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38.開戦

 冒険者ギルドから派遣された職員が到着したのは、1時間後だった。到着したメンバーは、調査隊の一員であるギルド職員とバランスのとれた職種の冒険者達で構成されていた。その中にはジークさんが居て驚いたわ。私達がリーズ村を出てから色々な事が発覚したらしい。


 私達が発見した爬虫類と思わしき卵。異常発生した魔物が冒険者に討伐されるにつれ、放置された鉱脈付近へと近づくことが出来た。そこで同じような卵が、その周辺で次々と見つかっているとのこと。この場所は岩肌だった為か、卵しかわからなかった。他の森林の中では、別の「跡」を発見することが出来た。それは、卵を産み付けた物の存在。卵が産みつけられた周辺は、樹がなぎ倒され、大地には這うように削られた跡が残っていたという。調査員として同行してきたギルド職員の男性が告げる。


「おそらく、鉱脈に住んでいた魔物が……活性化し仲間を増やすべくか、本能のままに卵を産み付けているのでしょう。冒険者の討伐報告によると、爬虫類の報告が圧倒的に多いことから、爬虫類の魔物だと予測されています。しかし、不思議なことに卵から産まれる蛇の種類がさまざまと報告があり、魔石により通常とは違う進化をしてしまった<特異進化>の個体だと察しています。そこで……冒険者ギルドは、これ以上卵を増やす事を阻止するため、本体を討つ計画に変更し現在放置された鉱脈へと向かってます」

「予定が変わってのぅ。ジナン殿からケイも現地へと……護衛の冒険者を連れてここまで来たのだ」


 なるほど。調査隊の護衛をしている冒険者はベテランの冒険者のようだ。視線が合えばお互い軽く会釈をしよう。カイさんに視線をやれば頷き。


「とりあえず、その目的地へ行こうか。俺らが何ができるかわからんが……周辺の魔物の警戒ぐらいはできるはずだ」


 即席のパーティメンバーだったけれども、皆一同に頷いて賛成を示してくれる。ともあれ、放置された鉱脈へ向かうとしよう。その前に卵は全部処分をした。なんだか生まれる予定の卵を叩き潰したりするのは、無抵抗なものを殺すようで……けど、魔物として生まれるならばと。テントを撤収して向かった。




 放置された鉱脈の入り口前――その変わり果てた様子に私とジークさんは呆然としていた。人から忘れられた場所として、朽ちた小屋や採掘場へつながる石畳。

 以前ハイルさんと再会した場所だ。そこは大地が削られたような跡を残し、周辺の木々もなぎ倒されたように倒れている。数人の冒険者がギルド職員の指示の元で倒木を運んだり、また空間を作る為か何本か樹を切り倒している。カイさん達はテントを張ってくると一度別れた。私とジークさんはギルド職員に案内されていく。


「おお、来たか――……厄介なことになった。とりあえず、今は現状確認と、冒険者達の招集、対策を話している」


 朽ちた小屋の横に建てられたテントの横で複数の職員と話していた男性、ジナンさんだ。ギルドマスターは既に到着しているらしい。寧ろ、自ら出陣?! 私の姿を見つけて軽く手を挙げれば、声を飛ばしてきた。それに頷きを返せば……肩の上でおとなしくしていた、シンクが地面へ飛び降りて。


<ケガレ! クル! ダイチ ヨゴス!>


 興奮したように、地面の上をくるくると踊るように回りだす。その声はジナンさんにも聞こえた? 訝しげな視線を向けられてしまった。


「なんだ、精霊獣? 話に出ていたヤツか。それにしても、その精霊は中位以上か? 結構な力を持っているように感じるな。丁度いい、当事者に聞くか」


 ジナンさんは会話を止めて歩み寄ってくる。打ち合わせを邪魔してしまったかしら。シンクを大人しくさせようと、声をかけようとするも。ジナンさんの視線で制される。問題ない、と。それにしても、ジナンさんは精霊語がわかるようだ。ギルド職員の前はベテランの冒険者だと知っているけれど、彼の職業はなんだったのだろうか。少し気になってしまう。シンクの前にしゃがみこめば。


