表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/44

15.相談しよう

 冒険者ギルドは、夕刻も近づく為か、一日の依頼を報告する冒険者で溢れている。依頼を受け付けるカウンターの隣。依頼完了届けを出すカウンターへ並び順番を待つ。


「はい。ブラッククック討伐の依頼の完了ですね。15匹分の討伐証明を確認しました。報酬は別カウンターでお受け取りください」


 てきぱきと業務を果たす事務員のお姉さんに、余分なことを聞く雰囲気じゃなかったわ。報酬のカウンターへ歩き出す。


「ケイ!」


 名前を呼ばれた。聞き覚えのある声。ライアート? 声の方を振り向けば、杖を持った魔術師。ライアートだ。冒険者ギルドにいるのには偶然ね。手を挙げて振れば、寄ってくる。


「はい、ライアート。こんにちは。会えて、丁度良かった……昨日教えて貰ったところ、行ってきたわ。大変な目にあったけれども」

「ああ、泉のブラッククックですか。あそこは比較的安全で、ブラッククックも武器さえあれば倒せたはずですが……」

「鶏もどきなら、楽だったわ。杖で殴ればすぐだったしね。薬草も取れたし……でも、大きな狼に襲われてね。めでたく初死に戻りよ」

「……杖? 魔法じゃなくてですか。……狼というと? ええ、死に戻り?!」


 やってしまたわと、軽く肩を竦めて見せて。杖で殴ったといえば、きょとんとされた顔をされて、続く言葉に表情を険しくした。まさかと、彼はつぶやく。


「ブラックウルフですか? あの森は生息範囲ではないのですが」

「でも、出たわ。これが拾った牙よ。大きい? ブラックウルフの個体見たことないから、わからなかったけど。鑑定したら変な説明が付いていたのよ」


 ライアートに背嚢から、ナイフみたいな狼の牙を取り出して差し出す。

 彼は眼鏡を指で上げれば……<鑑定>してるのかな? ライアートの顔がますます険しくなってしまった。 なんか、私も動揺してしまうのだけど!


「ケイこれは……貴方一人で? 少しこちらへ。あまり人の居るところでは……」


 常に穏やかなライアートが私の腕を有無言わせず掴んだ。そして人の少ない場所へ連れていかれてしまった。事情をと尋ねられ、泉での話をする。彼の顔の表情が驚き、そして硬直していくのを見つめて。


「貴方という人は……本当に。とりあえず、凶暴化というのは、魔石の力を多く受けた魔物と覚えておいてください。その魔物をさらに強い魔物が餌にして、次第に凶暴化したのです。そのブラックウルフはそうだったのでしょう。凶暴化した魔物の上は、特異進化といって<名つき>になります。これはプレイヤーが束になって討伐するものですよ! 少し前、討伐のアナウンスがあった存在です。それがなんで……」


 おおう……なかなか危険な魔物だったのね。だからこそ、やられてしまったのだけれど。遭遇した魔物の危険度を知って愕然としたけど、今更よね? そんな私の表情を見て。


「特異進化した魔物を倒した時は、2回パーティが全滅しました。弱点をなぜわかったかは、おいときますが……あの森で出るのが異常ですね。ギルドに報告したほうがいいかもしれません。そして、これ」


 ライアートは、牙と一緒に渡していた魔結晶を掌において。口を開こうとしたとき……若い女性の怒ったような声が響いた。


「ライアート!! どこにいってるのよ。カウンターの前に居るって言ってたのに! ……ナンパ中? へぇ、人が依頼終了届出している間にねぇ。って、魔結晶じゃん。どうしたの!」


 声高くライアートの名前を呼ぶ声と一緒に、ブーツの靴音を響かせて少女が、ライアートに詰め寄ってくる。そして、ぶんぶんと胸元を揺さぶりだした。

おお……女戦士さん!! 歳の頃は私より少し若いかな。アバターがね。

 真っ赤な情熱的な色の髪をショートヘアにしている。背が小さめで、すんなりとした身体にハードレザーのぴったりとした鎧。背中にはバックラーを担ぎ、腰にはショートソードを帯剣していた。これぞ戦士って感じね。思わず、恰好がいいわ……と見つめてしまった。

