11.気分一新、装備一新
本日も仕事を片付けてからログイン。ログイン後すぐにフレンドメールが届いているのに気付いた。
その内容に思わず顔を綻ばせてしまう。ドガから新しい装備が出来たとの連絡よ! ログインしている時ならいつでも大丈夫とのこと。フレンドリストを見ればログインをしている。よし、向かおう。その前に朝ご飯ね。空腹度は上がってないけれども、食べて美味しいから機会は逃さない。
身支度を済ませれば酒場に降りて行く。階段を降りる足取りは少し弾んでしまう。
酒場に降りれば、女将さんが朝食の配膳をしている。本当にここのお店の料理は美味しい。自分でも料理がしたくなってしまう。朝食のメニューは前回とあまり変わりがないけれど、豆が沢山のスープになったり、ハムの味付けが違ったりしてる。美味しくいただいた。
そういえば、この間の羊狩りの後の焼肉祭り。おかげで<料理>技能が上がっている。時間がある時に、色々作ってみたい。
宿屋を出ると、目指すは西のメインストリートに広がる商店街だ。メッセージには、その一角で露店を開いているとのこと。今日は一日露店を開いているそうだ。
商店街の通りには、数日前より沢山の露店が並んでいる。プレイヤーが出している露店も増えてきてるみたい。露店を出すには生産ギルドに登録が必要だ。そして、市場等を管理する商工ギルドへ出店料を払えば、営業許可区で露店を出すことが可能だとドガ兄弟から聞いていた。
「こんにちは! 今大丈夫かしら? とても楽しみにしてたわ」
裁縫ギルドの建物が近い位置で、ドガの姿を発見した。通りの隅に植えられたリネの樹の傍で、小さな屋台が出ている。挨拶の声をあげて駆け寄っていこう。つい速足になってしまう。
「おう、よく来てくれた。待たせたのぅ。ほれ、これが完成した品じゃ。トレード画面を出すぞ」
「この間はお疲れさま。無事素材も足りてよかったわ。待つ間も楽しみの一つよ」
挨拶を交わせば、ウインドウが開かれて――
『ドガからトレードを要請されてます。許可しますか?』
勿論、許可よ。私とドガの受け渡し画面が開かれる。これがトレード画面ね。ドガが画面操作をして、装備がどんどん追加されていく。おおお! あれ、頼んだ物以外もあるのだけれども。
「あれ、ドガ……なんか増えてないかしら?」
「いや、ついな……張り切ってしまってな。ケイのおかげで素材が集まったともいえるしのぅ。ほれ、身に着けてくれないか?」
ドガは、どうじゃとばかりに胸を張った。なかなか良い装備ができたと機嫌が良いみたいだけど、これを売ってもらってもいいのかしら? <鑑定>をしつつ身に着けていく。装備画面で装備品を選択すれば、一瞬で装備できるから裸にならない。
まずは、革装備だ。ドガも装備していたブラックウルフという魔物の皮を使っている。この魔物は郊外の西、森林地帯全体に生息している。魔石の影響を受けた狼が魔物化し、黒い体毛を持ち凶暴性が増している。冒険者ギルドでも討伐依頼が多い。パーティでの討伐が多く、皮もかなり供給されていると説明してくれた。
[黒狼の胸当て]ブラックウルフの革を使って作成された胸当て。硬く鞣してあり耐久にも優れている。DEF+3/品質 B/製作者 ドガ ]
まず、胸当てをアンダーセットの上に身に着ける。黒色の革は、短いタンクトップみたいに、臍の辺りから鎖骨を守るような形だ。ドガとちょっと形が違う。理由は女性は胸があるからだと。なるほど……心臓や内臓を守れる形だ。
ソフトレザーといった柔らかさだけれど、ナイフで切りつけても皮膚までいかない強度だという。
サイズはシステムで自動調整されるので、ぴったりと身体に馴染んで動きやすい。
そして、同じ素材の長靴と手袋。長靴は藪等を歩いた時に、枝がズボンに引っかからないように膝にかかる長さを頼んでおいた。靴底もしっかり補強してあり、ぴったりと脚の形にフィットする。巨大羊の皮を使った手袋は肘近くまであるものだ。しっかり杖を握れるように、柔らかく鞣してもらっている。これは街中では楽器を演奏するから郊外用に出る時のみになるかな。
魔物素材を使っているので、これだけでも初期装備より防御力があり、怪我をしにくくなるだろう。
