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42.吟遊詩人になりたい

 ログイン40日目。ワーム討伐から数日経っていた。ログインして映るのは久々の景色。すっかり見慣れてしまった「道草亭」の宿部屋だ。


 ワーム討伐から数日は冒険者ギルドの依頼の元、周辺の魔物の討伐に参加していた。ライアート達のパーティやドガ兄弟、カイさん達のパーティ。また、他の冒険者達と組む機会もあった。そして、放置された鉱脈の前にラギオスからの本格的な応援部隊が到着してからは、緊急依頼としてギルドから出ていた依頼は終了となった。

 冒険者達の多くはジオスの街へと戻っている。とはいっても、まだまだ放置された鉱脈は人に溢れていることだろう。

 ジナンさんに教えて貰ったけれども――まず、魔石の力を封印することができる技能。この世界の創造神である双子神の信仰者。いわば、聖職者が持つ事が出来る技能らしい。プレイヤーはこの地の神に創られた存在ではないので、信仰をすることはできても聖職者の技能は修得できないと言われている。魔石の力を封印して、神殿のしかるべき場所で管理をするそうだ。その後は鉱脈の調査。

 ジークさんがドワーフとして魔法銀ミスリルの鉱脈の可能性があると察し、専門の調査が始まるようだ。もし魔法銀ミスリルが産出されるとわかれば、あの地は開発計画が進められるといっていた。ここからはジオスの街を管轄している自由都市ラギオスの行政の仕事となるらしい。 冒険者ギルドの仕事は、調査隊の護衛や近隣の討伐依頼として続くだろうということだった。



 身支度を整える。ふと気づく。髪が結構伸びている気がするわ。このゲームは現実的と謳うだけあって、五感を始め人体の一部の生理的な現象まで再現している。汗や涙も出るし髭も伸びる。ゲーム時間では約3か月の計算だから、アバターもそれだけ時間が経っている。

鎖骨下まであった髪は少し長くなっていて、一つに纏めれば、髪留めでアップにしておこう。

 開始した時は春だったのに、今は初夏の気配を感じるのだ。事実、この世界ツインズではリアルと酷似した季節と暦を採用されている。夏になるのだ。街用の衣服を新調したくなる。また、ミザリーちゃんのお店に寄るのもいいかもしれない。



 階段を下りて行けば、酒場のカウンターにジークさんの姿が見えた。丁度「道草亭」は朝食時間のようだ。

 朝食を載せたプレートを傍らに、なにやら書き物をしている様子。隣の席が空いていたので、ジークさんに挨拶をして隣に座る許可を得る。そして、女将さんに朝食を頼もう。久々に道草亭のご飯ね。


「おはようございます。ジークさん」

「おはよう。ケイ。ん? 手紙をな……里を出てから、大分経つ。前に手紙を出したのはラギオスだったからのぅ。それに終わったからの。それと……増援をな」

「そうでしたか。ジークさんは、その」


 始まりはジークさんと詩人ギルドで出会ったこと。ハイルさんの、弟さんを探す依頼を受けて……それから、それから。なんだか、とても長く一緒に過ごした気がしてくる。

 ハイルさんの幽霊と再会して、その元となったワームを倒した。この先、ジークさんは? 里へ帰ってしまうのだろうか。別れてしまう事が寂しくてまだ聞いていなかった。

 ジークさんはゲームの中のNPCだ。ドワーフの里へ帰ってしまったら、連絡を取ることすらも難しい。手紙という手段がこの世界にあるけれども、リアルと違ってかなり時間がかかるのだ。

 基本、その場所に出入りする交易品と一緒に届けられる。だからいつ届くとか、必ず届くという保証がないこともある。そんな私の気持ちは顔に出てしまったのかもしれない。

 ふ、とジークさんが笑った気配を感じる。そして、ぽんと頭を撫でられた。え、え?