「よう、大地の精霊さんよ。ちょっと詳しく教えてくれないか。ここに卵を産み付けまくってるヤツの事、わかってるよな?」

<?! ケガレ タベタ デナイヨウ ニ ハイル!>

「……契約してないのか。制御されていないから言葉が無茶苦茶だなぁ」


 ジナンさんが、参ったというように首に手をやれば。私に視線を配した。


「元はハイルさんの装飾品に宿っていた精霊のようです。あの後から何故か……歌が好きと言って付いてくるようになって」

「精霊は基本気まぐれだしな? 他に小さな精霊もどうやらついてきてるな?」


 ジナンさんが納得したように頷く。どうやらソウのことも感じるみたいだ。精霊が気まぐれなのは私もそう思ったわ。不意にジナンさんはシンクの額をがしっと掴んだ。じたばたと暴れるシンクは逃げれないようだ。ジ、ジナンさん?! しばらく、その光景が無言で繰り広げられ……


「よし、わかった。ちょっと強引だが……記憶を覗いた」

「へ?!」

「まあ、精霊魔法を多少使えるけどな。それとは別に歳をとると色々出来る事が増えるんだ。んー予想通りだな」


 ジナンさんがシンクの額を手放すと。シンクが凄い勢いで飛びついてきた。なんだか、尻尾がプルプルしている……何が起こったのか、とりあえず撫でておこう。よしよし。


「物質の解析か……」

「似たもんだな。この石の記憶があればと思ったが……見えた」


 ジークさんが教えてくれる。<鑑定>の技能を高めていくと、色々な派生技能を取得できるようになるらしい。

 その一つで、物が記憶しているモノを知る事もできる。簡単に言ってしまえば、長年置かれていた彫刻。その彫刻におこったことを知る事が出来るみたいな感じなのかしら。誰が触れたとか、誰が見ていたとか。シンクは、元々は宝石を憑代にした大地の精霊だ。核ともいえる石と同じ記憶を持つと、ジナンさんは考えたのか。そんな事が出来るのか? という私の視線を感じたのか。ちらっと眼を向けてこれば――冒険者を40年、ランクも行き止まりに上がればそれなりになると軽く肩を竦めた。

 ギルドランクの最上級って事?! どんな経験を積み上げてきたのだろうか。色々な冒険譚を聞きたくなってくるじゃない! 今はそれどころじゃないけどね。


「俺の先輩達なんてもっとすごいぞ。というか、でないと何十年も生き残っていけんかったからな。まあ、そんな話は後だ。ここらを騒がしているヤツ。その正体は、なんであいつがこんなところに――ワームだ」


 ジナンさんはその魔物の名前を言った。その言葉にギルド職員から悲鳴じみたざわめきが漏れた。



 ワーム。ファンタジー小説の中で度々出てくる名前だ。リアルだと細長い虫を指したりする。釣りの餌とかによくあるような。けれど、小説の中では……ゲーム的にいうとレベルの強い敵のイメージがあるわ。なんかミミズみたいな蛇って感じなのかしら? 地竜や翼の無いドラゴンとして書かれる事もある。大抵は地中に潜りなんでも丸呑みにしたり、その身体で獲物を絞め殺すみたいな設定をよく見る。この世界ゲームの中ではどうなのか……


「厄介だな。だからかもしれないが……存在の確認が遅れてしまったのは、あいつは地面の中に潜る事が多い。ワームの討伐はそこが面倒だ。以前討伐したことがあったが……ジオスの支部だけでいけるか?」


 ジナンさんは思考の海に入ってしまったようだ。魔物の名前が判明してから、ギルド職員の動きがあわただしい。そして、リーズ村からギルド職員の伝達を受けた冒険者達が続々と集まっており、放置された鉱脈は喧騒が広がってくる。

 指示がくるまではツエルトを張ろう。ジークさんとツエルトの近くに腰を下ろし待機する。簡易コンロを取り出してお湯を沸かしお茶を入れよう。ちょっとした休憩は大事だ。紅茶を入れるとジークさんに渡す。


「ワームか、あいつらは本当に面倒な生き物でのぅ。我らの宿敵ともいえる。獣も食べるが鉱石も喰らう。だから、よく採掘をしている一族が被害に遭ったものだ。ドワーフの手練れでもってもなかなか討伐が面倒だった。ブレスと地中に潜る事がな……」


 紅茶を受け取ったジークさんが、昔を思い出すように眼差しをやや伏せると語る。ワームという生き物について教えてくれた。ドワーフの天敵でもあったと。だからこそ、ハイルさんはいち早く察知することができるのだろう。

