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25.帰還

 ログイン20日目。森の中にツエルトを張ってセーブエリアとなった場所。私はそこでログアウトをしていた。現実に似た世界であっても、やはりゲームの世界だ。

 現実世界の身体に影響が出ないように、現実時間で6時間プレイするとシステムから警告メッセージが入る。前回、ログアウトしたのは警告メッセージが入りそうだったからだ。現実にまさしく帰るって感じね。


 宿屋等でログアウト、ログインすると現実とゲームの中の時間の流れはシステムで都合に合わされる。

 今回みたいな、この世界の住人であるNPCがパーティのように同行する場合はどうなるか、ちょっと気になっていた。ジークさんには、ジオスに向かう前に少し休憩をすると告げて、ツエルトの中でログアウトをした。結果、ログイン後はジークさんの中では少し休んでいた認識になっていた。


 他のゲームは、クエストを受けるとプレイヤー個人ごとにNPCが平行存在する事があるけれど、現実的なツインズの中はそれがないようだ。ただプレイヤーのシステム的な行動には沿って動くのがわかっている。自然さを追求している為か、本当に現実感に溢れていると思う。


 ツエルトを撤収し軽く携帯食を取って、ジオスの街へ向かう。携帯食は自分で料理したものだ。最近はブラッククックの肉を使った料理にはまっている。

 ジオスへの帰還は、来た時より一匹? が増えている。私に憑いて行く……いや付いて来た精霊獣だが、どうやら本当に同行者となったようだ。今は気まぐれかもしれないけどね。

 放置された鉱脈を西に行けば街道へと出ることが出来た。街道を歩いて行く間に、首飾りから何時の間にか、実体化している。首飾りの石が付いているところは、まさしくもぬけの殻よ。


<オナカ ヘッタ> <ドコ イク> <ウタ ウタ>


 と、実体化した姿で肩の上や頭の上に飛び乗ってくる。まるで絡まれている。いや子供の世話をしているような気分になってしまうわ。

 お腹減ったには、干した果実を差し出してみた。私のおやつ……遠慮なく食べられた。さらに催促された! 身体の構造がどうなっているのかしら。後であげるからと躾をしておこう。

 何処へ行くと聞かれても、精霊獣の思念は一方的に精霊語で私の脳裏に垂れ流される。そう精霊語よ……まだ精霊語技能が低くて、お互いの会話は片言状態だ。

 ジークさんに何を言っているか、時々ドワーフ語に翻訳したり。おかげで道中は言語技能が、とってもあがってしまった。

 歌を歌えと言われれば、好きな歌をハミングしておく。なんだか満足そうだったからよしとしよう。


 精霊が宿っていたハイルさんの守り石。ドワーフ族の守り石について、ジークさんが色々教えてくれた。歩行の小休憩中に、ようやく鑑定することが出来た……とても凄い装飾品だったわ。鑑定している私に、


「返却は無用」


 口を開く前にジークさんに先回りされた。ちょっと頑固なお爺ちゃんって気がしてきたわ。だって、鑑定した結果を見ると、本当に良かったかって思ってしまう。


[ハイルの守り石]魔法銀と赤みを帯びた柘榴石を使った首飾り。ドワーフ族が生まれた時に親から祝福として与えられるもの。ドワーフの職人の技術を尽くして作成されている。<状態異常抵抗 中>/品質 A/製作者 ガイル ]


 全体的に腐敗しないと言われる魔法銀を用いている。 首から下げる細鎖チェーンの長さはチョーカーより少し長いぐらい。細鎖チェーンの先には石を付ける土台。それは精霊が住む石を囲むように枝葉のモチーフが配置されている。まるで本物みたいな精巧さだ。

 ドワーフが生涯持ち歩き、両親から祝福され与えられる守り石。本当に私が身に着けていいものだろうか? 迷いにジークさんが語ってくれる。


「本来ならば生涯を終えた時、一緒に墓に埋葬するが……ハイルの場合はできなかった。それに精霊獣となってしまった守り石ならば、なおさら。装飾品として使われるならばハイルも本望だと思うぞ。ドワーフにとって作り上げた物というのは、そういうものだ。ガイルは儂らの父だ。もう何十年も先に逝っておる」


 ありがたく……いつも肌身離さずいることにしよう。それにしても困ったのが、この精霊獣の呼び方ね。

 ねえとか、呼びかけるの少し不便で味気ないわ。今後一緒に行くというなら、なおさらよ。

 片言の精霊語で、一度聞いてみたところ、<チカラ ナシ> と答えられた。名前には力があるという。 特に精霊など力を持つ存在となれば、名を呼ぶだけでも大変な事なのかもしれない。

