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グリムさんとデート その3

--グリム--

パウダーベリーの除去は無事に終了した。

それから、村の外でそのパウダーベリーの実以外の部分である根っこと茎、葉っぱなどの素材にもならないただのデカいゴミを一山にしてまとめた。

「んじゃ、離れててくれ。」

そう言うと俺は、黒炎をそのゴミ山にぶつける。

すると勢いよく燃える。

そして、それは他の植物よりも燃えやすかったのか、俺が魔力でごり押ししたせいかあっという間に跡形も残らないとてもサラサラとした灰になった。

風で飛んでいく前に翠さんが回収してくれた。

「ほい完了。じゃあ、村の畑の場所を順番に言ってくれ。均等にばらまくから。」

俺がそう言うと、村の住人は一目散に村の中に飛び込んでいき、地面に線を描きだした。

皆が四角をあちこちに描く。

で、村長が隣で説明する。

「これは、パウダーベリーを対処して下さっているときに既に皆で決めていたことなのです。あの線の中へ蒔いて下さってもよろしいだろうか。」

なるほどな。

「あぁ。」

で、翠さんがまたもやゲルを村中に広げ、その四角の中に均等にばらまいた。

それと一緒に黒みがかった透明な液体も同時にその四角の中へ蒔かれた。

ついでとばかりにゲルが耕されていた土とまとめて混ぜていく。

・・器用だな。


そしてあっという間に混ぜ終わった。

「まさかこんなにも早く終わるとは思いませんでした。本当にありがとうございます。報酬は弾ませてもらいますので!」

それはもう嬉しそうだった。

「気持ちはありがたいが、ムリはしないでくれ。元々パウダーベリーとパウダーゴーレムの素材目的でこの依頼を受けたんだ。こう言ったら悪いが、依頼自体はついでだったんだ。」

