血塗れパン屋さん
--フリージア--
入学式はサクッと終了し、その後突然開始されたバトルは正直つまらなかったです。
同級生たちはしょうがないとしても混じってる先生たちも弱すぎました。
よほどその辺りの低ランクの冒険者のお兄さんたちとの模擬戦の方が面白かったです。
まぁ、2度目は模擬戦はしてくれませんけど。
一応後日談を。
生徒たちには、かなり手加減をしていたのでせいぜい擦り傷とか切り傷とか打撲程度ですし、周囲の観客(保護者含む)たちもこの大乱闘のことは知っていたらしく何も言わずに無償で手当を行ないました。
そして、私という強者を知ったことでより向上心とか憧れが強くなったらしく、とても前向きになってくれた子たちが多かったらしく良い方向に向かっているようです。
で、教師たちはと言うとそれなりのお金を払わされ、おまけで私の二つ名(クテンと魔鏡姫)を教わりダブルパンチで顔が青かった。
おまけで、おじいちゃんの指示通り半年は給料半額。
これで少しはまともになれば良いですけどね。
いや、まともなんですよ?
ただ、相手を見た目で判断するほどの雑魚なだけで。
と言うわけで、それらが終わりセイちゃんとユウちゃんは寮を借りるためにお話しをして、戻ってきました。
「おまたせ。」
「無事に借りられたよ。ホント今日までお世話になりました。」
「気にするでない。ワシらも楽しかったからのぉ。」
現在おじいさまに肩車されてる私です。
なぜ肩車かは不明。
まぁ、おじいさまはがっちりとした体格なのでその辺りにいるお兄さんたちよりも見た目も実際もしっかりしてるので凄く安定感がありますけど。
そして、
「リア様大変お似合いですよ。」
「うむ、大変かわいい。」
-ありがとうございます-
兄さんは、本日は私の傍にいます。
普段はお仕事中心で町中を走り回ってますからね。
で、リカルさんは
「ふはは・・くはは・・・・」
楽しそうに私の絵を描いてます。
大声ではないですが、以前と比べるとずいぶんと理性を保っているなぁと思います。
でも、目は大変キラキラと輝いて楽しそうです。
まぁ、毎日結構な頻度で私を描いているのでさすがにネタ切れ的な方面で、落ち着いたというのが本音ですが。
「にしても・・・リカルさん楽しそうだね。」
「だね・・絵描きさんだからリアちゃん相手だとそうなるのも納得なんだけどね。」
-アレでもかなり落ち着いた方です。-
「え?アレで?」
「前はどうだったの?」
-大声で高笑いしながら豹変してました。-
「豹変・・」
「ってどんな感じで?」
-異世界人が言うところの中二病?って感じです。何か乗り移ったかのように性格がきれいに変わります-
「えぇ・・・」
-これからどうしますか?-
で、サクッとスルーして話を続けます。
「そうだなぁ・・せっかくだし観光でもしない?面白いとことかあるかもしれないし」
「そうね。ついでに服とか装備品とか食べるとことかで良いとことかあるかもしれないし。」
と言うわけでウロチョロしてます。
時間は丁度お昼ご飯です。
お弁当は今日はなしです。
理由としましては、この国は全部を見て回ったわけではないので食べ歩きでもしながら観光しましょうと言うことになったからです。
何気に、リリさんたちとかに抱っこされたまま連れ回されたりして攫われてるか、依頼で行くだけでじっくりと見て回ったことがありませんでした。
・・何かとあの家のメンツは男女問わず私を抱っこしたがるんですよね・・。
男性陣は肩車か腕に座らせる形で、女性陣は後ろからぬいぐるみを抱えるように脇から抱えられてる感じです。
走るときは脇に抱えられてますけど。
・・・なんで歩かせてくれないんでしょうね。
ちなみに家にユウちゃんとセイちゃんがいた頃は私と同じ扱いをされてました。
ユウちゃんは特に強く拒否してましたので、男性陣はしませんでしたが女性陣には意味はなくむしろ余計に愛でられてたので目が死んでました。
