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37.禍いの種

 リーズ村は東に山脈を背に南北に広がる森林に囲まれている。村に近い森林は、生活の資源の為に切り開かれ植林もされ整然としているが、30分も歩けば道の無い動物の世界となってくる。


 ジークさんと以前、森の中を通った時は魔物に直接遭遇することはなかった。いや、遭遇しないように歩いていった。<気配察知>で周囲の敵性生物を察知し、回避して行ったからだ。しかし、今回は違う。歩けば魔物に出会う状態だ。森の獣がすべて魔物化してしまったのでは、そんな気もしてきてしまう程だ。<気配察知>を発動し森林を歩けば、周囲に敵性を示す赤い点が本当に多い。


「探す手間が省けるといってもいいが。どうなってやがる……100m先に、何かいる」

「了解です。しかも、生態系がおかしいですね。明らかに」


 リーズ村から放置された鉱脈に近づく程、魔物の数が増えてくる。魔物化したブラッククックの群れ、生息地はもう少し西のブラックウルフ。巨大な蜘蛛から、普通の猪、鹿、あげくに鳥までが魔石の影響を受けているようだ。明らかに魔物化としている獣や、影響を受けていると思える奇妙な動きの獣も多い。

 そして、さらに違和感。それは……妙に蛇の魔物が多いこと。カイさんが一番先頭を歩き、その次に私とリリィさん。その後ろにハイドさんが続き最後はリブロさんだ。皆、単独で動くことに慣れているのか<気配察知>の技能をかなり上げていた。


「また、蛇だ! 暫く鰻、食えねえ!」


 カイさんが叫べばメンバーは警戒態勢を取る。既に何戦か終えていて、お互いの戦闘方法は分かってきている。

 カイさんは、近接戦闘技能がメイン。戦闘技能といっても護衛用の剣術だけらしいので、補助として魔導符を使っている。寧ろこっちが本命じゃないかしら? 接近して剣で牽制しながら爆発系の魔導符をターゲットに貼り付け、起動し追加ダメージを与えていた。ちなみに魔導符はお手製。上級魔導符まで持っていた。絵を描くと一緒だって言ってね。<書写>技能のレベルが、魔導符作成でかなり高そうだ。オリジナルの符も作成できる腕前らしい。予備に何枚かメンバーも渡されている。


 踊り子のリリィさん。普段は街の旅芸人の一座に入って活動しているらしい。一座の旅中に身を守る為に戦闘技能を取り入れたらしいが、その剣の腕前は見事だ。ソードダンサーって呼びたいわ。細身の曲刀で舞うように的確に、急所を斬り裂いていく。身が軽く手数で勝負の軽量戦士だ。さらに、自分好みの香水を作成したくてと、生産技能の調薬を嗜んでいる。調薬で香水という発想。ある意味科学的な面では一緒なのかもしれないけれど。その副産物として作成された薬品。なんか、うん。物騒な薬を振りまいていたわ。勿論ポーション類も完備で、傷を負うと投擲用ポーションが飛んできたこともあった。


 一番の驚きはリブロさん。曲芸師という通りとても身が軽い。魔物すらも踏み台にして動いていた。武器は投擲用のダガー等隠し武器的なものが多い。投擲で確実に目を潰したりしている。また鋼線を器用に扱う。さらに芸の相方にといって<調教>技能に長けていた。調教したという獣。今一緒に歩いていたのは、ブラックウルフだった。

 仕事をするときに芸を教え込んで人を驚かせたり、相方のように旅しているらしい。勿論、戦力にもなる。他にも色々調教している獣や魔物もいるらしく、今は控えに回っているそう。調教も興味深いわ。すでにシンクとソウという道連れがいるけどね! 本当にシンクはどこにいったかしら。


 最後にハイドさん。手品師といってたけど、実体は魔術師だ。魔術で手品が表現できないか、特にイリュージョンを表現したいというハイドさん。種のある手品を魔法というもので表現してみたいという。なので技能も魔法職といっていい程揃っていたわ。いつもは魔法を使って演劇の舞台を演出したり、普通の手品に少しだけ魔法を組み入れて、この地の住民を楽しませているそうだ。

 正直マイナーなプレイ。いえ、私も含む職業プレイヤーと呼びたいわ。なかなか他のプレイヤーとパーティを組む機会はやはり少ないから気づかなかったけど、やろうと思った事をやると気づくと色々な技能を習得している事が多いみたいだ。その多彩さは、戦闘職メインの冒険者と比べても遜色ない気がする。