「そんな顔をするものじゃないのぅ。あれだな、儂があと150年若かったらケイを口説いて、里に連れていくのだがのぅ」

「え、え?!」


 ジークさんが冗談めかして笑う。寧ろ、150年?! ジークさんの年齢をそういえば聞いてなかった気がする。ドワーフの寿命は300年はあるというけれども。髭に覆われた口元と長い眉に埋もれた目が笑っている。ワームを討伐してから、ジークさんはたまに冗談を口にすることも多くなってきた。間抜けな声を出した私に、ジークさんは手紙を差し出して。


「ハイルが守ったあの地に、暫く居ようと思うのだ。もし魔法銀ミスリルが産出されるようになれば、その加工技術はドワーフの得意とするところだからのぅ。こんな老いぼれでも役に立つ事があろう。里は息子が既に長の仕事をしておる。この先は短い。好きにやっても文句はいわれんだろうて。といっても、あと50年はお迎えが来る事はないだろうからのぅ。人に技術を伝える時間には十分だろうて」


 手紙の内容を見てもよいと言われて、私は促されるままに読む。それは弟さんの行方探しの結果が淡々と書かれている。また、その地に魔法銀の鉱脈がある可能性があり、あれば一族から人員を出せという内容が書かれていた。


「?!」

「ドワーフの里は少々閉鎖的だからのぅ。が、手つかずの魔法銀ミスリルの鉱脈があれば、いい餌になって出てくるだろうて。だからの――ケイ。儂はこの街に長らくいるだろう。鉱脈が本物であれば……ハイルが眠っている地で儂も眠るのもいいと思っているのだ。だから、そんな別れを寂しがるような顔をするではない」


 ジークさんに私が別れを考えていたことは、察していたのだろう。頭を軽く撫でて、その大きな手が離れて行く。なんだか、驚きと嬉しさで声が出来ない。眦が濡れてくるし、このゲームの中では涙腺が緩い仕様なのかしら。思わず、指先で抑えれば。


「まあ、ケイは旅に出るだろうが――いつでも、帰ってこればいい」


 儂に会えるぞ、なんて穏やかに言われた。ああ、もぅ。なんだろう……お爺ちゃんってこんな感じなのかしら? すでに他界した祖父を思い出してしまう。ふと考えてしまえば、思わずカウンターの椅子から立ち上がって、抱き着いてしまった。そんな私の背をジークさんは、まるで孫にするように背を優しく叩いてくれた。

 会話が落ち着いたからか、女将さんから朝食が届いて……思わず子供じみたことをしてしまったことに、気恥ずかしさを誤魔化すように手を伸ばす。ジークさんは、穏やかに笑ったままだ。



 久々の「道草亭」の食事だ。やはり美味しい。雑穀の混じった丸いパンは香ばしい。ブラックチキンの卵を目玉焼きにしたものと、酢漬けの野菜の盛り合わせ。野菜を小さく刻んでくたくたに煮込んだスープ。どれも、ほっとするような心地になる。この食事とも、暫くお別れとなると考えると、少し寂しい。この街で初めて食べた食事だから、感慨深いものもある。そう、私は数日後には旅に出る。いや旅に出ることになってしまった。



 ジオスの街に戻ってからは、やることが山盛りだった。帰路も組んでいた<イロモノ>パーティとは解散となった。また後日時間があえば、酒を飲むという約束を交わした。といっても、皆、職業プレイヤーとして各地を気の向くままに巡る旅人でもあるから、いつ果たせるかわからないけれどもね。

 冒険者ギルドで緊急依頼の報酬をパーティで受けて分配をした。この一連の出来事の詳細を再度まとめる為に、ジナンさんも立ち会いの元、色々経過を話しをした。

 そして、詩人ギルドのマスターであるエルザさんに、精霊の歌の事を伝えた。当初は信じられないといったエルザさんだったが、冒険者ギルドでの討伐の記録等を見せれば、信じる事になった。シンクの存在を見たせいもあるかもしれない。

そのシンクといえば、相も変わらずだ。気ままに姿を現し、私に付き纏っている。


 精霊の歌が事実とすれば――と、エルザさんはラギオスの詩人ギルドへの紹介状をしたためてくれた。やはり、ジナンさんと同じ。私が歌った歌は、失われている神代の技能ではないかという。まるでお伽噺ね、とエルザさんは、ラギオスへ向かうようにと詩人ギルドからの依頼としてくれた