 ワーム……この世界のワームは、リアルの世界で語られる姿とほぼ一緒だ。元々蛇が魔物化したものだったが、魔石の影響を受け続け名前を持つ魔物となった。

 名前を持つ魔物というのは、本来野生にいた生き物が魔石に影響を受け魔物化する。その後何世代も種を存続させ個体種となってしまったものだ。

 その姿は巨大なミミズみたいな蛇であり、地中に潜り獲物を狩る。特筆すべき点はブレスを吐く所だ。毒性のブレスや麻痺のブレスが確認されているようだ。麻痺させ獲物を丸呑みにすると……また、魔石の影響を多大に受けている可能性があり、それが蛇を生み出すという力になってるのでは? とジークさんの見解だった。


 基本的な討伐の仕方は、巣に戻ったところを討つというシンプルなものであるが――ブレスに対抗できる冒険者、プレイヤーではまだ数が少ないかもしれない。ギルド職員に技能を確認され、参加を認められた冒険者は数ある程度だ。

 無謀に挑んでも、毒や麻痺のブレスでやられる可能性もある――といっても、死に戻りのシステムがあるプレイヤーはギルドの指示以外に参戦するかもしれない。

 こればかりはなんともいえないわ。ゲーム的にボスを狩る! みたいな雰囲気もある。そうだともいえるけれども、リーズ村やジオスの街の安否にも関わるのだ。……倒さなければいけない。ハイルさんの意思を守るためにもね。

 ワームの習性は夜行性。巣とも考えられるこの放置された鉱脈。卵を産み付けて戻る可能性はある。魔石という餌があるからだ。冒険者達は各パーティ毎に待機することとなった。




「ケイお姉ちゃん……ワームって、ミミズだよね」

「と、聞いたけれどもね?」


 夕暮れ時、ギルドの指示から冒険者達の立てたテントは撤収されている。夜行性を考えて、さまざまな準備が展開されていた。森林の中を動きやすいように伐採し、放置された鉱脈を包囲するように冒険者達の各パーティが森の合間に隠れるように配置されている。

 声をかけてきたのは、私達のパーティの近く、<3A>のメンバーだ。ブレスの危険性からギルドから戦力依頼をされているパーティは限られているようだ。

 参加できない冒険者からブーイングがあったが、冒険者ギルドの職員から戦力外通知を受けて周囲の討伐へと向かったようだ。事実、ある程度レベルや技能が無かったら参加できない「システム」になっているのかもしれない。ゲーム的に考えるとね。MMOではレイド戦という大きなボスに集団で挑むシステムがある。今起こっているのはこれに近いのかもしれない。


 私のパーティは、カイさん、リリィさん、ハイドさんだ。リブロさんはログアウト中で残念だ。カイさんは解毒の魔導符を所持し、リリィさんも解毒関連のポーションを作成所持していた事。またハイドさんも、敵が大きいと魔術師の魔法は必須となってくる。私は精霊魔法を当てにされているのと、ある意味当事者なのかもしれない。だからギルドから参加要請を受けていた。


「ブレス対策は大丈夫?」

「うん! ライアートがブレスから身を守る魔法を覚えたから。結構大変らしいけど、駄目なら邪魔しないようにってパーティで決めてるよ。ポーションも皆で作成してるんだよ。でも、ミミズかぁ……ニョロニョロしてるの苦手なんだよぉ。虫とか、なんであんな魔物がいるのかな」

「うーん。でっかいから、そんなに、ニョロニョロしてないかもしれないけどね」


 女子らしい意見を聞きながらライアート達のパーティを見る。大きな都市に行った事もあり着実に経験を積んでいるようだ。装備も一新しているわ。頼もしい限りだ。

 どうやらヘレナは初めての大きな魔物に少し緊張していたのかしら? 肩の上に乗っているシンクを、もふり倒すと少し満足げに自分たちの持ち場にいるパーティへ戻っていった。

 すでに周囲は薄暗い。夜の戦いに参加するのだから、参加者は当然<夜目>も修得済だろう。

 <気配察知>も発動しているが、冒険者の活躍もあって感知できる範囲に今はいない。はず……例の魔物は、大地に入っていれば感知できないのだ。


「可愛らしい子ね」

「皆。見た目通りの感じの子達ね。でも冒険者としてゲーム楽しんでいるから、とても頼りになるわ」

「まあ、イロモノ戦隊的な私達より十分ね?」


 待機していたリリィさんと他愛もない会話を交わしていると――刹那、周囲を照らすような眩しい光が木々の合間の上空に打ちあがった。


「来たぞ!! 鉱脈の傍か?!」


 カイさんの押し殺した声が響く。それは、この地に魔物を生み出す魔物との戦闘の開始を告げる照明弾の光だった。皆、顔を見合わせれば、身体をふわりと白い柔らかい光がつつむ。ハイドさんの付与魔法だ。効果が短いですが、と告げられる。パーティメンバーの各自のアイコンに敏捷アップの効果の記号が付いているのが確認できた。シンクが先駆けとばかりに駆けだして――私達は走り出すッ