 その視線に気づいたように、女性がライアートの胸元を揺さぶるのをやめる。少し慌てたように。


「ごめんなさい! ライアートがナンパでもしてたのでしょう? お姉さん、詩人さんだよね? 噴水の詩人バードさんに会いたい会いたいって言ってたし」

「ちょっと、ヘレナ! 誤解を招くようなことを言わないでください。彼女は……この魔結晶を拾ったと、相談を受けていたのですよ!」


 おお、ライアート。そうだったのね? 思わず揶揄したくなちゃったわ。しかし、噴水の詩人さんって……私の事なのね。女戦士さんは、ヘレナさんというのかな。この様子だと、パーティメンバーかもしれないわ。魔結晶という言葉にヘレナさんは反応する。


「魔結晶?! この間のじゃなくて? この間のより小さい、か……え、え? お姉さん、詩人さんだよね? 噴水で歌っていた。時々綺麗なお姉さんが歌っているな~ってみてたの。あ、私はヘレナよ。こいつの、腐れダチでパーティメンバー!」


 元気な娘さんだ。わたわたと両手を振って、勢いよく話し出す。そんなに慌てなくても大丈夫よ? 杖をしまえば、リュートを取り出してみよう。ええ、詩人ですとも。


「綺麗かどうかは、まかせるけれど。噴水でよく歌っているわ。ケイよ。ヘレナさん。ライアートには、狩りの助言をいただいてたの」

「ライアートが? 手が早いわ……」

「だから。ヘレナ! ケイはドガのお客さんだったんですよ。それでお会いしたのですよ」

「知ってる。冗談に決まっているじゃない。噴水でドガが詩人さんと出かけるの見てたし……噂になってたし」


 うん。なんか、聞き流しておきたい言葉があったわ。噂……歌、下手だったのかしら。

そして、話から察するに魔結晶をライアートも。いや彼のパーティも取得したらしいわね。もしかすると……先日の<名つき>魔物を討伐したの、彼らかもしれないわ。


「とりあえず、こんな場所で立ち話もするのも……」

「そうね! 丁度、パーティのみんなで打ち上げに行こうと思っていたの。ケイさんも、ぜひ!」

「ちょっと、ヘレナ!!」


 ぐいっと腕を取られたわ。あら、打ち上げ、良い言葉だと思うわ。まだ、先程の恐怖が……少し燻っている。

取られた腕に腕を絡め返してみせて。彼女の顔に顔を寄せて、小さくウィンク。


「ふふ、喜んでご一緒させていただくわ。丁度、いいお肉もあるから、御馳走させてもらうわ?」

「お肉! お酒! 詩人のお姉さん、最高――!」

「だから、ヘレナ! ちょっと、待ちなさい。 ああ、もぅ……ケイさん。すみません。元気だけは有り余っているので、こんなヤツなんですが、いい友人なので。よければ……奢ります」

「あら、いいの? 私結構お酒、強いみたいよ?」


 ヘレナさんと腕を組むままに。ちなみに、彼女は飲むぞ飲むぞ~と歌いだしたわ。その様子にライアートは、がっくり肩を落としている。なんか、彼のパーティの立ち位置を見た気がするわ。

 魔結石を返してもらえば、背嚢にしまう。

とりあえず、冒険者ギルドで報酬を受け取るのと連絡は、明日かな?

 さあ、酒場へ行きましょうか――よーし、鶏肉料理だ!

お腹が満たせば、元気はでるのよ。焼き鳥にしようかしら、それとも、照焼きもいいわ……ネギに似た野菜あるかしら? そんな事を考えつつ冒険者ギルドを後にした。




 冒険者ギルドに近い酒場「酔いどれ亭」。その厨房で、私はひたすら一口サイズの鶏肉を串に刺している。刺している肉は、今日の戦利品の魔物化したブラッククックの肉。

 通常のブラッククックより大きく、沢山食べれそう。

<料理>技能の訓練も兼ねて、絶賛料理中だ。

 ちなみに厨房は、「酔いどれ亭」の恰幅のいい女将さんに、お礼にお肉をいくつか渡したら、快く貸してくれたわ。自炊する冒険者が、時々空いてる時間に使っているそう。ぜひ、また借りたいものだ。