 今も――襲ってきた蛇。フォレストスネークという大人程の大きさだ。2mもある蛇が数匹。地面を素早く這い寄り接近してきた。それをカイさんがひきつけし、リリィさんが頭を寸断する。

 残りをリブロさんの鋼糸が牽制し、私の精霊魔法でその胴体を串刺しにした。ハイドさんはMP維持の関連と習得している魔法が森林という狭い場所での攻撃には向いてないので、攻撃に加わる事は少ない。けど、付与や回復等が適時飛んでくるのが戦力ともいえるだろう。


「蛇、ばかりね」

「ああ、なぁ……ケイ。鉱脈に居たかもしれんっていっていた、魔物ってなんなんだ?」

「まだ――」

「なんか、イヤな予感がする。というかな。この状況はどうやったら終わるんだと」


 フォレストスネークからの戦利品をカイさんが回収しながらぼやくように言う。まだ、それは判明していないのよね。鉱脈の入り口から入った場所は大きな空間になっていて、魔石が鉱石のように、いたるところに埋まっていたという報告があるのみ。戦利品を回収して――蛇から取れるのは、鱗や肉、牙だ。大分量も溜まってきている。

 報告も兼ねて一度村に戻るのもいいかもしれない。パーティリーダーはカイさんだ。聞こうとして。


<イタ! ヤツ! イタ! タマゴ!>


 突然、森の木々の合間からまるで宙を駆けるように姿を現したのは、赤い宝玉のある獣。シンク!!


「シンク?! どこにいってたのよ! ッ何、食べて――?!」


 一日ぶりに見たシンク。その口元には銀色の蛇が咥えられている。30センチ程の蛇はじたばたと暴れている。大地に降り立ったシンクはそれを齧ったまま地面へ押し付ける。その蛇を見たハイドさんがぎょっとしたように叫んだ。


「それは、シルバーサーペント?! なんで、こんな場所に!」

「シルバーサーペント?」

「ええ、この山脈よりさらに東に位置する大森林と呼ばれる場所に住む魔物です。色々な有害なブレスを吐く恐ろしい魔物ですよ。しかし、大きさはもっとあると聞いてますが、これは小さいですね」

「へぇ、これが精霊獣か。調教されてるとも違うんだな」

「……可愛いじゃない。でも、蛇って」


 ハイドさんは博識だ。むしろ同類かもしれない。本を読むのが好きだそうで、ラギオスの図書館に籠りっぱなしだったらしい。成体は5mに近くなりベテランの冒険者も気を付ける魔物だと。ふむと、ちょび髭を弄りながらシンクの咥えている蛇を観察しているようだ。リブロさんは初めてみるシンクを興味深そうにみやり。リリィさんはその毛並みが気になるようだけど、蛇を咥えた姿に少しひいてる。


<キテ!>


 シンクの思考がいつもより強く響く。思わず、その強さに眉を顰めれば――カイさんにも聞こえたみたいだ。


「精霊語、シンクの声か。何か言いたいのか?」

「カイさんにも聞こえたのね。シンク、なに? 何があるの?」

「何かこの子、言ってるの?」


 シンクの強い思念は精霊語の技能の低いカイさんにも聞こえた様子。お互い顔を見合わせれば、精霊語を取得していない3人は不思議そうな顔をしている。そんな私の前にシンクは尻尾を大きく振り、押さえつけていた口元を蛇から離せば――銀色の蛇は、素早い動きで地面を這い出す。


<キテ!>


 再びシンクの声が響けば――シンクは蛇を追いかけるように地面を駆けだす。ちらちらと私を見ながらだ。追いかけろってこと?! カイさんも同じ考えが浮かんだのか頷けば。


「あの精霊獣を追うぞ――見失うな!」

「了解。っ早いな。召喚! 追いかけろ!!」


 リブロさんが口早に叫べば――彼の頭上に一匹の鷹が姿を現す。調教した獣はアイコンの色がプレイヤーと同じになるから明白だ。シンクはアイコンがNPCのまま。そういうことなのだ。

 パーティから距離を離れてしまうと姿を見失ってしまう。シンクは夢中のようだ。だから行動力のある鷹をシンクに追いつくように呼んだのだろう。その鷹のアイコンを追って追って――リブロさん、正解ね。シンクの小さな姿はあっという間に、蛇と一緒に消えてしまったもの。


