温度を支配する者
--フリージア--
いよいよ冬の大陸にあるアルバトロスという国を潰すために出発した私たちです。
そして、その国の者どもにどれだけ愚かなことをして我らクラリティ王国を敵に回したのかを知らしめるためのシナリオをリムさんを主人公としてサブの主人公としてシルちゃんをたてることにしたようです。
そして現在、我がエトワール公爵家所有の飛行艇”フルール号”は、最高速度で進んでおります。
道中、ワイバーンやら数メートルサイズの鳥の魔物やら空飛ぶお野菜やらいろんなのが襲ってきますが、翠ちゃんが瞬殺しております。
シュバルツのメンバーの経験値稼ぎにしても良いですが今回はなしです。
だって、彼らには頑張って貰わないとならないんですから余計な時間はかけさせません。
で、さんざん探検して満足したらしいシュバルツメンバーは現在お船の船首辺りでものすごい速度で通り過ぎていく大陸を見ながら色々つぶやいてる。
「うわぁ・・さすが飛行艇。俺たちが数ヶ月以上かけて通った場所を数時間で通り過ぎてるよ。」
「ホント頼もしいよね。」
「というより、お師匠様。この船の燃料って確か魔力だと聞いてますけど、チャージとか必要ですか?必要なら俺らやりますけど。」
{必要ありませんよ。往復するくらいは余裕で足りています。笑顔で見送ってくれたメンバーからこの船の設計に関わったメンバーが全員嬉々として魔力を限界ぎりぎりまで込めてましたから。}
おまけに、追加補充用で、マジックストッカーを大量に貰っています。
マジックストッカーは、魔力をためることが出来る魔道具です。
ためることが出来る代わりに中の魔力を小分けして使うことが出来ない単発式ですけどね。
シルちゃんたちでわかりやすく言うなら、電池とか詰め替え用の何かです。
「あぁ、あのビー玉みたいなのがそうだったんだ。」
(コクリ)
「けど、思えばシリルさんと合流してから日が経つのがすっごく早い気がする。」
「それわかる。」
「色々刺激的で、すごく楽しいことがいっぱいだもんね。」
「ねー。」
「私たちも戦闘でもそれ以外でもすごく成長することが出来たもんね。」
「自分たちが作ったモノで少しはお金を稼ぐことも出来たしね。」
「しかも感想もきちんと言ってくれたからすごくためになったし。」
クラリティ王国中をシュバルツのメンバーは駆け回ったりして、いろんな人たちと交流していました。
そのおかげで、自身を鍛えることも出来たようですし、物作りをして実際に売って、その評価も直接聞くことが出来た。
そうして様々な方面で学び・鍛えていた彼らは、遊んだり買い物をしたりした時間すらも決して無駄ではない。
そうなるのはクラリティ王国の特色でもあります。
観光をしつつ、させつつも、さりげなく何かしら鍛えれるようになってますし、学ぶことも出来ます。
これは、昔から住んでいるクラリティ王国の国民たちがさりげなくお客さんの将来的にプラスになるように支えるために計画し、実行しています。
こうしたところも、クラリティ王国が様々な意味ですごい国だと言われる由縁です。
クラリティ王国の国民のモットーは、”悪を許さず、楽しく学び鍛え、切磋琢磨せよ”である。
{この戦いが終わった後は、皆さんは毎日必ず教会へ祈りに行きなさい。}
全員「了解です。・・けど、どうしてですか?」
{今回の戦いは、言ってしまえば天界・そして神様のお仕事を手伝っているようなモノです。今回の頑張り次第では、報酬として皆さんの願いが叶いますよ。そのためにもしっかりと祈っておきなさい。まぁ、あなた方は毎日祈ってはいるのでいつも以上に念入りにと言う意味です。}
「もしかして、師匠。神様に何か掛け合って下さったのですか?」
{私がと言うよりは、皆さんが日々怠慢せず努力し続けていたことを評価して下さったからですよ。その報酬のために神様もその補佐をする方々も全員皆さんを応援してますし、色々と頑張ってますよ。}
全員「頑張ります!」
うん、良い笑顔で良い返事です。
実際、そのための準備としてアルバトロスが所持する資料は必要だったりするんですけどね。
その準備も、密かに私も進めてますし。
まぁ、その報酬が、本当に叶うかどうかはある程度の構想は出来てますが、運任せなところもあります。
その運の部分の確率を上げるために神様である桜華さんとお母さん、そしてそれを補佐している天界の天使さんたちが天界でドタバタとあちこちに掛け合って下さってるんです。