 放置された鉱脈の前。距離が近づくままに、さまざまな音が響いてくる。地鳴りのような音、何かが爆発するような音が聞こえてくる。既に戦闘は開始されて――……目視できるようになる距離で、目を見張った。あれが――!! ワーム!!



 それは巨大なミミズ? 地面からまるでモグラのように頭を出しているソレ。大きい! 頭だけでも3mぐらいの直径があるかもしれない。ミミズの頭に当たる部分はぱっくりと口が開いている。ほぼ頭が口のような見た目で、鋭い牙が見える。地面には大きな穴が開いていて、そこから頭を出しているようで、全体を見ることができない。魔法で生み出された照明の光球がいくつも周囲に浮かんで、数人の冒険者が距離を取り囲んでいた。

 照明に照らされた身体は、ミミズといったけれどもそんな柔らかいものではない。細やかな鱗みたいなものがみっちりと張り付いている身体だ。ジナンさんの声が響き渡れば――


「よし、胴体に矢を打ち込め――!! 魔導印を出来るだけつけろ!!」


 森林の中に既にギルド職員の冒険者が隠れていたのか。次々とワームを目掛けて矢が突き刺さる。それには鎖のようなものが付いている。地中に逃がさない為かもしれない。そして、魔術師らしき冒険者の杖が大きく振えば、飛び出す光弾! それがうねり暴れるワームに到着すれば、ヒカリゴケのようなものがべっとりと付けられた。あれは、一体?


「地面に潜ってもわかる、特殊な染料を生み出す魔法ですよ。しかし、あれが……」


 ハイドさんがそっと教えてくれる。身体を拘束する鎖のついた矢、目印の魔導印のペイント。用意周到ともいえるが――暴れるワームの頭の下、胴体がずるりと這い上がれば、喉元が大きく膨らみ――


「退避!!」


 ワームの大きな口から次々と卵が吐き出され、地面へ落ちれば――割れると同時に蛇の成体が生まれた?! ジナンさんの声が響き、やっと我に返った。落ちた卵はすぐに孵化し蛇の魔物が生み出される景色は、なんということだろうか。


「冒険者に告ぐ! 特異進化として、通常ワームと違い魔物を生み出す! 討伐を優先しろ!!!」


 巨大なミミズじみた生き物が暴れる景色に呆然としていた冒険者達は、私達だけではなかったようだ。

 ジナンさんの叱咤のような大声に、次々と動き出す。


「蛇をやるぞ。っどんどん、生まれてやがる!! なんて魔物だ!!」


 カイさんが悪態をつく。大地に潜ろうと大きく身体を揺らすワーム。鎖に阻まれたせいか、その口から卵を次々と吐き出していく様子は、悪夢みたいだわ。冒険者ギルドの職員が、次々と指示を飛ばすのを聞きながら――まずは、沸く蛇を片付けなければ。さらにワームが大きく身体を地面へ叩きつけるように、這い出せば。

 その身体は……なんてでかいの?! 10m以上はある? 冒険者達を巻き込みながら、大きく身体をうねらせて。その口元が再び膨れれば。


「ブレスだ!!!」


 ゴゥッゥウウウ!!! 


 空気を震わせる音と共に紫色の息? まるで霧のようなものが吐き出され――その範囲に居た皮膚を斬り裂こうとしていた戦士の冒険者達。退避が遅れた者達を巻き込んで、苦痛の悲鳴があがれば地面へ転がりまわる。麻痺の息? 麻痺というよりはまるで火傷のようで、遠目に見る息の犠牲者の肌はただれているように見える。思わず息を飲む。

 近づけば巨大な体の動きに巻き込まれる。生み出される魔物達、そしてブレス。ジナンさん達も「特異進化」した魔物に忌々しそうに距離を取り、攻めあぐねているのか……一体、あの魔物はどう倒せばいいのだろうか。




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