「そうでしたか。それでも我らは救われた。その気持ちだけでも受け取って欲しい。」

「あぁ、ありがたく頂くよ。だが、村の有り金全部とか財政的にやばくなるようなことは辞めてくれよ?依頼書にあった量でも十分だから。」

「でしたら、その辺りはパウダーゴーレムの対処をして下さっている間にでも、村の皆と相談してみますね。」

「あぁ、ほどほどにしてくれ。」

念押ししとかないと本気で村の有り金全部とかとんでもないことをしでかしそうなほど嬉しそうだったんだよ・・うん。




「で、翠さん。あの灰と一緒に蒔いてたあの液体って何なんだ?」

「アレ?アレは、植物用の栄養剤だよ。昔そればかりを無駄に作りまくる変わり者がいたんだけど、その人が処分に困ってた時に根こそぎもらったんだ。」

「なるほど。」

さすが長生き。


それから、再度村長の家に行き、お茶しながらパウダーゴーレムについて教えてもらった。

その間に村のみんなは種まきをしたり水まきをしたりするんだとか。

その辺りは村の仕事だから手伝わなくても良いと笑顔で言っていたのでお言葉に甘えて今に至る。


「・・・で、なんで村の連中は普通にここにいるんだ?畑仕事するんじゃなかったのか?」

「種まきは、子供の仕事なんですよ。」

「子供?なんで」

「子供が種を蒔き、雑草を取り除き、ワシら大人が立派に育つように維持し、大人と子供共に収穫する。昔から行なってきたこの村のやり方なのですよ。」

なるほど。

そうやって子供にも仕事をさせて覚えさせるのか。


で、村長の家の一角にいるんだが、窓という窓は全て全開され、扉も同様に全開されてる。

で、そこには隙間など残さん!とでも言いたいのか村の連中がこぞってのぞき込んでいる。


まぁ、この村に関わることだしそんなモノか。

「それにしても、あなた方はかなりの実力者のようですな。あの黒い炎は初めて見ましたぞ?それと、そちらのお嬢さんの獣魔かな?彼女の力も桁外れじゃ。」

「黒い炎は確かに珍しいかもな。彼女自身もかなりの実力者だ。下手すれば俺が負けると思う。」

まぁ、相性とかあるし接近戦に持ち込めば分からないが、魔法の天才であるフリージアの場合、接近戦もある程度は魔法でどうにかしちまうだろう。

おまけにかなりの種類の武器を扱うことが出来ると聞いてるし、それらをコロコロ変える戦法は全く先が読めないとか。

更に、フリージアは未来でも見えているかのように先読みがずば抜けて上手い。

何をしようとしてもそれを潰しにかかってくるから動きにくくなるんだとか。


「ほう。さぞお二方は有名なのでしょうな。」

「あー一応言うと俺は死神とか呼ばれてたりする。」

「あの死神ですか!?」

「お、おう・・」

なぜか前のめりになって食いついてきた。

なんだ?

俺・・どんな感じの噂が広がってんだ?

「で、そのあの死神って?・・俺以外に死神とかいわれてる人間は知らないから多分それが俺なんだろうが・・」

話しを聞いていると、死神が作るパンはものすごく旨いとか、一度敵として認識されれば必ず戦意どころか前向きな考えはかけらも残らずに消失するとか、威圧感バリバリで恐れられてはいるが正義の死神だとか。

「・・その最後の正義の死神って何だ?」

「実は、その正義の死神は、恐ろしいほどの威圧を常に纏っているが、その威圧に耐え、恐れず愚かなことを企まなければその姿を現し、あらゆる悪意から救って下さるという噂と言いますか言い伝えがありまして・・。実際に、スタンピートから救ってもらったとか、盗賊などから救ってもらったとか、雪崩から救ってもらったなどと実際に救ってもらった方もいるのです。」

「あーー・・・」

うん、記憶あるわ・・てか、心当たりが結構あるわ。

スタンピートって言うか、魔物がやけに固まってたからそれらを潰してやられそうになってる奴を助けたり、雪崩が起きそうになってたから遠くへ放り投げて助けたり、盗賊がこぞって集まって襲おうとしてたから殲滅したり、道ばたで空腹で倒れてる奴に俺が作ったパンをあげたり、命に関わるからと言って相当慌ててた奴の捜し物である薬草を一緒に探したりと・・うん。

「その様子ですと・・」

「あぁ・・似たようなことをした記憶がある。」

「やはりそうでしたか。」

「にしても、その噂の生む関係なしであんたたちは俺を怖がらないんだな?」

一応魔力をコントロールして押さえ込んでるからある程度は問題ないが、それでも威圧は出ている。

「正直に申しますと怖いですよ。じゃが、実際にあなた方はワシらを救ってくれた。」

「そうですよ。」

「それに、そちらのお嬢さんを見つめる目が凄く優しそうでしたし、そこまで信頼されているのですからそれで悪者なんてあり得ませんよ。」

「そうそう。それに、悪い奴なら報酬をムリしてあげるなとか言わないし、討伐した素材が欲しかったからそのついでだと嘘だとしてもそんなことを依頼主に真っ正面から言わないさ。」

「っていうより、それにびびっていたら生きていけませんよ。外を出れば魔物がいて命のやりとりが当たり前になるんですから。」

ったく・・ホントに良い奴らが揃った村だ。

「ホントにここは良い村だな。」

「そう言って頂けるだけでそれだけでワシらは嬉しいですぞ。」

「ところで・・・・」

(?)