 酒場に来る前に、市場でいくつかの野菜を調達済み。

リアルと似てるような野菜が多いのだけど、微妙に味が違ったり、形や色彩が違ったりする。変なところで凝ってるゲームなのよね。

 もも肉は焼き鳥にするのが好き。脂がのっているし。ネギマにしたいけど、残念ながらネギみたいな野菜が無かったので、変わりに玉ねぎっぽい野菜を間に挟んだ。

 味付けはタレが欲しいけど、タレを作るのに材料足りないわ。ここは塩と胡椒をしっかりと効かせよう。

 胸肉はシンプルにグリルにしよう。レモンっぽい果実を薄切りにして肉の上に乗せる。塩と胡椒、あとはローズマリーに似た香草を買ったので添える。トマトっぽい野菜もスライスして、一緒にオーブンにつっこんでおく。

 手羽先は、味付けして素揚げね! 他に鶏皮をカリカリに焼いてサラダの上にトッピングというのも美味しいと思うの。

 もっと色々手を加えたいけれど、借りた厨房だしね。酒のつまみになれば、結構なんでもいい私なんだけど。

しかし、<料理>技能って何かしら……こう、普通に料理は料理よね? 何か変わるのかな。

 いくつか鑑定してみたけれども、製作者が私というぐらいかしら? ちなみに<鑑定+1>の付加情報は、酒好きによる酒の為の料理って、書いてあったんだけど……運営?!


 調理を済ませて、徐々に焼きあがってくるものを、大皿に豪快に盛り付ける。焼き鳥タワーを客席まで運ぼう。焼き鳥は30本程かな、これでもお肉半分も使ってないのがすごい。


「おまたせ! とりあえず、焼き鳥と手羽先の素揚げね。あとは胸肉のグリルもあるわ」


 酒場の中の一角、4人掛けのテーブルを2セットくっつけてて囲む冒険者達。既にエールが片手に収まってて、軽食をつついている。あら、もう……ほろ酔いモードのメンバーが多いじゃない。

テーブルへドン! とお皿を置こう。そして、2杯目のエールを注文した。1杯目? 作りながら飲んでいたわ。


「おおおお、ケイ姉さん……最高!!」

「全部、ブラッククックですか?」

「すみません。ヘレナが無理を言ったのに、こんな料理までいただいてしまって」

「ありがとうございます。とても美味しそうだ。パーティで料理しないからなあ」


 待っていたライアートのパーティメンバーから、歓声をいただいたわ。

 空いている椅子に座ろうとして、真っ赤な顔のヘレナに言葉通り、絡みつかれた。腕をひき寄せられるままに、彼女の隣の席に座ることになった。妙に懐かれている気がする。

 席を強制的に追いやられたのは、ライアート……彼は日常的なのか、溜息つけばドガの横に座った。あれれ? いつの間にかドガとジンガが、座っているじゃない。


「ドガ! ジンガ ! 貴方達も来てたのね」

「ケイが、またやらかしたと聞いてな。というのは冗談じゃ。丁度、ライアートのパーティの装備をジンガが渡しにきたんじゃ」

「あら、そうだったの。やらかしたより、やられたわ。初死に戻りよ。丁度良かったけれども。ぜひ料理も食べてって。それと、後で見てほしい素材があるの」


 職人兄弟が、料理をしてる間に来てたみたい。二人共エールを上げて挨拶をしてくる。死に戻ったと聞いて、顔を険しくした。けれど、エールを飲んでいる私の姿に顔が柔らかくなる。

心配してくれてありがとう。食欲もあって大丈夫よ!

 そして、装備は受け渡し完了後かな? 会った時とは違う装備の冒険者達が二人。


 ライアートのパーティメンバーは4人だ。取り皿を彼らに回していこう。

 一人は、私に寄りかかっているヘレナさん。ああ、ヘレナって呼んでって言ってたわね。彼女は軽量型の剣士ね。手数の多さと敏捷さで勝負してるみたい。猪突猛進なところが時々困るって、ライアートがボヤいていたわ。

 そして、先程までハードレザーの鎧だったけれども、今はジンガが作ったと思わしきアイアンアーマーを全身に纏った大柄な男性。ドーイという名前で、少し寡黙な人ね。黒髪を角刈りにして精悍さの見える顔立ちよ。装備でわかるとおり、盾役だそう。パーティのリーダらしい。


