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入学式と生徒会 その3





副会長の左腕に巻き付いた細い糸。


よく見ると左腕だけではなく、全身に巻き付いている。


俺はこの糸が何なのか知っている。この糸は魔法だ。

そして、この魔法が使える人を俺は1人しか知らない。



「助かったぜ、春臣。」


「遅くなってゴメンね、幸輝君。後は任せてよ。」



久我山 春臣の使う魔法。

俺たちは見たまま糸魔法と呼んでいる。



副会長を縛り上げている糸は春臣の指先から伸びている。一見して細くて、すぐに切れてしまいそうだが、そこら辺のワイヤーなんかよりも鋭く丈夫だ。



「何をしてる副会長?そんな糸クズ引き千切るんだ。」


「やめておいた方がイイですよ?あんまり無理するとって………もう遅いですね?」



目の前にいる副会長の異変にはすぐに気が付いた。左腕が大量の血が流れている。

恐らく左腕に巻き付いた糸を引き千切ろうとしたのだろう。



「動かないでください。妙な動きをする様なら、その左腕切り落としますよ?」



春臣の警告を聞いても全く表情を変えない副会長と、嬉しそうな顔で春臣を見つめる悪魔の様な女。

彼女は笑いながら



「おい、君は新入生だよな?名前は何だ?」



春臣は答えるかどうか一瞬迷っていたが



「…久我山です 。久我山 春臣。」



控えめの声量で名乗った。

名前を聞いた瞬間…というよりは苗字を聞いた瞬間に驚いた表情をして質問を続けた。



「久我山だと?じゃあ君は久我山 四季さんの息子かい?」



すると今度は春臣の方が驚いた。いや、動揺したと言った方がいいだろうか。


「父を知ってるんですか?」


何だ?知られたら困る事なのか?


確かに俺も知らなかったけどな。

そうなのかあいつの親父、四季さんって言うのか。


などと考えてると、2人は会話続けた。



「そうか…いいねぇ、君は合格だよ久我山君。これは最高の掘り出し物だよ。」



と恍惚の表情を浮かべている一方春臣は



「合格?いや、そんな事より何で父の名前を知ってるんですか?もしかしてあなた…」



と、春臣が質問を投げかけようとしたが、それは彼女の一言にかき消された。



「副会長!魔法の使用を許可する。」



魔法?

魔法だと?副会長は魔法が使えないんじゃないのか?


それに春臣と副会長は数十メートル離れている。

例え、何かしようとしてもその前に春臣に制圧されるのが目に見えている。



「妙な真似をしないでください。痛い目にあいたくないでしょう?」



春臣が両腕に力を込めて副会長の体に巻き付けた糸を縛り上げる。


出血している左腕から更に血が噴き出し、光を放っている。



光?



「そのまま、床に両膝を付けてください。」



何だか嫌な予感がする。



「ダメだ春臣、糸を切るんだ!!」



俺が言い切る前に、副会長の左腕が激しく光り、春臣の糸をたどって電撃が走った。



「ぐぁぁああああああああああああああ」


「春臣‼︎」



副会長の魔法に直撃した春臣は全身を激しく震わせながら苦しみの叫びをあげた。



(一体何なんだよ?あいつは魔法が使えないんじゃなかったのか?)