「そちらのお嬢さんなんだが・・・どっかで記憶が・・」

「なんじゃ、お前さんそちらのお嬢さんを知っておるのか?」

村の1人の青年が首をかしげる。

「知っているといいますか、似たような噂を知っていると言いますか。」

「噂?なんのじゃ?」

「確か教会から聞いた噂なんですけど、喋る3本足のカラスと尻尾の長いブルームーン色の猫を連れた黒髪で大人サイズの杖を持った超絶美少女の噂なんですけど。」

「あーそれ知ってる。たしか、神子様の噂じゃなかったか?」

「あぁ!そうそうそれそれ!」

「今は神子様じゃなくてクテン様じゃなかったか?」

「確かそうだ。」

「で、お前さんたちはその噂とそっくりだから気になったと?」

村の人たち全員コクリ

全員頷いた。


{えぇ、確かに私はそのクテンですよ。}

「っ!ご本人でしたか。」

{ですが、特に敬う必要はありません。周囲がただそう言っているだけですから。}

「おぉ。」

「なんと器の大きいお方なんだ!」

「素晴らしい!」

「まさしく女神様!」


すげぇな・・フリージアの信者ってホントあちこちにいるんだな。

けど、まさか俺も恐怖の対象って噂だけかと思ってたら地味に英雄予備軍っていうか、幸運を運ぶ何かみたいな扱いになっていたことに驚いた。

まぁ、確かに人助けは見過ごすことが出来なかったんだよなぁ・・。

最初は、自分のイメージ改善のために人助けをして、そっち方面の評価を上げて死神なんて名がつくような恐怖関係の噂を払拭しようと思ってたものの、いざそういう出来事に遭遇したらそんな悠長なことを考えるなんて出来ずに助けないとって思ったんだよなぁ・・。

たぶんこういう気持ちが正義感とかそういうんだろうなとは思う・・俺の二つ名からするとずいぶんと遠いものだ。


{それで、パウダーゴーレムのことと、どうしてパウダーベリーがあんなことになったのか伺いたいのですが。}

「おぉ、そうでしたな。まず、パウダーベリーからお話します。それが、パウダーゴーレムの話しに関係がありますので。」

やっぱり関係があったのか。

なんていうかどっちも採れる素材は同じだしな。

それで、関係がないと言われたら逆に妙だと思うよな。

違う素材でそれぞれが大量発生なら偶然と思うが同じだしなぁ。

「ある日、この村の近くで白っぽい砂のゴーレムを見かけるようになったんだ。」

「そうそう。で、白いのは確かパウダーゴーレムだって思い出してさ、俺らが総出だったらどうにかできるけど、さすがに何体も固まってたらお手上げだし、冒険者へ依頼をするにも金がかかるし・・」

「まー、お金よりも来てくれる冒険者がどんな人かがわからないから不安だったっていうのが本当だったんだよ。だからと言ってもある程度こういう人が良いとか希望を出せばその分指名料とかがかかって値段が上がるから余計に悩んだんだ。」

「とりあえず、村には近づいてこないことが分かったから極力団体行動を心がけて、村から出るのを控えるようにして様子を見てたんだ。」

「そしたらある日、そのパウダーゴーレムの体に植物の種らしきものが大量にくっついた状態で現れるようになった。その時は偶然どこかでくっついたかと思ったんだがそれが・・」

「パウダーベリーの種だったと?」

「あぁ。その種自体は村の外で増えだした。当時は商人たちが買い取ってくれてたんだが、買い取ってくれる数よりも増える数の方がある日上回ったんだ。その頃からパウダーゴーレムを見かける頻度は少なくなったんだが、それに合わせて近くの森で動物を見かけなくなったんだ。」

「動物が?」

「そうなんだよ。で、さすがにまずいと思って増える数が上回り始めたころから必死になって引っこ抜いて焼いて処分してたんだが、俺らの実力じゃあ1日で数人で1株焼くのがやっとだったんだ。そんな悠長なことをしている間に増えるし、それを燃やそうとすると途端にパウダーゴーレムが襲ってくるからあわてて村に逃げ込んでんだ。」

