シリル、セリカ:覚醒
--シリル--
ミートマン討伐の依頼を受け、俺たちは今、セリカ、ソレイユ、アマル、シュテルの5人で対応することになった。
村の方は、村人たちの治療などを済ませ、柵などは出来る限りの強化と補強を行なった。
・・その結果、微妙に崇拝されかかった気がするのは気のせいと言うことにした。
で、ソレイユ、アマル、シュテルの3人ははっきり言うと申し訳ないが実力不足だったので、俺たちのフォローをしてもらっている。
俺とセリカは前戦でミートマンたちを倒し続けていた。
倒しても倒してもやってくるこいつらはホントに大変だ。
けれど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
一撃の威力が高いセリカと猪突猛進なミートマンはかなり相性が良いようでほとんど入れ食い状態。
セリカに近づけばその場で大剣で真っ二つだ。
で、俺は、そいつらへ突っ込んで関節等を狙って動きを阻害し、急所を突いたり斬ったりして対応している。
体力の消耗を出来る限り減らすように斬り飛ばしながら自身の動きの最適化を図りながら対処する。
体力は俺はそれなりにある方だ。
とはいえ、ハディさんたちと比べたら・・と言うより比べるのもおこがましい程度だけどさ。
それでも、地球にいた頃よりもずっと体力は付いたし、格闘技関係を含む戦闘方面の技術は非常に上がったと思う。
勉強の方は、地球の知識とこの世界の知識の差に戸惑うけれど翠さんのおかげで思ったよりもスムーズに覚えることが出来ている。
驚いたことに、翠さんは転生者だった。
しかも90ほど長く生きたのに加えて、この世界でスライム・・この世界だとゲル種か、で、その種類の魔物になったそうだ。
で、世界中を回り知識を身につけ、実力を上げつつ今に至るらしくこの世界だけで軽く500年は生きているそうだ。
そのため、ものすごい知識量だし、俺等と同郷と言うこともあり説明も凄く覚えやすい。
・・で思ったのは、元老人だというのにどうして俺等のようなオタクネタをがっつり知っているのだろうか。
それはさておき、ミートマンの数が予想以上に多いな。
妹枠に収まりたいらしい女性陣3人のフォローは非常に優秀だった。
相手の動きを阻害することを念頭に置いてしてくれているおかげで俺とセリカが目の前の敵に集中出来るからだ。
不幸中の幸いなのは、こいつらは接近戦特化で遠距離技を持たないと言うことだ。
まぁ、岩とかを投げ飛ばす気もするのだが、ここら一帯にはそう言う岩はないし、あっても植わっている木くらいだ。
そうして、倒して倒して倒して倒していく中で心が凄く高揚する。
模擬戦中の俺の様子をセリカが以前教えてくれたのだが、どうやら師匠の戦闘狂が移ったらしい。
おかげで、戦闘中の俺は凄くどう猛な笑み・・というかワイルドな表情になっているらしい。
・・それも良いとか言っていたが俺はナルシストではないのでスルーした。
そんな中、俺の気持ちが高揚するのに合わせてこのミスリルソードから光の粒子が漏れていた。
漏れると言うより溢れるって感じか?