で、適当にお野菜だの果物だのお肉だのが刺さってる串を食べながら進んでいくと途中で私の鼻が焼きたてのパンの良い匂いをキャッチしました。
あっちに行きたいですがおじいさまに肩車されてるので頭をてしてし。
「む?どうした?」
あっちに行きたいと指を指すとおじいさまは頷いてそっちへ向かう。
「リアちゃん、あっちに何かあるの?」
{あっちから良い匂いがします。}
「え?・・・・・・あ、確かに」
「言われてからやっと分かった。パンの焼ける匂いだね。・・よく気づいたね。」
「リアちゃんって、食べるの好きっぽいからねぇ・・」
「お嬢様の五感は鋭いですから。」
リカルさんは、落ち着いたようです。
で、私が指さした方へ行くとそこにはなぜか真っ黒な看板に真っ赤な字で
ブラッディブレッド
と書かれてました。
首をかしげてると。
「確か、血と、パンって意味でしたね」
「血のパン?」
おまけに看板のあちこちが赤く染まっていてそれはまるで血まみれのように見える看板
「リア・・ホントにここ?」
(コクリ)
「えぇ・・」
周囲の人たちの会話を聞いているとここのお店は、あまり立ち寄る人がいないらしい。
そして、ここには死神がいるのだとか。
とりあえず、おじいさまにおろしてもらい、全てをスルーして中に入ります。
「さすがリア様、ガン無視ですか。」
「さすがお嬢様ですね。私も良い匂いとあの看板の組み合わせが気になるので同じくスルーしますが。」
「リカルもリカルじゃのぉ・・まぁ、あの程度でびびるような性格ではないが。」
と言いながら私に続いてリカルさんにおじいさまも入っていく。
「確かにおいしそうな匂いがするけど・・まぁ、いいか」
「死神が作るパンかぁ・・食べるのが好きなリアが気になってるからおいしいんだろうけど、どんな人なんだろう・・悪い人じゃないんだろうけど。」
で、中に入ると中は焦げ茶の木で作られたごく一般的なパン屋さんでした。
「中は普通ですね。」
「中に入るとパンの匂いが凄く濃いですね。確かにおいしそうです。」
「ホントだ。中は普通だ。・・なんで看板はあんなことになってるんだろ?」
「普通の看板にすれば普通においしそうな良いパン屋さんなのに。」
「それは、俺が死神とか言われてるからさ。」
みんなで言いたい放題言っていると奥から1人のお兄さんがやってきた。
そのお兄さんは、黒に極限まで近いワインレッドの髪で、長さは後ろでギリギリ束ねて結べそうなくらい。
赤に近い紫の瞳に、目つきは凄く鋭く、細身で背は180ちょっと。
そして、纏う魔力は威圧感がある。
死神さんですかぁ。
黒いマントを纏って大鎌を持って構えてもらったらばっちりですね。
「珍しくお客さんが大量だ。いらっしゃい。よくあの看板で中に入ってこれたな?」
「野生の本能だけで全てをガン無視してお嬢様が入ったので。」
とリカルさんがちらりと私をみながら言う。
私はと言うと、おいしそうなパンを眺めながらどれを食べようかと吟味中。
「珍しい。大抵はあの看板をみて速攻でやめるって言うのに。」
「あぁ・・このお方は、並大抵のことでは一切動じないので。」
「それは素晴らしい胆力だ。」
「あの・・」
「どうした?お嬢ちゃん」
「・・・一応男です。」
「・・・・・で、どうした坊ちゃん。」
凄く複雑そうにユウちゃんがそう言うとお兄さんは目を見開きつつ何事もなかったかのように話を続ける。
「こんなにおいしそうなのにどうしてわざわざあんな感じの看板にしたのかなぁと。・・ムリして話したくないんでしたら話さなくても良いんですけど」
「あぁ。元々このパン屋は、趣味と副業だからな。赤字じゃなけりゃどうでもいいのさ。それに、買いに来てくれる人は来てくれるし。見た目で判断せずに来てくれるしな。」
「ふむ・・ある程度ふるいにかけてるようなモノか。」
「じいさんの言う通りだ。」
「副業ってことは、本業は?」
