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41.宴の後

 ワームが討伐されて半日が経とうとしていた。ゲーム時間では夕方になっている。

 さすがに長時間ログインになりそうなので、一度ログアウトしてリアルで色々用事を済ませてからのログインとなった。


 昼の間にギルド職員や他のプレイヤー達によって放置された鉱脈前は、大分落ち着いたものになっていた。ワームによりなぎ倒された木々は、綺麗に根元から伐採され木材に使用できるように片付けられている。戦闘で荒れていた地面は綺麗に均されて歩きやすくなっている。ある意味ワームのおかげで、放置された鉱脈前は広場のようになっていた。


 ワーム討伐の報告はリーズ村を経由して、冒険者ギルドのジオス支部に届けられていた。といっても、まだ卵から産まれた蛇の魔物や、魔石の影響で凶暴化した魔物の討伐。そして、今後の活動の為にアグの荷馬車が続々と到着している。まるで開拓団のような雰囲気だ。事実、ミスリル鉱石が発掘できるようになるとすれば、ここは開拓地になる可能性があるようだ。ジナンさんはその報告もするために、忙しそうに動いていた。

 明後日には本格的な調査団や、鉱脈に残る魔石の管理の為に魔石の扱いに秀でた人材がラギオスから到着するという。その為に簡易的な小屋も沢山作られていて驚いたわ。




 そして、夕日が沈む頃――冒険者ギルドの計らいで、討伐依頼に参加した冒険者達に酒が振る舞われた。

 プレイヤー達は大盛り上がりだ。ワーム討伐というレイドににた討伐の余韻、そして新しいゲームの中の謎に話はつきないだろう。

 ジナンさん曰く、戦いの後はコレだという。とっても賛成だ。用意されていた樽酒は昼間の間にリーズ村から食材と一緒に運ばれてきたみたい。

 鉱脈前の広場には、かなりの人数が溢れている。ワーム討伐に直接参加していなくても、緊急依頼として急激に出現した魔物討伐に参加していた冒険者、プレイヤー達の姿もいるようだ。テーブルやイスなんてものはないから、皆マントや持ち運びできる大きさの丸太やらに座って車座になっている。

 ギルドが用意したのは、幾つかの樽酒とリーズ村の特産品であるブラッククックのお肉。これは村に被害が出る前に討伐が出来たことのお礼でもあるらしい。数は限られているが――プレイヤー達のインベントリから、酒や食べ物が出るわ出るわ。宴会状態になっていた。特に雰囲気を盛り上げているのは――私達のパーティメンバーだった。


 ログイン・ログアウトはあったけれども、討伐前に組んだ即席パーティメンバー達とはまだパーティを組んだままだ。ゲームプレイのスタイルの共通性からすっかり仲良くなり、短時間の間に遠慮のいらない仲にまでなっている。勿論フレンド登録済ね。

 ワーム討伐に参加できなかったリブロさんは、酷く残念そうだった。仕事の馬鹿野郎―! とログイン後にパーティチャットでの第一声だった。うん。わかるわ。その腹いせなのか、宴会ではとっても張り切っていた。芸でね。

 曲芸師と名乗っているが、ゲームとして身体能力が人間離れしているのがプレイヤーだ。技能を習得するだけで、アクロバットな動きができるのだ。だから、どんな芸風なのか気になるところだ。

 リブロさんは、召喚スキルで呼び出した獣と一緒にジャグリングしたり、パントマイムをしたり。空になった酒樽の上で、ペットと一緒にアクロバットをしてみたりと、その動きはどこかユニークな物が多い。思わず笑ってしまうやり取りを繰り広げている。

 ハイドさんは、リアルでも見る手品で興味をひきつつも、幻ともつかぬ現象を魔術で演出させていた。リアルでいえば、イリュージョンかしら。大がかりな装置を使うことなく表現しているのだ。

 そして、一番人気なのは――リリィさんね。踊り子、その言葉通り華麗な踊りを披露していた。リリィさんはジオス発の劇団の一員として各地を回っているという。元々リアルでも、ダンサーに近い事を職業としているらしい。いつでも踊れるようにするのが、踊り子よ! と宴会の時には、荷物インベントリに入ってる踊り子衣装に艶やかに変身していた。

 その衣装がとても素敵だ。素敵な服だったので、購入元を訪ねたら、あのゲームでファッションを楽しみたいというミザリーちゃんの作品だった。とっても納得してしまうわ。お互いあの店で色々購入していたことを知って、話が盛り上がった。

 もっと女性詩人ということをアピールするために、もう少し露出の多い服を! とお酒片手のリリィさんに迫られたけれど……それは、ちょっと。たじたじとしてしまった。リリィさんの白い頬は既に薄いピンク色。お酒はそんなに強くないかもしれない。お酒に強い私と比べてはないわよ?

