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35.緊急要請

 ログイン31日目。いつも通り「道草亭」でログイン。

 31日……丁度一ヶ月ね。といっても私がログインをできた日数。ゲーム自体は正式開始してから2カ月になろうとしている。結構なログイン率かもしれない。

 ゲームのタイトル通りすっかり第二の生活になりつつある。まさしく趣味な感じね。さて今日はいよいよ――


 身支度をして装備品やリュックの中身を確認する。今日のログインは長くなりそうだ。時間はしっかりと確保してきた。丁度リアルも土日でプレイヤーも多い日だ。街の中ではリュートを担いだ姿だけど、今日は杖を装備している。シンクはいつもの定位置に座っていた。シンクも何か感じる事があるのか、今日はログイン後から私の傍にいる。一階の酒場へと降りて行けば――旅衣装を纏い武装をしたジークさんが既に待機していた。


「おはようございます。いよいよですね」

「おはよう。そうだの……ここまで、来たか。ケイ、礼をいう」

「まだ、全部終わったら――また、飲みましょう」

「そうだのぅ。ドワーフの秘蔵の酒もケイには飲んで欲しいのぅ」

「それは、ぜひ!」


 顔を合わせて笑い会えば、冒険者ギルドへ向かおう。






 冒険者ギルドの玄関である門を潜れば――思わず歩みを止めてしまう。集合場所はもっと奥だけど何かがいつもと違う空気だ。


「なにか、あったのかのぅ」

「ええ……」


 冒険者達で混雑している冒険者ギルド。いつもは賑やかといった雰囲気だけど、今はどこか緊張を孕んでいる。依頼を受けるカウンターの前は行列だ。その理由はすぐわかった。冒険者達の間から話が聞こえ零れてくるのだ。依頼受付がストップしている状況らしい。一体何が――

 冒険者ギルドの、先日訪れた会議室から扉が勢いよく開けば何人かの職人が飛び出してくる。

 その異様さに冒険者達からざわめきが広がり――


「緊急依頼を発動する――!! 冒険者ギルドに登録済の冒険者に告ぐ!! リーズ村から南に魔物の大量発生の報告あり。可能な冒険者は至急討伐へ!! 繰り返し告げる――!!」


 依頼受付のカウンターにいつもいる男性が、ギルド内へ響き渡るような声で叫び。


「?!」

「まさか――……」


 冒険者ギルド内が一層ざわめき、動揺したようなプレイヤー達の声が上がる。


「ケイお姉ちゃん!!」「ケイさん!ジークさん!!」


 冒険者達一群の中からヘレナとライアートが姿を見せた。待ち合わせをしていたので居るのはわかっていた。


「一体何が――プレイヤー達も緊急依頼と言う言葉に動揺してますね」


 ライアートが困惑したように周囲を見渡す。リーズ村、また? とヘレナが少し泣きそうな表情。思わずその頭を慰めるように撫でれば――名前を呼ばれる。この声は……


「ジナンさん!」


 冒険者ギルドのマスターが幾人かの冒険者を、ベテランの冒険者と思わしき人達を後ろに連れて現れる。その姿は冒険者達も知っているようで、マスターが来たと冒険者達の間に言葉が広がる。マスターを務めてるだけあってその存在感は重い。動揺した雰囲気がその言葉を待つように静まる。


「ああ、すまない。緊急事態の発生だ。冒険者達よ――!! まず、聞いて欲しい。先日、とある場所の調査依頼が入った。そこで、調査隊の前に向かったギルド所属の斥候だが――大怪我を負い、早朝に戻ってきた。曰く、放置された鉱脈付近に魔物が溢れ、近づけなくなっていること。魔物は周辺の獣が魔物化したものが多い事。名付が複数群れの中に居た事」

「……?!」


 思わず息を飲んでしまう。まさか、まさか――ジークさんが深く頷く。


「予感が、あたったかの」

「………」


「調査隊の目的、魔石の発生の有無だったが――その影響の可能性がある。その地の北にはリーズ村。さらに、このジオス。魔物の群れが到達する可能性がある。冒険者達よ――緊急依頼を発動する。いや、これは冒険者ギルドの所属する者達への、願いであり命令だ。至急、リーズ村へ向かって欲しい!!

 すでにギルド職員の数名が、リーズ村へ拠点を設置するために早馬にて移動を開始している!!冒険者達よ――その力を発揮してほしい。以上、詳しい事は担当のギルド職員を設置した。魔物の沈静化が行われるまで、ギルドの通常任務は休止となる!!」


 冒険者ギルド内に広がる声、声、声――!!


