入学式と生徒会 その2
夜々木と春臣と別れてから自分のクラスに向かい、前もって割り振られていた席に座って待ってると、担任の教師が来て簡単なHRと自己紹介を行なった。
「担任の五十嵐だ。好きな物は金と女だ………先に言っておくが俺の言うことを聞かない奴には体罰も辞さないからな?そういう事で始業式までは教室で待機しとけ。」
パッと見た感じで40歳過ぎの男はそう言って、無精髭を生やしたアゴをさすりながら教室を出て行った。
何か他に言う事なかったのかよ?
好きな物は金と女の時点で最低なのに、体罰もやりますって…………完全にスリーアウトだよ。
しかし、改めてクラスに来てみて感じたのが
「何か思ってたよりも普通だな」
という事だった。
誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、隣の席に座ってる男子生徒に聞こえていたらしい。
その男子生徒は、周りに聞こえない様にヒソヒソと話しかけてきた。
「確かに。魔法の心得があるものは、変わり者が大半と聞いたゆえ警戒しておったが、少し拍子抜けしたでござるよ。」
「え?ああ、そうだな。魔法使いってユニークな人が多いからな。」
急に話しかけられたので少し声が裏返ってしまった。
そして、もうすでに第一声がユニークな彼が笑いながら続けた。
「おっと、失礼。拙者の名は坂本 龍馬というでござるよ。」
坂本 龍馬…名前がもうすでに普通とは言い難い彼の容姿は、綺麗な顔立ちとキリッとした眼差しで黒髪ロングを首の後ろでまとめてポニーテールにしている。
ハッキリと言わしてもらうと全然普通じゃないな。むしろユニークな魔法使い代表って感じなんだが?
ブーメランを投げながら自己紹介をしてくれた彼に俺も自己紹介をした。
すると、坂本はうんうんと頷きながら鋭い眼差しで
「なるほど、して明日葉殿は部活動はすでに決めておられるか?」
「部活?」
部活か…これでも小さい時はサッカーを友達とやっていたが、中学に入る時にはやる気も友達もいなくなっていたな。
当然といえば当然だ。
魔法使いは公式戦に参加する事が出来ない。魔法を使った不正行為を防ぐためだ。
精々が練習試合に参加できる程度。
だが、その練習試合や挙句は身内での遊びでも、魔法使いがいれば険悪な雰囲気になる時もある。
魔力で肉体を強化していだとか、俺だって言われた事がある。
だから、俺の答えはもう決まっている。
「いや、部活に入る気はないんだ。」
「そうでござったか。いや、残念。共に手芸部に入るのはどうかと思ったのだが。」
手芸部かよ。
正直に言うと剣道部かなって思ってたよ。
でも、確かに手芸なら魔法は関係ないのか?なとど考えてると。
「気にする事はないでござるよ。拙者1人では、不安も確かにあるが、カワイイ女子とたくさんお喋りして、彼女をゲットしてくるでござる。」
動機が不純すぎる。
なるほど、坂本どう言う人間なのかもうわかった気がした。
「しかし部活に入らないとは、まさか生徒会に入るつもりでござるか?」
「まさか。そもそも一年生で生徒会に入るなんて無理だってば。」
「いやいや…それが不可能でもないでござるよ。」
「どういうことだ?」
「実は、拙者が仕入れた情報によると、現在の生徒会のメンバーはたったの2人らしいでござる。しかも、新しいメンバーは生徒会長が自ら勧誘していると聞く」
「何でそんな事を?生徒会に欠員なんて出たりしたら、空席の取り合いが始まるはずなのに?」
「何でも現生徒会長がどうも訳ありのようで…情報によると一年生にして生徒会長の席に登りつめたんだとか」
マジかよ?
生徒会長って言ったら学生達のリーダーとかそうゆうレベルじゃない。
学校の代表…もっというと神奈川県の魔法使い代表みたいなものだ。その辺の教師よりも権力があるとも聞く。
それを一年生…いや、もう二年生になるのか。一体どんな人なんだ?
