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19.祭りの後

 ブラックウルフの襲撃があった夜から日が変われば祭りも終わりだ。といっても、夜遅くまで飲んで歌って騒いで――村人も観光客の住人もプレイヤーも皆肩を組んで楽しんでいたっけ。

 そして、何故か村長が気に入ってしまった、運動会で定番のダンスの曲をリクエストされ、気づくと皆で踊っていたわ。新しい名物にするとか、しないとか。……次の祭りで踊っていたら、どうしよう。

 宴会の時、冒険者プレイヤー達は村人からは御礼としてお土産を渡されていた。

 ブラッククック肉の燻製とお祭りで飾られていた羽とリボンの飾り。良い思い出になりそうね。貰った冒険者達も心なしか嬉しそうだった。



 翌朝、祭りの終わりは寂しいけれども……楽しかった充足感でいっぱいだ。商人達はジオスへ向かう馬車に乗り込み、冒険者達もそれぞれの活動に向かう様子をログインしてから見送った。

 ログインした場所は、集会所の片隅ね。ドガやジンガ達はまだログインしていない様子。まぁ、昨日はリアル時間でも随分遅くまでログインしていたし。最後は酔いつぶれ状態だったのを知っている。

 私? とりあえず飲み比べ大会状態になっていたのを、最後まで起きていたわ? 潰れたプレイヤーを野営用のテント等に放り込むのを手伝っていたわね。うん。

 爽やかな朝だわ。今日のログイン後の予定は決まっていた。



 宴会の途中で食べたブラッククックを使った料理。ブラッククックの肉は、なんていうのかしら? 地鶏みたいな感じかしら。ちょっと癖があるけど噛めばじゅわっと味が出るような食感なのよ。

 宴会中に仲良くなった村の主婦達に、ブラッククックを味わうための料理を色々聞いておいたのだ。その料理によく使われる香草は村の近くの森にはえるらしい。添えると美味しい茸とか食材も色々聞いてある。こういうのを現地の人に聞くのはリアルでも一緒ね。なので、今日の予定はその素材を採取しながらのんびりとジオスへ向かう予定。


 ドガとジンガ達とはログイン時間がずれた模様。なので、一人のんびりと徒歩での帰路だ。<気配察知>を発動しながら慎重に村の周辺の散策。採取を行っていこう。ゲーム時間で2時間程採取に励めば、そのまま街道を辿り、ジオスの街へと帰還した。




 昼下がりに――南門を潜ればリアル時間では大した時間ではないのに、ゲームの中では少し懐かしく思える。噴水広場は、変わらず冒険者達の待ち合わせ場所として賑やかだ。

 詩人ギルドへ、祭りの演奏の依頼終了を連絡するために通りかかると、視線を感じてしまう。

 何か聞きたそうなプレイヤーもいるけれど……リーズ村の称号や襲撃の件は、ライアート達が公式HPの掲示板に情報を書いてくれていた。

 ログイン前に目を通したけれども、運営が用意していたイベントなのか、それとも偶然的に起こったイベントなのか、色々議論されていたわ。


 このゲームはイベントという概念はないんじゃないかと考察されだしている。

 何故ならプレイヤーの行動によって結果が変わるらしいのだ。よく他のゲームでクエストというのがある。住民に依頼されて~というものね。クリアしたら必ずこれが貰えます。みたいに決まりきったやつだ。けどこのゲームは明確なそういったものがない。例外は冒険者ギルド等の依頼だろう。

 例えば、町の人に何気なく頼まれ事をされ解決する。そこで気づけば称号を得たり、希少なアイテムや技能を会得していた場合もある。

 そして、一度解決すると二回目がなかったり誰でも受けれるものじゃなかったりと……複雑だ。色々こんな事が起きたと報告する専用の掲示板が出来たみたい。

 今回のリーズ村の件。もしプレイヤーが多く集まってなかったら村が壊滅状態になったかもしれない。逆に救援された事によって何かが変わるのかもしれない。まるで本当に現実の世界のようよ。


「歌のお姉さん……じゃなくて、ケイさん!」


 不意に後方から声をかけられ振り向くと、1人の女性プレイヤーが歩み寄ってくる。黒いショートボブの溌剌とした印象の女性プレイヤーだ。ショートスピアとハードレザーを身に纏った姿は、見覚えがあった。ブラックウルフから子供を守っていた女性冒険者の一人ね。


「こんにちは。あの時はありがとう。街でお会いできると思わなかったわ」

「ええ、こちらこそ……あの子供は? 実はあの後、大きな狼の討伐に参加してからは称号を貰って。そのまま、ログアウトの時間になってしまって。気になっていたんです」

「ちゃんと集会所に居た親御さんに会うことができたわ。とっても怒られていたけれどね」

「そうでしたか。安心しました。一緒にいた友人も気にしていて。あの良ければ……私、ミリィっていう名前なんですが、あの、友達になってください!」


 ぺこりと頭を下げる女性。フレンド登録の申請がウインドウに現れた。ミリィさんは少し恥ずかしそうに言ってくれたわ。リーズ村の祭りに参加してNPCと自然に交流できたことが、とても楽しくて……このゲームの新しい一面を知る事ができたと。また機会あれば知らせて欲しいし、それに一緒に遊びませんか? と。そういうことなら……喜んで了承したわ。