ゲームらしく装備には、装備ごとに防御力を示す数値がついている。初期装備と比べると、革装備だけで+5されていた。そして、もう一つは。
[巨大羊のショートローブ]ビッグシープの毛を使い織られた布が使用されたローブ。魔石の影響で毛に精神力を高める力が込められている。DEF+2 MP補正少/品質 B/製作者 ドガ ]
おお、思わずローブを着る前に広げてみてしまった。普通のローブは今着ているみたいに、足首まである袖の長いワンピースみたいな服。私は足元が捌きにくくて、動きづらさを感じていた。
後衛である魔術師は、そんなに気にしなくてもいいと思うかもしれないけど、軽快さが欲しいのよね。
それでドガに色々注文をしてみたのだ。そして、出来上がったものは、ローブと書いてあるけど……ロングジレや長めのベストに肩口まで袖がついた感じかな? フードもついている。肌触りはウールの軽さと柔軟さを感じる。
色は私の好きな青色。紺色に近い青色だわ。しかも、MPが少し上がる補正付だなんて。
「ドガ、素敵、素敵ね!!」
「そうじゃろう。普通の魔術師のローブみたいなタイプよりも、動きを優先してみた。ショートローブというレシピを作ることができたのじゃ。布の量で少しMP補正が少なくなってしまったが」
子供みたいに、はしゃいでしまったわ。それを満足そうにみやるドガの前で装備しよう。
羽織ってしまえば、裾の長さは膝上ぐらいで、動きが邪魔にならないように尻側が少し切れ目が入っている。帯の代わりにベルトで前を止める。すべてがしっくりと身に纏う事ができた。
ドガの前でくるっと回ってみよう。笑っている……嬉しいからいいじゃない。
「似合っておるのぅ。詩人っぽいかどうか、ケイに任せるがの」
「本当に素敵よ。初期に比べれば……性能も段違いだしね。ドガ、支払いをすませたいわ。あと、頼んだ以外のものがあるのだけれども」
「そうじゃの。ケイには手伝ってもらったし、この値段でどうじゃ? また手伝ってもらわんといかんしの」
ニヤと笑うと、また狩りに行こうと、詩人の私を誘ってくれる。戦力としては低いのに、嬉しいことだわ。提示された金額を支払う。所持金が大分減ってしまったけれど、問題ない。
思わずリュートを弾きたくなるぐらいテンションがあがってしまう。最近嬉しいと鼻歌を歌っているのよね。その様子を見て、さらに笑みを深くしたドガ。
「そう喜んでくれると職人冥利に尽きるよ。それはおまけじゃ。初期装備より多少防御力が高くなる。好きな色に染めてやるぞ」
注文した装備以外に入っていたものは、タートルネックの細身のシャツとズボンである。
改めて驚きながら<鑑定>してみる。
[巨大羊のアンダーセット]ビッグシープの毛を使い織られた布が使用されたシャツとズボン。通気性に優れている。DEF+1/品質 B/製作者 ドガ ]
もぅ、ドガったら……私は胸いっぱいの気持ちになる。革装備の下へ装備してみる。
今までの生地と違った布の感触だ。柔らかい羊の毛を使っているからだろう。白色のシャツと焦茶色のズボン。リアルでもウールの生地は、冬は暖かく夏は涼しい。匂いにくい等、登山で愛用されている。旅に丁度いいから私も愛用している。
「あまった布で作ったから気にすることはないぞ。今度酒でもまたおごっておくれ」
「色はこれでいいわ……ドガったら!! ぜひ、そうさせてほしいわ」
勿論、二日酔いになるまで奢るわ。とことん飲みましょう? そして、図書館の情報を思い出す。
「ドガ、そのうちドワーフ族の村が見つかったら、一緒に行きましょう」
「……?! どういうことじゃ」
ドガの細い目が、くわっと開かれた。驚かせたかな? 頷きを一つ返す。図書館で得た情報を、いきさつを交えて伝え、エルフやコボルドの事も教える。
「なんと……おるのか。そうか……いるのじゃな。話していたように、あの種族が好きでな。やはり、匠の一族なんじゃろうか。会ってみたいものじゃ」
ドガはゲームや小説にでるドワーフが好きで、アバターはそれに似せていることを知っている。口調も合わせてね。それを知っていたから喜んでくれて嬉しかった。ドガは腕を組んで、ふむふむと頷いて。
