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32.買い物をしよう

 お昼過ぎにジオスへと帰還した。ゲーム時間で考えるとちょっとした小旅行をした感じになるのかな? カイさんとパーティを組み街道に出てからは、話に花を咲かせながら歩いてきた。

 やっぱり<歩行補正>のおかげで、パーティを組めば予定時間より早くジオスへ帰ることが出来た。カイさんは驚いていた。何故かはまだ秘密ね。


 シナ湖への小旅行はなかなか濃い時間だったわ。またぜひ訪れてみたい。沢山の魚料理のお土産もあるけど、なんといっても水の精霊がついてくることになったことだろう。あれから、水の精霊の姿は見ていない。ポーチの中の瓶の中に気配は感じる。どうやらシンクと違って姿を常にとることはできないようだ。

 言葉も聞こえないけれど、思念みたいのは感じる。今はなんだか眠いという気分らしい。精霊って……精霊って…。私の精霊使いの技能があがったり、この精霊が成長? するのかしら。そうしたら姿を常に見ることができるのかしら? そんなことを考えてしまった。

 

 ジオスの北門をくぐるとカイさんはログイン時間が警告時間に近づいているということで、街に入ってから別れることになった。私は一度ログアウトをしているから、まだプレイ時間には余裕がある。ログアウトまで、久々にゆっくりと過ごすことに決めた。




 カイさんから別れ際に2枚の絵を渡された。葉書ぐらいの大きさの少し厚い紙に木炭で細やかに描かれた絵。素描だからたいしたものではないといってたけど……両方とも背景が無く、黒の濃淡だけで対象物が描かれていた。一枚目はシンクが描かれた絵だ。干した果実を食べている姿。柔らかい毛並みを細やかに描きこまれ、今にも動き出しそう。もっと、おやつを頂戴ってね。

 そして、もう一枚は私だ。い、いつのまに! ただリュートを弾いている姿。全体的に柔らかなタッチで描かれていて、ちょっと美化されてないかしら。少し恥ずかしくなってしまった。こんな風に楽器を演奏している時は見えているのかな? 絵を見て少し動揺を見せた私に、カイさんは俺にはそう見えると、しれっと言って去っていったけれどもね。ゲームシステムのスクリーンショットはあるけれど、人の手で描かれたものはどこか味わい深い。リュックへ大切にしまっておく。カイさんとは後日、飲む約束をしている。その時に絵のお礼にお酒を奢ろう。





 昼間の広場はさまざまな屋台が並んでいる。特にお昼頃は食べ物を売る屋台が多く見ることができる。あちらこちらから漂う美味しい匂いに、思わず食欲をそそられてしまう。

 ジオスへ帰る途中に休憩がてら、軽食を取っていたけれども……よし買い食いをしよう。ついでに久々に屋台を見て回るのも楽しそうだ。

 それに、欲しいものもあるしね。肩の上に当たり前のように乗って、寛いでいるシンクを横目にみる。

 すれ違う人から時々シンクに視線を向けられるけれど我関さずだ。たまに悪戯に頭に乗ってくるこの獣。……なんで頭に乗るのかしら? 帽子が防御になるかしら、なんてね。



 沢山ある屋台の一つから、漂う香りに惹かれて足を止める。何の食べ物だろうと見ると……クレープみたいに色々な食材を包んだ食べ物を売っている。美味しそうだ。一つ購入しよう。

 渡された物はクレープみたいだけど、柔らかい小麦粉の生地じゃない。薄茶色の生地は雑穀を使っているみたいで、ガレットに近いかもしれない。中に包む物はいくつか選べたので、腸詰と野菜を包んだものを選ぶ。香ばしい生地と一緒に食べる腸詰は、噛めば肉汁が溢れる。肉にピリッと香辛料が効いていてソースはいらない。一緒に添えてある酢漬けの玉ねぎみたいな野菜のスライスが肉を包んでいるから、肉汁が溢れてもさっぱりしていて美味しい。エールが欲しくなってしまうわ。

 屋台の傍で、行儀悪くも立ちながら食べ終える。果実や植物の種を好んで食べるシンクは、お預け気分なのか少し不服そうだ。腰のベルトに付けたポーチへ指先を入れる。すぐ取り出せる場所にあるポーチには、小銭や緊急用ポーション。そして、最近はナッツが紙に包んで小分けにして入れてある。シンクのおやつ用ね。ほら、と指先でナッツを口先に押し付けると次の屋台に歩き出す。



 広場に点在している屋台は、西の商店街に近づいていけば、屋台から防具や武器といった冒険者や旅人向けの露店が増えていく。

 その数は……前に露店巡りをした時と違って増えてる。ゲームが開始されて一か月に近い。職人プレイヤー達の腕も上がり、品数の供給も増えてきてるのだろう。マックガイアさんみたいに店を構えるプレイヤーも出てきてもおかしくない。

 軽装備を好む冒険者用の革製防具。魔法職用に布製の防具。中には板金鎧を全身装備で露店の横に置いてある店もある。露店は防具や武器の他にマントや帽子、収納用鞄を扱うものもあった。旅の道具もあるわね。こういったものを作る職人プレイヤーもいるみたいだ。