しかも、俺の気持ちが高まるとそれに比例するようにその粒子は増えていた。
赤の割合が多く染まっている方からは深紅の粒子が。
青の割合が多く染まっている方からは蒼い粒子が。
特に温かいわけでも冷たいわけでもない。
それに光って視界がチラチラすることもないとても不思議なモノだ。
それから、どれほど時間が経ったのか分からないが、ようやくミートマンを一通り倒すことが出来た。
「まずは一段落だな。」
「そうね。けど、休ませてはくれないみたい。」
「予想はしてたがそうだな。」
ミートマンが全滅したことを察したのかツリージャイアントの群れが今度は俺たちに襲い掛かる。
俺は軽く息が上がっているだが、セリカは俺よりも少し荒く肩が上下している。
「セリカ、大丈夫か?」
「大丈夫。シリルのおかげで大分魔力は消費を抑えることが出来たから。」
師匠との特訓にはホント感謝だよとセリカは告げる。
魔力制御の特訓は毎日欠かさず行なうように師匠に言われ、俺とセリカは真面目に取り組んでいた。
そのことが今回は非常に役立った。
おかげで魔力の消費を出来るだけ抑えることが出来たんだから。
「それに、今はそれどころじゃないでしょ?」
「・・それもそうだな。もう一暴れ行くぞ。」
「もちろん!」
ミートマンと比べ、ツリージャイアントは動く速度は遅いと言うかほとんど動かない。
その代わり、葉っぱを手裏剣のように飛ばしてきたり根っこや枝を鞭のように操る速度は非常に速いから接近戦での戦いはあまり向かない相手だ。
更に
「シュテルちゃんの火・・あまり効果はないみたいね。」
「内包する水分量が多いせいだろうな。」
ものすごく膨大な量の水分を必要としていると聞いているからおそらくはそのせいであまり火が効かないのだろう。
とはいえ、遠距離攻撃が得意な子はこの中ではシュテル達自称妹達だけだが、威力が少々乏しい。
まぁ、
「接近戦相手だとすっごい鬱陶しいらしいけど、師匠の影の軍勢と比べたら単調よね。」
「スピードはシャスティさんのを経験してると余裕で目で追えるしな。」
シャスティさんに黄昏さんというスピードが半端ないメンツとの模擬戦や、師匠との模擬戦を日々行なってる俺とセリカからするとこいつらの動きは余裕で対処出来る。
何せ、師匠の影の軍勢はスピードはぼちぼちでも次に何をどのような戦法で仕掛けてくるかが一切先読み出来ないんだから。
扱う武器の種類の膨大さもそうだが、1体1体が決まった姿形をしておらず、自由自在に武器の姿も変わる。
おまけにサイズも数も自由自在・・一応上限はあるらしいが。
しかも、師匠の先読み技術はまるで俺たちの心の中が見えているかのように正確で、魔力を練りだした瞬間に対処されるのも当たり前。
師匠だけでそんな有様なのに獣魔メンバーは接近戦特化なのに加えて1体1体が半端じゃないほど強い。
スピード戦では随一のシャスティさん
搦め手のカルナさん
とんでもない頑丈さとカウンターのハディさん
超広範囲プラス搦め手プラス溶解の翠さん
スピードと技術と身体能力のどれも規格外な黄昏さん
誰もとんでもないレベルなんだ。
おまけに、魔術師団の皆さんからアルナさんにリカルさんたち、しかもセイちゃんにユウ君、イリスさんもそれぞれの分野で規格外なほど強い。
そんなメンバーと模擬戦を日頃からしまくってるんだから比べるのもおこがましい。
そして、俺は襲ってくる枝と根っこを躱しながらそいつらを切り落としていく。
セリカは、襲ってくるそれらをツリージャイアントもろとも真っ二つにしていく。
何度も何度も斬って斬って斬った。
だが、こいつらはその場からあまり動かないとはいえ、普通の木と比べると飛んでもなく頑丈で常に枝・根に魔力を纏わせて威力を上げて、自身にも身体強化を濃いめに発動しなければ決して斬り飛ばせない。
ミートマンとの戦闘で結構魔力を消費させられたのに加え、肉体の方もそこそこ疲労していた俺たちにとっては良い迷惑だ。
おまけに数も小さな森1つくらいはあるくらい大量にいるからたちが悪い。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
どれほどの間戦い続けているのかすっかり麻痺してる。
さすがに体力も限界が近く、肩で息をしている状態だ。
魔力は、この剣のおかげでどうにか最低限の身体強化を行なう程度は残っている。
