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16.村祭りに行こう

 残念な結果となってしまった単独での初依頼の後は、仕事が少々忙しくてまとまった時間でログインができなかった。フリーランスで仕事をしているので、稼げる時に稼がないとね。


 まとまった時間があれば郊外を歩いてまわりたいのだけれど……仕方がないので、その間は図書館で言語技能の習得に励み、冒険者ギルドで簡単な依頼を受けたり、酒場で曲を奏でて詩人仕事に励んでいた。

 正直、図書館だけでも篭れる自信がある。ゲームの中で作られた情報でも刺激的で。まあ仕事がら言語関係は苦にならないのよね。おかげでこの街の図書館にある本で、使われている言語は大体習得する事ができたわ! 色々な種族に会った時の為に挨拶や礼儀的なのも読んでおいた。いつか会えるといいわ。



 そんなある日。初依頼からリアルで3日目ぐらいかな? 噴水広場で街の子供達と歌遊びをしていた時だ。酒場や詩人ギルドの依頼以外で歌いたい気分の時は、噴水広場で歌っている事が多い。最近は街の子供達に歌をせがまれ、リアルである子供の遊び歌を教えてあげてから人気者なのよ。ふふふ。もうすぐ夕暮れ時になるといった時、それはアナウンスされた。


 『プレイヤーパーティ<3A>が「星見の遺跡」を攻略しました! 以降「星見の遺跡」にセーフティエリアが追加されます』


 運営アナウンスが流れた。これは――その遺跡の名前に聞き覚えがあった。


 『ケイお姉さん―! やったよぅ! また、あとで~!』


 数秒後、ヘレナからフレンドチャットが飛び込んできた。すっかりライアートのパーティ達と仲良くなって、メンバー達とフレンド登録をしていた。聞くまでもなく攻略したか確認するまでもないわね。

 パーティ名も教えて貰っていたし。ちなみに高校時代の同級生仲間で3Aはクラスの事。大学生になってリアルでは離れてしまったのでゲーム中で会ってるらしいということ。若いっていいわ。


 広場に居たプレイヤー達がざわめいている。セーフティエリアの解放は何かしら……こういった運営アナウンスは初めてね。攻略中に安全にログアウト等できるエリアが、その場所を何らかの形で攻略することで設置されるのだろうか。公式HPの掲示板が賑やかになりそうね。

 フレンドメッセージで「おめでとう! 後でお祝いしよう」と送っておこう。

 どのような遺跡探索になったのか、色々話を聞いてみたいわ。冒険者の冒険譚を聞くのは、詩人としても、とても楽しみなものよ。





 それからは「星見の遺跡」攻略という、このゲームが始まって以来初めて「攻略」発表がされ、公式HPの掲示板は随分賑やかだった。そして、ゲーム内でも冒険者達の雰囲気が変わってきたように思える。

 フレンド登録したプレイヤーが攻略した事もあって、久々に掲示板を覗いてみた。その結果、現在街の周辺に、大小問わず、いくつかの遺跡やダンジョンめいた場所が発見されている事がわかった。


「攻略」というのは従来のゲームみたいに、そこに住んでいる魔物を倒すだけでは攻略の条件にならないらしい。

 ライオート達は、冒険者ギルドで長年未達成依頼であった遺跡の謎を解き、出現した特殊な魔物を倒した後、攻略のアナウンスが流れたという。

 その後は、生息する魔物を倒すことは出来ても、特別な魔物は出ることがない。一度謎を解いてしまうと特殊イベントは起こらないとのこと。早い者勝ちというか、現実的だというのか。最近プレイヤーの中では、力だけのごり押しじゃなくて、色々な探索等を行うやり方も取り入れ始めたらしい。

 今まで余り見向きがされなかった、感知系や探索系の技能が人気が出てきたそうよ。


 だからかな? 時々、噴水で歌っていると聞かれたりする。この地の神話だったり、英雄だったり、昔からの言い伝えをうたで知ってないか? 聞きたい歌があると聞かれたこともあるから、何か調べていたかもしれないわ。

 また、言語を翻訳するのを頼まれることも増えてきている。冒険者ギルドで、とある冒険者パーティが本の一文が読めないということが聞こえてきた。私でわかるかしら? と見せてもらったらドワーフ語だったのよ。問題なく翻訳をして教えてあげたことがあった。それからね、噴水で歌っている時も、見知らぬ冒険者から頼まれることも増えてしまった。

 それは巻物だったり草臥れた本だったり、ボロボロの紙に書かれていたり様々。とても面白く読ませてもらったわ。技能上げにもなったしね。

 みんな。この世界の事を知ろうという雰囲気が出てきて、私はいいことだと思っている。

 けれど、時々「歌のお姉さん」「噴水の詩人さん」って声かけられるのよ……なんでかしら。





 ログイン12日目。今日は、詩人ギルドで受けた依頼をこなしに噴水広場に来ている。詩人ギルドには、毎日楽譜を借りに顔を出している。昨日それを待っていたかのように、ギルドマスターから声をかけられた。


 その内容は、ブラッククックの特産地であるリーズ村。そこで行われる村祭りで、演奏をして欲しいということだった。村からジオスの詩人ギルドへの依頼だった。今、街を出られる詩人が私しかいなかったらしい。

 そして、同じ村祭りで、別の方面からも依頼が私宛に来ていた。それは「道草亭」で私の歌を聞いていた商人の一人からだった。商人は、リーズ村で祭りに合わせ商売をするという。元々リーズ村の出身であった商人は村に人を呼びたいとの事で、大体的にジオスで祭りの事を歌って欲しいというものだった。