「ありがとうございます! 元々歌う姿を見てお話してみたかったんです。とてもゲームを楽しんでいる感じで。今度一緒に居た友人もご紹介しますね」


 がしっと握手を求められ嬉しそうに振られた。そういわれると正直に嬉しいと思う。


「正直、戦いとかはあまり得意じゃないけれども、簡単な依頼ならご一緒できると思うわ。基本、野外でも道草ばっかりしてるけれどもね」

「いえいえ! ブラックウルフ2匹を相手に一人で普通に立ち回れるなんて。普通に腕が立ちますから!」


 戦士の立場がないです! と力説されたわ。……ソロばかりなので、実はよくわかってないのよね。死に戻りを経験してから、単独で旅に出ても大丈夫なように、冒険者ギルドの依頼を受けて技能を上げたけれども。基本、不意打ち上等作戦だ。ミリィさんは、また時間あれば! と元気よく挨拶を交わして別れた。

 さあ、詩人ギルドに行かないとね。一緒にこの世界ゲームで遊べる人がいるっていうのは、いいものね。




 すっかり慣れた道程で詩人ギルドへと到着。挨拶と共に扉を潜れば、丁度エルザさんがカウンターの中に居た。


「こんにちは。リーズ村の依頼が終わったのでご報告に来ました。村長さんから、書類を預かってます」

「こんにちは! ケイさん。あら、ゆっくりで良かったのに。それに……リーズ村が魔物に襲われたって聞いたけれども、本当なの? 冒険者ギルドから連絡があったのだけれど」

「ええ。けれど、もう一つで依頼されていた宣伝のおかげか、冒険者達が村祭りに沢山参加してくれていました。結果、村に損害は殆どありませんでした。異常事態だと報告はされているみたいです」

「そう……そうだったの。実は依頼をした商人さんから、依頼料と別にケイさんに、お金を預かっていたの。渡して貰えればということだったけど。結果として村が助かったお礼だったのね」


 村からの依頼料と別に一緒に渡すと言われて、驚いてしまう。元々頼まれた仕事をしただけなのに、と。今度「道草亭」でお会いしたらお礼を言おう。エルザさんには、村長からの書類を渡す。目を通してもらう間に、新しい楽譜を借りよう。最近、エルフ語やドワーフ語の技能が上がって、かなり自由に読めるようになってきた。ギルドに置いてある本で、タイトルがわからなかった本の名前がわかる。つまり、そういうことだったのよね。それらを重点的に借りているわ。


「ケイさん……期待通りというのかしら。期待以上の働きをしてくれたみたいね」


 エルザさんが書類を読み終えて、満足そうな声をかけてきた。そうかな? と首を傾げれば、


「ええ、なんだか。貴方の故郷の舞踊曲で、遠い地の旅人達と村人が一緒に手を繋いで踊った事に、音楽に隔たりが無いと感銘を受けたと。他にも魔物に襲われた後も、曲を奏でて村人を落ち着けてくれたと」


 エルザさんは手紙に書かれていたことを教えてくれた。そして、微笑めば身分証を出すように言われる。ステータスカードをアイテム化して渡そう。受け取ってカードと書類に何かを書き込んでいる。今回の依頼で詩人ギルドでのレベルが、あがるのかな? 


「はい。ケイさんの演奏と歌の腕も、最初の頃より格段に上手になったわ。それに今回の事も踏まえて、初心者ノービスというのは、ふさわしくないと思ったの。立派な詩人バードね」


 ステータスカードを返却されて、声をあげてしまいそうになったわ! 初心者じゃなくなってる?!

 職業欄に記載されている職業名。初心者ノービスが取れている。まじまじとステータスカードを見つめていたせいか。エルザさんが、くすくすと笑うのが聞こえる。


「けれど、ここからが大変よ。中級エキスパートの詩人を目指すとなると、もっと技術も磨かなければ行けないし、それに詩人として何を為すかね……そうね、詩人ギルドのレベルについて、ケイさんには、もう少し教えておきましょう」


 脱初心者ということなのかしら? エルザさんは、ギルドの加入時には説明をしなかった事を教えてくれる。

 他のギルドでも同じだけれど、ギルドはその職業の社会的身分を保証する一面もある。詩人ギルドでは、初心者から始まり、経験や実績でギルド内のレベルがあがる。

 初心者から、しっかりと詩人と名乗れる今の私の位。そして、次は中級エキスパート詩人と呼ばれる。より熟練した技能と、さらに詩人としての仕事をして来た者がなることが出来る。

 社会的地位も高くなり、個人的に貴族に召し抱えられたりする詩人は、このレベルだという。また、吟遊詩人として旅する者には、詩人ギルドが発行する手形を与えられると……手形?!