 今の所なのか、それとも元々……私には資格なしと言ったところか、精霊の名前を知る事が出来ない。

 けれど、ついてくるのよね……一度精霊獣について、図書館や冒険者ギルドで調べてみないと。

 とりあえず、 呼びかける時には不便よ。だから……


「ねえ、貴方の名前を知るのが難しいなら、仮に呼ばせてもらうわ。寧ろそう呼ぶからね? 人はね名前を付けないと不便と思ってしまうのよ」


 ちゃっかり肩の上で顎を揺らし、うつらうつらしている精霊獣。寝るならば首飾りに戻ればいいのに。妙に肩の上を気に入られている気がするわ。

 その額の石。深い赤色、鮮やかな赤色だ。奥まで見透かせば大地の色にも見えてくる。母国の豊かな色彩の名前を思い出してみる。鮮やかな赤の色。赤色だけでも、さまざまな色がある……その中でも深い赤色、鮮やかな赤。深紅、しんく……シンクはどうかしら。安直? 文のセンスが壊滅的なのよ。詩人としては……修行しよう。


「貴方は、シンクよ。そう呼ぶことに決めたから、ちゃんとたまには聞いてよ?」


 多分、名前を付けても付けなくても自由すぎる精霊獣。言う事を聞く可能性は……あるかな。私の言葉を聞いて我関せずといった感じだけれども、尻尾が大きく揺れた。

 道中のこんなやりとりを、ジークさんはとても楽し気に見ていた。きっと私より遙かに年上の方。とっても子供っぽく見えているかもしれない。リアルではイイ歳なのに、少しばかり恥ずかしくなる。どうも、ゲーム中では童心に戻ってしまうみたい。




 昼下がりを少し過ぎてジオスへと辿りついた。やはり<歩行補正>の効果は地味に役立つ。自然と早く歩けるって旅においては、本当に便利だとわかるわ。


「なんだか、随分前に来たように思えてしまうのぅ」

「はい。たった一日の事でしたが……あ! 待って! シンク!!」

「あれは、本当に大地の精霊だろうか……奔放すぎて。どちらかというと風の精霊に思えてくるのだがのぅ。まあ、ほおっておいてもそのうち戻ってくるだろう。まずは冒険者ギルドだな」


 南門を通り抜け――見慣れたジオスの景色に佇んだ。肩の上に座っていたシンクが跳ねるように、地面へ降りると――あっという間に街の中へ、目で追う事の出来ない速さで消えていったわ。なんてこと!! まあ、確かに憑代の首飾りは私が持っているから、戻ってきそうだけど。何もないことを祈りたいわ。


 冒険者ギルドへとジークさんと向かう。シンク? もぅ知らないわ。冒険者ギルドは相変わらずプレイヤー達で賑わっている。依頼を出すのか、それとも報告をどこにすればいいのか……どのカウンターへ行くか悩んでいると、ジークさんはずんずんと迷いなく歩いていった。

 歩いて行ったのは情報提供のカウンター。受付の男性は、以前ブラックウルフの時に話をした男性だ。顔を覚えていたらしく、


「こんにちは。詩人のケイさん。……また。まさか凶暴化の魔物が見つかったということでしょうか? 最近、あちらこちらで話が出ているのですが」

「こんにちは。いえ、今回は……実はこの依頼の資料を見て貰えませんか? ギルドで受けた依頼ではないのですが……色々理由があり……」


 私はリーズ村から出されているアンデッド討伐の依頼書のコピーを見せる。ああ、これはと。長年出されている依頼のせいか、覚えていたようだ。話を促さる。私は亡霊が、放置されていた場所を人が来ないように守っていたこと。さらに守っていた理由は、そこに危険を為すものがある可能性があるためと伝えた。