 そんな踊り子の衣装は、白い艶やかな生地に銀糸で華やかに刺繍されたチューブトップ。剥き出しになった上腕にはきらびやかな腕輪。手首の腕輪には薄いリボンのような布がつけられていて、動きに合わせ生き物のように空中へ舞っている。細い腰には、色鮮やかな赤い飾り帯。ビーズの飾りベルトと重ねられて、きらびやかな光を反射している。下半身を覆うのは上と同じ生地に見えるけれど、透けるような薄い生地を幾重にも重なったスカートだ。スリッドがいくつも入っていて、動くたびに太腿が覗く。うん、セクシーよね。リアルでいうとベリーダンサーを思い出す。

 赤いペディキュアが塗られた爪先を包むのは、革製のヒール付サンダル。足首につけられた細い鎖紐の飾りには鈴が付いているようで、シャンシャンと動く度に、涼やかな音を立てている。

 そんな衣装をまとった彼女が、時には艶やかにそして激しく舞うのだから、盛り上がるのは当たり前だと思う。

 私はそれを引き立てるべく演奏役だ。当初は宴の開始と共に、やっぱり演奏があったほうが楽しいと思ってリュートを奏でていたのだ。それにリブロさんが面白がって、曲に合わせてダガーを何本も使ったジャグリングを初めて、酒を飲んでいた冒険者達に大うけしたのだ。

 それを見たリリィさんが、リブロばっかり目立ってずるいとリブロさんに絡みだし、いつの間にか踊り出したのである。


 最初はパーティで、宴会会場になっている場所の片隅で静かに演奏をしていたはずなのに、気づけば華やかな踊りを踊るリリィさんの傍らで演奏をしている。それは冒険者達の車座の中心。つまり、とっても目立っているってことね。酒場とは違う羞恥心に襲われている。

 リリィさんは踊り子プレイヤーとして、有名のようだ。「ソードダンサー!」や、「リリィ様!」なんてプレイヤーから聞こえていた気がする。歌のお姉さんと呼ばれる私は……いやおうもなく、目立ってしまっているようだ。けれど、リリィさんの踊りに合わせてリュートを弾くのはとても楽しい。


「ケイちゃん! あの曲がいいわ! キールの恋歌」

「了解。返歌も続けるわ」


 リリィさんの踊りの傍らで、私は踊り子に乞われるままに曲を爪弾く。この世界で踊り子稼業をするリリィさん。私と同じで、この地の歌や踊りを良く知っている。それがまた楽しいのだ。

 リクエストされた曲は、酒場でも人気の恋の歌。キールという名の街の娘と騎士の歌だ。結局は身分の差で悲恋の結末なのだけれども、娘が思いを告げる歌は人気だ。そして、騎士が娘に想いを捧げた曲が対になるものとして、演奏される。娘の歌は艶やかであり、どこか哀愁を帯びて。騎士の歌は、激しくも情熱を込めた歌だ。ばらばらに演奏される事もあるけど、私はつなげて歌うのが好き。リリィさんも同じだったのか、最初は恋する乙女を現すように緩やかでもあり、どこか艶やかな動きの踊りだ。ゆるりと、宙を舞う腕の動きに、白い布が夜の闇へと舞うのは、見る者の視線を釘付けにするようだ。

 そして、返歌ともいえる騎士の歌は、激しいものだ。シャランと鈴の音が、リリィさんの踏む足のステップに合わせて鳴り響く。上体を大きく反らし、感情豊かに舞う動きは、華やかで力強い。私も見惚れてしまう。踊りに負けずと、リュートを鳴らそう。踊りが終焉を告げれば、喝采が響く。

 それにテンションが上がったのか、リリィさんは、次はあれ! といつのまにか手には二振りの剣が携えていた。それは、魔物を斬り裂く本物の剣である。その言葉と、姿に何を請われているか理解して、私は頷いた。