「一応冒険者だ。」
「なるほど・・。」
「って言うのが、真面目な理由だ。」
「え?」
「真面目じゃない理由は?」
「俺はみた通りこんな見た目だし、俺の魔力は普通の奴らよりも威圧感が強いらしくてな。死神って二つ名がついてしまったんだよ。で、パンを作るのは俺の趣味でもあるから、この店をしたかったんだが、アホな連中とか邪魔しそうな奴らとか来そうだろ?」
「あぁ・・否定出来ませんね。」
「だろ?で、思いっきり死神って感じをアピールしてみた。結果として、冷やかし程度の客は来なくなったが、その分この店に近寄る連中は逆に目立つだろ?」
「そっか。周囲の人たちの目が集まるんだ。」
「そう言うこった。良くない噂を逆手にとった開き直りだな。」
カラカラと笑うお兄さん。
「死神って呼ばれた理由を聞いてると・・その・・苦しかったり嫌だったりしませんか?」
「ん?最初はイラッとしたんだが、ある程度落ち着いてくると意外と格好いい二つ名だなぁと思ってるからある意味じゃあ気に入ってるんだ。」
「そう言うモノですか?」
「んなもんさ。怖がられ恐れられると言うことは俺の実力はある意味では認められたってことだ。そう考えると格好いいと思わないか?」
「あぁ。分かるかも。個人的にはお兄さんみたいなのに憧れるなぁ。」
ユウちゃんがそう言う。
「あぁ・・さっきの俺もだが普通に性別を間違えたもんな。・・そういうことか?」
「はい。」
「自分の嫌なところは、嫌だって言う気持ちは忘れてそこを逆手にとるやり方に慣れていった方が良いぜ?」
「といいますと?」
「例えば背が低いことを気にしてる奴がそれを気にせずに戦いにそれを生かすと的が小さくて姿をくらまして死角からグサ!も軽くなるわけさ。体重が重ければ力をつけて、それに体重をかけて重量的な攻撃にいかすとかなりの威力になる。ほらな?」
「そっか・・・」
「そちらさんからすればうれしくないかも知れんが、見た目で騙して隙を見て攻撃とかもありだと思うぜ?」
「そっか・・考えてみます。」
「せっかく両親からもらった体だ。なら、両親のためにも自分くらいは好きになれとは言わんから有効活用してやるのがある意味での親孝行だと思わないか?」
「はい。」
「で・・・あっちの嬢ちゃんは食いしん坊か?すっごいガン見してるが。」
「あぁ・・食べるのが大好きみたいで・・」
「あはは!俺からすればうれしいもんだ。ほれ、そっちのお嬢は、好きなのもってこい。サービスしてやるから。」
(?)
「そうそう。好きなモノもってこい。今なら焼きたてだ。焼きたては旨いぞ?」
(コクリ)
「素直でよろしい。」
その後、私はシンプルなドーム型の石窯焼きのパンと、食パン、キューブ上のベーコンが練り込まれたのと、チーズが練り込まれたのと、ペースト状のお野菜が練り込まれたのとキューブのお芋が練り込まれたのをそれぞれ1個ずつ買いました。(お野菜のは数種類)
兄さんたちは、私とは違うのをそれぞれ選びました。
ユウちゃんは、クルミパンとクロワッサン
セイちゃんは、レーズンが入ったのと、チョコがマーブルに練り込まれたのを。
まぁ、みんな色んなのをそれぞれ買いました。
「おぉ・・大量だな。お嬢は見た目以上に大食いか?」
私はお嬢呼びでした。
「そうじゃの。大人分を3人分くらいは平然と食うな。うむ。」
「おぉ・・そうか。」
とどこか面白そうにみながら袋に詰めてくれた。
「全部で銅貨30枚だな。」
パンは全部で20数個ありました。
モノによってはパン1個で2~3個ほどのサイズも合ったりします。
「安いですね。」
「原価ギリギリだしな。ぶっちゃけると。」
「よろしいのですか?」
「気にするな。パン作りは趣味だ。それに、冒険者がメインだし。」
「そうか。では、おいしく頂こう。」
「その方が俺もうれしいな。」
ちなみに言っておきますけど、今買っている内のいくつかはお持ち帰り用ですよ?
