いつ見ても青信号 3 【解答編】
解答編です。よくお考えになって、この先へ進んでください。
「カモちゃんは、全て分かっているみたいだね」
岡森が言った。俺は「探偵」との交代について誰にも話していないから、当然3人はこの状態の俺も「賀茂京介」だと思っている。
探偵が表に出ているときは、一人称は「俺」から「私」に、口調はやけに丁寧に、というように雰囲気がかなり変わる。が、なぜか誰にも気付かれていない。「探偵モード」などと呼ばれ、納得されているくらいだ。まあ、人格が入れ替わっているなどという、突拍子もないことに気付けというのは無理な相談か。
「ええ、分かっていますよ。『いつ見ても青信号』なのも、『青信号だから待たなければいけない』のも。どちらも論理的に推理できます」
「1つ目は、毎日同じ時間に家を出ていたからってだけじゃないのか」
春山が眉をひそめながら言った。
「それもあるとは思います。ですが、毎日全く同じ時間というわけではないでしょう」
このわけは、さっき俺が考えた通りだ。
「信号に捕まるタイミングに遭遇していたのなら、家を出るタイミングをずらすとは思いませんか? 1人で行うランニングですしね」
春山は首を傾げながらも、納得してくれたようだった。
「それにしても……面白い謎でしたね。ダブルミーニングになっていたとは」
ぽつりと呟くように、探偵が言った。ダブルミーニング? そうなのか? ……俺の考えでは、そうは取れなかった。探偵には、何が見えているのだ?
その時、得体の知れない違和感が俺を襲った。何かを見落としているような感覚。なんだ、さっき何か不自然なことがあった気が……。
「まずは、2つ目から考えることにしましょう」
だが俺の思考は、探偵が話し始めたことで中断された。
「『青信号だから待つ羽目になる』……これを考える上で大事なのは、タイミングです。先輩は、どのタイミングで青信号が見えたのでしょうか?」
「そんなの、この紅い星の位置、交差点に着いたときじゃ……あ」
岡森はそう言って、再び地図を凝視した(図参照)
「お分かりになったようですね。先輩が信号を見たのは、駅の立体交差を通り、階段を下りて歩道に出た瞬間だったのです」
そう――考えてみれば、単純な話だったのだ。俺が先程言いたかったのは、
『この交差点までは、距離がある』
だった。この考えが合っているということは、次の探偵の言葉からも分かった。
「ご覧のとおり、駅から交差点までは少し距離があります。歩道に出た時に信号が青であれば、交差点に着いた頃には赤信号に変わっていた可能性が高い。
つまり、信号を見た時刻と、信号に捕まった時刻にはある程度の時間のずれ――時差があったのです」
これこそが、俺がさっき閃いたことだった。煮詰まってしまった時、俺はそれと似たような感覚を味わっていた気がした。
それはまさに今日の、地理の試験でのこと。苦手な時差の問題を考えた時の感覚が甦ったのだった。
時差。時間差。そのことが頭に浮かんだから、俺は「青信号だから待たなければならない」理由に気付けたのだ。
「待て。この距離なら走って間に合いそうじゃないか?」
春山が言う。いや、けっこうあるだろ、距離……。スポーツが出来る奴らなら、大したことはないのかもしれないが。
「走るペースを変えるのが嫌だったとか?」
杉本が言った。岡森がそれに反論する。
「そうだとしても、信号に捕まれば結局は同じことさ。それなら少し早めに走っても、先に渡ってしまうんじゃないかな」
3人の間で意見が交わされる。だが、いずれにせよ結論は変わらないことにも、俺は気付いていた。
「いいえ、みなさん。確かに走れば間に合ったかもしれませんが、先輩はそうできなかったのです。少なくとも、全力疾走は無理だったでしょう」
「どうしてそう言える?」
春山が言った。ああ、もどかしい。本当なら謎解きしていたのは俺なのだ……。俺は、いつもは感じない悔しさの処遇に難儀していた。
「この点は、1つ目の謎の解明にも関わってきます。そちらから考えることにしましょうか。
ところで、紗妃さん」
探偵が杉本に顔を向けた。「え」と、杉本が呆けたような顔になる。
(おい、どういうつもりだ)
思わず探偵を問い詰めた。探偵は人に呼びかける時は苗字だ。こんな呼び方はしたりしない。
『いえね、私も岡森さんに倣ってみようかと。それに杉本さんだって、満更でもないかもしれませんよ?』
(余計なことせんでいい!)