 爪弾くは――現実でも有名な曲のアレンジバージョンね。あの曲で踊りたい! とリクエストされていたのだ。こんなにすぐ叶えられることとは、思わなかったけれども。言葉どおりのタイトルが付けられた曲だ。テンポが速くて弾けるかどうか? 思わず、私の身体もリズムを取るように揺らいでしまうのは、仕方がないわ。その様子と、弾む音にリリィさんはとても楽しそうに――踊り出す。


 抜身の白銀は、宴に灯された光に反射し、空気を斬るように揺れて舞う。しなやかな両腕が、まるで見えない敵を斬るように動く。その動きは、どこか優雅でもあり剣呑。美しくも触れれば切れる、そんな空気を孕んでいる。大地を踏む足は、艶やかでもあり力強く、しなやかな細腕がしなやかに動き、細身の曲刀が踊る、まさしく剣の舞。

 気づけば、周りはシンとした静寂の中、リリィさんの舞う音と私の楽器の音が響き――やがて、終焉を迎えれば、喝采が響き渡り――これは癖になりそうな楽しさだった。曲に没頭したあまりか、うっすらと汗ばんでいる気がする。思わずリリィさんとお互い顔を見合わせれば、笑い出す。

 それからいくつかリクエストされるままに、歌い奏で踊れば、リリィさん。ほろ酔いだったせいね、席に戻れば……どうやら、うつらうつらし始めてしまった。とても満足そうで私も満足だ。マントを軽く被せてあげて、そんな様子に一人の男性が寄ってくる。ジナンさんだ。


「ワーム討伐に参加した冒険者へ、ささやかな礼のつもりだったが――あんた達のおかげで、えらい盛り上がりになったなあ。いや、喜ばしいことだから、礼を言いにきた。皆、彼方からの冒険者か? といっても、アンタのパーティは毛色が変わったヤツが多いみたいだが」

「お疲れ様です。えぇ、まぁ。同じ故郷の者達ですが……毛色、確かに。同郷の仲間の間では、珍しい職業に就く者達かもしれませんが」

「まあ、変わった技能だが有能で助かった。まあ、本題だがな。あれはなんだ」


 ジナンさんは、逃がさん、そんな視線で私に尋ねてきた。後で聞きたいと言われていたけれども、ようやく手が空いたか、それとも伺う機会を狙っていたのかもしれない。ようやく2杯目のお酒が入った愛用のカップを片手に持ちながら。


「精霊の歌、といっていいのか。長年魔術師として経験を積んだジナンさん、聞いたことがありますか?逆に聞きたいのですが――」


 私は逆に不思議に思ってしまった。精霊が歌を好むということを、だからこそ、彼らの言葉で歌を歌ったこと。これにより精霊に力を与える事を水の精霊に教えて貰ったことを伝えた。その言葉にジナンさんの眉間が深くなる。何やら思案するように呟き。


「精霊が歌を好むことは聞いた事があるが――その発想は生まれてなかった。いや、もしかするとな」

「古には、と精霊は言っていましたが――私は詩人として、もし魔法の力のような歌があるとすれば、歌ってみたいという素直な気持ちがあります」

「古の……失われた技法、か。まさかな」


 ジナンさんは、真面目な顔でいう。この人、実は研究肌の魔術師の過去を持っているらしい。といっても前衛で魔法をぶっぱなす異端の冒険者だったらしいけれどもね。ジナンさんが語るには――神代の時代に使われていた技術を「古の技法」といい、優れた技術がさまざまな物に使われていたそうだ。しかし、今となっては――それこそ、神話の世界の話かと言われているそうで。だがと。


「学術都市ならば、なんらかの……またはエルフの里ならばな。吟遊詩人を目指すならば、各地を回るだろう。その時に立ち寄ってみるといい。ラギオスからは、さまざまな街道や航路が繋がっているはずだ。それに、あれが歌による精霊の力ならば――バードギルドにも連絡するべきだ。技能を秘匿するのは、あまり良い事とされていないからな。むしろ、ギルドでの位へ影響するだろう。しかしな、彼方からの……アンタ達が訪ねてきてから、何かが動き出している。まあ、長年冒険者達の感だけどな――」