視界の端に移る自称妹達が泣きそうな顔で必死に俺とセリカの周囲にいる奴らに魔法を放っている。
セリカも、俺と同様肩で息をしながらも必死に奴らを斬り飛ばしていた。
「さ、さすがにきっついね。」
「どれだけ大量にいるんだこいつら。」
「絶対3桁はいるよね。既にそれに近いくらいは倒した気がするもん」
「だよな。けど、ここで立ち止まるわけにはいかない。」
「ね。それにあっちも逃がしてくれなさそうだし。」
セリカと背中合わせになるようになって襲ってくるそいつらを斬り飛ばしながら会話を続ける。
「セリカ、まだ大丈夫か?」
「もちろん・・って言いたいけど正直牽制するのでやっとなんだよね。魔力はギリギリあるけど体力・・と言うか腕が限界。」
セリカの武器は重量があるからな。
さすがに何時間も全力で振り回すほどは保たないな。
と言うよりここまで保った方が凄い。
「後は休んでくれ・・とも言えないのが悔しいな。俺はまだそこまで強くない。」
「私も悔しいよ。シリルの役に立ちたいのに腕がもうほとんど動かない。・・せめて、シリルを私が強化してあげることが出来ればいいの・・・・に・・・それだ!」
何か思いついたらしい。
「シリル。これからちょっと試したいことがあるから・・信じてくれる?」
「俺がセリカを信じなかったことがあるか?」
いつだってセリカは俺の道しるべなんだからな。
「ありがとう。じゃあ、いくよ。」
セリカは、俺の背中に両手で触れ、魔力を流し込む。
師匠に教えてもらった魔力譲渡とは異なり、俺自身が強化されていく感じがする。
この感覚は、何と言うか身体強化したような感じに似ているが何か違うと俺の勘が告げる。
「セリカ、これはまさか」
「上手くいって良かった。ちょっとした思いつきだったけど私の属性の真骨頂はこれだったんだ。」
「セリカの属性の真骨頂・・まさか、強化する対象はセリカ自身が選べばどんなモノでも強化出来ると言うことか」
「えぇ。今私は残りの魔力でシリルの魔力そのものを強化した。今出来るのはこのくらいだけど・・私はもう動けなさそう。・・正直意識を保ってるのでギリギリ。」
「ありがとう。これだけで十分だ。・・けど俺自身がまだ何か掴み切れてないんだ。」
「・・シリルは我慢しすぎなんだよ。」
「我慢?俺は我慢はしていないぞ。」
「してるよ!いつも私を優先させて本当にやりたいことは確かに正直に言ってるけどすっごい控え目になってるのはわかってるんだから!」
「・・」
「私はシリルが好き。いつも私を優先してくれるのは凄く嬉しい。けど、そのせいでシリルがシリルの本当の気持ちをないがしろにするのはいやなの!」
我慢か・・思えば激情状態になった記憶がさかのぼるとほとんどないな。
そういえば、師匠からは自分で自分自身を押さえ込んでいるからそれをやめれば強くなれるって言ってたな。
それについてグリムに相談したときに言われたことは確か・・・
そうか
今分かった。
「セリカありがとう。危ないから下がっていてくれ。」
「シリル?」
「もう大丈夫だ。・・今の俺は負けることは絶対にない。なぜなら俺はセリカだけのためのヒーローなんだから。」
「っ!!うん!」
俺の台詞でセリカは満面の笑みになって強く頷く。
凄く久しぶりに言う台詞だ。
幼い頃、俺はセリカを守れる存在になりたいと言う思いだけで必死になって様々な技術を、知識を求めた。
その頃はまだ護衛という意味を分からず、子供らしくわかりやすい存在だったテレビでよく見たヒーローになりたいと思っていた。
みんなのヒーローじゃない。
セリカの笑顔を守るためだけのヒーロー。
俺が目指すモノは今も昔も変わらない。
なぁ、剣よ。
おまけは気づいてたんだな。
俺の秘められた力を。
そう心の中で告げるとキラリと光り、頷いてくれた気がした。
俺は意識を集中させ、残り全ての魔力を練り上げ、全身に循環させる。
俺は守ると決めた。
セリカの笑顔を。
俺たちを見守ってくれる人たちを
俺たちを慕ってくれる子たちを
グリムに教えてもらったアドバイスはシンプルにただ一つ。
「あぁぁああああああああああああ!!!!!!」
-叫べ。お前の気持ちがお前自身を強くする。お前は考えすぎなんだ。何も考えずにただ叫べ。全身を強い感情で支配しろ。お前なら大丈夫だ。お前には強い信念がある。そう言う奴はいつの時代も強者だって常識だ。-
俺は叫ぶ。
