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4.職業は初心者バード

 「道草亭」の宿部屋で目が覚めるようにログインをした。2回目のログインだ。

 ベットの上に横になるようにログアウトをしていた。上体を起こすと自然と背伸びをする。

 部屋は質素なベッドに荷物を置く棚。小さな丸型テーブルと小さな丸イスが1つ。部屋の広さは大人が3人居れば狭いぐらい。海外のB&Bで宿泊したことを思い出す。一晩の寝床と朝食サービスの形態だ。

 この宿も朝食が付くとマスターから聞いてる。今のゲームの時間だと朝には寝坊時間だ。身支度を整えて1階の酒場へ降りていく。


「おはようございます。には……少し遅いですね」


 マスターはおらず、奥様であるエプロン姿の恰幅の良い女性が酒場内を清掃している。店内に客はいない。ツインズでは昼前なので仕方がない。


「随分ゆっくりだったねぇ……朝食時間にいなかったから、残り物を簡単に包んでおいたよ。朝食代は先に貰っていたからね」


 そんな言葉と共に紙包みをくれた。中身はサンドイッチらしく、とてもありがたい。<鑑定>をしてみる。すっかり癖になってしまってる。サンドイッチに虫眼鏡アイコンが重なる。


 [ワイルドピッグの焼き豚サンド] ワイルドピッグの肉がメインの野菜たっぷりサンドイッチ。

 空腹度-10/品質C/新鮮/製作者:レマ


 昨日のお肉! そして見た目通りだった。手作りを示すように製作者の名前。女将の名前はレマさんというのね。品質Cは一般的な品質らしい。市場で見るほとんどの物がCのランクがついていた。サンドイッチを背嚢にしまう。昼食を楽しみにしよう。


「ありがとう。今日も一泊お願いできるかしら? マスターと約束もあるのだけども」

「問題ないよ。昨日あたりから旅人が沢山来たけれど……お姉さん、早く予約してくれてよかったよ」


 他のプレイヤー達も宿を利用しているようだ。街内ではどこでも安全にログアウトできる。宿屋等で寝たほうが、ステータスが自動回復する効果がある。費用は掛かるがメリットもある。

 ちなみに一泊朝食付きで1000ジニだった。残金を考えると路銀を稼ぐ方法を見つけないと。


「それでは。また……」


 <道草亭>を後にして、向かうは詩人バードになるためのギルド。途中、広場に立ち寄ってみれば随分と人が増えている。確認するまでもなくプレイヤーだろう。噴水の周辺は待ち合わせの定番になっていきそうな感じだ。


 西の職業ギルドが立ち並ぶ区画に到着。沢山のプレイヤーで賑わっている。

 NPCとプレイヤー、一見区別つかないけど、やはり雰囲気でわかってくる。装備だったり会話だったり。特に今は初期装備だから似たり寄ったり。

 ギルドの建物の中で、特に人の出入りが多いのは「戦士ギルド」「魔術師ギルド」だ。戦闘に直結するギルドが人気の様子なのは明白ね。


 昨日、ログアウト後に公式HPの掲示板に軽く目を通してみた。

 結果、職業ギルドは掛け持ちができることがわかった。主に戦士としての技能訓練や、職業としての経験を積みたいならば、戦士ギルドへ。ステータスの職業が戦士となるらしい。

 そして戦士ギルドからは、戦士用の仕事クエストを受けることができる。

 ちなみに冒険者ギルドは、各専門職業の複合依頼を扱う場所のような機関で、パーティ向けの依頼が多いようだ。

 ちなみに<称号>システムの事も触れられていた。私が取得した後にも、いくつか取得されていて。こんなのがあったと報告されていた。私が取得した内容も書いた方がいいのかしら?


 職業ギルドの建物が並ぶ一角。昨日は地図を埋めたり、景色を見るばかりで気づかなかった。楽器の描かれた看板が軒先にぶら下がる建物を見つけることができた。

 鉄製の丸い看板には、ハープと楽譜の彫刻。ギルドエンブレムかな? 木造建築でこじんまりとしている……他のギルドの前と比べて静かだ。プレイヤーの姿はまったくない。戦闘と生産以外をメインに選ぶのは、少ないのかもしれない。いや、農業する為に農家で働く事になったとか掲示板にあったし、ね? 色々プレイスタイルがあると思いたい。


「こんにちは」


 扉を開けて入れば、建物内は事務所のような景色。部屋の中央、コの字の木製のカウンターには職員らしい女性が一人座っている。書類がぎっしり入った本棚は壁際一面に。カウンターの左右には隣室へ続く扉が2つ。書き物をしていた女性が顔を上げる。