 正式な依頼でもあり任務でもあった。丁度いい機会だとラギオスへ向かうことになったのだ。


 「道草亭」でジークさんと別れる。永遠の別れでなくなることを知って、少しテンションが上がっている。現金なものよね。でも、ちょっと安堵していた。久々に噴水広場を通り、向かうは西の商店街。


 自由都市ラギオスは、ジオスから歩いて数日かかる。のんびり徒歩で行くのもいいし――商隊に混じるのもいいかもしれない。

 噴水広場を通れば――あ、歌のお姉さん! と指さされる。笑顔で会釈しておこう。待ち合わせの冒険者達から視線を感じる。……理由があるからだ。



 ワーム討伐がされてリアルで1日後。公式HPのとあるコーナーに写真スクリーンショット付で載ってしまったのだ。このコーナーはツインズの冒険者達というコーナーで、プレイヤー達の活動をNPC記者からの報告みたいな形で取り上げている。ダンジョンの攻略だったりボス討伐。あとは生産活動まで公式発として紹介されている。


 ドガ兄弟の露店風景やライアート達の遺跡攻略もここで取り上げられていたのを知っている。プレイヤーの名前は出てこないけれど、写真が載ってたりするから、わかる人にはわかるのよね。

 ここに、ワーム討伐の事も取り上げられたのだ。しかも、かなり詳しく……ワールド・ヘリテージのこともあって、随分と掲示板等で盛り上がっていたっけ。


 タイトルは「老ドワーフの依頼」となっていた。まとめてしまえば、NPCの依頼を受けた冒険者が、その依頼を果たし真実を付きとめ、魔物を倒したという流れになっている。

 運営的には高性能のAIを搭載したNPCの、生きてるとばかりの動き、そして現実のように、それがゲームに影響するということを取り上げたかったに違いない。

 名前は出てないけれども、ジークさんと冒険者ギルドを訪ねている光景やワーム討伐の景色等が載っていた。

 公式HPを見た人はジークさんの物語を知る事ができるだろう。それはとても良い事だと思う。今後ジオスの街にもジークさんの存在は影響があると思うからだ。

 そして、ワールド・ヘリテージの謎も広がっていくだろう。

 しかし、公式HPを見た時には羞恥心に、しばしパソコンの前で悶絶してしまった。……ライアート達もこの気持ちを味わったのかしら。ヘレナは写真みた?! 凄いでしょーと無邪気に笑っていたけれどもね。



 声をかけてくる冒険者には笑顔で対応すれば、西の商店街へと踏み入れた。何度目になるか「道端道具店」へ向かう。ラギオスへ向かうための旅支度をする為だ。消費してしまっていたカンテラの燃料等を買い足す。この道具屋にもお世話になったわ。商店街を歩けば、露店で賑わう風景に気分が高揚する。ミザリーちゃんの露店を覗いて……前よりお客さんが大分増えたようだ。

 ドガ兄弟もログインして露店を出していた。挨拶をしよう。彼らはこの地で店を持つことに決めたらしい。ジークさんの存在も大きいかもしれない。魔法銀ミスリルの鉱脈が見つかれば、生産職のプレイヤーにも大きなメリットになるかもしれない。一カ月後には、新規のプレイヤーも続々と増えるのだ。

 広場の食材を売る屋台で携帯食用の食材を買い求める。料理技能も大分上がって、携帯食のレパートリーも増えてきた。旅人のリュックの半分ぐらいは旅用のアイテムで埋まってしまった。



 

 噴水広場のベンチへと腰を掛ければ――背負っていたリュートを膝上に抱える。これもジークさんに出会うことがなければ、この楽器の生み出す音に出会えなかっただろう。

 つい、と私はリュートを爪弾く。

 爪弾くは、ジークさんとハイルさんの事を題材にした曲だ。ドワーフ族の曲に好んで使われる旋律と音階から、自ら初めて作曲をしてみた。うたは勿論、恥ずかしいけれども語りたくて考えたのだ。切欠は公式HPのコーナーに乗せられたあれだ。「老ドワーフの依頼」を元にしている。あの出来事は私にとっては色々なものに出会えた。ドワーフの兄弟達の思いを歌える、伝えられるといいと思って――気づくと、無心に奏でていたようだ。曲は終われば、どうやら聞いていた冒険者、プレイヤーから拍手を貰ってしまった。あれ、結構集まって聞かれている? 