 リーズ村での祭りの詳細は、依頼を受ける時に立ち会った商人が教えてくれた。この商人、「道草亭」でいつも夕ご飯を食べている人だったから、顔を覚えていた。依頼されるなんて驚きね。


 祭りの内容は、特産であるブラッククックの品評会が、年に一度開かれる。その時に買い付けにくる商人や村周辺にも広がるブラッククックを飼育している者達が、一堂に集まるという。そこに村は目をつけた。観光化すべく品評会の他にイベントを催し、商人を呼び込んで、盛大に行うことになったのだ。

 この試みは成功して、この時期になると、ジオスからも祭りが目的で足を運ぶ人もいるという。


 リーズ村の祭りは、リアルでは明後日。丁度、夜のプレイヤーが賑わう時間で、ログインできる時間だったから、快く受けていた。


 そして、早速私は噴水広場で、リーズ村のお祭りを知らせる「歌」を歌っていた。これはとても難しかったわ……リーズ村の祭りの事。日時や催しもの。まるでテレビのCMみたいに、歌詞を作って曲にすることになったのだ。歌詞のセンス? 歌うことは好きだけれども……後は察して欲しい。


「貴方は知っている? リーズ村でお祭りがあること! 人が集まること。それは楽しいこと。村で特産のブラッククック、食べれば美味しいブラッククック。どれが一番良い鶏なのか、比べてみなきゃわからない。だから、皆やってきておくれ。美味しいブラッククックの料理も、楽しい催しで笑おう。沢山の物珍しい屋台も立ち並ぶ景色も、貴方を出迎える。だから、リーズ村の祭りに出かけよう」


 うん、がんばったと思う! これを軽快な曲に乗せて歌ったわ。さも、そういう歌があるようにね。センス……今回は宣伝だし、ね? 切実に詩を作る技能が欲しいと思ったわ。羞恥心には蓋をして、無心に歌おう。無心だ、無心よ! 

 吟遊詩人として、いつか詩も作って歌いたいと思ったけれども、初めての歌がお祭りに行こう、になるなんて、思ってもみなかった。

 普段通り歌っているのに、周りの冒険者の視線がとても気になる……街の住人の方は、そんな時期かと、微笑ましく見てくれている。


 時々普通の演奏を入れたりしながら、暫く歌っていた。たまに興味がありそうな冒険者プレイヤーには、商人が渡してくれた、祭りのチラシを笑顔で渡した。チラシ配りのバイトのよう。


「ケイお姉さん――!! 私も行くよ――!!」


 元気な声と共に駆け寄ってきたのは、ヘレナだ。勢いよく駆けてこれば、曲が終わるのを見計らって軽く抱きついてくる。スキンシップ大好きな子なのよね。妹みたいだからいいけれど。ちなみに、彼女の友人にも同じようにスキンシップ過多だから性格よね。ヘレナの後ろからは、パーティメンバーのルイが飽きれたように歩いてくる。


「こんにちは。ケイさん。いつもヘレナが、うるさくしてすみません」

「いえ、妹みたいで可愛いと思っているわ。貴方達……パーティで行くの?」


 生真面目に頭を下げるルイは、ヘレナを引っぺがしながら、頭を下げる。私はチラシを早速差し出した。沢山あるのよ。ヘレナがわくわくした様子でそれを読んでいる。


「はい。冒険者ギルドでも、商人達の護衛依頼がいくつか出ていまして。この間ブラッククックのお肉を堪能した結果、行くことにしました」

「そう、村に行けば、お肉がもっとある! お祭りも楽しそうだしね。依頼料はそんなに良くないけどさ」


 なるほど。確かに歩いて半日でリーズ村に到着する。輸送中のブラッククックが襲われ、野生化して魔物になったこともある。安全対策で護衛依頼が出ているのね。


「ケイお姉さんはお仕事? まるでコマーシャルなんだけれども。面白い歌だね――ブラッククック!」

「そうよ、村で屋台を開く商人さんが、お祭りの事を宣伝してくれという依頼ね。あと、村でも演奏するように依頼を受けているわ。お祭りで会えそうね」

「はい。今は、星見の遺跡を攻略したばかりだから、暫くのんびりする予定なんです。あ、ドガ兄弟も来るといってました」


 ヘレナが、歌詞の一部を真似して歌いだした。少し居たたまれないでいると、ルイが教えてくれる。なるほど、休養もいいことだと頷き返した。ドガ兄弟が来る事は知っていた。真っ先にフレンドメールで知らせたからね。


「ええ、メールで知らせておいたから、物見遊山で来ると返事を貰っていたし。皆でお祭りで会えるなんて、楽しみになってきたわ。演奏がお仕事だけれどもね」

「はい!」

「リーズ村で、お祭りがあるよ――! あるよ―! ケイさん、チラシ配り手伝うよ。なんだか、学祭みたいで、楽しい!」


 ヘレナが噴水の周辺にいる冒険者達にチラシを配りはじめた。あら……いいわよね? しっかり宣伝になるわけだし。ルイさんがさらに恐縮しだした。


 冒険者達の間から<3A>の「超突娘」だ、なんて声が聞こえてくるのだけど。ルイさんが小声で……ヘレナのあだ名ですと、恥ずかしそうに教えてくれる。ヘレナ、そんな二つ名が既にあるのね。

 寧ろ遺跡を攻略したことから、ライアート達のパーティは名前が売れてしまった様子。ヘレナがチラシを配り、私が宣伝の歌を歌う。冒険者達もパーティで行こうかなんて聞こえてきた。いい感じね。

 お祭り当日まで宣伝に励むとしよう。行く前に消耗品の補充もしないとね。

 お祭りなんて――とても楽しみだわ!!



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