「でも、正直言って生徒会には興味ないな、俺。」
「拙者も生徒会役員の特別待遇には心惹かれたでござるが、流石に役員となると責任重大でござるからな。」
特別待遇なんてのもあるのか…
キメ顔で責任のない人生を送りたいと豪語する坂本を冷めた目で見つめていると、担任の五十嵐先生が帰って来た。
「うっし、じゃあこれから入学式やるから体育館に行くぞ、ついて来い。」
言われる通りについて行くと、巨大なスタジアムの様な場所に着いた。ここが体育館なのかよ。
しかし、ここに着くまでに校内を軽く見て思ったが、この学校は俺の想像よりも広いな。棟の数が半端じゃない。
「おーし、お前ら2列に並んでそのまま静かに待機だ。」
言われるがままに整列したが、流石に生徒達はざわついている。
周りを見るともう他のクラスの生徒は来ている様だ。
しばらく待っているとアナウンスが流れた。
「これより光源学校第101期生の入学式を実施いたします。」
――――――――――――――――――――――――――
入学式は何事もなく終わった。
魔法測定とやらもヘンテコな機械に魔力を流すだけでおしまいだ。
だけど魔力測定の時に立ち会ってくれた真っ赤な髪の女教師がビックリするくらい綺麗だった………明らかに日本人では無かったけど。
しかもかなり暴力的で肉感的なスタイルだった。
その証拠に坂本の鼻の下が地面に着いていた。
そのあとは五十嵐先生の適当なHRを適当に聞いて、俺は昇降口に直行した。
「何か思ってたよりも普通だったな。」
俺は昇降口で先に来ていた春臣と夜々木に向かって言った。すると2人とも笑いながら
「確かにね、魔法学校って言うくらいだから、奇人変人の集まりかと思ってたよ。」
「変わった奴なら俺のクラスにいたけどな。二人のクラスには変わった奴いなかったのか?」
「うん、みんな真面目そうな人で安心したよ。」
お前達よりも変わった奴は中々いないだろと、ツッコミを入れようとしたが、やめた。
それにしても夜々木が何だか静かだな。いつもなら自画自賛と他人への罵倒で口を閉じないのに。
「夜々木?具合でも悪いのか?」
「え?…いやいや、何でもないよ。元気だよ。うん。」
何だか様子が変だな?
弱々しく元気アピールをしている夜々木を俺が注視していると、春臣が
「そういえば夜々木ちゃん?魔力測定の時に立会いの先生と何か話してたけど、あれは何だったの?」
「………ナンデモナイヨ。」
「おい夜々木、お前まさか…」
何か問題を起こしたな?という問いは、まったく同じタイミングで鳴った放送にかき消された。
「あー、1年の千駄ヶ谷 夜々木さん、第3訓練室に来なさい。大至急だ。繰り返さない。以上だ。」
女の人の声だった。
ピンポンパンポーンといって放送が終わると……春臣は困惑しながらも何かを確信した様子だった。
それに対して、夜々木は泣きそうな顔をしている。
「クロだな。」 「クロだね。」
「違うもん!私は何もやってないもん!」
「はいはい、犯人はみんなそう言うの。」
「夜々木ちゃん…謝りに行こうか」
「何もしてないってば!そんな入学当日に問題起こすわけないじゃん‼︎」
「冗談だってば。そんな怒るなよ。俺たちだって夜々木が悪い事したとは思ってないよ(嘘)。でもさ、何か心当たりはあるんだろ?」
「……うぅー」
いつもはマイペースな夜々木だが、本当に困ってるなコレは。さて、どうしようかと考えていると春臣が