俺がパニックを起こしていると、副会長が糸に流している電撃を止めた。

そして春臣は糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。

崩れ落ちる春臣を夜々木が受け止めた。



「春君⁈しっかりして!」



だが、完全に意識を失っている様で返事がない。



「ちくしょう!春臣‼︎」



全身が痛むがそんな事は気にならなかった。無我夢中で倒れ込む春臣に駆け寄った。


電撃をくらってボロボロになったしまった春臣を見て、俺の中で怒りの感情がふつふつと湧き上がってきた。


だが、そんな俺よりも…………夜々木が先にキレた。



「もう許さない…」



夜々木は静かに呟くと副会長に立ち塞がる様にして、俺と春臣の前に出た。



すると今まで静観していた悪魔の化身のような女が、初めて椅子から立ち上がり、笑いながら



「へぇ…ようやく魔法を使うんだね?待ちくたびれたよ。さぁ副会長、彼女の魔法がどれほどのものか確かめるんだ。」



指示を受けた副会長が黙ってこちらに歩いてくる。

このままじゃ大変なことになっちまう。俺が止めるしかない。


だが俺が静止する前に夜々木が魔法を放つ準備を始めた。

さっきの俺と似た構えだ。けど俺とは違って両手を副会長に向けている。


それを見た副会長たちは怪訝そうな顔をしている。



「何だ?……放射魔法か?どこまでもくだらないな。もういい…副会長、やれ」



「おい待て、止めろ‼︎()()()使()()()()()()!」



焦った俺の様子を見て副会長は歩みを止めた。



そして椅子に座りなおしていた彼女は夜々木の両手に集まる桁違いの魔力を見た瞬間、副会長に向かって叫んだ。




「おい副会長‼︎避けるんだ!」





その瞬間だった。



夜々木の両手から、爆発したんじゃないのか?という程の炎が放たれ、副会長とその後ろで座っていた女も巻き込んだ。





(おいおい、あの二人死んだだろ?)




夜々木の放射魔法は部屋中を覆い尽くしていた。その威力たるや、俺の放射魔法がまるで水鉄砲に感じるほどだ。


だが真面目な話、夜々木の後ろにいり俺ですら彼女の魔法の余波で動く事ができない。


けど、もう収まるはずだ。夜々木の貧弱な筋力でこの威力の魔法の反動に耐えるのは無理なはずだ。



すると俺の予想通り



「ふゆぅ」



とあざとい悲鳴をあげながら尻餅をついた。そしてそれと同時に放射魔法も止まった。



「やり過ぎだ、このバカ!」


「ご、ご、ごめんなさい。」


「これもう…あの二人死んだだろ……どうすんだよ?」



俺が夜々木に折檻していると訓練室の奥から声が聞こえた。






「今のは、放射魔法なのかい?」



(マジかよ!あの魔法をくらって無事なのか?あの女は)



思わず戦慄したが、声のした方を見ても夜々木の炎が邪魔で何も見えない。


夜々木の放った炎が完全に消えて無くなると、彼女の姿が見えてきた。



「放射魔法ってのはさ、魔法が使える人間だったら子供だって使える一番簡単な魔法のはずだよ?間違ってもこんな威力は出ないはずだろ?」



その魔法をいったいどうやって受け止めたんだこの女は?



俺の疑問は彼女が展開している魔力壁とその姿勢を見て理解した。

彼女は片膝立ちの姿勢で魔力壁を斜めに展開していた。



「正面から受け止めずに斜めに受けて、受け流す形で夜々木の魔法を防いだのか。」



だが、それでも彼女の魔力壁は夜々木の魔法でボロボロになっていた。



「ふん!僕の事はどうでもいいよ。そんな事よりも千駄ヶ谷さん。君も合格だよ。正直に言って魔力測定の装置をぶっ壊した生徒がいると聞いた時は驚いたよ。だけど半信半疑で君を呼び出して、君の魔法を見て確信したね!」



彼女は両手を広げて仰々しく、高らかに宣言した。



「僕は千駄ヶ谷さんを生徒会に入れる。ユニークな糸の魔法を使った久我山君も生徒会に入会してもらおう。」



生徒会だと?薄々思っていたがまさかこの女が?こんな女が?



「ようこそ生徒会へ!僕が光源高校生徒会長の歪花 雫(まがりばな しずく)だ。」



本当にこんな奴が生徒会長なのかよ。こんな奴が神奈川県の代表なのかよ。


待てよ?という事はさっきの金髪ヤンキーが生徒会副会長なのか?

そういえばさっきからずっと姿が見えないぞ?