「なあ、その歌って――HPに乗っていたイベントのヤツだろう?」


 一人の冒険者プレイヤーに尋ねられる。イベント、クエストともいえるかもしれないけれど。私は微笑んで語ろう。この世界の一人の老ドワーフの話を。





 「道草亭」へ戻る頃には、すっかり日が暮れていた。旅立つ準備は整った――マスターにもお礼を言わなければならない。そんな事を考えながら酒場の扉を潜れば。


「あ、ケイお姉ちゃん。おかえり――!」


 ヘレナの陽気な声が響いた。え。えぇ? 待ち合わせしていたかしら? って、皆。皆がいた。

 ヘレナを含むライアート達、ドガとジンガ。あれ、さらっとカイさんもいるじゃない。皆既に酒の入ったグラスを傾けている。まるでワーム討伐をした前が再現されたようで。思わず、きょとんとしてしまったかもしれない。


「こんばんわ。ケイさん。ケイさんも、近くラギオスへ行くとメールで伺ったので」

「ラギオス、大きいから! ケイお姉ちゃんと、なかなか会えなくなるかもしれないし……」


 ああ、なるほど。ラギオスへ向かう事を決めて、フレンドに連絡していたのだ。ジオスから少し離れてしまうし、ふと違う場所へ赴く可能性もあるから。ワーム討伐で種族レベルがあがり<彼方からの扉>を習得することができた。1週間に一度だけ、行ったことのある場所へ行けるスキルだ。緊急時にはこの街へ戻ってくることができる。それが旅立ちを決めた一つでもあるけれども。


「ありがとう。明後日にも出る予定だから私も会えて嬉しいわ。ジオスには用事が終われば戻ってくるけれどね」


 ヘレナの頭を軽く撫でてすぐ会えるわと笑う。ライアート達もラギオスとジオスを行ったり来たりしているしね。ドガ兄弟はこの街に住むし……兄弟と一緒に酒を飲んでいるジークさんともだ。カイさんは、この周辺を散策してから……気の向くままらしい。彼らしいけれどね。なんだか、ひょっこりと会えそうな気がするわ。実際、フレンド登録しているから、都合が付けば会うことが出来るだろう。ライアート達に招かれるままに、イスへ座れば乾杯をしよう。ワーム討伐の話から、時期に来る新規のプレイヤー達の話。色々な話題で盛り上がれば、公式HPのあのコーナーへ辿りつく。


「あれはなぁ。ある意味……諦めだな。俺も放浪の画家とかいって紹介されているしな。ケイの場合は、すでに知られているしなぁ」


 カイさんから妙な励ましを受けた。カイさんもリリィさんも、なりたい職になれる! なんて掲載されていたのよね。納得してしまうけど、なりたい職にか。確かに、このゲームの中で私はなれたかしら?

 ふと、酒場を見渡せば――出会った仲間たちの楽しげな会話の声が聞こえてくる。そして、乞われるままに、私はリュートを構えた。ドガが、そういえばあの曲なんてリクエストしたのよ。最初の出会いを思い出したのかもしれない。そう――始まりはこの街の、この酒場だ。


 吟遊詩人になりたくて――私はリュートを爪弾き、歌を歌おう。この始まりの街へ捧げる歌を。



ひとまず一部完結です。

当初投稿を始めた時はここで完結でした。

2部は構築しなおしなので投稿開始まで完結設定予定です。

お読みいだだきありがとうございました。詳細は後程、活動報告にて。

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