 そして、もう一人は女性。ヘレナと一緒ぐらいの歳かな? ルイさんといって、ソフトレザーを部位ごとに身に着けている。焦げ茶色の髪をポニーテールにしていて、溌剌とした雰囲気。けど、ヘレナより落ち着いたかんじかしら。先程、紹介してもらった時は、斥候役だと言っていた。皆同じぐらいの歳。


 友人って言っていたから、学生時代の同級生みたいな感じに見えるわ。リアルでも本当に若いかもしれない。お酒を飲んでいるってことは、成人しているはずだけれども。


「遠慮なく食べてちょうだい。<料理>技能を上げるつもりで作ったけど、普通の料理なのよね」

「なんじゃ、<料理>技能を取ったのに知らなかったのか。基本は普通の料理とは変わらんが、技能があがると作った食事に、色々な付与エンチャントが付くらしいぞ。テストプレイで確認されていたんじゃが」

「実は、儂も前は取ってみたが、あんまり上がりにくくてな。付いたとしても<HP+1>とかじゃったから、今回は見送ってしまったわい。料理の事なら、マックガイアに聞くといいぞい。あんな見てくれだが頼りになるやつじゃ」


 ドガとジンガは、そう教えてくれた。流石、生産メインに取っているだけあるわ。

焼き鳥を一本取ると頬張る。さっき鑑定した時は、普通の焼き鳥だったわね。残念……時々色々料理してみよう。特に携帯食だ! あの不味さは忘れられない。


「私は地道に上げていくわ。特に携帯食……初期の携帯食。あの不味さはなんなのかしら。食べるならもっと美味しいものがいいわ」

「わかります! もっとましなのあれば、買います!ケイさん!」


 ルイさんが食いついたわ。おお、同志よ……みんな頷いている。携帯食は他のアイテムも、あんまり美味しくないらしい……なんてことかしら。これは開発するしかないわね。そんな会話をしていると、モリモリお肉が減っていく。いい食べっぷりね。そろそろ焼けた胸肉のグリルも持ってこよう。


「しかし、ケイさん……料理も美味しいし、歌も上手いし、綺麗だし……そして強いし!パーティに来て欲しいよぅ」

「肉旨い……」

「そういえば、見せたい素材ってなんじゃ?」


 胸肉のグリルを持ってかえれば、ヘレナが既に出来上がってる。よしよしと頭を撫でておこう。

 妹がいたらこんな感じかしら。ルイさんにエールのグラス、取り上げられているし。男子2人は肉をもしゃもしゃと食べてる。食べ盛りね……ドガの言葉に、今日のブラックウルフからの戦利品を背嚢から出して見せる。


「……ケイよ。何が、どうなってこれになった。寧ろ、どうしてこうなった」


 ドガが、戦利品ドロップを見せれば、鑑定したみたいね。どうやってというかね……何度目かになる説明をしてみせた。あれ、ちょっとなんか、ひかれてる?!


「串刺しにして、オイルぶっかけて、カンテラで殴って、精霊魔法で火達磨にしたと……」

「……」「……」


 うん、聞いてみるとちょっと酷いわね。詩人バードですよね? なんて、ライアートとドーイから視線がきてるじゃない。必死だったのよと、エールを傾ける。飲まずにいられないわ。

新品のカンテラ……また明日、冒険者ギルドで依頼報酬金を貰ったら行こう。懐がッ! 全然たまらないけれど。ちなみに、美味しいご飯とお酒は別よ?


「まあ、ケイだしな。この毛皮は、普通のより品質性能がよさそうじゃ。が、まだ儂だと手が余るかもしれんのう、ケイ、預けてくれれば……そのうち防具を作ろうと思うが」

「この牙は、ナイフにしたり、細工にでも使えるんじゃないかの」

「そう……毛皮は預けるわ。細工が出来る職人さんがいれば、紹介してほしいわ。二人ともありがとう」

「ただ……その魔結晶は。まだわからん。ライアート達もそうじゃ」


 毛皮はドガに預ける。牙は背嚢にしまっておこう。そして、魔結晶か……まだ未知の使い道ね。

 いいわ、こういう未知の素材とか道具アイテムって。わくわくするじゃない。そんな表情が出ていたのか、やれやれといった顔をドガにされた。そういえば……


「ライアート達は、今日はどこにいってたのかしら」

「この間見つけた遺跡。まだ攻略中なんですよ、地図作成に手間取ってしまって。やっと明日核心部かもしれないんです」

「明日には攻略したい。ジンガに装備を作ってもらったしな」


 ライアートが、エールを飲みながら答えてくれる。ほのかに頬が赤い。まだ一杯目よね? ドーイが意気込みを添えてくれたわ。いいわね、こういうの。思わず、笑みが零れてしまう。だから、ちょっとからかってしまった。


