のプレイヤーと知り合う事になったのだが。
吟遊詩人としてプレイをしているという彼女。ネタプレイヤーの仲間とわかれば、すぐ打ち解けた。寧ろ、詩人として各地を歩きたいというだけあって、人と話すのは好きなようで人懐っこい。話してみれば、アバターの容姿より落ち着いた会話運びだ。リアルでは同世代じゃないか? と感じる。
リアルで出来ない事を、この異世界ともいえるゲームの中でやりたいという彼女。気に入るのはすぐだった。といっても、色恋の意味はまったくないな。酒好きなのもいい。気の合う女友達ってとこだな。
まあ、彼女と知り合って色々首を突っ込む、いや、巻き込まれることになったわけだが――
ログイン前に公式HPに目を通す。ゲームをプレイしている奴しか書きこむことができない掲示板や運営によるゲームの情報等が載っている。VRMMOというゲームを初めてやるので、ログイン前には軽く目を通すのが習慣だ。
出会ってからすぐの時だ。公式HPの掲示板に彼女の事が書かれていたことに気づいた時は、飲んでいたビールを噴きそうになった。
「歌のお姉さん」なんて呼ばれているのか。……しかも、見守られている。目立つ活動をする有名プレイヤーをチェックする掲示板というのは結構ある。見守るという掲示板のタイトルが色々物語っている気がするぞ。
まあ、その理由は掲示板に流れている情報を見て知る事ができたが。なんだか、彼女らしいなと思えてしまった。自分もネタプレイヤーの一人として、何故か「放浪の画家」と書きこまれていたことがあったな。エルフの里に行った時、情報を提供しようと攻略スレに書きこんだのがきっかけだった。リリィも舞姫とか呼ばれているようだし。一緒に飲むとリブロにネタにされている。夫婦喧嘩が心配になるぐらいだ。
ゲームである出来事の後。公式HPのTOPからアクセスできる「ツインズの冒険者」というコーナーが目に留まる。コーナーの名前どおり、こんなプレイヤーがこんな活動をしているといった運営サイドの公式的な紹介コーナーになっている。ゲームの自由さをアピールするためのものだろう。
ダンジョン攻略したパーティや、露店の経営者なんていうのも載っていた。自分も……以前、こんなプレイヤーもいると、絵を描いている写真が掲載された事がある。
名前は伏せられているけれど、どうみても自分しかいないから、自分だとわかった。まあ、目新しいプレイとして運営も思っているなら、いいことなんだろう。
時折、更新されているコーナーは、プレイヤーの活躍を見る事が出来て気に入っていた。
掲示板の方でも専用のスレがあるぐらいだ。そして、新しく更新された内容を見て――掲示板の一部のスレの更新速度がアップしたようだ。そうか、こういう事だったのか……
それは、ケイが巻き込まれた? いや、自らフラグを回収しているようにみえるが。出会い、探し、歩いた結果に起こった事件。イベントともいうのだろうか。
ゲーム的なイベントというよりは、まるで物語のようだと感じていた。自分も縁があって、その事にかかわったわけだが……老ドワーフとの出会いから、ドワーフの亡霊が脅威から人々を守っていたこと。そして、元凶であった魔物の討伐。自分が物語の登場人物のように感じてしまった。
紹介コーナーは、NPCからの依頼という形で、物語のように紹介していたせいかもしれない。文章の合間には、やはり写真が載っている。老ドワーフとケイの姿。冒険者ギルドのマスター。そして、討伐に当たるプレイヤー達の写真。一番スレを賑わせていたのは、ワームの姿とケイの精霊獣の力だろう。
そして、この一連のクエストらしきものはワールド・ヘリテージという名前が付いていることも発表されている。ゲームの中では重要になるかもしれない? クエストだとプレイヤー達に騒がれている。
「歌のお姉さん、フラグ拾いすぎww」「別のゲームやってるんじゃないか?」「いや、NPCの依頼を無下に扱わないからこんな風に……」「住民の交流大事」「ワーム、でかすぎw」「また3Aが活躍?」「お姉さんとよくいるからな」「あの獣ナニ」「てか戦闘中に歌ナニ」「ちょ、ネタプレイパーティもいるんだがw」「普通に強かったよ……俺、蛇で死に戻った」「また、新しいシステムを開放しているし」「結局ワールドヘリテージって」「なんかステータスに項目ふえてるっしょ」等など。
スレは加速していた。まあ、わかる。自分も突っ込みたい所だったしな。その詳細はちゃんと教えて貰っているから、わかっているといえば分っているが。意識してない所がまた……でも、そんな所があの詩人らしいのかもしれない。
臨時パーティを組んだフレンド達とも、やっぱり意気投合していた。この件が終わってレギオスへ行く事も決まったみたいだ。自分はまだ描きたい絵があるから、暫くはジオスへいるつもりだが……ふと、一緒に旅しないか? と誘ってしまいたくなる。
が、結局はああやって気ままに旅するのが彼女にあっているのだろう。自分もそうだから、結局そこで終わりだ。
けど、ネタプレイヤーでも、帰る場所があってもいいんじゃないか? 最近、知り合った奴らと酒を飲んでいると思う事がある。好き好きにやってる奴らだが、ふと何か会った時、気軽に声かけられるぐらいにな。クランというシステムもあるというし。ケイに相談しようとして……次の旅路を語る彼女の顔に、声をかけようとして――やめた。まあ、そういうことだ。
さて、次はどこにいくか――まだ見た事のない風景を、ぜひ描きたいと思った。