俺の感情が爆発し、それに併せて全身から紅と蒼の光の粒子が溢れ、剣自身も強く光り、それぞれの色の光の粒子が溢れ出す。
俺の気持ちに魔力が、剣が応えてくれる。
今なら分かる。
俺自身が自分の才能を、自分の力を制限していたんだと。
溢れる2色の光の粒子
俺の剣が2色に染まった理由
俺の属性は温度変換
だが、制限はない。
つまりは、どんな灼熱でも絶対零度でも再現することが可能な力。
--セリカ--
私の試みは上手くいき、シリルの魔力そのものを強化することが出来た。
おかげで立ってるのもやっとでフラフラするけど、シリルの近くにいたら邪魔になるからどうにかシュテルちゃんたちの元まで引き下がる。
「お姉様!ご無事ですか!?」
「お姉様!全身ぼろぼろじゃないですか!」
「・・魔力回復薬です。後回復薬」
「ありがとう。」
よろける私を支えてくれる。
受け取りそれらを飲み干す。
効き始めるのはちょっと時間がかかるけど徐々に楽になっていくのが分かる。
「申し訳ありません。お姉様やお兄様の足を引っ張ってばかりで・・。」
「全く力になれませんでした・・」
「・・(しゅん)」
「そんなことないよ。3人のおかげで周囲のことを気にせずに戦いに集中出来た。凄く助かったわよ。それに今はその悔しいって気持ちを糧にまた頑張ってさ、自分たちが守る側になったときにその子たちを守ってあげればいいわ。」
素直に応えると3人は強く頷く。
「それでお兄様は一体・・」
シリルを強化した後、叱咤した。
凄く目が動揺していたけど何か納得したのか凄く凜々しい格好いい顔になった。
それからシリルは叫んだ。
シリルの叫びにあわせてシリルからものすごく強い力を感じる。
全身から紅と蒼い光の粒子が溢れる。
その光を全身に纏いながらそれぞれの剣にも濃く纏われている。
そしてシリルは駆けると、まるで光の道が出来たかのようにシリルが駆け抜けた後で出来上がり、その光に触れた対象は凍結するか炎上してしまう。
そのスピードはさっきの比じゃないくらい速い。
多分シリルの全力の倍はある。
そして、シリルが通り過ぎると隙間をくぐり抜けられたツリージャイアントは全て真っ二つになっていた。
さっきよりも凄くなめらかに斬れてる。
しかも早すぎていつ斬ったのか全く分からなかった。
「速い。」
「・・アレ?切断面が焼き焦げてる?」
「他には凍ってますね。やはりお兄様は2属性持ちだったんですね。」
2属性?
もしかして火と氷の2属性を持ってると思われてる?
まぁいっか。
普通は自分の力のことは他人に話すことはないらしいし説明する気もないから好きに妄想させとこうっと。
こう言ったらシリルはすねるかもしれないけど草刈り機みたいに次々と伐採されていくツリージャイアント
魔物だろうが普通の木だろうが関係ないぜって感じでばっさばっさと切り倒されてる。
まぁ、普通の木はツリージャイアントの群れの中には存在しないけど。
そいつらは抵抗・・と言うかシリルを攻撃しようとするけどシリルが速すぎて攻撃が当たらない。
と言うより、攻撃しようと思ったところで既に倒されてる。
おまけに葉っぱカッター?というか葉っぱを手裏剣みたいに飛ばしてるけど全てシリルに近づいた瞬間に灰になってきてる。
シリルの纏う紅の粒子がそうしてるみたい。
他にも、霜が降りたように凍った状態になった瞬間粉々になって消えたりしてる。
アレって液体窒素で凍らせた後でボロボロと粉になっちゃうあの現象に近いんだと思う。
と言うよりシリルの力はやっぱりそうだったんだ。
温度変換って名前が平和的だったけど、上限がないってことはどんな熱風でも永久凍土でも再現出来るってことなんだね。
これまで出来なかったのはシリルが感情を抑え込んでいたことで無意識に自分の力も押さえ込んでたからだと思う。
魔法は、自分の感情に強く左右されるって師匠に教わったし。
と言うよりシリル強すぎる。
シリルが剣を振うと斬撃が飛び、次々に焼き切れたり凍結してたりするし、シリルに攻撃を仕掛けても全身に纏う2色の光の粒子が焼き、凍らせる。
おまけにシリルの動きは縦横無尽で、ツリージャイアントの体を蹴って空中へ跳び、全身を回転させながらその遠心力を利用して斬撃を飛ばし広範囲で焼いて凍らせる。
「お兄様素敵//」
「お兄様格好いい//」
「・・・お姉様と一緒に5Pされたい。//」
惚れ惚れという感じで見惚れる妹志願者3人
・・・って1人、とんでもない台詞をつぶやいてない?