「パウダーベリーを焼くっていうか処分しようとすると襲ってくるのに村の中には来なかったのか?」

「あぁ・・けど、どっちかというと村に入って柵で俺らの姿が見えなくなったところで襲うのをやめたって感じだったな。」

姿が見えているときだけ襲うってことか・・。

パウダーベリーを増やして、処分するのを邪魔する・・間違いなく関係あるな。

「俺らは必死に頑張ったさ。けど、毎日毎日やっても増える方が多いし、体力も減り続ける一方で正直限界だった。それで、金がどれだけかかってもどうにかしてくれる人を呼ぶことにしたんだ。じゃなきゃ、村が壊滅して俺らは飢え死にしちまう。」

「経緯はわかった。だが、それでどうして村の中でパウダーベリーが増殖して、外の分はなかったんだ?」

「それが・・・よくわからないのです。」

「・・どういうことだ?」

聞く話によると、夜中にかなり大きな地震が続いていたらしく、地震が収まったところで外へ様子を見に行くとすでに村の中でパウダーベリーは育ち・・

「外には大量の穴が開いているだけだったんです。・・ちょうど、パウダーベリーが植わっている個所にパウダーベリーが通れるほどのサイズの穴が・・」

「なるほど・・なぁ、翠さん。パウダーベリーって勝手に移動したりするのか?」

「パウダーベリー自体はしないね。」

「”は”ってどういうことだ?」

「グリムも気づいてたと思うけど、パウダーゴーレムがパウダーベリーを増やしていたでしょ?」

「あぁ。・・あれ?俺は過去に数体ずつだが、パウダーゴーレムを討伐したことがちょいちょいあるがそいつらはそんなことしてなかったぞ?数が多いと増やす性質でもあるのか?」

「半分正解で半分不正解。」

「翠さんや・・どういうことでしょうか?」

村の連中も翠さんの言い方が気になったようだ。

「これは、私の推測だけどパウダーゴーレムの上位種がその森の中にいる可能性が高いね。」

「上位種!?」

「なんと・・」

「どうしてそう思ったんだ?」

「たぶんこれ、スタンピートが起こる直前というか起こすための準備期間何だと思うよ。元々スタンピートは上位種であるボスを中心にそれらに関係する魔物が大量発生するものだから。」

そういや、スタンピートが起こるときはボスの存在があって初めて起こるモノだって聞いたことがあったな。

上位種がいるからこそその同類の魔物が集まる、もしくは異常なくらいに増える。

逆に上位種がいなければ増えづらいともいうし。

「じゃあ・・今回の場合は上位種が2体・・・いや、もしかして、同じパウダー系が2種増えてるってことはただの上位種じゃないその2種を同時に増やせるような特殊っていうか面倒な上位種がいるって考えた方が良いか?」

それだったら、パウダーゴーレムがパウダーベリーを守り、増やそうとしていたことにも頷ける。

上位種がそういう風に命令していれば知能がなく目の前の敵しか攻撃しないゴーレム系がそんなことをする理由がないし、出来ない。

「私もグリムの意見に賛成だよ。同じことを考えてた。」

「やっぱりか・・」

村を襲わなかったのは、村だから襲わなかったんじゃなくて、人の姿が丸太の柵に囲まれて見えなかったから襲わなかったと考えれば納得がいく。

「だから余計に商人たちがこの村に来なくなったのか・・翠さんの意見で納得した。」

村長がそうつぶやくと全員がうなづいた。

この村が丸太の柵っていう人の姿をすっぽりを隠せる柵だったから守られていたと考えてもいい。

ある意味じゃあ運が良い。


村によっては、村の中が見えるような感じの柵を作ってるところだってある。

もしそんな柵であればすでにこの村はパウダーゴーレムにやられてただろう。

「この近くに他の村などがなかったことはある意味では不幸中の幸いだったかもしれませんね村長。」

「そうじゃな。犠牲者は少ない方が良いだろう。」

この村の連中はホントにお人よしだな。

普通ならどうして自分たちだけがこんな目に!とか言ってもおかしくはないというのに。


「そうと決まれば、グリム殿、フリージア殿、報酬はお渡しするのでお帰りなされ。」

「は?どうしてだ?」

何を言っているんだ?