リリさんたちもいますしね。
全部は食べませんよ・・一応。
で、私たちは結果としてほぼ全部買ってしまい、毎日買いに来てくれるらしいお得意さんたちは既に買った後らしく、残りは数個だったので、残りも私たちが購入し、お兄さんはお店を閉めました。
お店の奥に適当に並べられた椅子とテーブルがありそこを使って良いことになったので一緒に食べることにしました。
「改めて気づいたが、お嬢たちが今年のSクラスだったんだな。」
「え?あぁ、この制服の色で一目で分かるんでしたね。」
「まぁな。いやぁ、懐かしい。」
「お兄さんも学園に通ってたんですか?」
「おう。去年な。ちなみに俺は、正しい意味でお前さんたちの先輩だぜ?」
「正しい意味・・」
-お兄さんもSクラスだったと言うことですか?-
「まぁな。どうせだ、改めて自己紹介といこう。俺は、グリム。死神の二つ名で呼ばれている黒炎使いだ。獲物は物差し竿だ。」
「物差し竿?」
「あぁ・・大剣ぐらいの長さの刀だ。長い刀だな。えぇっとな・・あぁ、これこれ。」
見せてもらうと、長さは、刃の部分だけでも2メートル近い長さがある。
どこまでもシンプルな銀の刀。
凄くきれいです。
「ホント長い。」
「まぁ、長すぎるから副武器として小太刀もあるんだがな。」
そっちは同じくシンプルな刀でしたが長さは50センチちょっとほど。
「きれい・・」
「ありがとな。で、俺は一応お嬢たちとすれ違う形で卒業したSクラスだ。」
「僕は、ユウ。剣士です。接近戦特化で、遠距離が苦手です。二つ名はありません。」
「私はセイ。回復、治癒専門です。一応メイスで接近戦もある程度は出来ます。二つ名はありません。」
-二人とも今のところ二つ名はありません。-
「リアちゃん・・それ言わないで・・」
「うぅ・・」
しれっとツッコミを入れると微妙な顔をされる。
-改めましてフリージアです。魔法戦特化です。二つ名は魔鏡姫。後は、クテンと呼ばれています。-
「ほぉ?あの魔鏡姫がお嬢だったか。そっちは魔法反射だと聞いてるが、クテンは何がどうなった?」
-神子と呼ばれてましたが、呼び名を改めてもらったところこんな呼び方になりました。元々は黒い天使を略した呼び方です。-
「黒い天使・・それは、黒い髪で天使のようにかわいいとかじゃないんだろ?その感じだと。」
(コクリ)
-それは、この技が所以です。-
そう言って私は【影翼】を発動させる。
あまり大きくすると迷惑になるのでとじてますけど。
「っ!・・ほぉ。なるほど」
「いつみてもリアの翼はきれいだなぁ。」
「ねー。」
「ってことはそれは飛べるのか?」
(コクリ)
「すごいな。今年の1年は面白いな。まるで次世代の心技体のメンバーだな。」
「わ、私たちも前に同じことを思ってました。ね、ゆ、ユウ?」
「そ、そうだね。」
なぜに2人は戸惑ってるのでしょうか?
「何でお前さんたちは虚取ってんだよ。」
「え、えと・・恐れ多くて?」
「んだそれ。かっかっか。」
ちなみに言うと、翼を出してるとどこか心が落ち着くので意外と家では出しっ放しだったりします。
「で、旨いか?」
「はい!とても」
「ホントにおいしいです。」
-これまで食べたどのパンよりもおいしいと思います。-
「それはうれしいねぇ。にしても・・ホントよく食うな。」
(?)
