表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

26.報告

 冒険者ギルドのマスター、ジナンさんに案内されて会議室のような部屋へ移動した。大きな机の周りに椅子が配置されている。ジナンさんに適当な場所へ座るように促されて各自着席をする。

 この部屋にいるのは私とジークさん。そして、ギルドマスターとその秘書のような雰囲気の女性だ。


「改めて、ジオスのギルドマスターをしているジナンだ。まぁ、見てのとおり元はただの冒険者だったが、気づくと職員に収まっていてなぁ……堅苦しいのは苦手だ。言葉も姿勢も気軽にして欲しい。ドワーフのお方、若い職員の融通の悪さについては申し訳なかった」

「いや、ソレニは、オよばん」

「ああ、ドワーフ語で大丈夫だ。と、そっちは詩人だと言っていたが……」

「彼方からの旅人でもある、詩人バードのケイといいます。ドワーフ語で大丈夫です」

「ああ、あんたもか。最近やけに新しい冒険者が多いが、優秀な冒険者になりそうなヤツも多い。冒険者ギルドとしては良いことなんだが。しかし、詩人か……言語に詳しいのはそのせいか? いや、話が逸れてしまったな。さて……」

「申し遅れてすまんの。赤色の石の里、長を務めているジークと申す。この年齢故、今は息子が長の仕事をほとんど引き受けてくれている。今は老いたドワーフと思ってくれればいい。時間を割いてもらって、ありがたい」


 全員が着席するとギルドマスターのジナンさんが口を開く。やはりベテランの冒険者だったのね。

 がっしりとした身体つきに短い灰色の髪。その眼つきは鋭い。頬や額に見える薄い古傷。やや右脚の動きがぎこちないのが、彼が冒険者を引退することになった理由かしもしれない。

 ベテランの冒険者とあって、ドワーフ語も堪能のようだ。やはり言語を知れば情報を多く得ることができる。長年冒険者をやっていく上で、身に着けたものだと思った。ジークさんが自己紹介をして挨拶を交わせば、放置された鉱脈の話を始める。


「いや。赤色の石の里には、昔に随分世話になっている。ラギオスまでの護衛で何度もあの山を登ったものだ。今は海路が多いから、護衛依頼は殆ど無くなってしまったが」

「少し前の話になるのぅ。20年も前か。さて、発端だが」


 なるほど。昔はドワーフ族がラギオスに行くには、山脈を越えジオスを通る街道を行くことが多かった。今は海路も拓かれ、直接里からの荷物を船に乗せることが多くなったという。それでジオスにはドワーフ族が、立ち寄る事が無く珍しくなってしまったのね。

 ジークさんは弟を探して里を出てきた事から話始めた。私に会い足跡を調べた事。その後、放置された鉱脈についてを語る。ジナンさんはその厳つい顔にまじめな表情を浮かべ、静かに聞いている。隣に座る女性職員は紙にジークさんの言葉を書き留めているようだ。


「なるほど、放置された鉱脈か。覚えている。確か新しい鉱脈が見つかったと。調査隊は希少な鉱脈ながら、産出される利益と費用が採算が合わないと言っていた。それが放置された理由だな」

「だが、我が弟が死してなお、そこになにかあると……守っていた。きっと、調査隊に同行した際に何かに気づき、単独で調査に赴き……何らかに遭い命を落としてしまった」

「鉱脈の場所は、リーズ村の付近です。あの付近で出ないブラックウルフの凶暴化したもの。そして、リーズ村ではブラックウルフの名前付きの出現がありました。それは異常事態だと聞きました。気になって過去の依頼を調べてみたのです。こういったことは――」

「魔石だ」

「ハイルは魔石の発生に気づいた、と」


 私の憶測。いや、これが答えではないかと思った。

 そして、ジナンさん、ジークさん、三者同様に意見が一致したように、魔石という言葉を口にした。


 そもそも、魔石とは――神の諍いの果てに生み出された、生き物を魔物化させる物だ。それはいつの間にか、人知れず生まれると言われている。まるで何処からか滲み出るように。それに影響を受けた生き物。多く被害に遭うのは自然にいる獣であり、獣は獣ではなくなり魔物化する。


 この世界では過去に魔石が大量に発生したり、巨大な塊として見つかったりする場合がある。これは冒険者ギルドの過去の依頼を見て、知る事が出来た。時折村の近くに魔石が異常発生し、家畜や小さな獣が魔物化して壊滅してしまったこともあったという。

 リーズ村の周辺に起きていることを考えれば……めったに見ない凶暴化した魔物に遭い、村の襲撃もあった。そして、危険な存在があると、人を近づけぬように思い留まっていたハイルさんの亡霊。放置された鉱脈に、魔石が埋まっていることなんて――


「ありえるな。実際、別の国の話しだが……鉱山に埋まっていた魔石を掘り当ててしまい、その場所を封鎖区域にした。しかし、魔石は獣も人をも誘惑する。魔物化した人間もいる事を知っているか―? 思い出したくもないことだ」


 ジナンさんが、私の推測を肯定するように頷く。そして、信じられないことを口にした。人が魔石を?!