「あなた方がどんなに強かろうとさすがにたったそれだけの人数でスタンピートを引き起こすような上位種と渡り合うなど危険すぎる。ワシらは、荷物を抱えて逃げるからお気になさるな。」

{私たちは帰りませんよ。}

フリージアが突如そう言った。

「じゃが、無謀じゃ!」

「無理はしなくていい。」

「そうだぞ。あんたたちのせいじゃない。運が悪かっただけだし、俺らは全員生きてる。生きていれば何度だってやり直せる。」

だが、フリージアは絶対に帰らないと即答した。

その時の瞳には、何か決意した強い意志がこもっていた。


やっぱり、俺よりもフリージアこそが本当の英雄だ。

この目は悪を倒し、弱きを助ける正義の・・英雄の目だ。

「あぁ、俺たちは帰らない。」

カルナも同じくそう告げた。

「なぜ・・なぜそこまでして・・」

{放っておけませんから。それに、これは、私の使命でもあります。}

「使命?」

「詳しくは言えないが、俺たちは世界中に潜む悪を倒して回らなけれならないんだ。」

カルナが言ったセリフはまるであの心技体の伝説に出てくる英雄たちのようだった。

俺はそう感じた。

「だが、あんたたちはまだこんなに幼いじゃないか。そんな大きな苦労はしなくていい。報酬はきちんと渡すし、あんたたちはもう十分救ってくれた。それだけで十分だ。」

だが、村の連中は俺たちを無理させないように優しくさとす。

「はぁ・・じゃあ、ぶっちゃけるが俺たちはすでにスタンピートを単独で討伐した経験があるし、今回の上位種よりもずっと強力な相手とも渡り歩いてきたし、勝ってきた。」

「そんなまさか・・」

「何と戦ったというんだよ!倒したんなら言えるんだよな!?」

1人の青年は必死な表情で嘆く。

「あぁ、ニーズヘッグヴァンパイアにドラグニルベアーだ。他にもいくつか倒しているが単独で倒したのはこれらが代表だ。ずいぶんと昔だったから俺たちには証明するものがないから信じてくれとしか言えないがな。」

「・・・」

俺でもわかる。

フリージアの目には嘘偽りは一切なかったし、カルナたちも全員真実を語っている。


災厄と呼ぶにふさわしいほどの強力な魔物なのは確かだ。

ドラグニルベアーは、熊もどきと呼ばれるアーマーベアーの上位種で、アーマーベアーでさえがAランク冒険者が少なくとも2~3人はいないと倒すのはかなりきついと言われているし、その上位種となれば軽くSランク冒険者が10人近くは必要だろう。

更にヤバいのはニーズヘッグヴァンパイア。

こいつは、少なくともSSランクオーバーが10人以上必要なほどのとんでもないやつだ。

おまけに周囲にある生きるものすべてからすべてを奪いつくしていくからそいつが存在するだけで国の1つや2つは軽く跡形もなく滅ぶ。

それをホントに倒したとなればギルドのランクなんてほとんど当てにならない。

「なぁ、俺たちは無理しない。やれる範囲でやる。ヤバいと思えば逃げる。それじゃダメなのか?」

俺はそう言った。

俺たちの実力は二つ名を含めてそのくらい軽くできることくらいはわかるだろう。

「だ・・・だが・・・。」


すると、カルナがキレた。

「あぁ、くそめんどくせぇな!報酬なんぞ要るか!!俺たちは勝手に倒しに行くからお前らは逃げたければ勝手に逃げろ!!俺らにかかわるな!!めんどくせぇ!!死んだときはその時だ!お前らのせいじゃないし俺らの勝手にしたことで所詮赤の他人だ!!」

「そうそう。それとも今ここでその実力を見せてあげようか?その余波でこの村程度なら軽く消滅させるよ?」

翠さんが目だけ笑わずにほほ笑んでそう言った。

しかもそのほほえみはすっごい冷ややか。

翠さんの実力だけでも十分わかるだろう。

何せ数分もかからずにこの村中を覆いつくしていたパウダーベリーをあっという間にかき消したのだから。

って言うより、厳しいけどしっかり者のカルナがキレるって相当だぞ?