「んにゃ・・気にするな。好きに食え。」
(コクリ)
私がもくもくと食べてると私のお腹を不思議そうに眺めながら見つめるグリムさん。
で、みんなで分け合いながら食べてます。
食べながらふと質問。
-どうすれば、グリムさんのように周囲に威圧感を与えられるのでしょうか?-
「ん?気になるか?」
(コクリ)
「ざっくり言うと魔力に怒りとかの気持ちを込めて周囲に垂れ流すんだ。」
-それだけですか?-
「あぁ。まぁ、俺個人としての意見で言うと気持ちが極限以上になると気持ちがあふれ出すとか言うだろ?」
(コクリ)
「そんなイメージで魔力にその気持ちをのせるって言うか混ぜ合わせて周囲に漏らすんだ。」
なるほど。
「ちなみに言うと、俺は今は何もしていない。自然と体から若干漏れてるだけで威圧を一切込めてはいない。」
魔力が漏れてるのは、わざとらしいです。
まぁ、ほんのちょっとらしいですけどね。
「それで少しなんですか・・」
「それって、威圧を込めたら凄いヤバイですよね?」
「まぁな。体験するか?」
「・・遠慮しておきます。」
「・・同じく」
「そうか。で、お嬢はアレで分かったか?」
(コクリ)
まぁ、目に魔力を込めてグリムさんから漏れてる魔力を視てましたので、それである程度把握しましたし、グリムさんの説明で感覚的に理解しました。
えぇっと、怒りの気持ちを込めて周囲に魔力を垂れ流しっと・・
「ひぃぃ・・」
「リアちゃん・・怖い・・抑えて抑えて」
「おぉ・・すげぇ一発だ。てか、分かったから落ち着け?多分それ、俺レベルに近い。」
グリムさんのは今私がしたのよりも1周りほど上のレベルなんだそうな。
ちなみに漏らしたのは少しだけです。
とりあえず収めますが、ちょっとだけだったのですが、セイちゃんもユウちゃんも凄い怖がってましたね?
「ホント理解力がすげぇな。何かあれば聞いてくれ。教えられる範囲で教えるから。」
(コクリ)
「模擬戦とかでも、一緒に依頼でも何でも良いからな。」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
と、お話をしつつお腹いっぱいになったのでお茶をちびちびと飲んでるとグリムさんが考え込むような顔で私をじっと見つめる。
(?)
「いや、失礼・・いやぁ・・お嬢と俺は初対面だよな?」
(コクリ)
「だよなぁ・・こんな美人は見逃すわけがないだろうし・・んー。」
「グリムさんどうしたの?」
「いやぁ・・どっかでみたことがあるって言うか、会ったことがあるような気がするんだが、正真正銘初対面なんだよ・・んー。なんて言うか、中身が違うって言うか、もっとこう・・山と谷がな・・」
中身が違う?
山?
谷?
んー???
セイちゃんたちと首をかしげているとおじいさまが
「ふむ・・リアよ。にやっとしてみてはくれぬか?」
(?コクリ)
なぜに?と思いつつもどう猛な笑みを浮かべてみる。
すると
「あ!流星姫だ!!」
即答でした。
「ふむ。やはりか。」
「じいさんアレでよく分かったな?てか、そっくりってレベルじゃねぇぞ?中身が真逆だが。」
「あぁ・・一応娘じゃ。」
「っ!なるほど・・。あぁ、大丈夫だって俺は口は硬い方だから。」
「それは助かる。グリムは、ペチュニア様のことを知っていたのだな?」
「まぁな。あの人の我が道を行くという精神とどこまでもまっすぐな心意気。それに、あの強さは素直に憧れてたしな。」
「それは分かる。じゃが、その分周囲のメンツは振り回されておったがな。」
「あぁ・・なるほど。噂で聞いた程度しか知らなかったんだが、やっぱそんな感じだったのか。」
「まぁのぉ・・。」
「なるほどなぁ・・。お嬢の魔法の才能はある意味ではなるべくしてなったのかもな。これはどう見てもあの人の生まれ変わりとしか言いようがない。中身は真逆だが。」
「うむ。そこはあの方を知る人は、皆が口を揃えてそう言う。」
「ん?あの絵本は俺も読んだんだが、アレを察するにお嬢ってあの人と面識がない?」
「そういうことじゃ。」