しかも自分だけじゃなくて幼馴染み2人も巻き込もうとしてない?
・・って気のせいじゃないや。
スカートを抑えてもじもじしながら小声でパンツ履き替えなきゃとかつぶやいてるし。
うぅん・・・これはもしやシリルに食べられる前に私が食べられちゃう?
私百合願望はあまりないんだけどなぁ・・まぁ、この子達かわいいからまんざらでもないと思ってる時点で軽く手遅れかもしれないけど。
初対面で私に抱きついてきたけどやっぱりそういうのを目的にした子だった?
で、そうしているうちにふと気づく。
シリルがいないところでツリージャイアントが暴れてる?
何と言うかシリルみたいに攻撃されてるからその撃退してるって感じ。
目に魔力を集中させてじーっと見ると白くておっきな何かがツリージャイアントを突き刺したりぶっ飛ばしたりしてる。
あの白くてつやつやして真珠っぽい色してるけど尻尾?があってハサミがある姿は・・大きさは違うけどサソリだよね。
「お姉様?」
「いかがなさいましたか?」
「いや、あっちにいるのは何かなって」
「あちらとは・・・サソリの姿をした魔物でしょうか。」
「みる限りではそうとしか言えないかも。」
「敵・・かな?」
「少なくとも敵ではないと思うわ。ツリージャイアントを倒しているから・・けど」
「・・敵の敵は味方と絶対に言えない。」
「とりあえずはツリージャイアントを倒すまでは様子見ですね。」
シリルが無双している中、その巨大サソリのことを観察する。
ハサミで真っ二つに切り裂き、私の目でもギリギリ目視出来るくらいの素速さで尻尾を動かし的確に核となる部分を貫く。
しかも、攻撃されても全身に魔力を薄らと纏わせ、その攻撃を全てしのぎきった。
凄く頑丈で強い。
まるでハディさんみたいだと感じた。
ハディさんはドラゴンの血を引き継いでいることが原因なのかものすごく頑丈だ。
そのハディさんと良い勝負しているくらい硬い。
「あれ?」
「アマルちゃんどうしたの?」
「いえ・・なんとなくですが、あのサソリの動きに違和感を感じまして・・。」
「違和感?」
「気のせいかもしれませんが、私たちの方へツリージャイアントが向かってこないようにしてくれていると言いますか、ワザと自分自身に集中させようとしていると言いますか・・」
つまりはヘイトを稼いでいると感じたと。
そう言われてみると確かに私たちの方へ向かおうとしたりした敵から先に倒し、時折私たちの方をチラチラと見ているような気もする。
それとなんとなくだけど、敵ではなく頼もしい仲間のような安心感というか、善人(善魔物?)と言う感じがする。
「言われてみるとお兄様に集中していた分もあちらに集まってますね。」
「・・助太刀?」
通りすがりに助太刀してくれるって言うのは物語では定番だけど、まさか人外からの助太刀とはさすがファンタジー。
けど、こういうときって終わったら速攻で去って行くよね?
せめてお礼とか言いたいな。
「って、うわぁっ!」
「ソレイユちゃんどうしたの?」
「アレ何なんですかぁ!?」
「うわぁ・・」
「・・凄く・・大きいです。」
1人色々と勘違いさせる台詞をつぶやいてるけど・・間違ってはいないんだよなぁ・・。
ソレイユちゃんの驚いた視線の先へ目を向けるとツリージャイアント同士が合体して更に巨大になっていた。
「何あれ・・」
「・・確かジャイアントウッドマン」
ジャイアントウッドマン
ツリージャイアント50体が1つに統合された木の巨人
頑丈さも体の大きさも力の強さも全てツリージャイアント50体分
獲得部位:魔石、魔核、木材、籠手
「なぜに籠手を落とすの?」
シュテルちゃんに教えてもらったモノについツッコミを入れる。
「・・さぁ?けど、木製の籠手でも頑丈さはそこらの鉱石を優に上回ります。おまけにそいつから採れた魔核と魔石を組み込めば頑丈さはミスリルを優にしのぐ・・らしい。」
実物を見るのが初めてらしいので確実とは言えないらしいけど、相性は良いらしいので合体させればものすごく頑丈になるのも確かで、その籠手となるのは、あのツリージャイアント50体分の硬さをぎゅっと濃縮しているほどの代物なので50体分以上の頑丈さを誇るモノなんだとか。
ジャイアントウッドマン自体がここ数年はどの大陸でも目撃されていなかったらしいからその籠手は購入するとなると金貨何十枚と必要になるレベルらしい。
ツリージャイアント1体の頑丈さは、普通の斧で斬るにはちょっとしたコツとパワーが必要らしく、下手すれば斧が砕けるほどなんだとか。
それほど頑丈なモノの軽く50倍を上回る硬さ・・うわぁ。
加勢したいけど魔力は大分回復したけど腕が痛くて回復薬で回復してもほとんど動かないんだよね。
・・もっと鍛えないと。
「3人とも私のことは良いからシリルに加勢してあげて。」
「ですがお姉様が。」
「私は大丈夫だから。」
戦えない状態での対処法もしっかり学んでるから。
そう告げると心配そうにしつつも納得してくれた。
シリル・・頑張って。
--シリル--
高揚する気持ちとセリカのおかげで強化された力でツリージャイアントを蹂躙しまくっているとそいつらは1つにまとまって巨大化した。
ったく・・土壇場で敵が強くなるのも定番ってか!?