俺は訓練室を端から端まで見渡したが、あの金ピカ野郎が見当たらない。



「もしかして副会長を探してるのかい?なら…上を見てみるといい。」


「上だと?」



生徒会長に言われるがままに上を見るとそこには、訓練室の照明に副会長がぶら下がっていた。


「嘘だろ⁈」



副会長は俺に気付かれた事を確認するとそのまま落下して、そのまま流れるような動きで俺に近づいて来た。


体を左側に大きく屈め、伸び上がるのと同時にフックを叩きつけてきた。


魔力で肉体を強化しているが、それでももう限界だ。

足元がおぼつかない、意識が吹き飛びそうだ。



「さて、千駄ヶ谷さん。君はもちろん生徒会に入ってくれるよね?」


「は?何言ってるんですか?こんな事されて素直に入るわけないじゃん‼︎」




「知ってるよ…副会長その気になるよう説得してくれ。」


「こっち来ないで‼︎」



夜々木は抵抗しているがすぐに追い詰められている。

身体能力が最低レベルの夜々木が副会長から逃げられるわけもない。



「ぐぅ…離してよ…」



副会長は夜々木の首を締め上げている。



俺はそれを見ている事しかできない。



「おいおい、首の骨を折るなよ副会長?」



会長はこの光景を見て心の底から楽しそうにしている。



俺はそれに何も言う事が出来ない。




あの二人に怒り湧き上がる。


だが、それ以上に自分の無力さに怒りが湧き上がる。

親友を二人も傷つけられて、それに対して何も出来ない俺に嫌気がさす。



ボロボロになった春臣と首を締め上げられ続けている夜々木を見ているだけの俺は…一体何をしているんだ?


俺には何が出来る?二人を助けられるのか?


副会長を倒す事が出来るのか?

魔法が通じないあの化け物に勝てるのか?



(考えろ……考えるんだ…)


弱点があるはずなんだ。きっとどこかに弱点が。

魔法が効かない訳じゃないはずだ、あくまでもランクの低い魔法を弾いているだけだ。


だが副会長の守りを貫くほどの魔法は俺には使えない。

しかも皮膚だけじゃなく、髪の毛ですら魔法を弾いてしまう。

まったく隙がない。


(………待てよ?)


魔力が皮膚を通っていかないのなら、どうやって体内に魔力を貯め込んでいるんだ?



人間の体内には魔力を作り出す器官なんて存在しない。



魔法を使う時は大気中にある魔力を一度体内に吸収しないといけないはずだ。



ある程度は体内に貯めていられるが、いつかは底をつく。





最低でも1回は体の中に魔力を通しているはず…



恐らくどこかにある。




副会長の弱点、魔力抵抗が低い所があるんだ。




さっきの副会長の魔法は、左腕の傷口から出たように見えた。


けど実際に傷が出来たのは春臣の糸魔法のせいだ…




傷口から魔力を放出してはいるが入っていったのはそこじゃない。


副会長の体表は魔力抵抗が高い、けれども傷口からは魔力が出ていっている。



つまり副会長の弱点は……さらに攻撃できる場所といえば、




(思い付くのは1箇所だけだ。だけど…)





これは賭けだな。失敗したらタダじゃ済まない。









てか、今日は入学式のはずだろ?


(なんでこんな事になったんだ?)