「周囲が過保護なのも納得する。差し出がましいかも知れんが、何かあれば家に来ても良いぜ?ここを第二の我が家とでも思ってくれ。」
いざって時の居場所として提供してくれるってことなんでしょう。
ありがたいです。
おいしい食べ物にもありつけそうですし、いざとなれば冒険者以外で働くことも出来ますからね。
(ぺこり)
「気にしないでくれ。なんだかんだ言いつつ俺は、お嬢をみてると楽しいからな。」
「・・パン、おいしかった・・です」
「っ!・・そうか。」
ほんわりとほほえみながら口に出して素直に感想を告げるとお兄さんはびっくりした顔をした後凄くうれしそうな顔でほほえんでくれました。
凄く目つきが鋭くて威圧感があって怖いと普通の人たちが思うお兄さんですが、そのほほえみは凄く幸せにしてくれる素敵な笑みでした。
どうしてか分かりませんが、その笑顔をもっとみたいと少し・・そんな気持ちがわき上がった気がしました。
「お嬢様、いかがなさいましたか?」
(ふるふる)
「左様でしたか。ギルドカードを確認してはいかがですか?」
(コクリ)
そうですね。
カードさんお願いします。
名前:フリージア・クラリティ・エトワール(悪心撃滅体質)
ランク:B(二つ名=魔鏡姫)
クラン:ポレール・ジュレ
パーティ:ハリーファ(リーダー)
性別:♀
年齢:10
種族:半異世界人
職業:賢者、協奏師
称号:絶望を知る者、幻獣の家族、変態紳士ホイホイ、英雄賢者の正統後継者、神子、狩人
属性:陰
体力:C
魔力:SS
攻撃:D
防御:E
俊敏:D
練度:SS
攻撃技1:【影操作】【射撃】【影纏】【影翼】【人形劇】
攻撃技2:【魔力反射】【物理反射】【性質変換】
攻撃技3:【杖術】【刀】【剣】【短剣】【鞭】【槍】【薙刀】【棍】【棒】【鎌】【斧】【かぎ爪】【合気】
補助技:【念話】【奉納】【心意加増】【精神統一】【アクロバティック】【威圧】
自動技1:【圧縮記憶】【思考速度上昇】【並列思考】
自動技2:【心の瞳】【ショートクさんの耳】【心の歌】【騎乗】
覚醒:【侵食】【拡張】【守護者召喚】
衣類:精霊のストール、精霊樹のローブ
装備品:聖華の杖、教会の腕輪(EX)、幸運のイヤーカフ、聖木の義手
写真:フリージア・エトワール、ペチュニア・エトワール
契約
【幻獣】八咫烏:カルナ
【幻獣】ガルディエーヌ・キャット:シャスティ(装備:黒月)
【妖精】オニキス・ゲル:翠
【??】ウールスフィア:ラナ
【魔物】クロコディルガーディアン:ハディ
加護
母の溺愛、流星姫の過保護
元英雄賢者/現神様のお気に入り、桜華の子孫
下位精霊の親愛、上位精霊:リフの溺愛、精霊樹の巫女
【威圧】
自身の怒りの感情と共に周囲へ魔力を流すことで発動する。
魔力量と感情の強さによって威力が異なる。
※闇属性か、それに近い属性の場合、他の属性と比べ威力が1.5倍ほどとなる。
無事に増えていますね。
「お嬢様、いかがですか?」
-増えてました-
「それはおめでとうございます」
(コクリ)
「お?無事に増えてたみたいだな。」
(コクリ)
あ、そうでした。
-グリムさんの扱う魔法は、闇属性が混ざっているのですか?-
「ん?あぁ、混ざってるぜ?火と闇の属性が混ざったのが俺の黒炎なんだ。」
そう言いながら指先から黒い炎を出して見せてくれました。
「グリムさんの炎が黒いのってそういうことだったんだ・・。」
「まぁな。」
「普通の炎とどう違うのですか?」
「そうだな。火としての部分が強化されて、相手の恐怖心を火の威力に比例して増加する感じだな。」
「火としての部分の強化?・・とは?」
「ざっくり言うとやけどってことだ。」
-火としての当たり前の効果を高める・・。つまりは、炎の質を高めるという感じでしょうか?-
「そのとおり。だから、ごく普通の火を出すための魔力よりも俺の炎は少なくて済むんだ。」
「へぇー。」
「じゃあもし、グリムさんが扱うのが火じゃなくて雷とか水とかだったら・・。」
「痺れたり焦げたりするのが強くなってたり、水は氷か、温度が低い水になってるということじゃな?」