「とりあえず第3訓練室に行ったほうが良いよね?確か、訓練室は隣の棟にあるはずだよ」
「え?私が1人で行くの?2人とも着いて来てよ。」
夜々木が泣きそうな顔で袖を引っ張ってくる。しょうがないなと言うと、夜々木は少しホッとした顔で
「ありがと。じゃあ行こ?」
俺と春臣は袖を引っ張られながら、訓練室とやらに連行された。
――――――――――――――――――――――――――
呼び出された訓練室の前に着くと扉の前に、夜々木は
「2人はここで待っててね?」
夜々木はあからさまに嫌そうな顔をしていたが、覚悟を決めた様子で扉の前に立つと
「先に帰ったらダメだからね?」
涙目になりながら俺と春臣に懇願して、ドアノブに手をかけて、
「絶対だからね?」
「さっさと行け!」
俺に叱責された夜々木はブツブツ言いながら訓練室に入っていった。
夜々木が訓練室に入って10分ほどたった。
俺と春臣が壁にもたれかかって話していると、訓練室の中から夜々木の悲鳴が聞こえた。
「おい、聞こえたか?」
「夜々木ちゃんの悲鳴だったよね?」
「中に入るぞ、春臣。って何だこれ、鍵がかかってやがる。」
緊急事態だから仕方ないと思いながら俺と春臣は扉を蹴り破り、訓練室に入った。
中には夜々木の他に、2人の男女がいた。
夜々木は訓練室の真ん中で尻餅をついている。
そして、彼女の正面にいる金髪の男が夜々木に向かって手を伸ばしている。
構図だけ見れば明らかに夜々木が襲われている。
「おいお前、夜々木に何をしている⁈」
金髪の男はこちらの方に黙って視線を向けた。
しかし、こいつはこの学校の生徒なのか?制服も俺たちのとは違うし、髪はボサボサで目付きの悪さが半端じゃない。
しかも、俺たちが乱入して来ても何も喋らない。不気味なヤツだ。
「なあ」
もう1人の女子が口を開いた。
肩まで届かないくらいの黒髪で綺麗な顔立ちをしている。 訓練室の中に1脚だけある椅子に座っている彼女は
「部外者は黙っていてくれよ。」
凍えるようなトーンで、俺たちに言い放った。
俺たちには全く興味が無いよと言わんばかりの対応だ。
実際そうなのだろう、彼女は視線すらコッチに向けないのだから。
「良い加減にして下さい。なんでこんな事をしているか説明くらいあったっていいでしょう?」
春臣が、金髪と夜々木の間に割って入った。
そして金髪の男に向かって
「あなたも何か言ったらどうですか?」
今まで一言も喋ってない彼に言ったようだが、それでも全く反応はない。
すると、椅子に座ったままの彼女は少しだけイラついた様子で
「おい、副会長まずはその邪魔な部外者共から片してしまえ。」
瞬間、副会長と呼ばれた男が目にも止まらぬ動きで、目の前にいた春臣を蹴り飛ばした。
「ッ…」
「春臣!おい、何するんだお前!」
「春ちゃん!」
蹴り飛ばされた春臣は壁に叩きつけられた。あまりに突然の事に声も出ない様だ。
心配した夜々木が春臣に駆け寄り、俺は2人を守る様にして副会長の前に立つ。
そして、少しだけ迷ったが、俺は右手を前に出して魔法を出す構えをとった。
すると、椅子に座って退屈そうにしていた女がニヤリと笑って
「へぇ…魔法を使おうとしてるのかい?」
「そうだ。これ以上近づくなら遠慮なくブッ放すぞ?」
「ふふ…そうかそうか。面白いねやってみろよ。」
「なに?」
この女、意味わかってんのか?確かに俺の魔法は大した威力ではないが、それでも魔法は魔法だ。
直撃した怪我じゃ済まないぞ?
