リクトの卒業試験
--フリージア--
夏休みが終わり、いつもの日常に戻った私。
シリルさんとセリカさんは冒険者として依頼をこなしつつカルナたちと勉強と特訓をしている。
シリルさんは、音の支配者という二つ名で呼ばれるようになり、吟遊詩人としてちょくちょく指名依頼を受けては歌ったり演じたりしている。
そして、セリカさんもそのお手伝いという感じでペアで共に受けている。
そのおかげなのか何なのか、通りすがりに見かけた人から、借りた場所の経営者やスタッフたちからおひねりが飛んでくるのがほぼ日常と化しているようだ。
ついでに言うとピエロさんたちのパーティも演奏をしてるから似たような光景があちこちで行なわれてる。
稀にあるのが、それらに触発されて剣舞だったり魔法で何かしら演出したりと言ったすご技大会もどきが開催され、それによっておひねりをどれだけ集めたかと言う競争もどきが行なわれてたりする。
ちなみにその大会もどきは司会者やそのもどきも誰もいないし、優勝賞品もない謎大会なのです。
で、それと並行して、シリルさんはリカルさんと絵本を描いている。
故郷ではかなり有名なモノをこちらの世界風に書き換えているんだとか。
いくつか記憶にあるから多分翠ちゃんが話してくれたお話しもその一部なんだと思う。
そのおかげでシリルさんは副職として絵本作家になったようです。
一方でセリカさんはというとシリルさんとワンセットとすっかり認識されていることもあり、二人で吟遊詩人として指名依頼を受けていること以外では護衛などもちょいちょい受けているようです。
二人は私の弟子だとすっかり知られているので実力は申し分ないし、私の弟子だからあって当然で、指名依頼をしても安心な人物だと認識されているらしくランクが低いと言っても大抵スルーされている。
かなりの頻度で指名依頼を受けてるのでEランクから上に上がるのはそれほど時間はかからないと思います。
そんな中、リクトさんの卒業が近くなってきた。
リクトさんは卒業したら旅に出てあちこちの遺跡などを探索したりしたいんだそうです。
で、そんな彼は私と同じSクラス。
つまりは実力は他のクラスと比べる必要がないほどの実力者と知られている。
けれど、卒業試験として最後に残っている模擬戦。
これが実は問題となっていた。
卒業のための提出物に関しては、既にクリアしている。
で、何が問題かというと、Sクラスという実力者メンバー相手に世間の厳しさを伝えるために自身の限界を知らせる必要があるこの卒業試験の模擬戦。
けれど、こう言ったらアレだけど教師相手では実は頑張れば勝てちゃうんです。
まぁ、学園長は強いのは分かるけど実力は知らないし、ネルさんも強いけど普段模擬戦などで受けて上げていたりしているので卒業試験の対応では、普段対応しない人がやらないといけない。
で、毎年のことですがSクラスの卒業生の相手を探すのは先生たちの毎回の大きな悩みだったりする。
「そんなわけで、フリージアさん。フリージアさんの獣魔か身内メンバーで誰か対応してくれないかな?もちろん報酬は出すよ?学園からの指名依頼として。」
ネルさんが申し訳なさそうにそう言っていた。
{構いませんよ。丁度運動したいと言っている子がいますから。}
「そう?よかった。よろしく頼むよ。報酬はどうしようか。特に希望がなければお金にしておくけど」
{希望はありませんが、ムリして報酬を頂くつもりはありませんよ。}
「んー。それはありがたいんだけど、学園側の体裁とか色々あるんだよね-。」
あぁ。
報酬を渡さなかったとかなんとかと面倒なんですね。
{では、私の都へ時折足を運んで頂けますか?おじいちゃんでも良いですよ。}
「そういえば、流星の里はルナールって都になってたんだったね。けど、それが報酬なの?」
{と言うよりも、あの都にいる人たちは皆、今は明るく楽しく過ごしていますが基本的にあの都以外の人間を嫌います。まぁ、私が認めている人に関しては嫌いませんけど。}
「つまりは、少しはこの国のメンツで顔見知りを作っておこうってことでいい?」
(コクリ)
{情報は力です。ネルさんやおじいちゃんがあの都の方々と顔見知りであればいざと言うときの繋がりに便利ですから。それに、ネルさんも遊びに行けるんですよ?}
「それはとても素晴らしいね。癒しの都って呼ぶほどだし、観光ついでに顔を出すようにしておくよ。学園長にも伝えておく。通うついでに授業をしたり、交易をしても良いしね。」
{それで構いません。}
「それにしても、フリージアさんは過保護だね。」
(?)