 露店を見ていると知らない素材が幾つかあった。冒険者の行動範囲は広がっているのを実感することができる。もう一月経ったら新規のプレイヤーが増えるのが楽しみになってくる。きっと賑やかになるわ。


 ドガとジンガは、フレンドリストを見るとジオスの街にログインしている。もしかすると露店を出しているかもしれない。前より増えた露店の中では、直接探すのはちょっと大変だ。

 見つけたら挨拶ができればいいなと思う。こうやってのんびり露店めぐりをするのは、少し久々な気もする。気づくと、あっちに行ったりこっちに行ったり……あれ、私。ふらふらしている?

 

 ありがたい事に防具類はドガに作って貰っている。武器や楽器も縁があって手に入っている。なので防具や武器の露店を見るのは、冷やかしになってしまうかもしれない。ウインドショッピングかしら? 楽しいわよね。

 ふと、布製品が沢山並べられている露店に目が行く。露店のデッキは商工ギルドで貸し出しされているので台の規格は決まっている。限られた台の上で出店者は工夫をして、台を中心にディスプレイしているのだ。リアルのフリーマーケットみたいな感じもする。寧ろそのものかもしれない。


 その露店が気になったのは、カラフルな色彩に溢れていたからね。革製品、布製品の防具や服の露店は素材そのままの商品が多い。染色は技能を別に取らないといけないので、取っている職人は少ないのかな? どうしても素材の茶色や白、黒といった色が多めだけれども、その店は赤、黄、緑と原色に溢れている。ディスプレイもトルソーや飾り棚を設置して立体的に見せている。


「いらしゃいませ!」

「こんにちは。見させていただきますね」


 露店の傍で小さな丸い木の椅子に座っているのは若い女の子。まだ少女といってもいい雰囲気の可愛らしい娘さんだ……この子が職人さんかな? 明るい茶色の髪は肩下までのお下げ。健康的な肌にくりっとした目は焦げ茶色の瞳。水色のワンピースに白いエプロン。エプロンには細やかな刺繍が施されていて素敵だ。これも彼女の作品かもしれない。少々おとなしい雰囲気にも見えるけれども、元気な挨拶をしてくれる。ぜひと、立ち上がるとにこにことした笑顔を浮かべて迎えてくれて。


「とても綺麗な色で素敵ね。全部貴方の作品かしら?」

「はい! 裁縫職人のミザリーっていいます。そういって貰えると嬉しいかなぁ。作っているのは服飾ばかりだけれども……このゲームは重ね着できたり下着まであるし! お洒落をするのもいいと思うのです!」


 店主の少女、ミザリーさんは拳をきゅっと握って作品のコンセプトを語った。確かに冒険者らしくないと言える色鮮やかな物が多いけれど、素敵だと思うわ。だって綺麗な物を身に着けるとうきうきするでしょ? 街中でずっと武装しているのも味気ないと思うし……私の場合、詩人らしい服装を目指しているのでコスプレもどきかもしれないけどね。装飾的な小物なら付け足してもおしゃれかもしれないわ。

 しかし、下着か……あるわね。露店の台の隅の方に女性男性用の下着がある。女性用なんてレース仕様のものがそれとなく置いてある。女性じゃないと、ぱっとみわからないように置いてあるけどね。

 

「帽子を探しているの。ちょっと、この子が悪戯に頭に乗ってくることがあってね。季節が変われば日差しも強くなってきそうだし」

「わ、召喚獣ですか? それにリュート!」

「召喚獣じゃないけれども、ついてくる点では似たようなものね。そう、詩人だから。こう素敵な服を見ていると、旅と兼用じゃない服も欲しくなってくるわ」


 肩の上に乗るシンクに視線を向けるミザリーさん。その眼差しはわかるわ。大人しくしていればシンクは極上の毛玉よ。もふもふ好きには堪らないかもしれない。シンクに笑顔を向ければ、逃げないように掴んでおこう。背中に担いでいるリュートが視界に入ったらしい。


「詩人のケイよ。ミザリーさん、まずは帽子が一番ね。色々欲しくなってきちゃったけれど」

「ケイさん! ミザリーでいいです。年上のお姉さんに呼ばれると、もぞもぞしちゃいますっ。え、えっと……詩人さん? 歌のお姉さん?!」

「うーん、なんかそう呼ばれているみたいねぇ……」

「わあ!!」


 その場で飛び跳ねる勢いのミザリーさん。何やら喜ばれている。私のあだ名……どこまで広がっているのかしら。ちょっとだけ視線が遠くなってしまう。悪い意味じゃないし、その名前の通りだし、気にしないことに決めている。うん。シンクをミザリーさんに渡してゆっくりと彼女の作品を見るとしよう。ふわふわー! と歓声があがる。その無邪気な様子に容姿もあいまってミザリーちゃんと呼びたくなるわ。もふられているシンクは大人しくしている。女性や子供に弱い気がするのは気のせい? 私には遠慮の欠片もないのだけれど。