なので、まだ100%と言いにくいので少しでも確率を上げるために彼らの評価を上げておきたいというのが今回の少しでも祈れというお願いです。
それに、今回の頑張り次第ではホントに、桜華さんたちが掛け合って下さってる相手側の協力しようとする意志の強さが変わってきますから。
そして、超特急で進めた結果、お船の上で1晩経過した翌日のお昼前くらいに対象の国は見えてきた。
ちなみに1晩は、適当なところに船を下ろして止めましたよ。
{そろそろ目的地に到着するので作戦を実行します。}
全員がうなづく。
{そして、シルちゃん。}
「はい。」
{せっかくなのでもう1段階レベルアップしましょうか。}
全員「え?」
「え、あの?師匠?それはどういう?」
{シルちゃんが今扱っている温度変換による2つの魔法は、激高したことで発現しましたね?}
「師匠のおっしゃる通りです。」
{その後に、その時と同じかそれ以上に一度でも激高しました?}
私にそう言われてシルちゃんが考え込んでましたが、しばらくして首を横に振る。
「・・・・そういえば、あの時と比べるとないですね。」
{その時と同じかそれ以上に強い感情で自身を支配しなさい。そうすることでシルちゃんの魔法は最高点までたどり着きます。}
「わかりました。ですが、それをぶっつけ本番でしても大丈夫なんですか?一応万が一ということもありますし・・」
{ちょうどいいタイミングではありませんか。どうせすべてを消滅させるのですから、とことん使いつぶす良い実験材料として有効活用しましょう。}
「・・・・・・・・心構えしておきます。」
シルちゃんも他の皆さんもどうしてそんなにひきつったお顔になってるんです?
それと、シルちゃん?
声が出るまで時間がやけにかかってましたね。
「あ!師匠!私は!?」
{せりちゃんは、自身の魔力に感情を乗せるようにしなさい。}
「感情を?威圧みたいな感じ?」
{似たようなものですが、感情を高めることで自身の魔法の威力を上げ、消費魔力と脳への負担を減らすようにすることです。}
「それって、師匠がよく使う感情強化?」
(コクリ)
「そう言えば私、その技持ってなかったかも。・・よし、頑張ります。」
(コクリ)
せりちゃんの場合は、感情豊かですし、シルちゃんに影響されてなのか正義感も強いですからね。
おまけに、シルちゃんがかかわると感情は更に高ぶりますし。
なので、その感情がせりちゃんの強さにそのまま変換される感情強化を扱えば今の倍は軽く強くなれます。
--シリル--
相変わらず師匠は、かわいい顔してえぐいセリフをおっしゃる。
そのギャップがかわいいという声はかなり多いし、隠れMに目覚めた輩が増えたとか、並行してロリコンになったとか師匠がロリコン製造機と呼ばれてたりするとかいろいろあったりするがまぁ・・言わぬが花だろう。
師匠が目覚めてからそれなりに日が経った。
結構長い期間眠っていた影響でアルナさんとシャスティさんが過保護&超絶溺愛状態・・というよりむしろ依存している状態か、百合とかに目覚めてる状態になってる感じすらあるけど。
で、シャスティさんの師匠ラブは眠りにつく前と比べて誤差と言えなくもないけど、アルナさんは何というか以前の距離感に戻る気配が皆無だ。
実際、アレから毎日どころか四六時中欠かさず師匠を抱きしめ満面の笑み(むしろとろけてる)で、頬ずり&キスの嵐だ。
そして、スルースキルがマックスになってる師匠はそんな状態を特に気にせずにスルーしてる。
一応、アルナさんとお付き合いしているはずであるリカルさんにその後の進展はどうなのかとアルナさんの状態が状態だったから心配して声をかけたものの・・・。
「あぁ、大丈夫ですよ。俺自身、楽しそうにしているアルナさんとお嬢様を眺めて、お世話して絵を好きな時に好きなように描かせてもらってるだけで十分ですし、あぁ見えてアルナさんはちゃんと俺のことも考えているのですよ。」
微笑ましそうに眺めながらそう言ってた。
で、その証拠を聞いてみたところ
「ホントにさりげないので気づきにくいのですが、どこかに行くときは俺に声掛けは必ずしてくださいますし、お嬢様を愛でながらもさりげなく俺のそばに移動してますから。」
他にも、アイコンタクトで会話をしているらしくさりげないところで仲の良さは互いにアピールしていたようだ。
何というか、初々しさの残る親ばか夫婦と言った方が正しいのだろう。