「あら……こんにちは。どのようなご用でしょうか」


 その顔には、珍しいという表情が出ている。白いシャツに紺色のスカート姿のまだ若い女性だ。

 茶色の髪をシニヨンにして、丸眼鏡の似合う可愛い感じね。会釈を軽く返して。


「私は旅人のケイといいます。詩人バードギルドへ登録をお願いしたいのですが」

「あら、珍しいわ……と。ごめんなさい。貴方、最近来た旅人さん達と同じでしょう? 他のギルドは登録者で溢れて忙しいって聞いてたけど。このギルドは……」


 忙しいと友人が愚痴っていたの、と女性は言いかけて、あらと口元を押える。他が人気なのは知っているとも。職業に詩人バードを選ぶ同志はいるのかな? そういえば、曲芸や舞踊の技能もあったっけ。


「ふふ、私の申請は大丈夫でしょうか? この街で仕事を得るには資格が必要だと聞きました。といっても、まだ……志している程度ですが」


「ええ、ギルドの登録は身分証明ができれば大丈夫よ……彼方かなたからの旅人には、冒険者向きのギルドが人気だと聞いていたけど……バードギルドにも加入者がいて嬉しいものね。けれど、貴方どれだけ演奏できるか、見せて貰わないと。試験の前にギルドの説明もするわ」


 やはり資格試験があるのか……。当たり前かな。ある程度、楽器演奏の腕がないとお金払うに値しない。雇用契約の基本だろう。

 ちなみに、掲示板の情報では、一番多い戦士は簡単な戦闘というのが試験だったらしい。といっても、噂に聞くと下水道で巨大ネズミ討伐で、臭い、暗い、ネズミでかい。プレイヤーはそのリアルさに、掲示板の書き込みは、勢いよく意見が書かれていた。

 野生の動物って人間には強いよね。とある国で、ハイキング中に熊に会った恐怖を思い出す。リアルではネズミに勝てそうもない。


 バードギルドの説明は、思った通りだった。演奏や歌で賃金を得る者が登録をする。

 登録せずに個人的に金銭を受けとることはできるけれど、あまり信用されないらしい。

 ギルドの主な仕事は斡旋がメイン。演奏が欲しい場所に赴くことである。

 依頼料も腕の良し悪しで基本料金が変わるそうだ。仕事を受ければ、斡旋料をギルドへ払う。

 個人的に受けた依頼は斡旋料はいらないとのこと。街中の共用区画、広場等は自由営業とのこと。

 よくある、おひねりが飛んでくるのは、ないこともないらしい。

 詩人バードには、流れで旅をする者もいれば一箇所に生業としているものと、色々形態があるそう。

 私は前者志望だ。吟遊の言葉どおり、歌い遊ぶともいえる。ゲーム的にもね。


 少し緊張してくる……ギルドに来る前、少々人気のない場所で練習してみた。

 バードと名乗りたいけれど。まだ少し恥ずかしくて……人前で歌う機会ってそうないもの。


 <楽器演奏>の技能の仕組みはわかった。覚えている楽曲を頭で思い浮かべる。その通りに指が動くのだ。自動演奏みたい。けど、技能のレベルが低いせいか、ぎこちない演奏に聞こえる。また自分の意思で奏でられる、手動演奏みたいなことも可能だった。

 この場合、アレンジが自由だけど難しい。どちらを選ぶにしろ、リアルみたいに長時間練習しないと楽器が演奏できない。ということがないのがゲーム的だろう。また、演奏はMP消費がないことがわかった。弾き続ければレベルは上がったのも確認した。


「ギルドの説明は、大体これぐらいね。では、今からでもいいかしら?」

「はい。少し緊張しますね」

「いつも通りでいいわよ。こちらへ……練習用の防音室があるの。ギルド員になれば自由に使えるわ」


 通されたのは、カウンターの左側の扉奥の部屋。丸椅子が数脚と楽譜を立てる器材。ピアノや大型のスタンディングハープも設置されていた。ピアノもあるんだ……<鑑定>も済ませておく。

 女性は2つ椅子を持ち出して、一つに座った。もう一つに座るように促されて、リュートを取り出す。


「あら、リュートを使うのね。ふふ、本当に始めたばかりなのね」

「ええ、昔から憧れてまして。旅に出るならば、新しい事をしてみたいと思ったんです」


 練習用とあるリュートは、見る人が見ればわかったようだ。こればかりは仕方がない。

 新しい楽器もそのうち手に入るだろうか。そして、心配していたことがある。


「では、貴方の演奏を聞かせてちょうだい。そうだ。私の名前はエルザよ。自己紹介が遅くなって、ごめんなさい。このジオス支部のマスターをしているの。こう見えても、音楽学校を出ているのよ? 他の職員は交代であと2人いるわ。このギルドは、基本は住民の依頼を受けて、登録したギルド員に紹介するだけだから。人手は他よりも少ないかもね」