「ふふ、その結果も聞かせてね? ぜひ、プレイヤーの冒険譚を歌うのもいいと思っているのよ?」

「だから、ケイさん――!!」

「わーい、ケイさんの歌! なにか、歌って――!!」


 ライアートがわたわたしている。ドーイもなんか固まっているわ。ヘレナが歌の言葉に反応して、歌ってと身体を揺すってくるわ。ルイさんがとっても申し訳なさそうだけど、気にせずにと笑って。

 ドガ兄弟は、すっかり肉とエールの往復ね。だんだん、酒の入った混沌とした状況だけど、よくあることよね。こういう雰囲気、嫌いじゃないわ。さて――リクエストに応えてみましょう。


 酒場の女将さんに、演奏する許可をいただいて、むしろ喜ばれたわ。乞われるままに、歌いましょうか。―――……案外、ライアート達が潰れるのは、早かったわ。やっぱり中の子達も若いのかしら。






 なんだか、昨日は狼に追いかけられる夢を見たわ――

 いつもの「道草亭」でログインをする。あの宴会もどきの後、「道草亭」に戻って、演奏をしてログアウトしたのよ。なんか無性に演奏したくて。狩りの気分を払拭したかったかもしれないわ。酔い? ないわよ。




 今日は、まず昨日の依頼の報奨金を貰いにギルドへ行こう。そして、イレギュラーだったブラックウルフの話を伝えなければいけない。冒険者ギルドは、早朝とあって混み合っている。

逆に報奨金を受け取るカウンターは空いていて、助かったけれども。

 昨日の利益は、一匹200ジニで15匹分。薬草などの素材は別の機会に売ることにしている。

 <商人>技能を持つプレイヤーをドガ兄弟が紹介してくれる予定だ。そして、ギルド施設内の情報提供カウンターへ。ちゃんとこういった機能もあるみたいね。有益な情報は、買い取りもしてくれるみたい。ブラックウルフの報告は、酷く驚かれた。話した瞬間、緊張感が生まれて――


「証拠を見せていただいてもいいでしょうか? 通常個体も落とす牙ですか――確かに、凶暴化のものですね。鑑定させていただきました。失礼ですが、身分証も提示してもらっていいでしょうか? 情報を登録させていただきます。……詩人バードですか? えっと、お一人で」

「はい、運よく。2匹目も現れたのでやられてしまったのですが。この事も情報になればと」


 笑顔で答えた。本当だもの。少々無言になった受付のお兄さん。手元の書類に色々書き込んでいる。それを差し出して、内容を確認するように言われる。

 内容は、出現した魔物の種類と場所。通常ならば生息しない区域ではないことが書き込まれていた。

 ギルドの男性職人は、少し緊張した面持ちのまま。


「最近、こういった報告が多いのです。本来生息してなかった魔物が現れたり……その数が増えているのです……あと、報奨金が別途出ます。凶暴化した魔物を討伐した報酬と、情報提供の報酬です。カウンターにこれをお持ちください」


 ギルド職員は一枚の書類を渡してくれた。記された金額に、思わず目を見張った。結構な額だったのよ! 鶏肉を狩った倍ね……ちょっとだけ、切なくなったわ。いや、あの危険度を考えれば。驚いていたのをみて。


「凶暴化した魔物を放置しておくと、より強い魔物が生まれてしまう可能性があります。下手をしたら特異進化をすることに……事前に防いだということでの報酬ですよ。ただ、単独でされた方はまれですが……気を付けてくださいね」

「ありがとうございます」


 頭を下げれば、ちょっと足取り軽く報償受け取りカウンターへと向かった。現金よね。現金もらえるんだけど。これで、少しは懐がましになったかしらありがたい。


 さて、今度は折角料理の話もできたし、少し本格的に取り組んでみようかしら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