俺は杉本に顔向けできない気分だったが、探偵は杉本を見つめたままだ。当然、視覚を共有している俺も杉本を見ることになる。
杉本は心なしか頰を赤らめながら返事をした。
「なに、カモちゃん」
「浅村さんから送られて来た、ランニング中の先輩の写真を見て、不思議に思いませんでしたか?」
それを聞くということは、探偵も気付いているのだ。あの写真の違和感に。
「ええと、分からないけど……やけに綺麗に写っていたわ」
そう。汗をかいていないのが分かるほど。
「ランニング中にもかかわらずですか?」
探偵の言葉を受けて、春山が気付いたようだった。「先輩は、その時走っていなかった?」
「いや、ちょっと待ってよ」
岡森が言う。
「駅の通路の中だよ? いくら広いからって、走らないのが普通じゃないかな」
「そうですね。ですが、スマホで写真を撮られてもぶれないほど速度を落としていたとは、考えにくいですよね。走らないとはいえ、早歩きくらいはしたでしょう。
しかしそうでなかったのは、理由があったからなのです」
「理由って……」
困ったような顔をした岡森に対し、探偵は説明を続けた。
「それともう一つ。なぜ浅村さんは、写真を撮ったのでしょうか」
「そんなの、あいつの熱心さからしたら、おかしくはないんじゃないか?」
春山が言った。浅村みなみの熱烈ぶりは余程のものらしいが、探偵が言いたかったのは別のことだろう。
「春山さん、そうではないのです。どうして直接話しかけるなりしなかったのでしょう」
「あ、確かにそうね」
杉本が手をポンと叩いた。春山も浅村みなみの不自然な行為に気が付いたようだ。
「まさか……そういうことか!」
いきなり岡森が叫んで、スマホで何かを調べ始めた。気付いたみたいだな。「どういうことなんだ?」と尋ねてきた春山に、探偵は決定的なことを告げた。
「立体通路は、人で溢れかえっていたのですよ。だから先輩は、ゆっくり歩かざるを得なかった」
その説明で、春山も理解したようだった。杉本が目を見開いて、「満員電車……」と呟いた。これが、俺が気付いたもう一つの事実。
浅村みなみが先輩を見た時、通路はどんな状況になっていたのか。杉本が言ったように、彼女は満員電車に乗っていた。そしてこの駅は、急行も停まる大きな駅だ。浅村みなみの他にも、大勢の人間が降りたことだろう。
「いや、そんな……だって、写真には先輩の他に誰も写っていなかったじゃないか」
「春山さん、先輩は2メートル近い高身長でした。ズームで胸から上を写した時、周りの人間が写らなくても不思議ではありません。
そして、こう考えると浅村さんが先輩に話しかけに行かなかった理由も分かります。通路が多くの人で混雑していたからです」
浅村みなみの他には、大勢の人間がいた――それはつまり、彼女はそんな場所で先輩を密かに撮ったということで、俺はそれに気付いた時なんとも言えない嫌な気持ちになった。
それは、同じようなことを自分も犯しはしまいかという、恐れにも似た気持ちだったのかもしれないが。
「やっぱり!」
その時、スマホを見ていた岡森が興奮した様子で言った。
「確か浅村さんが写真を送ってきたのは、19時だったよね? 今時刻表を調べたんだけど、その時刻は、なんと上り線・下り線の両方で急行が停まる時間なんだ!」
ということは、なおさら駅の通路は混雑しただろう。ちょっと考えれば分かることだし、志野原先輩や浅村みなみからすれば自明のことだったろう。だが、状況を聞いただけの俺たちにとっては、盲点となっていたのだ。
「そう考えると、さっきの謎は解けますね?」
「うん、分かったよカモちゃん。駅から交差点までの歩道にも、人が大勢いたんだね」