そうなると、師匠とアルナさんの間には、百合的なモノと言うよりも、娘を溺愛する母親か妹を溺愛する姉のどちらかだろう。
俺とセリカの場合は、幼馴染兼恋人という感じでずっと過ごしてきた影響で相棒というイメージが強いしな。
それでいうと、一番普通の恋人っぽさはタクミとカナミだろう。
ニシキの場合も、何というかちょっと古風な感じなんだよな。
リーベが性格が大和なでしこでニシキを陰からそっと支える感じだし、ニシキも常に守ろうとしてるし。
さて、俺のクラスメイト達であるタクミたちはこの飛行艇の中を散々探検して回ってた。
気持ちはわかるがもう少し落ち着いて欲しいと思う。
テンションが、高校生ではなく遊園地に出かけた小学生だ。
余りにもテンションが高すぎて少し恥ずかしかった・・・何というか俺は、同級生というより保護者っぽいんだよなぁ・・我ながら。
まぁ、散々同い年から年下・・場合によっては年上からお兄様、お兄ちゃん呼びされてるから今さらだしその影響だとわかってるけどさ。
そして、いよいよアルバトロスへ向かっているわけだが、師匠からのアドバイスはまさかの俺のもう1段階上へと至るアドバイスだった。
そのイメージも考え込んで座り込んでる俺の膝を枕にしてるセリカとそんなセリカにもふられてるエクレを撫でつつイメージを纏める。
感情の爆発は一度経験したからなんとなくわかるし、感情を爆破させるときは周囲のことは一切無視してやれと言われたし、みんなも気を付けてくれることになってるしたまには守る立場から守られる立場っていうのを経験してみるのも悪くないしな。
それから、余裕を持って2晩過ごした翌日のお昼前にアルバトロスは見えてきた。
そう言えば、どうでも良いことだが、アルバトロスってアホウドリのことではなかっただろうか。
アホウドリは確か、飛ぶことが非常に苦手で助走をつけ、風にうまく乗れれば空を飛べるという感じで、警戒心も他の鳥と比べて薄いことからアホな鳥とかそんな感じの言葉から生まれた名前だ。
本人(本鳥?)たちからすると非常に良い迷惑な名前だが、国名としてはある意味お似合いだな。
トップがアホやらかして、異世界規模での誘拐とその魔法は、禁忌とされている異世界召喚魔法。
おまけに、その魔法を発動させるために同じく禁忌とされている命を魔力に変換する魔法で強制的に集めた人(奴隷の可能性大)から魔力を絞り尽くして発動させていることが判明している。
ちなみに、命を魔力に変換することは、禁忌とはなっているが自分自身で理解していて発動するのは問題ないが、他者へ同意なしで行うことが禁忌となるので、準禁忌と言った方が正しいのかもしれない。
本来であれば自分自身に使うことも禁止させるべきなのだが、どうしてもこの世界は命の重さが軽い世界だ。
状況次第では、そうでもしないと自分だけにとどまらず同行している人たちを含め全員が死んでしまうことだってある。
そんなときに、その魔法を使って1人でも全員でも生き残れれば扱うだろう。
たとえやり方がわからずとも緊急時には本能的にやり方を知ってしまうから。
そう言う経緯もあり、全面禁止にすると禁忌を犯す人だけでもかなりの人数になったりするため、こういう扱いになっているのだという。
で、道中野営する際、ちょうど海のど真ん中だったとき、近くの島なども見つからず海の上で船を停止させて夜を過ごしていた際、こんな魔物が襲ってきた。
グランデマスイール
全長平均200メートルはある巨大なウナギで、常に群れて行動を取っている。
非常に活発的な性格をしており、敵っぽいモノを見つければとりあえず後先考えずに襲ってくる。
非常に脂がのっておいしく、栄養満点。
獲得部位:魔石、肉、骨(食べれます)、眼球、牙
骨は、武器にするには非常にもろいが、食べるにはパリパリと言うかバキバキというかそんな感じの歯ごたえでおいしく食べれる。
まぁ、それにカルシウム満点で普通の魚よりも豊富なんだとか。
眼球は、煎じれば様々な状態異常の回復を促したり、スタミナ回復薬になったりする。
牙は、巨大な体からすると非常に鋭く、そして細かく、歯の数が非常に多いことから、のこぎりのような工具類(切断系)に加工することが多く、非常に重宝される。
ちなみに今回の数は、76匹でした。
ちょうど良いと言うことで、夕飯になったけどものすごくおいしかった。
なにげに初めて白焼きで食べてきたけど十分おいしかった。