「しかし、言語技能か……ケイらしいな」
「だって色々な本も読みたかったし、その言語で歌も歌えるようになるわ?」
ドガと親しくになるにつれ、何かにつけて、ケイだからな。なんて言われるようになっている。リアルでもよく言われるのよね。なぜだ。戦闘メインのプレイヤーがどこまでフィールドを探索したか等、他愛もなく話をしていると……
「こんにちは。話中にすみません。ドガ、おまたせしました」
「おう、ライアート。こちらこそ、またせたな」
一人の男性が露店に歩み寄ってくる。ドガのお客さんかな? ライトブラウンの癖毛をショートヘアにして、穏やかな顔つきの、銀縁の丸眼鏡が印象的な男性だ。手には杖を携えている。
装備は私が先程まで着ていた初期のローブ。ローブの襟首からレザーアーマーが覗いている。
「お話中にすみません。詩人さん。……先日は噴水広場で、神話の歌を興味深く聞かせていただきました」
男性は微笑みを浮かべて会釈をする。続けられた言葉に……ふと、思い出す。
先日、噴水で双子神の神話を歌った時、最後まで聞いてくれていたパーティの魔術師の人?
「おや、顔見知りだったかのぅ?」
「いえ、彼女が広場で歌っているのを、聞いたことがあったので……」
「詩人のケイよ。お兄さん。歌を聞いてくれてありがとう。少しでも気にかけていただけて嬉しいわ」
「ええ、本当に。色々気づかされましたよ。私はライアートといいます。見ての通り魔術師ですね。よろしくお願いします。ドガとはテストプレイの時からの知人です」
魔術師の男性、ライアートさんが名前を教えてくれる。軽く握手をかわす。
歌を聞いてくれたプレイヤーに会えて嬉しいものね。そして、私の新しい装備に興味がある様子を見せている。おもわず、再びくるっと回ってみせた。その様子にちょっと目を見開いて、小さく笑った。
「私もドガに装備をお願いしてて……今受け取ったばかりなの。今着ているのがそうね」
「私が頼んだものとは違いますね。新しい素材の装備、待ったかいがありそうです」
「おう、ケイが毛を刈ることを思いついてな……素材が集まったから、ようやく装備供給ができるようになったのじゃ。ほれ、ライアートの装備じゃ」
「毛を刈った? ありがとうございます。早速私も装備させてもらいますね」
ドガとライアートさんはトレードしているようだ。どんな装備なのかしら? 少し興味深い。
着替えたライアートの姿は、まさしく魔術師といった感じ。穏やかな雰囲気だけど、研究者のようにも見える人ね。彼の装備は、私と違って足元まですっぽり着るローブ姿だ。
濃い焦茶色のツイードのような生地は、ビッグシープのものだろう。断りをいれて<鑑定>させてもらう。
[巨大羊のローブ]ビッグシープの毛を使い織られた布が使用されたローブ。精神力を高める力が込められている。DEF+2 MP補正中/品質 B/製作者 ドガ ]
ドガがいっていたように、私の装備より生地が多い為か、MP補正が少し多いみたい。
ライアートは着心地を確かめるように、杖を握って両腕を動かしている。
「素晴らしいですね。品質も流石ですし……ありがとうございます。これで攻略が少しは楽になるといいのですが。他のメンバーも装備も、ジンガに今頼んでいますしね」
「おう、攻略メイン組もあまり進んでないようじゃのぅ。まあ、そう急くことはないじゃろうて。そこのケイなんて、ふらふらしては、面白いこと見つけておるからのう」
ライアートさんは、冒険者として活発に活動している人みたい。しかし、ドガ……ふらふらって。
確かにそうかもしれないけれども。少し抗議をしてみよう。
「私はバードだもの。歌の糧に色々知りたいと思っているだけよ?」
「ふらふら……ドガ。でも彼女が神話を歌ってくれたことで、遺跡の探索の参考になりました」
ライアートさんが教えてくれる。パーティで遺跡を発見したらしい。その遺跡の壁に彫刻があり、最初はその意味がわからなかった。そこに神話の歌を聞いて、この世界の神話などに興味を抱き調べたところ、彫刻の意味を知り、遺跡の探索に影響を与えたという。
遺跡がこの付近にあるんだ……そっちの方が気になるわ。私でも辿りつけるかな?