俺どころか、注意する以外でキレた姿をフリージアもシャスティも誰1人として1回も見たことがないと聞いたし。


「お!お待ちください!!そんな無茶をするのであれば我々はギルドへ規約違反を訴えますぞ!」

規約違反は依頼主の要望に逆らった場合と、自身のギルドランクにそぐわぬことへ無茶しようとした場合・・つまりは、自身よりも大幅に上回る相手に挑もうとした場合に対しておこるものだ。

罰金で終わったり、ギルドランクが降格したり、場合によってはギルドランクを初期の一番下に落とされることだってある。

{やりたければやればいいではないですか。ではさようなら。私たちは元々そいつらの素材を取りに来ただけであり、あなた方はついでに助けるだけです。降格でもギルドカードのはく奪でも好きにすればいいではないですか。なくても困りませんし。ハディちゃん}

フリージアから濃い威圧がこぼれだす。


やっぱりフリージアは闇系統の魔法使い何だな。

陰属性だとは聞いているし、それが上位へ昇華したものかオリジナルかわからないとは聞いているが根本的な部分は闇に近い。

だから、俺並みの威圧を出せるんだ。

フリージアの威圧は他のやつらがするよりも1.5倍くらいは威力がある。

俺はおおよそ2倍の威力だ。

まぁ、そっち方面に特化した影響ともいえるが。


そして、ハディを呼んだフリージア。

それから起こったのは

「グォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」


ハディによる【殺気】【咆吼】【威嚇】のトリプルコンボだと後々にフリージアに教えてもらった。

【殺気】は、言うなれば威圧以上に怒りの感情による威力の増加の差が激しいモノであり、【咆吼】は、普通に大声を出すよりも倍以上の音量になるし、【威嚇】は、相手へ敵意を向けたときに相手の恐怖心を煽りやすくする。

これらの組み合わせはかなり強力だ。

空気中というか空間そのものがびりびりと震えるほどの威力がそれにはあり、正直言うと俺自身もやばかった。

少しでも気を抜くと立っていられなかっただろう。

だが、俺でさえこれだ。

それがこの村の連中であれば耐えることなど出来ないから全員が一気に意識を失い白目を剥いていた。

そして、シャスティが尻尾でそいつらを村の中へ放り投げ、ハディが村の門を閉じてなかったことにしていた。


{グリムさんごめんなさい}

「気にするなよ。困ってる相手を助けたいって気持ちは俺も同じだった。それをあそこまで拒否されたらキレたくもなる。俺自身もそうするつもりだった。」

「けどさグリム。おそらく報告はギルドへいくぜ?だとすれば冒険者でいられなくなる可能性だってあるんだぞ?」

「構わないさ。幸運なことに料理の腕はそこそこ自信があるからその方面でどうにかすれば良いし、いざとなればノクスさんのとこで雇ってもらっても良いしな。」

店のあちこちで料理を教え合っているからそこそこいい仲だし、ノクスさんたちとは犯罪者たちへの対処などの依頼でちょくちょく接しているし、評価もそれなりに良いと我ながら思ってる。

それに、宰相のグリルさんとも話しをすることが少しあったが、その時に何かあれば雇ってくれるとかそういうことを言っていた。

ノクスさんが言うには、グリルさんが雇っても良いと言うのはかなり珍しいらしいから俺は実力を認めてもらったと言うことでもあるらしい。

それに関してはすごく嬉しい。

「そうか。なら良いんだが・・。」

カルナはどこか暗い。

一番最初に啖呵を切ったから責任を感じているのだろうか。

{カルナ、落ち込まなくても良いですよ。}

「だが、グリムもリアも冒険者でいられなくなる可能性があるんだぞ?それも俺のせいで・・。」

{グリムさんもあぁおっしゃってましたし、私自身、国を跨ぐための証明書が欲しかったのでギルドカードを作っただけですし。カルナも元々私のを作らせたのはそれが理由でしょう?}