「調査を再度して欲しいという依頼でしょうか……個人依頼にしては、大きなものになり依頼料や時間もかかりますよ?」

「いえ、そうではなく――万が一、その危ないと言われた物がリーズ村のような特異進化の魔物であったらという危惧です。冒険者ギルドで何かできないかと」

「ですが――確かに、冒険者ギルドは人々の依頼を受けて動くものです。そういった調査をする面もありますが、個人の確証の無いものに対して動く事は……」


 このやりとり。ええ、良く分かったわ。お役所仕事ってことにね。……言い分はわかるわ。未確定の情報に、調査や討伐隊を冒険者ギルドが直接募集するのことは難しいことに。


「ケイさんは、詩人ですし。まだ冒険者としてのレベルが低いので、申し訳ありませんが真偽のほども――」

「ええ、よーくわかったわ。貴方じゃ話にならないわ。万が一、特異進化の魔物だったりしても、同じことを言えるのかしら。リーズ村の件をご存じでしょうに」

「だからといって――」


 ハイルさんが、亡霊となってまで守っていたのに――!! 少々血が上がってしまったかもしれないわ。その時。みょん。


「なんだ! この生き物!」


 受付の男性の頭の上に……シンクが乗っかっていた。思わず脱力してしまったわ。


「魔物?! いや、召喚獣か?」


 受付の男性は受難かもしれない。私の感情の乱れに反応したか、いつの間にか姿を現したシンクは男を咎めるように頭の上で跳ねている。


<ハイル! ウソ イワナイ!>


 シンクは、ハイルの意思が無視されていた事に怒ったのかもしれない。甲高い音がギルド内に響く。精霊語が強烈な思念となって音になったようだ。ギルド内が騒然として、


「なんだ、あの獣」「もふもふ……」「召喚獣? みたことないわ」「歌のお姉さん、またなにかやらかしたのか…」「もふもふ!」


 冒険者達がざわめく。聞こえる言葉は……ああ、注目を浴びてしまっている。シンクよ……


「シンク戻りなさい!! おやつ抜きよ!」


 獣の尻尾がぴん! と跳ねる。けれど、ハイル、ハイルと鳴くようにシンクは、冒険者ギルドのカウンターを跳ねる。ええ、もう混乱しているわ。ジークさんが、その事態に深く溜息を吐き出す。ごめんなさい……共通語で手伝えると思っていたのに。


「共通語が苦手の為。ケイに頼んでおったが……仕方がないのぅ」


 ジークさんはシンクを悪戯小僧を見る目でみやり。仕方がないと零し。


「ギルドマスターを呼ンデ欲しい。ドワーフ族の赤色の石の里、その長ガ来ていると」


 ジークさんは目深にかぶっていたフードを取る。ドワーフ族と一目で見てわかる風貌。そして、胸元から一枚のカードを取り出す。それは身分証でもある。……職人として持っていたのかもしれない。

 慣れていない共通語で、ジークさんは施設の責任者を呼ぶように告げて。え、まって――長だったの?!

 思わずジークさんを振り返れば、軽くウィンクされた。誤魔化された?! お爺ちゃんのウィンクは、お茶目でいいんだけれども。里の長といえば一つの部落の長だ。


「ドワーフ族?! あ、ドワーフの言語は得意でなく申し訳ありません。と、共通語……! ギルドマスターを呼んできます。少々お待ちを。……大変失礼しました」


 ジークさんの姿と身分証を見て、男性はぎょっとしたように目を見張る。どんな情報が乗っているかわからないけど、転がりそうな勢いで席を立った。そして、冒険者ギルドのカウンター奥へつながる扉へ走っていった。

 シンクが頭に乗ったままなんだけれども。いいのかしら……あら、帰ってきた。だから、私の頭の上に乗らないで頂戴。


 ドワーフ族だ、と冒険者達の信じられないような視線を集める。思わず……


「私達の良き隣人よ。図書館に言語が広く扱われていることを知っているでしょう……もし、交流を望むならば学んでみるのもいいかもしれないわ。新しい出会いがあるかもしれないしね? そして、騒がせしてしまってごめんなさいね。一応、これは……同行者よ」


 優雅に冒険者達に一礼をしてみよう。少し大げさに芝居がかって見えるように。頭に乗っていたシンクが、ずりっとぶら下がってきたわ。……首根っこを摑まえて、冒険者達に向かって頭を下げさせてみせる。オヤツ、と精霊語で囁きながら。呆気にとられた視線が……笑顔で答えてみせた。シンクを逃がさないように捕まえたままね。


「歌のお姉さんがいうなら……」「もふもふ……」「いや、その獣は召喚獣かい?」「先程、聞こえたんだが、危ないものって……」「その幽霊見た事あったぞ?!」「もふもふ……」


 ジークさんへの興味は逸らせたかもしれない。けれど、好奇心旺盛だった何人かの冒険者には、詰め寄られてしまったわ。ジークさんが少し警戒を孕んだけれど、首を振って。なんと答えようと考えていると――


「待たせてしまって申し訳ない。古の時から大地に住む隣人よ……お会いできた事に感謝します。この冒険者ギルドのマスター、ジナンという。詳しい話を最初から聞かせてもらえないだろうか。ドワーフの方。そして、詩人よ」


 冒険者ギルドの奥から出てきた男性。壮年のがっしりとした体つきの男性。いかにもベテランの冒険者、だったいう男性は、そう名前を告げて――冒険者ギルドとして対応を告げに来た。





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