面倒くせぇ・・けど、やるしかない。
で、視界の端で俺以外のなにかにツリージャイアントが集中しているのに気づいた。
そいつは、巨大なサソリ。
色は白っぽい。
仲間かどうかは分からないが少なくとも敵ではないだろう。
利害関係の一致か助太刀か・・今は後にするか。
そして、その巨人に自称妹達からの攻撃が降り注ぐ。
視界を防ぐように火が飛び、足下を抜かせるませて動きを阻害したり。
あぁ、それだけで十分だ。
俺は、剣に魔力を惜しみなく注ぎ込む。
実は魔力の残りが結構やばいんだけど出し惜しみしている場合じゃないし、セリカのおかげで残りわずかでも十分の威力を誇っているからな。
すると纏う光の粒子が強く輝く。
とはいえ、視界を遮るようなモノではなく温かな光だ。
確かにそいつは強いんだろう。
だが、パワーはあってもスピードは倍以上遅い。
そして、敵は1体にまとまった。
つまりはこいつを倒せば全てが終わる。
だからこそ俺は、今ここで残り全ての体力と魔力を使い切る勢いでいけるわけだ。
魔力を剣に送り込み、内部で圧縮していく。
そして意識を集中させる。
師匠との特訓のおかげで魔力操作には、凄く慣れた。
おかげで敵が拳を振ってきていてもギリギリまで魔力操作で剣と脚に流し込んで強化する余裕もある。
そして、ギリギリのところで俺は殴りかかってくる枝を躱し、そのまま枝に飛び乗り幹のてっぺんまで一直線に駆ける。
そいつは慌てて俺を振り落とそうとするがそいつの動きは遅い。
だから余裕で躱しながら駆け上がる。
師匠との特訓で相手の弱点を見抜く程度のことは多少は出来る。
師匠と比べたらまだまだだが、こいつほど強い奴なら凄くはっきりと分かった。
こいつは、下手にあちこち攻撃してもあっという間に修復してしまうのは今こうして枝の上を駆け上がっているときに判明した。
弱点が頭なのは分かったが細かい部分が分からないな。
あちこち攻撃しながら躱しつつ観察を続ける。
だが、当然こいつも俺を潰そうとしたり振り落とそうとするので躱しながらだ。
そして途中からこいつの動きがおかしくなった。
あの子たちの牽制かと思ったがそれをしている状態で更に動きに変化があったからだ。
躱しながら下を見るとあのサソリが素速く移動しながら根元を攻撃していた。
なかなかの威力があるらしくかなりの速度で結構な数の穴や切断傷が出来上がっていく。
当然回復されるがそのおかげで俺に集中しきれずにいるんだからありがたい。
そしてそのサソリと目が合った気がした。
その時の視線からはこっちは任せておけと言う気持ちが伝わって気がしたので、俺は自分に出来ることに集中した。
あちこちを攻撃しながらこいつの動きを観察していくととある一部だけ過剰に反応している部分があった。
人で言うところのつむじのある部分だ。
だが、こいつの弱点である核は他の体よりも倍以上硬い。
だが、今の俺なら大丈夫だ。
「氷炎双破!!」
俺は2つの剣を逆手で握り2本同時にそいつの核に突き刺す。
ほんのわずかにしか突きささらなかったが、関係ない。
ズドォォォォォオオン!!