「だってさ、あそこは流星の里だった頃から有名なんだよ?それに加えてフリージアさんが領主だって貴族の間で有名だし、この国のメンツなら誰でも知ってるけど。で、フリージアさん自身の影響力は半端じゃない。そんな人相手に敵対するような行為は絶対に避けるよ。だというのに、学園側との繋がりも深めるんでしょ?それに、イリス様を経由してこの国のトップも巻き込んでいる。」
{領主ではありますが、それらしいことはあまり出来ませんから。ほとんどバレクさんたちにお任せです。}
「それでいいと思うよ。フリージアさんがあそこの領主だって言う事実だけでも十分力になるから。」
(コクリ)
「じゃあ、報酬はそうするとしてもそれでも一応現金で申し訳ないけど報酬は別でギルドを通じて渡しておくよ。学園側からの正式な指名依頼だからね。」
けど、私は冒険者として依頼はそこそここなしてますし、刺繍屋として動いているので定期収入もあるので困ってないんですよね。
買いたいモノも特にないですし。
まぁ、刺繍関係の方がお金は凄く多いのは事実ですけど・・以外と好評らしいんですよね。
この盛り上がりがいつまで続くのやら?
と言うわけで
{では、お金はいらないので、午前中の時間もお仕事したいです}
「わかった。学園長にはそう言っておくよ。普段から勉強はしてるみたいだし元々自習だしね。」
やったね。
実際、魔術師団長としてのお仕事もありますから忙しいんですよ。
こっちは、団員の皆さんがメインで動いているので私が動くことは少ないのですが、それでも私が目を通さないといけない資料があったり、私の目の力が必要なモノも少なくないのでねー。
実際、こっちの方からも報酬がきちんとあるのでお金は貯まる一方です。
おまけにカルナたちが個人的に動きつつ稼いでたりしますし。
まぁ、影さんたちをあちこちに配置してそれぞれでお仕事を並行してしているのでお仕事がたまることはないのですけど、午前中の時間をそっちに充てられるならその分負担が減りますからね。
そんな感じで、数日ほど経過した頃、その日は朝一からSクラスのメンバーと手の空いている先生たちが学園の訓練場に勢揃いしていた。
「フリージアさん、今日はよろしく頼むよ。」
(コクリ)
リクトさんがそう言うと私は頷く。
「それで、今回の相手は誰なの?」
ネルさんがそう言うと私はカン!と音を立てて地面に杖で突く。
すると、それに併せて私の影がグンと広がり、その影から大きなライガーが現れた。
「なっ!?」
「初めて見る獣魔だ。」
「あの神聖な魔力は、まさか!」
先生たちが色々ツッコミを入れている中、私が呼び出した黄昏がグォォ!と咆哮を上げる。
「ふ、フリージアさん?あ、アレは?」
{家の新しい子です。}
「我は黄昏、ティグリスリオン:黄昏である!!」
「ティグリスリオン・・・まさか、フリージアさん・・神獣?」
(コクリ)
「我は神獣である!」
{黄昏、名乗るときは種族は言わずに名前だけで良いですよ。}
「む?そう言うモノですか?」
{私が人間のフリージアですと言ってるようなモノです。}
「なるほど?確かにわざわざ言わずとも良いですな。うむ、承知致した。」
基本的に威風堂々としてますけど、素直な子です。
「まさか、神獣様を相手にすることになるとは・・。」
「確かに、学園とは関係がなく実力も確かな存在で信頼もフリージアさんの獣魔なら出来る。」
「ほうほう!まさかこの目で神獣を拝むことが出来るとはのぉ!」
学園長は凄く楽しそうに黄昏の元にやってきてのど元を撫でてる。
ちなみに、ネルさんもおじいちゃんと同様興味深そうに撫でている。
黄昏はかなりおおらからしく時に気にせずにされるがままだった。
ちなみに、他の先生たちは絶句中である。
で、我ら他のSクラスはと言うと私の獣魔だしそんなモノさと納得していた。
・・どういう納得の仕方なのだろうか?