それと、魔物の肉だからなのか、この魔物の特性なのか非常に脂がのっているにもかかわらず賞味期限がものすごく長いらしい。
常温で放置しても一ヶ月は余裕らしく、冷蔵庫のように冷やして保管すれば3倍以上長持ちするんだとか。
それと、一応比較対象として牛タイプや、豚タイプ、鳥タイプの魔物の肉の賞味期限は、大体常温で10~20日ほど。
冷やせば3倍以上になるのは同様なんだとか。
で、魚タイプだと常温で10日前後。
そして余談だが、あまりにも多いし、でかいと言うこともあり、途中食糧難になってたらしい村や町へ無償配布しておいた。
まぁ、数匹くらいは手元に残してはいたが。
それに関して非常に感謝され、お礼としてそれぞれの村や町の特産品らしい編み物や染め物、置物を色々と貰った。
それらに関しては、後ほどクラリティ王国内の各地に配置され、それを見てそれらを求める人が微増したりするのはここだけの話。
そのほかにも、アルバトロスへ到着するまでこれらの魔物が襲ってきた。
フールバード
全長1メートルほどの鳥で最低でも3桁は誇るほどの数で群れて行動する。
一定距離内の敵は問答無用で襲ってくる。
鋭いくちばしは、軽く鉄などは貫くので注意が必要
獲得部位:魔石、羽毛、くちばし、肉
フライングフィッシュ
空を水の中のように泳ぐ全長2メートルの魚
個体によって赤身だったり白身だったり青身だったりする。
獲得部位:魔石、翼、肉
オーシャンオックス
海の中に住み、水の中で一生を生きる牛
渦潮を巻き起こして船を転覆させるのが趣味
獲得部位:魔石、骨、革、肉、まれにミルク
ヒートヘイズマン
陽炎がそのままゴーレムとなった魔物
実体を持たないので、物理攻撃が効かないが、全身が散りじりになると死んでしまう。
近寄る生物は問答無用で干からびさせてしまう。
獲得部位:魔石、乾燥剤
ティーゴーレム
大量の葉を圧縮した体を持つゴーレム
火に弱いが、巨体なわりに動きは早く、宙を舞うが、たまに風に飛ばされる。
獲得部位:魔石、茶葉(個体によって種類は異なる)
アイスゴーレム
氷でできたゴーレム
獲得部位:魔石、氷
ウォーターゴーレム
圧縮した大量の水で出来たゴーレム
獲得部位:魔石、水
ダンディフィッシュ
無駄にダンディな顔をしたひれがない代わりに手と脚が生えた魚だが、二足歩行で水の中で息ができない。
けんかっ早く、一度目が合うと必ず喧嘩を売って襲ってくる。
獲得部位:魔石、肉、サプリメント
フライングフィッシュの翼は、魔道具に加工すると空を飛べないが跳べるようになれるらしい。
そしてヒートヘイズマンの乾燥材は、数グラムあれば半年は軽く半径1メートル四方の空間の湿気をとってくれるのだとか。
で、3種類のゴーレムからとれる茶葉や氷、水は、どれも通常のものよりもおいしく、不純物がないんだとか。
ダンディフィッシュだが、加工前を知ってると嫌がる人は多いが、その肉は赤みが多く、若干牛肉っぽい感じが混ざってるらしい。
ただ、その見た目が見た目のため、食べた後に顔が変わってないか、性格が変わってないかと心配する人は以外と多かったりするが、そういうことは全くないと断言しておこう。
それとそいつからとれるサプリメントは、筋肉美を目指すボディビルダー的な人たちに愛用されるすごく効きの良いアイテムらしい。
ただ、多用しすぎると性格が無駄にダンディで筋肉だるまになるから注意が必要だとかなんとか。
だとしても、ホントにいろんなのが襲ってくる。
先ほど挙げた奴ら以外にも、空からワイバーンが襲ってきてたしな。
まぁ、訓練代わりにちょうどいいかってことで開き直ってるが。
とはいえ、そんな感じで俺たちはアルバトロスへ到着した。
いよいよ作戦開始だ。
「うわぁ、なんか城壁の中がすでにカオスなことになってる。」
「お師匠様があらかじめ仕掛けてたところが見事に効いてるんだろうねぇ。」
師匠が色々と仕掛けてるのは知ってたが、城壁の中はまともな人は皆無だった。
結構な建物や通りはガランとしており、うろつく人たちは完全武装した状態プラス、明らかにろくでもない連中ばかりだ。
「さて、じゃあリア。早速で悪いが頼むな。」
(コクリ)
「お前らも構えとけ。リアが全力モードになるから。ついでに威嚇しとくからその余波でぶっ倒れるんじゃねぇぞ。」
全員「おう!」
グリムがそう言い、俺たちが全員強く頷くと、師匠がふわりと空高く舞い上がる。
そして、
ズドン!!