「エルザさん、それって……とても凄い事では?」

「ええ、そもそもケイさんが目指している吟遊詩人は、歌も含め情報伝達をする仕事も多いの。だから、ギルドがその身を保証して、多くの都市や街への通行証を発行しているわ。だから……どれだけ、なるのが難しいかわかるでしょう?」

「ええ……」


 旅をする者にとっては、この通行証というのは重要である。実は掲示板で話題にもなっていた。プレイヤーが、どんどん進んで隣の国の国境を越えようとしたら関所を通れなかったと。

 大きな都市や国に入るには、許可証がいることが多い。商人であれば商工ギルドが発行した商売を営む証明書。

 冒険者ギルドでは、腕の立つ冒険者として依頼用に許可証を出すことがある等がわかっている。

 正規の商人で怪しい商品を扱ってません、冒険者なら、ならず者じゃありませんと言う、証明だろう。

 治安目的が一番大きいだろう。言ってしまえば、パスポートみたいなものね。そこで、詩人ギルドの機能の一端を見た気もしたわ。


「なかなか、難しいことだけれども……ケイさんなら、その上の上級マスター詩人も到達してしまうかもしれないわ。歴史に名前を残すようなね……ふふ、お世辞じゃないわよ?」


 中級エキスパートの次は、上級マスターレベル……上級マスターに到達する詩人は、それこそ一国に召し抱えられたり、世界的な話になってくるという。何人存在するのかしら……しかし、詩人ギルドの機能に驚いてしまったわ。依頼の内容も変わってくるのは、納得ね。


「各地を巡ることが故郷から来た理由ですから……目指すつもりではいます」

「初心者ではなくなったから、詩人ギルドからの依頼も増えるわ。許可証も一時的な物を発行する時もあるしね」

「なるほど……まだ、ジオスにはお世話になるつもりなので、ぜひ受けられるものがあれば……」


 詩人としての仕事は、やってみて結構楽しいのだ。冒険者の狩りとかに比べると地味かもしれないけれど。

 街の人のお祝い事を一緒に祝ったり。公園で老人に頼まれて、懐かしい曲を弾いて一緒に安らいだり、とね。子供達と一緒に歌遊びも楽しい。どんな仕事があるか、気になるものだ。

 エルザさんと過去の依頼を聞いたり、話しをしていたら――鈍い音と共にギルドの扉が開く。

 あら、珍しいわ……エリザさんの呟き。この街に詩人は今あまり滞在してないらしく、同業者と会うことはなかった。

 思わず、視線をやれば――息を飲んだ。





 入って来たのは背の低い男性。頭の高さは、私の胸位置ぐらいだ。がっしりとした身体をれたローブで包んでいる。背中には使い込まれた見たことのない素材のメイスを背負っている。

 フードから覗くその顔は翁だ。皺に覆われ白い眉毛が目元を隠す程。フードを被っているから、髪はわからないがフードの隙間からは、溢れるような白髭だ。無骨にて重厚、そんな雰囲気の老人の耳は人間と違い少し尖っている。思わず、息をのんだ。

 この男性は……昔よく読んだファンタジー小説に出てきた……


「ドワーフのお方……こんにちは。私はジオスのバードギルドのマスターのエルザです。どのような御用でしょうか?」


 エルザさんが、少し驚いたように声をかける。ドワーフの老人は、ジロリと私とエルザさんを見れば。


「依頼ヲしたい」


 そう、まるで岩を軋ませるような低く思い声で、ぽつりと言った。



 ―――ステータスカード――――――――――

<名>ケイ   

<種族>人族:Lv5

<職業>詩人 駆け出し冒険者

<未実装>

<状態>健康  <空腹度>50

<習得技能>

楽器演奏LV15 歌LV12 精霊魔法LV10 杖術LV11 投擲Lv5

料理LV6 気配察知LV10 採取LV5 鑑定Lv15 野営Lv3

ドワーフ語LV7 エルフ語LV5 精霊語LV5 魔道語Lv5


<習得スキル>

ヒーラー協会の加護(種族スキル)

<称号>初めての探索者<歩行補助> 初めての観察者<鑑定+1>

   リーズ村の救援者

<所属>


[装備品リスト]綿の下着/巨大羊のシャツ&ズボン/巨大羊のショートローブ

黒狼の胸当て/黒狼の手袋/黒狼の長靴/練習用杖/リュート/投げナイフ×5

[消耗品リスト]携帯食×5/初心者用ポーション×5/使い捨てランタン×5

[所持金:25000J]


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