そうだ。だから、先輩は走れば間に合ったかもしれない青信号を見ても、十分に走ることができなかった。
「それは分かったけど……1つ目の謎とどう繋がるの?」
杉本が聞いてきた。
話が見えなくても無理はない。ここからは、ちょっと信じられない話かもしれないからだ。
だが、駅が混雑していたことが分かれば「いつ見ても青信号」になる確率は、確かに上がる。
「説明しますね。もし先輩が毎日同じ時間に家を出て、同じペースで走っていたなら、信号に捕まる確率が増すのは理解できると思います。
そして先程もお話ししたように、先輩は家を出る時間をずらしていた可能性があります。ですがそれにもかかわらず、先輩は同じタイミングで通路を出ることになった」
「おい、まさかとは思うが……」
春山が信じられないといった顔をした。ああ、俺も最初は信じられなかったさ。
「そのまさかです。駅が混雑していたことによって、先輩はタイミングを合わせられていたのです」
「えっと……どういうこと?」
杉本が首を傾げながら言った。
「先輩は、人混みによって進むスピードを遅らされていました。ですが、常に混み具合が一定だったわけではありません。電車が停まって、人が降りて来てすぐはかなり混んでいたでしょうが、時間が経てばそれなりに空いていったでしょう。
つまり、通路の混み具合に合わせて、先輩の歩く速さも変わっていたのです」
「う……ん……なるほど?」
目を泳がせながら杉本が言った。こいつ、絶対に理解できていない。
「紗妃ちゃん、こう考えるんだ。いつも信号に捕まるのに気付いた先輩が、家を出る時間を少し前にずらしたとしよう。そうしたら間に合うかもしれないからね。
だけど、もしそのタイミングが、ちょうど改札から出る人で通路が混雑するタイミングだったとしたら? 歩みを止められて、結局は信号に捕まるタイミングになってしまうよね」
「ああ……確かに」
杉本はこめかみを抑えながらも頷いた。
「じゃあ、今度は後ろにずらしたら? その時は、もう通路から人は捌けていて、先輩は走れはしないけど、早歩きくらいはできるだろう。
その場合は進むスピードが速くなるから、結局『待つ羽目になる』タイミングに調整されることになるんだよ」
「さすが岡森さん、分かりやすい説明ですね」
探偵が感心したように言った。岡森のこういうところを見ると、やはり学年一位は伊達ではないなと実感する。呑み込みが早い。
「信じられないな……そこまでタイミングが合うなんてことが、本当にあり得るのか?」
春山が天井を仰いで言った。まあ、信じられないのも無理はない。だが、
「春山さん、論理的に導き出した結論が、必ずしも事実を示しているとは限らないのです」
探偵が茶目っ気たっぷりの口調で言った。こいつも九マイルを知っていたことに俺は少しだけ驚いたが、探偵を自称するくらいだから、別に不思議でもないのかもな。
ともかく、これで第1の謎、第2の謎、ともに論理的な解答を示すことができた。……ああ、返す返すも、惜しいことをした。探偵の推理は、俺が思いついた内容と全く同じだったからだ。
不用意に「交差点」などと言わなければ、探偵も出てくることはなかったのに……いや、考えても仕方ないか。
そう思った瞬間、さっき感じた違和感が蘇った。そう言えば、探偵が言っていた「ダブルミーニング」、あれはどういうことだったのだろう……? 結局今の推理でも、特にそれらしきものはなかったが。
ん? それに……ちょっと待て! 俺は、頭を殴られたような衝撃を感じた。探偵と交代している最中は痛覚が鈍くなっているのだが、そんなことはどうでもいい。ただの比喩だ。
俺は探偵に問いかけていた。
(どうして――お前は表に出てきた?)