 軽く肩をすくめて見せた女性は、ギルドマスターだった。音楽関連のギルドは、やはり専門家なのだろう。ぜひ教えを請いたいものである。


「はい。けれど……実は、ここの地の曲を知らないのです。私の知る楽曲でいいですか?」

「あら、そうよね。遠い場所からの来たのだから……ここで一般的な曲とか知るわけないわ。確かに、皆知っている曲歌が好まれるけれども、珍しいものも受け入れられるかも。私も個人的には、興味深いわ」

「わかりました……では。私の父が好きだった曲を……」


 リュートを構えれば弦を爪弾く。奏でるのは、父親が好きだった曲だ。

 学生時代からギターを弾いていたという父は音楽好きで、レコードを小さい頃、よく聞かせてもらった。その曲は映画の主題曲にもなっていた曲。戦時中の子供が出る哀しい映画だけれども、流れる曲は綺麗な旋律で哀愁を帯びている。その曲をギターでよく弾いてくれた。私も習ったことがあったのだ。楽器は違うけれども、音色が似ている……どうかな、想いが伝わるといいのだけれど。


「確かに、聞いたことのない曲だけれども……綺麗な響きね。いいわ。その程度ならば、まぁ、大丈夫でしょう。知らない曲というのは大きいわ。まだ演奏は全然だけれどもね」


 エルザさんの言葉は合格だった。未熟なのは理解している。<楽器演奏>の技能に頼っているところもあるけれど。これがいつかは、思うがままに演奏することはできるといいなぁ。


 とりあえず、初心者資格ノービスは楽器さえ扱えれば誰でも登録できるとのこと。その上を目指すならば、本格的に練習をしていかなければならない。


 ステータス画面をアイテム化して身分証とする。これは冒険者ギルドで発行されている(仮だけど)身分証という扱いだ。新しく所属したギルドや組織名が増えれば追記されていき、NPCには身分証明証みたいに扱われる。遠い場所からやってきた旅人として、この世界における身元証明として所持していることになる。NPCが見れるのは、基本情報のみだけだ。


「これで、一応バードギルド所属になったわ。けれども、どの職業でも腕がないと受けられる仕事は増えないわ。精進して頂戴。一応、斡旋の掲示板はあそこね。日雇いから長期まであるし、個人的に受ければ、ギルドが保証人になるわ」

「ありがとうございます」

「あと……ギルド員ならば、一般的な楽曲の楽譜は書棚にあるから、安く借りることはできるわよ。それと、楽器の講習を受けたいならば先生を呼ぶことができるわ。お金がかかるけれどね。それと、さっきの曲。楽譜にできるならば買い取るわ。それなりの技能がいるけれども」


 色々ギルドの説明を受ける。この世界の楽曲も知ることができそうだ。

 やはり酒場では、人気の曲が求められるという。過去の英雄の話や冒険者の活躍。または、恋愛や戯曲等、覚える曲は沢山あるらしい。新しい曲や、特に歌は楽しみだ。歌詞を読んでいるだけで楽しい。


 そして、なんと楽譜が売れるのね。けれど、楽譜を書く技術って……

 <書写>という技能もあるけど、関連しているかもしれない。調べてみたい事が増えていく。


 また、気になったのは、ギルドに所属することで職業としてのレベルがあがる。

 レベルが上がれば、色々活動に特典がついたり、依頼が多くなったりとあるけど、戦士ならば強い魔物とかの依頼なのだろうか? バードはどのようなものなのかな。


 何冊か楽譜を1冊50Jジニで貸し出してもらう。今日はしばらく楽器と歌の練習に励むことにしよう。ステータスを確認したら。職業欄が……初心者ノービス詩人バードとなっていた。


 やったあ――!!!


 歳がいもなく、ガッツポーズをしたのを、エルザさんに見られていた。恥ずかしい……。



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<名>ケイ  <種族>人族:Lv1

<職業>初心者ノービス詩人バード 冒険者(仮登録)

<非公開>

<状態>健康 <空腹度>20


<習得技能>

 楽器演奏LV2 歌LV2 精霊魔法LV1 杖術LV1 投擲Lv1

 料理LV1 夜営LV1 気配察知LV1 採取LV1 鑑定Lv4

<習得スキル>

 ヒーラー協会の加護(種族スキル)

<称号>初めての探索者<歩行補助>

<所属(未機能)>


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