「まぁな」

{それに、今はギルドカードがなくとも教会の腕輪があるので証明書としては十分なのでは?}

「そういえばそれがあったな。」

確かに教会の腕輪があるなら自身を証明する証としては十分だ。

これは、偽物があっては絶対にいけない代物だし、渡されるまでにかなり厳重なチェックというか申請などがあるらしいし。

よくよく思えばフリージアはそれの最上位レベルのを持ってるんだよな。

言ってしまえば教会でも上から数えた方が早いくらいの上位者だ。

しかも、この国の王族の血筋の持ち主。



遠いよ。

俺自身身分とかそういうのは一切ない。

周囲は温かいし、認めてくれてるとは思っているけど、それでいいのだろうか・・。


{グリムさん?}

「いや、何でもない。とりあえず、探索をするか。」

いかんいかん。

心配させちまった。

で、フリージアは何を考えたのか。

{私が周囲を探索するので抱っこして下さい。}

「・・・・ん?すまん、聞き間違えたかもしれんからもう一回言ってくれ。」

ものすごく魅力的な台詞が聞こえた気がしたんだが・・気のせいだよな?

{抱っこ}

聞き間違いじゃなかった。

で、フリージアが俺に向かって万歳してじっと見つめながら抱っこと言う。


くっ!

抱っこアピール頂きました!!

かわいいじゃねぇか畜生!!

これを断るなんて俺にはムリ!

{シャスティ、周囲の探索を一緒にお願いします}

「にゃう(お任せ下さい)」

と、シャスティが首をかしげたり尻尾をゆらゆらと揺らしている間、とりあえず俺はフリージアを抱っこした。

ハディの背中に乗っていたときも思ったが、凄く体が細いのに女性特有の柔らかさがあるし、良い匂いがする。

それと、食べる飯の量は半端じゃないのにすっごい軽い。

後、抱っこしたせいかフリージアの顔がすっごい近い。


これは・・すっごい威力があるな。

よくよくみるとフリージアはホントにかわいい。

よくよくみなくてもかわいいが近くで見るとその威力が軽く倍加する。

ほとんど無表情だが、表情はちょいちょい変わってる。

それは、ホントにささやかな変化だがそんなところもかわいいと思う。


で、俺がフリージアに見惚れているとフリージアの足下からフリージアが作り出すオリジナルのゴーレムである影さんたちらしきモノが大量に出てきた。

1体1体は5センチほどしかないほどで、姿は全員小鳥だった。

それが50は軽くいるんじゃないかと思うほど。

それらは全員あちこちへ飛んでいく。

そこらでみる小鳥と比べると少々細めだが、スピードは倍以上ある。

「アレ、ツバメだね。」

翠さんが言うには、そう言う種類の小鳥がいるらしく、そこらの小鳥と比べてもかなりのスピードの持ち主なんだとか。

その名前は異世界人がその鳥をみてそう告げたことが理由らしいが。


その間、フリージアは俺の肩に頭を乗っけて俺自身にもたれかかる。

一瞬驚いたが、よく見るとフリージアは目を閉じて集中しているようだった。

確か視界や耳などを共有出来ると聞いているからそっちに集中するためだったか。


けど・・・これは言いたい。

俺にもたれかかってくるだけでも破壊力がばつぐんだ!!