 ジナンさんは、そういってふらっと冒険者達の円へ戻って行く。彼方の……プレイヤーがこの世界に現れてか。確かに、ゲームのシナリオとして運営の意図も含め、プレイヤーの動きのままに、変化がもたらされているかもしれない。事実、私がたまたまジークさんに会わなければ、この事態になってなかったかもしれない。誰かが欠けていたら、今になっていないかもしれない。


 ふと、気づく。もしかしてワールド・ヘリテージのシステムって……

 私がジークさんの依頼を受けなかったら? ハイルさんの幽霊に気づけず時間が過ぎてしまったら? ワームが時を経て活性化し、街に襲撃していたら――

 コンプリート率の意味がちょっと分かったかもしれない。これはまだ他にも隠れているものはたくさんあるだろう。フラグ管理ともいうのかしら? ゲームらしいといえばゲームらしいけど、現実に近い感覚のこの世界では判断ミスが怖くなるわ。人の人勢も同じようなものといえるけど――

 そんなリアルにも似たゲームの世界を想う。ゆっくりとカップの中の酒が喉に落ちる。さすがに歌い続けて少々休憩ね。

 お酒が飲みたいからじゃないわよ? リブロさんがハイドさんと組んで、おおがかりな演出をしているのを遠目にぼんやりと見ていたかもしれない。


「お疲れさん。飲むか?」


 声をかけられ、視線の先はカイさんだ。彼はパーティのメンバーが余興を披露する合間、顔が広いのか、色々な冒険者達と話をしていた様子が見てとれていた。さらにちゃっかり絵を描いているのも。何の絵を描いていたのかしら――差し出された瓶はお酒だ。赤い色の、良く知った果実の匂いがする。


「これは、葡萄酒?」

「ああ、お手製だけどな」

「飲む。飲むわ!」


 酒造技能を持っているというカイさん。自分で仕込んだワインを御馳走してくれるようだ。ちなみに酒造スキルは、現実でも時間のかかる発酵などをスキルで短縮してしまうという技能だ。プレイヤーが作ったお酒には、ささやかながら色々な付与効果があったりする。ちなみにお酒に弱いと効く前に酔うという、なんともいえない仕様だ。ぬるくなってしまったエールで満たされていたカップを飲み干してしまえば、遠慮なくいただこう。代わりにまだ出していなかった、ブラックチキンの燻製肉を差し出しす。


「しかし、これは大がかりなイベントだったのか? こういうのって」


 カイさんはそんな言葉をワインを互いに手酌しながら語る。どうや、カイさんは余りMMOといったゲームをやったことがなかったそうだ。なので、こういうのってどういう状況なんだ? なんて聞かれてしまった。


「プレイヤーそれぞれの思惑じゃないかしら。ゲームだけど、私は。ワームが無事に倒せて良かったと思う。ジークさんが、ハイルさんの無念を果たせたことがとても嬉しいわ。NPCとか関係なくね」

「そういうものか」

「この世界ゲームではね」

「時々、現実の世界かと間違えそうになるぐらいだ。ケイはこの後どうするんだ?」


 カイさんの言葉どおり、さっき話していたジナンさんもNPCだ。まるで本当に生きている人のように、感じる。それがゲームのシステムでも、私はこのゲームを通じて異なる世界に居ると感じている。そして、ふと尋ねられたことに首を傾げてしまう。この後か……


「旅にそろそろ出ようと思うわ。ラギオスから色々な場所へ行ってみたいし。色々な種族にもね? 精霊の歌についても、それにまだ、知りたいことは沢山あるわ」

「なんていうか、ケイらしいな。まあ、いい。ちょっと相談したいことが――あったが、またの機会にしたほうがいいな」


 カイさんは僅かに微苦笑を浮かべれば、がりがりと頭を掻いて。とりあえず、飲むに限るな、そんな言葉と共に、ワインの瓶を傾けてくる。なにか、少し気になるのだけれども――また、機会があるという。どうせなら、この気の合う仲間たちとまた、色々やりたいという思いもある。それにしても、美味しいワインね。どこで材料を得たのかしら――そっちが、気になってくるじゃない。そんな顔が表情にでていたかもしれない。カイさんは、笑えば――彼の知っている私の見知らぬ土地を語りだし、夜の宴は、まだまだ続きそうだ。


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