「これ、いいわね。寧ろ、やっぱこれじゃないかしら」


 いくつか帽子が並んでいるスペース。魔術師に向いた補正の付いた帽子も多い。なかなかの腕じゃないのかしら。

 私が手に取ったのは、チロリアンハットと呼ばれる形の帽子だ。私の好きな青色、深い紺色で今着ているショートローブの色に似ている。どこか懐かしいつば広帽子もいいけれども、旅をするのにはつばが広すぎる気がするわ。だから、つばが少ないチロリアンハットのほうがいいかなと思った。帽子の飾りに羽が付いているのがまたいい。この羽はブラッククックの羽を使っているわね。何度も見たのでわかるわ。そう、なんていうのだろう。この帽子……ファンタジーやゲームでも名前が時々出てくる。


「羽根つき帽子を思い出すわ」

「それ、羽根つき帽子っていうんです!」


 おお! 思わず、ミザリーちゃんを見つめてしまった。お互い通じるものがあったらしい。思わず頷きあってしまった。ミザリーちゃんの口元がふにゃりと緩む。


「実は私……ゲームやファンタジーっぽい服が大好きで! かといってリアルでコスプレするまでにはいかなくて……けど、このゲームでは、それができるんですッ いいですよね、いいですよね」


 ミザリーちゃんも趣味のプレイヤーだったようだ。テンションが上がっている彼女。熱く語りだし始めたわ。リアルも服飾関連の学校へ通っているとか、防具という色気のないものをおしゃれにしたいとか……いつかは、お洒落と性能を備えた装備を作り、店をもって広めるのが夢ということも知ってしまった。語りだすと止まらないみたいだ。

 若いお嬢さんという感じの人が熱く語るのは、少し微笑ましいものがある。それに本当にそのコンセプトに合うような作品ばかりなのだ。

 深い紺色の羽根つき帽子は、郊外の森に居るらしい蜘蛛の魔物の戦利品ドロップである糸で作成した布で作られている。アクセントの羽は魔物化した大きなブラッククックの羽を使っている。その結果、MP補正の性能が付いている。他の帽子もお洒落と性能が両立しているものがある。

 私は羽根つき帽子を被れば――ミザリーちゃんがさっと鏡をどこからともなく取りだして見せてくれる。サービスがいいわ。

 深い紺色は私の髪色に合っているかな? むしろこの色が好きだし。名前に色々な意味で惹かれてしまう……羽を留めているボタンも細工が小さくされている。ミザリーちゃん、やっぱり良い職人さんに思える。


「これを頂くわ。ふふ、シンクも流石に頭に乗ってこないでしょう? 後は……これもいいわね」


 色彩豊かな布製品に心が踊ってしまう。作り手のミザリーちゃんも嬉しそうに作品の解説をしてくれるから、なおさらだ。

 選んだのは、腰のベルトに重ねて付けられる飾り帯。飾りも大事だと思う。色は落ち着いた雰囲気の赤銅色だ。それと、喉元を覆う巨大羊ビッグシープの布を使ったネックウォーマーみたいなもの。喉を守るのにもいいし、布を多めに使っているから埃っぽいところでは口元を覆う事が出来そうだ。色は淡い水色だ。汚れやすいかな? と思うけれども、気にしない。汚れは洗えばいいのよ!

 他にも……小さく刺繍がされた小分け用のポーチとか、髪を纏めるリボンとか……買ってしまったわ。

 思いのほか購入してしまったけど後悔はない。こういった気分を上げるものも大事だと思うの。


「沢山、ありがとうございます!! プレイヤーの方……あんまりこういった商品は興味ないみたいで……住人の人ばかり買ってくれてたんです」


 ミザリーちゃんが少し気落ちした表情で話す。その指はシンクの尻尾にリボンをつけようとして、逃げられている。確かに……でも、人気が出てくるのはまだじゃないかしら?


「いい作品ばかりだと思うわ。酒場でこの格好で歌ったら宣伝になるかしら。なんてね。それにプレイヤーに色々余裕が出てこれば、絶対需要があると思うわ」


 励ますように冗談めかして、私が着て歌ったらCMみたいにならないかしら? なんて思ったり。

 上手く着こなせているかわからないけれどもね。ミザリーちゃんの作品のコンセプトは徐々に人気出てくると私は感じている。色々購入をすれば、ミザリーちゃんが。ぜひとフレンド登録を申請してくる。新作が出来たら見て欲しいとのことだった。勿論と喜んでフレンド登録をした。


「ありがとうございます! 今度酒場に遊びにいきますね!」

「ふふ、ありがとう。こちらもいいものを買わせて貰ったわ」


 早速買った羽根つき帽子を被れば、シンクが逃げるように肩に乗ってくる。尻尾には赤いリボンが……ミザリーちゃんやるわね。そして、おまけしときます! と元気な声で渡された紙袋。宿屋に戻ってみると、レースの下着セットだったわ。ミザリーちゃん、これはどう宣伝したらいいのかしら?


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