くぐもった感じでものすごい爆発音が響き渡る。
それと同時に巨人はアイテム類だけを残して消えた。
「ふぅ、上手くいって良かった。それと、ギリギリだったな。」
「シリル!やったね!」
「お兄様お見事です!」
「さすがお兄様です!」
「・・お兄様素敵、抱いて」
1人暴走しかけている台詞をスルーした。
「あぁ、フォローありがとうな。助かった。」
「アレでお役に立てたのなら光栄です!」
「それにしても最後のアレ何だったの?」
「アレは、水蒸気爆発を利用したモノだ。」
冷したモノを急激に熱することで起こる現象。
ざっくりと言うとそんな感じだが、俺はそれぞれの剣に冷気と熱気を圧縮して纏わせ、核に突き刺したのに合わせて無理矢理冷気と熱気をあわせて爆発させた。
その時にその衝撃波などは全て指向性をあの巨人に向かうように仕向けた。
その結果、核にダイレクトに衝撃が加わるのと同時にそのまま全身が体内から破壊するような感じになった。
最後の辺りは偶然の産物だがな。
元々は、俺自身に衝撃が来ないようにしただけだったし。
そして俺たちは、超膨大なアイテム類をどうにか集めた。
「イリスさんにマジックバッグを預かってて良かったね。」
「そうだな。」
俺とセリカ2人にかなりランクの高いマジックバッグをもらっていたおかげであの超膨大なアイテム類をどうにか収めることが出来た。
まぁ、俺等はその分のお金を自力で稼いでいつかイリスさんに渡すつもりだが。
あぁ、一応説明しておくな。
マジックバッグにはランクがあって、時間を止めたりとかはないものの入る容量が値段によって分かれてくるんだ。
「それでも、収まりきれませんね・・。」
確かに収まった。
だが、収まったのはせいぜい4分の3
それは、彼女たちが用意した馬車に直したり彼女たちのマジックバッグに収めてもこれだ。
「それなら、完了報告のついでにあの村の人たちに渡しちゃえばどうかな?どうせ魔石だけでもいっぱいあるし、ちょっとやそっと無償でプレゼントしても痛くもかゆくもないし。」
「お姉様の言う通りですね。」
「色々と被害があって食料も木材もあって損はないでしょうし、無駄には決してなりませんね。」
「・・あのバリケード類だけじゃ不安だったから賛成」
俺も同じ意見だ。
「で、そこまでどうやって持っていこうか・・・・ん?」
マジックバッグに入っているのを村に渡して再度ここに戻って2往復するかとか考えていると肩をつんつんとつつかれる。
「セリカどうした?」
「えぇっと・・」
微妙な表情になっているセリカの視線の先に目を向けるとあの巨大サソリが俺に任せろと言わんばかりにしゃきんしゃきんとハサミをならしながら構えていた。
「そういえば、一緒に戦ってくれてたんだなありがとう。助かったよ。」
「私からもお礼言わせて、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「助かりました」
「・・りがと」
気にするなと言わんばかりにハサミを左右に振るサソリ。
・・感情豊かだな。
「で、手伝ってくれるのか?」
任せろとハサミをシャキンシャキン
「おぉ!皆様ご無事でしたか!良かった!ご無事で!」
「ご心配をおかけしました。ですがご安心下さいしっかりと完了しました。全て討伐完了です。」
「え!?さすが我らが英雄様!」
「あ、あぁ。」
フラフラしているが凄いテンションが高くなってる村長さん。
と言うか崇拝されかけてたのは察していたがいつの間にか英雄扱いされていた。
村長さんだけかと思いきや村人が全員似たような感じだった。
「報酬は出せる限り出しますので!本当に感謝致します!」
「あぁ・・ムリはしないで下さい。倒した分を売ればかなりの額が出るので十分ですから。それと、俺たちのマジックバッグでは収まりきれなかったので出来ればこの村で消費して下さいませんか?」
「もちろん構いませんが、いくら出しましょうか?」
「出さなくて良いので引き取ってもらえればそれだけで十分です。」
「・・よろしいのでしょうか。我らはお礼を言うことと対した報酬額を出せません。こんなこと程度では感謝しきれないほどの恩があると言うのに」
「俺たちは、修行中の身です。それに、今回採取出来たフルーツやミートマンの肉をお世話になっている人に食べさせて上げたかったんです。ですので今回はホントに偶然なんです。こちらこそ感謝したいほどですから。実戦経験を積みたかったこともありますから。」
「せめて!せめてあなた様のことを教えては下さいませんか!」
視線はがっつり俺。
「俺だけの力では出来なかった。彼女たちの存在もあったからこその今なんです。」
俺だけを崇拝対象にしないでくれと告げるが・・。
「だよね!シリルが崇拝対象でばっちりだよね♪なにせ途中からシリル無双だったし」
「そうですよね!お兄様が大半は倒して下さいましたし」
「私たちがこうして無事なのもお兄様の存在があったからこそです」
「・・お兄様なしに今の幸福はあり得ない」
こいつら・・まぁ良いか。
「おぉ!それであなた様は一体!」
「俺はシリル。クラリティ王国最強の幼女の弟子の音の支配者だ。」
「シリル様!音の支配者シリル様!しかとその名を後生まで伝えていきます!」
やめて!?