全員「っ!!」
ズドンと音がしたかと勘違いするほどのものすごい濃度の威圧が師匠からあふれてくる。
師匠の瞳には魔方陣が浮かび上がり、正真正銘の本気モードだと瞬時に察する。
そして、
ドバァァアアアアン!!
師匠の足下から大爆発して影が周囲にあふれ出す。
その影は、師匠をくるりと取り囲み、徐々に姿を変えていく。
国を覆い尽くすかと思うほどの巨大で雄大な一対の翼
あらゆるモノを切り裂くかのような鋭い爪
どんなモノでも貫くくちばし
強靱で圧倒的な強さを醸し出す体
一度見ると自身よりも圧倒的に上位者だと思わずにはいられない鋭い瞳
グルゥゥゥァァァアアアアアアア!!!!!
「・・・アルケンタヴィス」
大陸を揺るがすかと思うほどその咆哮が響き渡る中、タクミがぽつりとつぶやく。
遙か昔にいたとされる巨大な鳥のことだが、師匠が作り出していることもあり、目の前に存在するそれのサイズは、両翼の翼を広げると300メートルは優に超えているだろう。
そして、バサリと翼を広げるとふわりと羽が周囲へ漂うが、その羽1つ1つは徐々に姿を変え、半径30メートルはあるヘビ型ドラゴンが20体に姿を変えた。
ガァァァァアアアアアアア!!!!!
20体のドラゴンが目の前に広がる国を覆うように宙を漂いながら咆哮を上げる。
その1体1体だけでも、とんでもない威力と威圧を感じるが、師匠からはそれらとは桁違いの威圧を感じる。
正直油断すれば俺たちは意識を失うんじゃないかと思うほどだ。
「さてと」
グリムがそう言うと、飛行艇の隣まで降下してきた師匠(タイプ:アルケンタヴィス(タクミ命名))の背中に飛び乗ると同時にグリムからも桁違いの威力の威圧が発動する。
「・・・2人揃うと冗談抜きで世界王者だよね。」
「だね・・・魔法の天才と死神が揃うとマジで世界最強。」
セイちゃんとユウ君がぽつりとつぶやく言葉に思わずうなずく俺たち。
ちなみに、カルナさんたち獣魔メンバーも全員変身して巨大化しているため、そんな彼らも含むとまさしく物語の魔王軍幹部メンバー勢揃いという感じだ。
いやさ・・普段どんだけ手加減してたのさと言いたくなるほど桁違いの威力で威圧とかを垂れ流しにしてるんだからさ・・。
そして、たった2人によるオーバーキル並みの威圧を発動しただけで、城壁の中でうろついていた連中は泡を吹いて気絶してる。
これ・・口にはしないが、物語の魔王が現れたときに国中が大混乱になる時って・・リアルで見るとこんな感じ何だろうなぁと思わずにはいられない。
それから、グリムが静かに告げる。
「アルバトロスに存在する愚か者共へ告ぐ。」
静かに・・だが、なぜか良く聞こえる声だ。
その声音は、本人による威圧感と師匠の見た目と纏う威圧と存在感が合わさり、絶対的王者を思わせ、誰もが無視出来ないモノとなっている。
「我は死神。世界を混沌へと揺るがす禁忌を犯す者どもを断罪するモノなり。」
ちらりとグリムが俺たちを見て、それで俺たちは瞬時に察する。
俺たちは、飛行艇から城壁の上へと飛び降りる。
「禁忌を犯す者どもに未来はない。我が神兵よ、ゆけ!!」
全員「はっ!」
さて、ちょっとしたかっこつけと死神の部隊ということで、神兵だと思わせるために一丁やりますか。
眼前に広がるのは愚か者共が泡を吹いて気絶しているが、それまでは捕まり陵辱されたり、暴行を加えられたりしている被害者たちも多くいた。