「そのとおり。ちなみに言うと俺の属性は、火と闇の2つから、黒炎っていう属性に混ざって上位に昇華したんだ。」
「ふむ・・混ざるとは面白いのぉ。大抵は片方のみ上位へ昇華し、もう片方は変位するのがオチじゃが。よほど、どちらの属性もバランスが良かったのじゃろうな。」
「あぁ・・・闇属性を使って威圧しながら炎で更に煽ってる感じだったしな。そうしている内に両方をまとめて使うのがだんだん楽になっていくに合わせて火の色が黒くなっていったんだ。」
「面白いのぉ。」
「んで、坊ちゃんと嬢ちゃんは扱う魔法は大体分かったが、お嬢は何なんだ?」
-私は陰です。-
と言いながら触手さんをにょ~んと1本影から呼び出す。
「ほぉ?闇の上位か・・プニプニしてるな。」
-最初からこれだったので、上位なのか私オリジナルの固有魔法なのかは分かりませんが。-
と言いながら硬くしたり形を変えたりしてみると、グリムさんは面白そうに楽しみながら相づちを打つ。
「なるほどな。確かに最初からそうだとオリジナルの可能性があるかもな。にしてもこれ、すっごい多才だな。」
-凄く応用の利く魔法ですよ。-
「みたいだな。それと、お嬢はテイマーか?」
(コクリ)
「ほうほう。お嬢の場合は、獣魔が接近戦、お嬢が遠距離戦で戦えば単独でも十分いけるのか・・おまけに、お嬢には、魔法反射がある。相性が良いな。」
-日々助けてもらってます。-
「お嬢も、坊ちゃんたちもまだまだ子供なんだ。んなもんさ。」
そんな感じで色んなことを教わりつつ雑談したりして、私たちはグリムさんとお話をしました。
--グリム--
奥でマイペースにパンを自身の魔法である黒炎を使って丁度焼き上げたところで店が騒がしいことに気づいた。
聞こえる声は、幼い子供の声とじいさんと青年の声だった。
行ってみると子供が3人(1人が男だと後で気づいた)、青年2人、じいさん1人、後獣魔がぞろぞろ。
親子と友人の組み合わせか?
にしても珍しい。
この店に来るなんて。
大抵はあの看板をみて辞めるか、周囲のメンツが喋ってる俺のことを聞いて入るのを辞めるんだが・・とか思ってたら、絵描きの兄ちゃんが答えてくれた。
で、その総スルーするお嬢様は、俺のことは同じくスルーしてパンに目が奪われていた。
ちょっとだけ驚いた。
凄くきれいな黒髪だったし、振り返ってみた顔はすっごい無表情だったが凄い美人だった。
大人になっていけばもっと美人になるだろうと確信出来るほどだ。
それから、色んな話しをしていると驚くポイントが出てくる出てくる。
その美人さんは魔鏡姫だしクテン様だし。
おまけに大食いだっていうのも目の前ではっきりした・・あの細い体のどこに消えていくのか凄い不思議だ。
スタイルは・・まだまだ幼いからアレだが母親のことを聞くと期待出来そうだ・・ゴホンゴホン。
まぁ、保護者ポジションのメンツも半端じゃなかったが。
ただの美人だったらそうかで終わったはずがなぜかずっと眺めていたくなる。
俺が作ったパンがおいしかったと言ってくれたときは凄くうれしかったし、幸せそうにそして、おいしそうにパンを食べている姿を見ると心が躍るようだった。
どうしてだろうか。
この子の・・お嬢のことを幸せにしてあげたいと・・もっと笑顔を見せて欲しい、守ってあげたいと思うのは。
見た目でそう思ったから?
あの絵本で知った過酷な過去を知って同情して?
母親が凄かったから憧れて?
俺を見た目で判断しなかったから?
周囲の噂も気にせずにほほえんでくれたから?
どれも合っているようで違う気がする。
もしかすると一目惚れなのだろうか?
いや、それは我ながらあり得ない。
俺が、一目惚れとかあり得ない。
それに、まだ相手はギリ幼女・・。
俺とは5つほどもかけ離れている。
まぁ・・10以上離れた年の差夫婦もいたりするから珍しくはあまりないのだが・・。
まぁ、あの感じからするとちょいちょいパンを買いに来てくれそうだし、れっきとした俺の後輩なんだし、教えることも多少はあるだろうし、そんな俺の気持ちの確認も含めて見守っていきたいモノだ。
さて、久しぶりに教会に本を読みにでも行こうか。
次回は23日です。