「襲撃イベントか?!」「パーティで向かうぞ!」「リーズ村の襲撃の続き?!」「運営?公式に発表はないの?」「いや、村が危ない、街もだぞ?! 行くしかないだろ!!」「魔物ってどんな??」


 冒険者達、プレイヤーから視線を受ける。歌のお姉さん? またか? とか。いや、違うとは言えないけれども、私も何が起こったか――いや、予測は出来る。シンクの尾が大きく警戒を示すように膨らんでいる。ライアート達は何やら話あっていたようだが。


「ケイさん! 私達はすぐ向かいます――!! また、後で!!」

「わかったわ。私達もすぐに――」


 ライアート達の決断は早かった。流石、攻略で名を馳せたパーティの団結力だ。パーティ同士が頷き合って……そして、ドーイが大きな声で告げた。


「<3A>はリーズ村に向かう!! 大規模戦と予測している!! 協力してくれるプレイヤーがいれば、同行願う!!」


 全身板金鎧を身に着けたドーイが声を放つ。いつもは寡黙な人だ。その人から堂々とした言葉はプレイヤー達に聞こえたようだ。知名度がある彼らの言葉は他のプレイヤー達の動きを促すことが出来たようで、メンバーの周囲へ人が集まりだしていく。


「ケイとジーク殿はこちらに。詳細と今後の話を――」


 ジナンさんの声がかかる。あの場所の詳細を知るのは私とジークさんだけだ。一体どんな状況に? どうしたらいいか、打ち合わせをするという。私達は促されるままに会議室へと向かった。


「対応が遅れてすまなかった」

 

 ジナンさんは会議室へ入るなり頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。ジークさんは、その言葉の意味を察しているようで、首を横に振る。


「いや、元は儂のせいかもしれぬ」

「ジークさん?」


 ジークさんの言葉が重く響く。消息を絶った弟さんを探し、亡霊となった弟と再会を果たした。弟さん、ハイルさんは亡霊となってまで「何か」を守っていた。今となっては、魔石が存在したと思われる場所から人を近づけまいと、死してなおその地に留まっていた事がわかったけれども……

 ジークさんが、ハイルさんの亡霊に会わなかったら……魔石の被害が出なかったのではないかと。結果としてみてしまえば、そうだけれども……ハイルさんに会えた事は、悲しくもジークさんにとっては良い事だったと思う。言葉に上手くできないけれども。


「それは違うだろう。過去を振り返れば……弟殿の調査護衛を受けることがなかった冒険者ギルド、リーズ村からの亡霊の情報。情報の断片はあったはず。未解決依頼を放置していたギルドにこそ非があるだろう」


 ジナンさんが言い切る。だがと、


「今となってと言ってはいけないかもしれないが。起きてしまったことに、ギルドは全力で対処をする。……現在の状況を説明する」


 ジークさんはその言葉に深く頷く。ふと気になることもあるけどまずはジナンさんの報告を聞くとしよう。

 ギルド職員でもある斥候の冒険者は3人で現地へ向かった。実際にその場所の状況を調べることが役目だ。調査隊といえばかなりの人数になる。その人数が逗留するだけのスペースが現地にあるか、また食料などの調達は可能か等。地形から環境情報まで調べてくる。

 またリーズ村を最寄りの拠点とすることの交渉する役目もあったという。斥候の冒険者は冒険者となって何年も経っているベテランだという。斥候役として、気配察知や隠形等の専門技術を取得している。この彼らが怪我を負って帰ってくる事態。

 ジナンさんの報告を静かに聞く。まず、シンクが塞いだ採掘場の入り口は穴が開いていた。穴が?! これにはジークさんも驚いた表情を浮かべている。あの土というよりは岩で作ったドームのようにふさがれていた場所。それが内側から何かが這いだしたような跡を残し、一部が崩れていた。その中に斥候の冒険者達は入って確認したところ――ジナンさんが一度言葉を切り。


「魔石だ。それも複数ありとな――その周囲には何かが魔石を食った形跡。かなり古いものと新しいものが混じっていたそうだ。そして、新しい魔石の周りには、魔石の力に耐えきれなかった獣の死骸もあった」


 魔石の存在は確認出来た。まるで魔石の鉱脈のようだと。もしかするとリーズ村付近で魔物の凶暴化や襲撃。街道沿いでの特異進化の発見は、この魔石の鉱脈ともいえる場所のせいではなかったか? 魔石の存在を確認でき、すぐ報告に戻ろうとした所――襲われた。


「襲われたというよりは、周囲の獣がすべて魔物化していただな。近年見る事が出来ない規模だ。先程ラギオスの評議会へ都市の抱える軍の派遣を要請した。が、魔物の数の広がりを見ると――」