『ふふ、気付いたようですね。もう分かっているんじゃないですか?』
――探偵が現れる条件は、「さて」と口にすることだけではない。もしそうだとしたら、日常生活に支障をきたすレベルで交代が起きてしまう。
そうではなく、前提条件として「俺にはどうしようもない謎」である必要があるのだった。そうか……だから俺は不思議だったんだ。
俺はてっきり、今回の謎に解答を与えられたと思っていた。だが、もしそうだとすれば探偵が現れるはずがない。その謎はもう俺にとって「どうしようもない」わけでも何でもないからだ。つまり――。
俺には気付けなかった事実が、まだ隠されていたということだ……。
「ところで、みなさん。気付きませんでしたか? まだ1つおかしな点が残っているのを」
「どういうこと? カモちゃん。これで終わりじゃないの?」
「ええ、杉本さん。先輩の発言には、実はもう一つ奇妙な部分がありました」
ああ、やはり……探偵には見えていたのだろう。俺が気付くことさえできなかった謎が。同時に、その答えも。俺はさっきまでの自分を殴りたくなってきた。
「『いつ見ても青信号なんだ。だから待つ羽目になる』――先輩の発したこの発言のうち、もう1つの謎というのは、『待つ羽目になる』という部分です」
「それは、第2の謎と何が違うの?」
杉本が尋ねた。俺も探偵の言葉を待つ。
「第2の謎の謎たる所以は『青信号だから待つ』という矛盾にありますが、第3の謎は『待つこと自体』が謎なのですよ。
先輩が待たなければならないこと自体、不思議ではありませんか?」
「いや、交差点にたどり着いた時に赤信号になっていたんだろう? 待つのは当たり前じゃないか」
春山の反論に対し、探偵は静かに首を振った。
「もう一度地図を見せてください、岡森さん。先輩が公園まで行くためには、交差点の左下から右上まで移動する必要がありました(図参照)
ここで考えて欲しいのですが、もし南北方向の信号が赤だったとして、春山さんならどうしますか?」
「ん? だから待つしかない……あ、そうか!」
春山が何かに気付いたように叫んだ。さすがに俺も気付いた。だから、待つこと自体おかしなことだったのか。
「この地図で上に進めないなら、先に右に行けばいいじゃないか!」
「その通りです。普通の信号の場合、先ほどの話にもあった通り、ある方向が赤ならそれと交わる方向は青になりますから。
先輩は斜め方向に進みたかったわけですから、先に進むのが北であっても東であってもどちらでも良かったはずです。言い換えれば、この紅い星の地点で待つことはない」
「ちょっと待って、カモちゃん。そうだとしても、横断歩道を一つ渡った地点で、結局待つことになるんじゃないかい?」
確かに、岡森の言う通り、そう考えれば「待つこと自体」が謎だという探偵の考えは否定されることになる。
「いいえ、それでもやはりおかしいのです。もし交差点の右下、もしくは左上の角で待つことになったとしましょう。それならば、わざわざ『待つ羽目になる』なんて言い方はしないのではないですか? なぜなら、かなりの確率で結局は待つことになるからです」
あ、そうか。そもそもどうしたって待つことになるのだ。それを「羽目になる」と表現するのは、確かに少しおかしい気もする。
「待たなくていいタイミングも、あるにはありますがね。どちらかの方向で青信号が点滅している時に渡った場合です。その時はもう一つの方向の色がすぐに赤から青に変わりますから、待ち時間はほとんどありません。
ですが、それはむしろ特殊な状況でしょう。そのタイミングに合わなかったからと言って『待つ羽目になる』と表現するのは、やはり不自然です」
「じゃあ……賀茂は、分かっているっていうのか。その謎の答えも」
「ええ、もちろんです、春山さん。この謎――第3の謎が、謎ではなくなるような交差点が存在するのですよ」
ああ、ダブルミーニングと言ったのは、このことだったのか……。
「先輩は確かに、この紅い星の地点で待つ羽目になったのです。そうなるためには、全ての歩行者用信号が赤信号であればいい。
つまり、この交差点の信号は、歩車分離式だったのです」
歩車分離式信号――車両と歩行者が交錯するのを避けるため、車両用信号が青の時は全方向の歩行者用信号を赤にして、逆に歩行者が横断する際は全方向の歩行者用信号を青にして、完全に車両の通行を止めてしまうタイプの信号だ。
スクランブル交差点と言えば、分かりやすいだろう。
(だから「ダブルミーニング」なんて言ったのか。時差式信号とも言うもんな)
第1の謎の答え――青信号を見た時と信号に捕まった時の「時差」とかけていたのだろう。すっきりした気持ちで探偵に言ったのだが、あきれたような声で俺の考えは否定された。
『ああ、それよくある勘違いですよ。歩車分離式信号機と時差式信号機は全く異なるものです。
時間がないので詳しくは言いませんが、時差式信号機は道路の上下方向によって青信号の長さをずらしてある信号のことですよ。あとはご自分で調べてください』
え、そうなのか……。確かに、車に乗っていると(岡森ではないが、当然助手席にだ)、こちら側は赤なのに、まだ向こう側から車が走ってくる時がある。あれが時差式信号か。向こう側は、まだ青信号なのだ。
そして、探偵が言った「時間がない」という言葉で、俺は残り時間のことが気になった。探偵は10分しか表に現れることができない。もうかなり話しているが、間に合うだろうか。
それに、結局ダブルミーニングが「時差」のことではないのなら、いったい何だったんだ?