しかも、フリージアの息が俺の首筋に軽く当たっているからその威力は更に増していく。

惚れてる女を抱っこしてるだけでもヤバイのにその息づかいまで感じるほど近くにいる。

おまけに、フリージア自身も俺から落ちないようにするためなのか抱きついている。

お互いに抱き合ってるような状況で俺も色々とヤバイ。

かわいいし良い匂いがするし・・・それと、フリージア自身あまり厚着をしないのか、ローブ越しでもささやかながらに女性特有の柔らかいモノを当たる胸辺りから感じる。

それだけ俺に抱きついているということでもあるんだが、10才で柔らかさを感じるって・・フリージアは着痩せするタイプか?

フリージアと同い年の子たちと比べると身長は低めなんだが、この抱きつきで判明したのはまさしく着痩せするタイプだってことだ!

くっ!

かわいくてスタイルが良いなんてなんてことだ!

俺をどれだけ籠絡すれば気が済むんだ!

嬉しいじゃねぇか畜生!

確か10才って成長し出す時期だからなくはないのは分かるんだが、服越しで感じ取れるほどのサイズだったか?

だからといってなぁ・・フリージア本人に胸のサイズいくつ?って聞いたら間違いなく俺は変態だ。

そんなのいやだ。

だが、当たっていて実際に柔らかさを感じるのは事実。

俺にはどうしようもないから、素直に堪能する。

むっつり?

ふんっ!

どうとでも言え!

抗うなんてムリだから開き直っているとも言うが、俺だって男だ。

惚れてる相手のあれこれが気にならないはずがないだろ。




で、落ち着かないから頭を撫でる。

フリージアの髪は柔らかくてサラサラでいつまでも撫でていたくなる。


だが、これだけは言える。

好きな相手の胸が押しつけられているという状況は・・ヤッばい!!

俺頑張れ・・主に理性。


「グリム・・大変そうだな。」

微妙に呆れた表情のカルナに言われた。

「・・やっぱり気づいてたのか。」

俺がフリージアに惚れてるって。

「まぁな。」

「否定しないのか?俺自身には身分とかそういうのは何もないんだぜ?」

身分差のある恋は昔から憧れだの玉の輿だのと言われているが、現実的に言うとその実が結ばれるのは非常に難しい。

「そんなのは知ってる。って言うか、その本人は身分は名前の一部くらいにしか思ってないほどだし、どうでも良さそうだしな。」

元々身分とは関係のない生活を送っていたから身分はなくても困らないんだそうだ。

「っていうか・・俺ってそんなにわかりやすいか?」

割と多くの奴らからバレてるっぽい視線をここ数日ほど前から感じる。

「あぁ。」

あっさりと言われた!

「な、なぜ・・」

「だってお前、他の奴らと話すときはそんなに表情は変わらないが、リア相手だと凄く優しい目になるんだから分からない奴の方がおかしいだろ。」

滅多にそんな目を相手へ向けることなんてないだろと言われた。

確かにそうだが・・俺ってそんなにわかりやすいのか?

俺か・・俺の態度か・・まぁ良いか。

気にしてもどうしようもないし。


しばらくするとフリージアの目が開いた。

どうやら、探索は終わったらしい。



で、じーっと俺はフリージアに見つめられてるわけだが・・俺から降りないの?

ずっと抱きついたままの状態で抱きつく腕の力を緩ませる感じが全くしない・・あの・・

まだ当たっているんですが・・良いの?

どうしようもないから開き直って堪能してるけど。


あー、まだそういうのを気にする年じゃないのか・・・。

良いんだか悪いんだが・・。

その寝起きっぽい感じでぽやんとした表情で見つめないでくれ。

惚れ直してしまうから!

俺の理性がヤバイから!


だとしてもこれだけは言いたい。

普段の俺

どうしてあんなにこっぱずかしいことを平気で言っちゃうの!?

後で自分にぐっさぐさと羞恥心でメンタルが抉られるんだぞ!?


グリムさんは実は、内心ではフリージア相手にべた惚れで悶えまくって、萌えまくってました。


次回は6日です。

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