 魔石の鉱脈というべき場所。魔石は生き物にとって、毒とわかっていても近づいてしまう力を秘めているという。自然の獣がその力に惹かれ、一匹、一匹と。それが喰らいあい、より大きな魔物へと。連鎖していくという……大抵は冒険者等に討伐され抑制されているというが。何かが異常だ。ともあれ、対処しなくてはいけない事態。


「冒険者ギルドとして、まずは大勢の冒険者に呼びかけ魔物の数を減らしていく。同時に鉱脈の封鎖を計る。封鎖はラギオスから専門家が来る。まずは魔物の排除が第一課題だな。最近の彼方からの冒険者の数と活躍を見れば――可能だと思う。ケイ、ジーク殿は鉱脈まで同行願いたい」

「了解した。しかし、古い魔石と新しい魔石か――……」

「わかりました。彼方の冒険者達にも呼びかけましょう」


 既にライアート達は動いている。私もドガ兄弟に先程知らせを送っていた。彼らもまた、生産職繋がりで参戦を呼びかけるという。なんだろう……落ち着かない気分だわ。ゲームでいうならば、大規模なイベントだという感じだろう。プレイヤー達は楽しんで参戦する人が多いと思う。けれど、何故それが起こったか、また魔物の脅威に襲われるというリーズ村やジオスの事を考えると複雑な気分になってしまう。……考えすぎかしら。まずは、出来ることをしなければ。


「午後リーズ村へと向かう。そのつもりで準備してほしい」


 ジナンさんはそう締めくくると……準備があると会議室を出て行った。ギルドマスターも大変な時だろう。ジークさんは何やら考えているような表情で髭を触れている。


「のぅ、ケイよ。思うのだが……ハイルを襲った魔物は」

「ええ、もしかすると――……いえ、シンクが警戒していた理由が」


 鉱脈に既に居たのだ。それをハイルさんの亡霊が、大地の中位精霊たるシンクが守っていたのかもしれない。あの地から出さぬように……ジークさんの息が深く吐き出される。もしかするとという、思いに満ちているかもしれない。


「ジークさん、全部終わったら、終わったら考えましょう」

「……そうだな」


 まだ、全部は終わってない。ハイルさんを襲った、古い魔石を食べた物。それがまだ居る可能性。そして、全てがそれから始まった一連の魔石による魔物の異常発生。

 私とジークさんは昼を待って……冒険者ギルドの部隊と一緒に向かう事になった。





 放置された鉱脈に近いリーズ村に夕方に到着した。ジオスからは冒険者達がパーティを組み、街道を進んで行く姿が見えた。冒険者はリーズ村を拠点として、冒険者ギルドから緊急依頼として発せられたこの事態へと向かうのだろう。

 リーズ村の周囲は野営のテントで埋まっている。リーズ村の住民は既に集会所へ避難をし、冒険者やギルド職員に守られていた。皆、不安そうな顔ばかりをしている。

 既に夕暮れ時は魔物の活動も活発になる為、本格的に向かうのは明日になるとジナンさんから告げられる。私も村の近くに野営の準備をすれば、村の集会所へと向かうことにした。


 集会所へ向かう道。村には冒険者、プレイヤー達で溢れている。非常事態とわかる景色だ。時々視線を感じる。プレイヤーの中には私が関連しているのか? と直に尋ねられる。

 冒険者ギルドのマスターを含むNPCと一緒に行動をしているから明白かもしれない。

 私はこの一連の出来事を語った。ドワーフ族に会い、その依頼を受けた果てにこの事態に繋がったことを語った。ジークさん、ドワーフに会う前から起こっていた異変も一緒に伝える。変に話が広がるより真実を伝えたいと思ったからだ。


「突発イベントじゃないか?」「フラグ拾いすぎ」「運営の仕業?」「普通にゲームしてただけだろう」「余分な事してるせいだ」「いや、やっぱり運営のシナリオだよ」


 色々な反応が返ってきた。面白がる人や、疑惑をかけてくる人、純粋に協力したいと言ってくる人、様々だ。私も運営が関与しているイベント的なものなのか、それとも自然な成り行きだったのか、考えだしてしまうとわからない。けれど事実起こってしまっている事は、解決するしかないと思う。


「なんか、えらいことになっているな」

「カイさん! 貴方も協力を?」

「ああ、ちょいとフレンド達にも声かけてな。一応冒険者でもあるし。ブラッククックを食べる前に村がなくなっては困るしな。なんてな」


 リーズ村に観光を予定していたカイさん。昼間に同行を出来ないことをフレンドチャットで知らせていた。わかったと言う、返事だったけど――友人達に呼びかけて参戦してくれるとのことだ。本当にありがたい。友人達と周囲を見てくるというカイさんと別れて、私は集会所へと向かう。

 不安を抱えた住人の方を、歌で少しは安らげればと思ったからだ。詩人の私に出来る事は、ささやかだけれども――

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