俺はそんな対した人間じゃないから!
俺の嘆きは笑顔でスルーされた。
そして、この村を救った英雄として語り継がれることになったOTL
「で、どうするんだ?セリカ」
「んー、連れてって良いんじゃない?今回凄く助かったし付いてくるし」
あの後、ミートマンの肉とツリージャイアントの木材、グロウフルーツ、グロウフルーツの種を全体の半分ずつ置いていき、半ば逃げるようにあの村を後にした俺たちに巨大サソリはずっと付いてきている。
「それに近くで見ると凄く格好いいし、きれいだよね。」
真珠のような輝きのある体は確かにきれいだ。
そう言うと、サソリはハサミで頭をかいて照れてますという仕草をしている。
ホントにわかりやすいな。
「それに、私とシリル2人っきりも良いけどちゃんとした仲間も欲しいじゃん?」
いつまでも師匠達にお世話になりっぱなしもあれだしな。
「確かにそれは言えるな。なぁ、俺たちと一緒に来るか?」
強く肯定する。
「お前が決めてくれ。俺、セリカどっちにつくか。」
そのサソリは尻尾でそっとセリカへ近づける。
そのサソリと会話が出来ないから詳しいことは分からないが、自分がセリカを守るんだという強い意志を感じる。
俺を安心させたいからという気持ちもなんとなく伝わってくる。
「わかった。よろしく頼むよ。」
「私を選んでくれてありがとう!じゃあ名前をつけなきゃね!名前はね!ん~・・あ!ハルトさんだね!」
凄く日本人ぽい名前になったな。
「ちなみに理由は?」
「確か硬いってハードだったでしょ?それとこの子の真珠みたいなきれいな色をみてたら春をなんとなく感じたからそれを混ぜてみた。」
ピンク色はない。
色だけで言うと白をベースとした真珠の色。
確かにこの色をみているとなぜか春の桜並木を思い浮かべる。
「これからよろしくねハルト!」
なんとなく喜んでいるようで何よりだ。
名前も気に入ってるようだしな。
「それでお兄様・・」
「ん?どうした?」
「頭の上に鳥さんが・・」
そういえば微妙に頭に重みを感じる。
とりあえず両手で掴もうとしたら、逃げられもせずに簡単に捕まった。
・・野生はどこ行った。
「見た目はライチョウだよね。」
「だな。こっちだとどんな名前か分からんが。3人は知ってるか?」
「いえ・・」
「・・もふもふ」
早速1人・・いや2人もふっていた。
シュテルとセリカだ。
そしてこの鳥は、俺が避けてもおろしてもしばらくすると頭の上に飛んできて落ち着いていた。
・・俺の頭はお前の巣ではないんだが。
ラノベでのお気に入りは、
「勇者と魔王のバトルはリビングで」
これ自体は全3巻と短めですが、面白いです。
・・元々は、それを書いてるイラストレーターさん目当てでしたが(苦笑)
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「ツッコミ勇者」「魔法」「ステータス」「恋愛」「学園」「男の娘」