「色々調べるなら、やっぱり図書館よ。色々な種族の書いた本があって、人と違う解釈も書かれているから、読むなら面白いかもしれないわ」
「色々な種族?!」
「おう、まだやはり……知る者は少ないんじゃのう。ドワーフがいるらしいぞ」
ドガがライアートさんの驚きように、ニヤっとしたいつもの笑みを浮かべている。
もっと詳しく聞いても? と、ずいっと身を乗り出してきたライアートさん。結構好奇心が強いみたいなのかな。
「図書館に本を探しにいったら、司書の方が教えてくれたの。探していた関連の本がドワーフ語とエルフ語でね。この世界は色々な種族が住んでいるそうよ」
「なるほど……少し前に、図書館に行ったのですが、目的の本しか読んでいませんでしたので」
「いつか会うのが楽しみよね。その言語の本を見ることで、技能に種族語が追加されてたから」
本を読むのは楽しいわ、と読書のススメをしてみよう。ライアートさんは眼鏡が落ちそうなぐらい驚いたままだ。そして、深く溜息を一つ。
「バードのケイさん。貴方はなかなか面白い人のようだ。よければ、少し色々お話しをさせてくれませんか?」
「おや、ライアート、ナンパかのぅ?」
ドガが茶化したわ。ライアートさんは少し慌てた様子で首を振っている。真面目な性格でもあるようだ。
「ふふ、ケイでいいわ。ライアートさん。私でわかることで良ければ……丁度いいわ。美味しい店を知っているの。甘いものはお好き? ドガもどうかしら」
慌てている様子がおかしくて、含み笑いしつつお誘いを逆にしてみよう。魔術師の話も聞いてみたかったしね。ドガも誘ってみたけれど、甘いものは好きじゃないとのこと。
「ケイ、酒も菓子もいけるのか……」
「辛口甘口、どんとこいよ? ここで食べても太らないしね」
「あの、では……ぜひ。甘いものは普通ですね。私のことはライアートと呼んでください」
よし、ならば決まったわ。露店を続けるというドガに、また後日と挨拶をして。本当によい装備を作ってくれて感謝しきれない。
そして、魔術師のライアートさんと一緒に、商店街の食事をとれる場所へと向うことにしよう。
―――ステータスカード――――――――――
<名>ケイ <種族>人族:Lv3
<職業>初心者詩人
駆け出し冒険者
<未実装>
<状態>健康 <空腹度>10
<習得技能>
楽器演奏LV9 歌LV8 精霊魔法LV6 杖術LV4 投擲Lv2
料理LV3 気配察知LV2 採取LV1 鑑定Lv9 野営Lv1
ドワーフ語LV3 エルフ語LV1 精霊語LV3
<習得スキル>
ヒーラー協会の加護(種族スキル)
<称号>初めての探索者<歩行補助>
初めての観察者<鑑定+1>
<所属>
[装備品リスト]綿の下着/巨大羊のシャツ&ズボン/巨大羊のショートローブ
黒狼の胸当て/黒狼の手袋/黒狼の長靴/練習用杖/練習用リュート/投げナイフ×5
[消耗品リスト]携帯食×5/初心者用ポーション×5/使い捨てランタン×5
[所持金:3000J]