「で、フリージア様。今回はどのようなご用件で?」
{そちらにいるリクトさんと模擬戦をお願いします。}
「ただ戦えばよろしいので?」
{リクトさんの全力と全て絞りきって下さい。}
「つまりは、全力を限界まで出させればよろしいのですな?」
(コクリ)
「承知致しました。で、リクトと言ったな。基本的に我は反撃しかせぬ、遠慮なくかかってくるが良い。怪我なども気にする必要はない。」
「私がしっかり治すので遠慮なくどうぞー!」
セイちゃんがそう語るとリクトさんも驚いた表情からとりあえず落ち着いた表情に戻り
「分かりました。では、全力でぶつからせて頂きます。」
「うむ!自身の限界を知り、長所・短所を知ることで目指すべきモノが明確となる。その事実を知るか否かの差はとても大きいモノだ。」
「そうですね。では!」
「来い!」
「くぅっ!やっぱり攻めきれない!さすが神獣様だっね!」
「とはいえ、お主はかなり優秀だと思うぞ。我個人の意見だが、そこらの連中より群を抜いて優れているのは確かだ。」
「それはありがたいですね!これでも頑張ってるつもりだったけどさすがフリージアさんの身内だ!」
「フリージア様は優秀だからな当然だ。ほれ、足下がお留守だぞ。」
「くっ!これでどうだ!はぁっ!」
「良い動きだ。周りは気にせず目の前のことだけを考えよ。」
「はい!」
リクトさんが四方八方から黄昏に攻め、それを黄昏が危なげなく尻尾で弾く。
リクトさんは2本の小太刀に風を鋭く纏わせて対処しているのに、黄昏の尻尾は切れない。
尻尾に魔力を纏わせているようです。
身体強化と共に自身を硬くしているみたいですね。
それにしてもリクトさん凄く素速いです。
シャスティの動きで見慣れているので私は対処出来ますけど、私自身はあんな動きはムリですね。
それを黄昏はたやすく躱して尻尾で受け流してる。
長生きさんというのもありますけど、さすが神獣ですね。
とはいえ二人とも楽しげに笑ってます。
「やっぱリクトさんすげぇわ。速ぇ速ぇ」
「ホントよね。おまけに器用だし」
ジャンさんとシスカさんがそうつぶやく。
純粋な身体能力だけで言うならジャンさんが上回るし、広範囲をまとめてだとシスカさんが上回る。
けれど、1体1という状況で限定した場合、リクトさんは圧倒的。
素速く動き四方八方から小太刀の二刀流でヒットアンドアウェイをひたすら繰り返す、とにかくガンガン系の連続攻撃の戦法。
私との特訓(相手は影さんたち)によって更に強くなったリクトさんは黄昏に猛攻撃を仕掛けている。
とはいえ、相手は神獣で圧倒的に黄昏の方が格上と言うこともあって、黄昏に遊ばれてるけど黄昏からみてもリクトさんは優秀なようです。
そんなこともあり、黄昏は限界まで追い込む・・のではなく、(リクトさんの)体力と魔力が続く限り模擬戦に付き合ってあげてる状態。
なので、本来の卒業試験の模擬戦の目標である自身より格上はまだまだいるのだと実感させるのと加えて、世界の厳しさを知るためと言う部分が薄れているような気もする。
けど、リクトさんは元々分かってたので自身の限界を知りましょうと言う部分では問題なし。
そんな光景を見ている中、セイちゃんとユウちゃんが私に小声で話しかけてくる。
「そういえばリアちゃん、どうやって覚醒をそんなに使いこなせるようになったの?」
小声で私にそう尋ねるセイちゃんと同じく頷いてるユウちゃん。
覚醒・・あぁ、私が瞳に魔方陣を宿している奴ですね。
そういえばそんな名前でしたね。