「魔石には、生き物を狂わせる何かがあるのだ。滅多にないがのぅ……人が魔石に影響された場合。魔人とよばれ、人を超えた存在となってしまう。勿論、人の理を外れてしまったものだ。過去の歴史には国を壊滅させた者もあると、大昔の話だがのぅ」

「魔石は危険な物、ということだな。かなりの可能性でその鉱脈は怪しい」

「ドワーフ族は地脈や地質を見るのに長ける。希少な鉱脈ではなく、鉱脈自体に異変を感じておったのだろう」


 ジークさんとジナンさんの会話が頭の上を飛んでいく。そういうことがあるという事実としての言葉。

 初めて知った事に衝撃だ。魔人なんていうものがいるなんて……今は確認されてはいないそうだが。

 この事は、あまり人には知れわたってないとのこと。知るのは、ジナンさんのような熟練の冒険者だったり、学者や一部の行政階級の者だという。情報が制限されているのかしら。


「早急に調査隊を募る。ラギオスに遠征に行ってるベテラン冒険者に連絡を取ろう。もし魔石だった場合は、封鎖し警戒をしなければならない」

「そうだの。暫し、この件が落ち着くまで――この街にいることにしよう」

「ありがたい、ジーク殿。まあ、生産ギルドが煩いかもしれないが」


 ジナンさんの決断は早かった。こういうところが、冒険者ギルドのギルドマスターたる所以かもしれない。まずは調査隊を用意すると、隣にいる女性へと指示を幾つかしている。

 ジークさんも暫くは街に……まだお別れじゃないと思うと嬉しい。けれど、ドワーフの職人は生産ギルドに、ひっぱりだこになると思う。そして、はっとして気づく。


「採掘場の入り口、封鎖がされているんです――シンク? いる? ……」

「どういうことだ」

「実はその地をハイルさんと一緒に守っていたらしい精霊が――」


 シンク? 来ないわ。呼んだ私が空回りで少し気まずい。多分、また外を好き勝手に歩いているのか……首飾りの石には気配がない。思わずため息が零れる。事情を説明すれば、ジナンさんは頷き一つ。


「精霊の仕業なら、ベテランの精霊使いも調査隊に入れておこう。しかし、精霊獣とは――噂どおり、面白い詩人だ」

「噂?」

「彼方からの冒険者の中でも詩人を目指し旅してる奴なんてな。職人や芸人、商人を目指している旅人は多いと聞くが。冒険者達から、あんたの名前を聞いたこともあってな。それでな……制御の効かない精霊獣か。精霊といってしまえば精霊らしいが。不便なら相談してみるといいだろう」


 住人……NPCまでに、名前を知られていました。いい事なのかしら? 私はマイペースに旅をしながら歌いたいだけなのだけれども。普通のプレイヤーと変わらないと思うわ。

 熟練した精霊使い……リーナさんを思い出す。ゲームを始めたばかりの時、冒険者ギルドで色々アドバイスしてくれた、精霊使いの女性。あの人のおかげで、精霊語を知る事もできて、図書館でドワーフ語やエルフ語について、知る事ができたのだ。また会いたいものね。


 調査隊が出発するのは、一週間後になるそうだ。流石に早急といっても、人員の収集や食糧等の用意、万が一、危険が起きた時の冒険者達の護衛。色々準備が必要になると思われる。

 特にあの周辺に、凶暴化の個体の報告がいくつか出ているからだ。

 話し合いが終わり、冒険者ギルドを出る頃には、すっかりと夕暮れになっていた。気づくと首飾りにシンクが戻っている気配がする。本当に自由な子ね。ジークさんは、調査隊の準備が出来るまで、生産ギルドに顔を出すようだ。


「たまにはの。折角、里を数十年ぶりに離れてきた。今の人族の技術を見るのも良いし、人と話すのは活力を得るものだと……ケイと居て思ったぞ。本当、礼をいう」

「そんな……私は、ただ話好きなだけですよ?」


 ジークさんは笑いながら、老いてなお、新しく楽しいことを知るとは、と。そして、流石に二人とも夜はゆっくりしたいと、「道草亭」へと向かった。



「道草亭」はいつもと変わらない佇まい。そして、夕暮れ時の美味しい匂いに、思わずお腹の音が反応してしまう。玄関を潜れば――


「マスター! こんばんは。最近、あまり演奏を出来なくて申し訳ないわ。夕食をいただいてから、少し弾いてもよいかしら?」

「おう、おかえり。ケイ、気にすんな。リーズ村の事や、ドワーフの御仁の事を聞いていたからな。活躍っちゃ活躍なのか? しっかり食って休むのも大事だぞ」


 マスターが変わらぬ笑顔で挨拶をしてくれる。おかえり、という言葉が少し嬉しい。ジークさんが滞在を延ばすので宿泊の延期を伝えていた。そして、口元を緩く綻ばせる。


「では、飲むとするかのう」

「勿論!!」


 ジークさん、ハイルさんの足跡を知り得てから、その表情が少し柔らかく感じるようになったのは気のせいかな? まだ全ては解明されてはいないのだけれども。エールを頼めばいつもの席に座る。ジークさんはその隣だ。エールと一緒に軽くつまめるものも頼もう。