「おい、副会長!その生意気な新入生に格の違いを教えてやれ。」
それを聞き副会長と呼ばれた男はただ黙ってこちらに歩いて来た。
「おい、止まれよ………何考えてんだよお前!」
ちくしょう、ダメか。こうなったら俺も覚悟を決めるしかないな。
春臣もまだダウンしてる。夜々木を前に出すわけにもいかない。
この人には悪いが…………
「これでも食らいやがれ」
そう言いながら右手に魔力をこめた。
魔力をこめると言っても俺の場合はイメージするだけだど。
かなり抽象的だけど体の中にある流れを右手に集中させる感じだ…………
そして瞬間、俺の右手から炎が放たれた。
これは、あくまでも初歩的なもので放射魔法と呼ばれているが、威力は十分だ。
右手から放たれた炎は彼を飲み込んだ。
だが信じられない事に、その炎の中から何事もなかったかの様にそいつは現れた。
「そんな」
バカな事が!と最後まで言う事は出来なかった。
炎の中から出て来た副会長が俺を地面に叩きつけたからだ。
叩きつけられ、その衝撃にで肺の中の空気を全部吐き出した。
「どうなってるんだ?」
だが、そんな痛みよりも俺の頭の中を占めていたのは、何故、副会長が無傷なのかという事だ。
制服は魔力に抵抗がある素材で出来ている。
だからそれはいい。
問題なのは、俺の放射魔法がヤツの肌はおろか髪の毛さえも燃やしていない事だ。
「不思議そうな顔をしてるな君」
さっきまで退屈そうにしていた女が、今は楽しそうに笑いながら俺に語りかけて来た。
「暇だからこの僕が説明してやるよ。何故、君の魔法を受けて副会長が無傷なのかを。そうだな…君は魔力抵抗を知ってるかい?」
「…そんな事、知ってるに決まってる。要は魔力をどれだけ通すかって事だろ?俺たちの制服だって、その抵抗率の高い素材で出来てる。」
「簡単に言ってしまうとそういう事になる。だが、その魔力の抵抗率が人にもあるとしたら?あまつさえ個人差があるとすれば?」
「魔力抵抗の高い人間だと?」
…そんな事があるのか?
この女の話を信じると今、俺を押さえつけているこの男には、魔法が効かないになる。
本当にそんな事が…
「まぁ…当然だが、魔法が全く通じないなんて都合のいい話じゃあないぜ。あくまでもレベルの低い、君みたいな2流の魔法使いの魔法だったらの話だ。しかも、放射魔法なんてもっての外さ。そんなもの副会長の肌や体毛が弾いてしまう。」
クソ、この女の言い方は腹がたつ。
だけどこの話が本当なら俺に勝ち目はない。
「おいおい、これくらいで驚くなよ。これからが面白い所だぜ?何せ副会長はな、魔力抵抗が高すぎてロクな魔法が使えないんだ。正確には魔力を体の外側に放出できないんだよ。」
「………………え?」
なんだそりゃ?
そんなヤツを魔法使いなんて呼んでいいのかよ?
「ふふ…笑えるよな?魔法が効かない代わりに魔法がほとんど使えないんだから。まさに人生を賭けた一発芸だぜ。」
この女…………
「あんた最低だな…おい、あんたもこれだけ言われっぱなしでいいのかよ!」
俺は副会長に向かって言ったが、それでも反応はない。
これだけの暴言を吐かれて、何とも思わないのかよ。
「ああ…君は、まあまあ僕の事を楽しませてくれたね。おい、副会長」
その一声で、今まで微動だにしなかった副会長が俺を壁に向かって投げつけた。
そして、そのまま近づいてくる。完全にトドメを刺しに来ている。
「体が」
動かない。
副会長がもうすぐ側に来ているが、俺にはどうしようもない。
左腕を挙げ、最後の一撃を俺に加えようとしている。
もうダメだな……俺は諦めて、目を閉じた。
怖いしな。
「ん?」
ちょっと遅くないか?
挙げた腕を振り下ろすだけなのに?
おそるおそる目を開けると、最初に俺が見たのは
副会長の左腕に巻きつく細い糸だった。