――――――――――――――――――――――――――




「おい!いい加減その手を離せよ。この金ピカ野郎‼︎」





副会長は黙って視線だけをこちらに向ける。

生徒会長は呆れ果てた顔をして





「なぁ…君の出番はもう終わっただろ?君に今更何が出来る?」



「副会長を倒して夜々木を助けてみせる。」



「へぇ……副会長を倒す…とは大きく出たね?面白い‼︎」




じゃあ、と生徒会長は笑いながら提案してきた。




「もし副会長にダメージを与える事が出来たら、君も生徒会に招待しよう。」



「そんなのお断りだ。」



「ふん…おい副会長……出番だ。」




副会長は夜々木を締め上げるのを止めると、真っ直ぐ俺に向かって来た。




夜々木は床に叩きつけられて気絶してしまった。




俺は夜々木の事を気にしながらも、右手を副会長に向ける。





さっきと同じ放射魔法の構えだ。それを見た生徒会長は少しイラついた様子で、



「デカイ啖呵を切ったから何か秘策があるとおもったけど、馬鹿のひとつ覚えじゃないか。」



「どっちが馬鹿なのか試してみるか?」




イメージするのは、やはりさっきと同じ炎だ。

そして



「これでどうだ!」






俺は右手に魔力を込め放射魔法を副会長に向けて放った。

さっきよりも威力がある炎は一瞬にして副会長を包み込んだ。




――――――――――――――――――――――――――




「つまらないな…」




あの一年の放射魔法を見て感じたのはそれだけだった。




結局はさっきと一緒じゃないか。



さっきと同じ放射魔法で、さっきと同じ炎、 威勢がいいだけのヤツだったな。

また、さっきと同じで副会長の魔力抵抗に弾かれておしまいだ。




だが、違う事が起きた。






副会長が放射魔法を弾いた瞬間…





弾いた炎の中からあの一年生が飛び出して来た。




――――――――――――――――――――――――――











俺は放射魔法を放った瞬間、迷わず副会長に向かって走った、俺の姿は炎に隠れてあの2人から見えていないはずだ。






副会長が俺の魔法を何も考えず弾いたが、その時にはもう遅い。







俺はもう副会長の目の前まで近づいている。




さすがの副会長も驚きで口が開いているが、それも仕方ないだろう。



わざわざ自分のレンジに入ってくるとは思っていなかっただろう。






(今だ‼︎ここしかない)









イメージするのは電気。

放射するのも指先だけに抑え、一点集中させるんだ。






狙う場所は()()()()()‼︎






「喰らいやがれ!」





俺はそう叫びながら()()()()()()()に指先を突っ込んだ。



そして全身全霊全力で魔力を流し込んだ。








「ガァぁぁぁあ⁈」





効いている!




やっぱりだ、この人は身体の表面は確かに魔力を弾いている。


けど、身体の内側……例えば口内なんかは魔力抵抗が体表ほど高くない。






故に俺の魔法でも十分に効果がある。










が、俺の方が限界だ…全力で魔力流し込んだけど10秒も持たなかった。







頼む、倒れろ副会長…




「ぐ……あ…」








倒れろ、倒れろ、倒れろ












俺の祈りが通じたのか………副会長は膝から崩れ落ちた。





それを見た瞬間、緊張の糸が切れてしまい、全身から力が抜けて思わず座り込んでしまった。





「勝ったのか?」






だけど勝利の愉悦にひたっている時間はなかった。

生徒会長様は納得していない様子で。




「ふん…勘違いするなよ?今回は副会長が君の事を舐めてかかっていたから、たまたま一撃入れられただけだ。」




「それでも………それでも、俺は彼を倒したぞ。」






それを聞いた会長はイラついた様子だったが、俺の背後を見てニタリと笑いながら俺に向かって言った。






「倒しただと?君が副会長を?調子に乗るのも大概にするといい。」



「どういう……事だよ?」










音がする。







きぬ擦れの音が、する。









そんな…確かに倒れたはずだろ?



俺が恐る恐る背後を確認すると、







副会長が俺を見下ろして仁王立ちしていた。






「嘘だろ?まだ立ち上がれるのかよ。」






もう……ダメだ…。



ほんの少しも体を動かすことが出来ない…。







副会長は黙って俺の方に近づいてくる。




また…このパターンかよ。






副会長は左腕をこちらに向けて伸ばして来た。






俺は反射的に目を閉じてしまった。























「いい魔法だったぜ。」





「……………え?…」






予想外の言葉をかけられた俺が目を開けるとそこに映ったのは、優しく微笑みながら俺に手を差し伸べてくれている副会長の姿だった。





「どうした?立てねーか?」




「あ、いや……」




「ほら…手を出せ。」




「あ……ありがとう…ございます。」






誰だアンタ⁈



てか喋ったああぁぁぁ⁈



副会長のヘルプを受けながら立ち上がると、不機嫌な様子生徒会長が目に入った。





「おい…何やってるんだ副会長?そんな事は命令してないぞ。」



「こいつは俺にはダメージを加えたんだ、それでもういいだろ?」



「……………………チッ」





生徒会長は明らか不服そうだが副会長はそんな彼女を無視して、俺に話しかけて来た。



「おい、一年。」


「は、はい!」




「俺は光源高校生徒会副会長、野晒 次狼(のざらし じろう)だ。これからよろしくな。」





よろしくと言われた瞬間、副会長に一撃入れたら生徒会に入れてやるという会長の言葉がよぎった。





もしかして生徒会に入るのが決定したのか?









シンプルに嫌。











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