「おまちどうさん。今日のお勧めも作っておくかい? 珍しい物が手に入ったんだ。驚くぞ思うぞ?」

「じゃあ、それを2つお願いします。あと、今日のサラダと豆のスープもお願いするわ」


 カウンター越しに渡されたエールを受け取る。しかし、珍しい物とはなんだろう? 楽しみになる。グラスを受け取ったジークさんが、軽くグラスを上げて。


「まずは――ありがとうな」

「こちらこそ」


 乾杯とまでは、まだ出来ない。その気持ちはわかるわ。軽くグラスを掲げて――美味しい! きんきんに冷えてはいないけど、まろやかな炭酸なのよね。仄かな柑橘系の香りが鼻に抜けて、結構好きな味だ。

 やっぱりイイ飲みっぷりだと、ジークさんは笑う。そのジークさんも、髭に泡がついているのだけれども。

 運ばれてきたおつまみ。チーズの盛り合わせに指を延ばす。少し癖のあるチーズは、郊外で放牧されている牛みたいな動物から作られているらしい。干した果実と一緒に食べると美味しいのだ。この干した果実、杏や葡萄みたいなものね。

 そう、あの獣も気に入って……まって。何時の間にかシンクが皿に頭をつっこんでいたわ。首根っこを掴まえる。


「マスターごめんなさい。ちょっと、旅の道連れというか……一匹に懐かれて? しまって。そう悪さはしないと思うから」

「召喚獣かなんかかい。冒険者にはそういうの連れているやつもいるから、気にすることはないぞ」

「ありがとう。……この干した果物を、別にいただけるかしら?」


 大人しくするには、おやつを与えるしかない。子供みたいよ、本当に。今日のサラダはブラッククックの燻製を細かく千切ったものがトッピングされたグリーンサラダ。しゃきしゃきで美味しい。ドレッシングはシンプルに植物油っぽいオイルに塩と酸味のある果汁ね。豆のスープは、私のお気に入り。色々な豆が入っていて、ほっくりとした食感が好きなの。そして、今日のお勧めというのが出てきて――思わず、歓声を上げてしまったわ。


「マスター、お魚じゃない!!」

「おう、行商人から仕入れることが出来たんだ。ジオスの周りでは魚は厳しいからな。シナ湖へ行けば、淡水魚は取れるが、日持ちがな」


 今日のお勧めの料理。それは、魚の燻製を使った料理だった。ツインズでは初めて見るお魚!! 思わず、鑑定をしてしまった。湖の魚らしいけれど……見た目は鮭の切り身みたい。

 ジークさんも久しぶりだと、喜びを表している。出されたお皿は、燻製した魚を薄く切り、チーズをかけて焼いたもの。軽くオイル系のドレッシングに付けたものが並んでいる。薄い紅色の切り身は、どう見ても鮭っぽい……両方とも香草がたっぷり使ってあって、とても良い香り。

 それにシナ湖って? この近隣に魚が取れる場所がある――?! 

 その情報も気になるけれども……まずは、一口。燻製独特の香りに、油が落ちても魚のうま味がぎゅっと詰まった味。チーズの濃厚さも合っているし、オイルに漬けたものも、しっとりとした風味で美味しい。エールを2杯目をすぐさま追加注文した。

 ジークさんは3杯目ね。いつのまに……ちなみにシンクは果実にしか興味を示さない。大地の精霊のせいかしら?


「シナ湖か……ラギオスとジオスの間だから、輸送に不便だの。あそこの淡水魚も美味いと聞いた。今は、小さな集落があったと聞くが」

「さすが、よく御存じで。村という程の規模ではないが、湖の恵みで暮らしているやつらも多少なり居るみたいだな。たまに、こうやって日持ちのする加工をした魚を行商人が持ってくるんだ。少々イイ値段だったが、珍しいからな」


 マスター、これはナイスな判断よ。その行商人さんに会ってみたかったわ。寧ろ、そのシナ湖が気になってしまう。これは行かないといけない案件になるかもしれない。

 釣りも出来たり、やはり淡水魚の味覚を味わったりすることが出来るのかしら? この世界、輸送手段は人力がメインだから、生物なまものはどうしても加工品ばかりとなる。シナ湖……どんな所なのかしら。それも気になってしまうわ。調査隊が出発するまで、行ってみるのもいいかもしれない。

 ああ、精霊獣についても調べたいし……図書館にも籠りたい。やっぱり、このゲーム。やることが沢山になってしまうわ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