探偵は少し早口で、急ぐように言葉を続けた。
「これで、全ての謎は解けました。
第1の謎――『いつ見ても青信号』の答えは、駅の通路が混雑していたこと。
第2の謎――『青信号だから待つ羽目になる』の答えは、信号を見た時と信号に捕まった時の時差。
そして第3の謎――『待つこと自体』の答えは、歩車分離式信号機、つまりこの交差点がスクランブル交差点だったこと。
以上が、先輩の発言から論理的に推理できたことです」
「いやはや……よくもあの情報からここまで推理できるものだね」
「ちょっと無理やりっぽいよな、やっぱり」
岡森と春山が、それぞれ感想を口にする。だが2人の顔はそろって晴れやかだった。思考ゲームとしては、うまくいったんじゃないか?
そして杉本は――いきなり、手をつかんできた。目がキラキラと輝いている。触れている感覚はかなり希薄なはずなのに、俺はどきりとしてしまった。
「カモちゃん――凄いわ! やっぱりカモちゃんは『休み時間探偵』よ! 名探偵だわ!」
頬を上気させて、俺の手を握ったまま手を上下にぶんぶんさせる。無心でやっているのだろうが、興奮しすぎだろ。
探偵も探偵だ。黙っていないで、早く手を放して差し上げろ。
だが、探偵と交代しておいて良かった。生身でこんなことをされたら、平静でいられる自信なんて、とてもじゃないが無いからな。
そういえば、結局「ダブルミーニング」のことを聞いていない。俺は探偵に尋ねてみた。そしたら探偵は、心の中で俺と会話しているのも忘れて、その答えを実際に口にした。
「よくぞ聞いてくれました!
先輩が渡ったのはスクランブル交差点、そして先輩がいつも青信号を見ることになったのは、駅の通路で人混みの中、もみくちゃに――かき混ぜられていたから。
そう、スクランブルされていたからなのです!」
探偵がそのようなことを大音声で叫んだ瞬間、再び世界が反転した。お、おい……それはいくら何でもあんまりだ!
『どうしたのですか? カモさん。最後に私、かっこよくキメておきましたけど』
馬鹿やろう! あんな寒いことを言うやつがどこにいる!
ちょうど時間だったのだろう。探偵は再び身体の奥へ、そして入れ替わりに俺は表層に。
ああ、俺はなんて顔をしたらいいんだ……。
気付いた時には交代は終わっていた。
「カモちゃん……ウィットだね」
いつもはにこやかな岡森が、真顔で言った。しかも棒読み。春山に至っては何も言わず、可哀想な人を見る目で俺を見ていた。無言はやめて欲しい。
そして杉本はと言うと、つかんでいた手をすっと放して、
「さて、勉強しましょうか!」
とても素敵な笑顔を俺に向けた。何も言わなかったことにしてくれたらしい。
失敗する余地があれば、失敗する。珍しく頭が冴えたと思ったら、このざまだ。
こういうのを、マーフィーというのだろう。
「いつ見ても青信号」 了
「休み時間探偵」の「休憩」ってなんだ。
どうも、みのり ナッシングです。本話をお読みいただきありがとうございました。
【挑戦状】の答えは……もういいですね。お読みいただければ該当の2語は明らかになったのではないでしょうか。
そして、たくさんの米ント(おっと、他作品の癖で)、ご感想、メッセージをありがとうございました。返信が滞っておりますが、1つずつお返しさせていただこうと思いますので、気長にお持ちいただけると嬉しいです。
曲がりなりにもミステリを書く者として、自作品で推理対決ができたのは夢の様でした。またいつでも、ご感想・推理・忌憚なきご意見があれば気軽にお声がけください。
さて、今回は時系列的には前話「ゴッホの横顔」の数日前のお話となります。「ゴッホ」につながる描写も入れてみたのですが……気付かれましたでしょうか?
次回からは六月編に入ります。テーマはずばり「恋」! カモちゃんたちの関係性の変化に注目ですね。私も今から描くのが楽しみで仕方がない。
また1ヶ月くらいしたらぽっと更新されると思うので、その時はカモちゃん達をよろしくお願いします。