「な、ここは――」


 辿り着いた先は放置された鉱脈に近い尾根の裾に広がる岩肌の地形。森を抜けて開かれた視界に、立ち止まれば、皆絶句したわ。

 シンクがやっと来たかとばかりに、私の足元へ姿を現す。そして、蛇と言えば岩肌に向かっているけれど、その先の景色に呆然としていたといっていいのか。


 そこには――卵が沢山あった。卵、鶏とかの卵じゃないわ? 形は丸いピンポン玉みたいな卵よ。でも大きさはバラバラだ。小さいものでテニスボール程、大きいものは子供の頭程の大きさ。それが傾斜している岩肌の合間合間にあったのだ。

 シンクに追われていた銀色の蛇は、逃げるように小さな卵へ辿り着き、まるで巣に逃げ込むように――しかし、何が起こったの? 誰も動けない。銀色の蛇は自分より大きな卵を丸のみしたのだ。グシャリ、シャクリ、何かが砕ける音がして――……


「おい、あれは――やばいッ!!」


 卵を飲み込み、喰らった銀色の蛇が瞬く合間に1m程の蛇へと姿を急激に変えて……一気に敵性のアイコンが強さを示すように赤色を濃くしていく。卵を食べた? 捕食して、進化した? 


<キケン!!>


 シンクが叫ぶと同時、甲高い音と共に――銀色の蛇の胴体をいくつもの土の槍が貫いていた。その数は胴体を引きちぎる勢いだ。一瞬で絶命したみたいだけど、これはシンクの仕業だ。あの土の槍は大地の精霊から生み出されたものだ。どうだとばかりに、シンクの尻尾が揺れている。


「「「……」」」

「なにが、起こってるんだ? こりゃ」


 カイさんが、がしがしと蓬髪を指でかき乱した。より一層乱れているわ。思わず、思考が逃げそうになった。シンクを逃げないように抱きあげれば。


「シンク、これは――何?」

<タマゴ! ヤツ! キケン ノ タマゴ!>

「ヤツって、何?」

<ハイル! ハイル!>

「?!」


 まるで、会話が組み合わないけれども、ハイルさんの名前に思わず息を飲む。ハイドさんが、卵に寄ろうとして躊躇う様子を見せる。


「これは、魔物の卵? 鑑定しようとしても弾かれる。技能レベルが足りない程のものなのでしょうか」

「なんだか、ここ嫌な雰囲気だわ。卵、近寄りたくない感じしない?」

「あ。ああ。なんていうか―……背筋がぞくぞくするな」


 リリィさんとリブロさんは、岩場から距離を取りたがる仕草を見せている。私も<鑑定>を発動してみる。いつもの虫眼鏡アイコンが浮かんで――


[×××××の卵:********が産んだ卵。胎内で魔石の影響を受け、生まれながら魔石に影響された魔物として生まれてくる(産卵1時間前)]


 これはとても洒落にならない状況じゃないかしら。落ち着こう……


「鑑定できたわ。といっても、何の卵かわからない。生まれた時から魔物と説明があるから、きっと魔物が生みつけていったものと。……1時間前にね。ねぇ、魔物って喰らいあうことで、強くなるのよね」

「ああ、さっきの蛇みたいにな……もしかすると。ゲーム的には、ここらのボスってとこかね」


 魔石の影響を受けた獣が生んだ卵。それも無数に……それは、卵を産みつける行動をしていたらという推測。何の魔物が? どうみても蛇の魔物だろう。そして、生み出された卵から生まれた魔物。蛇と見たけれども、それを普通の獣が食べたら、魔物化の影響を受けるのでは? また、生まれた魔物同士が喰らいあったら? ぞっとしてしまった。


「報告、だな――卵が孵ったらまずいぞ」

「魔石の影響を受けた卵か、魔石のせいか。この不快感は……」

「少し距離を取ってるわ」

「村に居るフレンドに連絡をします。ギルド職員を呼んでもらわないと――」


 ドガ兄弟にフレンドチャットを飛ばして――ギルド職員に連絡を取ってもらおう。それまでは出来る事は。


「テントを張ってセーブエリアを作る。卵が孵ったり、食べに来たやつを狩る。でいいな」

「この子はここの場所を教えたかったのね。感心するわ」


 カイさんが行動方針を決めれば――少し離れた場所にテントを張りだす。待機用のセーブエリアの確保だ。シンクはそれでいいとばかりに頷いているが。


<マタ クル ジュンカイ ダイチ ハウ ケガレ!>


 くわっとその瞳を見開けば獣じみた表情を浮かべ――私の肩へと収まった。ドガとあわただしくチャットを済ませば、ギルド職員が1時間ぐらいで到着するようだ。その間まで待つことになった。


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