そして、そんな光景を目にする騎士が助けることもせずにあざ笑ってすらいた。
あぁ、師匠。
何にも考えずとも俺、激情するよ。
俺の中でカチリとスイッチが入ったような音が聞こえたような気がしたが、その直後に突然頭の中に声が響く。
-これまでの自分を捨てる勇気はあるかい?-
聞いたことのない男性の声に俺は心の中で答える。
もちろんだ。
-どうして力を求めるんだい?-
大切な人を守るため
-今でも十分じゃないの?-
俺は、大切な人を守りたいし、師匠の弟子としてふさわしくありたい。
-今でも十分だと思うよ?-
俺は、自分で自分の限界を決めたくない。
限界を自分で決めると必ずやってくる未来はロクなことがない。
俺は嫌だ。
常に高みを目指し、師匠の弟子として・・後ろに並ぶのではなく隣で胸を張って生きたい。
-うん、合格。それでこそ僕の子孫だ。これは、僕からの贈り物だ。君たちの明るい未来を見守っているよ。-
あなたはもしかして・・・
いや、それ以上は言うまい。
≪加護:賢神の加護を獲得しました。≫
≪条件が達成されました。シリル・クニサキの進化を開始します。≫
今度は、無機質な感じを思わせる淡々とした感じの女性の声が響いてきた。
俺の中の何かが作り替えられていく感じがするが、それと同時にものすごく力があふれてくる。
そして、これまで使っていた力がなんとなく自分の中に溶け込んでいくような感じがした。
その感覚は数十秒と経たずに完了すると再度あの女性の声が響く。
≪氷炎人への進化が完了いたしました。≫
全員「・・・・・」
「・・・ん?どうした?」
何で全員俺のことをそんな目を見開いてフリーズしてるんだ?
「し、シリル?」
「どうした?今は、冗談に付き合う暇はないぞ。」
「う・・うん・・・・」
いや、ホントになんだ?
「え、えぇっと・・兄貴・・」
「どうした?」
「なんで、髪の色が”白く”なって、目の色が変わってるんだ?」
「は?」
何を言ってるんだ?と周りを見ると全員頷く。
そして、
「とりあえず、鏡どうぞ。」
「あり・・が・・と・・・・う・・・・」
おぉう。
なぜか、髪は真っ白、目は左右それぞれ紅と蒼に染まってる・・てか、白髪のオッドアイかよ。
もしや、さっきの進化したとか言ってたアレか?
とりあえず、自分の状況を確認しないと・・そのくらいの時間は問題ないだろう。
ステータスオープンってな
ランク:A(二つ名=音の支配者/黒夜叉)
名前:シリル・クニサキ
性別:♂
年齢:19
種族:氷炎人
職業:軽業師、吟遊詩人
副職:絵本作家
称号:異世界に攫われし者、みんなのお兄ちゃん、アイドル
属性:温度変換
体力:S+
魔力:SSS
攻撃:SS-
防御:A
俊敏:EX
練度:SS+
衣類:混合岩の装備セット、演者のヘアバンド
武器:吟遊詩人の魔双剣(炎・氷)
装飾:クラリティ王国公爵家の証、誓いの指輪
攻撃技1:【体術】【感情強化】【切断強化】【貫通強化】【豪脚】【射撃】
攻撃技2:【凍結】【炎熱】【冷気支配】【熱気支配】【衝撃波】【多重奏】
武器1:【剣】【短剣】【二刀流】【双剣】
補助技:【アクロバティック】【虹色の声】【威圧】【熱源感知】
自動技:【武器舞踊】【武器舞踏】【絶倫】【精豪】【並列思考】
契約
【妖精】雷鳥:エクレール
加護:賢神の加護
・・・おぉぅ
おまけ
エトワールファミリーの教訓
・武力で屈服させ、知力で心を折り、身分でとどめを刺すべし