{お二人はどこまでご存じですか?}
必要な条件とかですね。
「強い感情と高いステータスに精神力が必要だって私は習ったよ。」
「僕もそんな感じかな。1つのことに集中しろとか」
んー。
合っているような合っていないような。
{ちなみにお二人は扱えますか?}
「使おうと思えば扱えるんだけど不安定なんだよね。」
「うんうん。何と言うか感情に振り回される感じ」
「なのにリアちゃんは自由自在に扱えているから何かコツとかあるのかなって。」
{私は、リフさんに教わったことを実行しただけなんですけどね。}
「リフさんって?」
{キツネさんです}
「ん?」
「どんなキツネさん?」
はてながたくさん頭の上に浮いてるのが見えますね。
{上位精霊ですよ。桜華さんとお知り合いでした。}
「あぁ」
「なるほど。それで何を教わったの?」
{必要なモノは、純粋で強い想いと力、そして最も大事なのは信念です。}
「信念?」
「前半は分かるけど信念って聞いたことないかも。どうして信念?」
{リフさんが言うには、どんなに親しい相手に対してでも絶対に曲げることのない、自分だけのルールを決めることが大事なんだそうです。お家の大黒柱となる部分らしいです。}
「信念・・なるほど。」
「そっか。所謂核となる部分が僕たちにはなかったから不安定だったんだ。うん、考えてみるよ。」
(コクリ)
「やっぱり相談して良かった。さすがにその辺りまで事細かには先代から受け継がれてなかったから自力で手探りでするしかなくって。」
「当時の知り合いと出会えたのはホントに運が良かったんだね。」
(コクリ)
「そういえばそのリフさんとどんな感じで出会ったの?」
{細かい場所は約束なので教えることは出来ませんが、以前狼さんに片腕を食べられたことやニーズヘッグヴァンパイアと戦ったことをお話ししたのは覚えてますか?}
「うん覚えてる覚えてる。」
「凄く印象的だったから凄く覚えてる。」
{その狼さんがリフさんがいる場所の門番的な存在だったのですけど色々とすれ違いがあって片腕を食べられたんです。その後、お詫びとして色々お話しをしている時にニーズヘッグヴァンパイアと戦うことになったんです。}
「そんな感じでつながってたんだ。」
「ホントに偶然だったんだね。」
「そういえばリア、知ってる?」
(?)
「シリルさんたちのこと何だけど、シリルさんのファンクラブというか親衛隊っぽいのが出来たみたいだよ。」
「ユウ、それホント?」
「師匠との訓練の時に偶然聞いたんだ。」
「シリルさん格好いいからねー」
「性格も穏やかで頼りになるからね。」
「そういえばシリルさんのことをお兄様と呼ぶ人たちが増えてた気がする。」
「セイ、それだよそれ。その人たちがシリルさんの親衛隊。シリルさんって何と言うかお兄ちゃんオーラがでてるじゃない?」
「出てるね。アレはお兄ちゃん以外に例えようがないくらいお兄ちゃんだね。」
「で、シリルさんの二つ名が関連してファンになった人もいるけど、シリルさんに命を救ってもらった人も結構紛れてるんだよ。」
「このわずかな期間で何でシリルさんそんなにトラブルに巻き込まれてるの?」
「何かあちこちで依頼のために動き回ってるけどその時に偶然って感じらしいよ?」
聞くと、シリルさんたちはホントに色んな依頼を受けてる。
採取から建築関連の補助、吟遊詩人関連から集団の子守に護衛、設備の点検、討伐、調査など。
そんな中で建築現場などの場所で上空から石材とかが降ってきてそれから助けたり、ミスって討伐相手にやられそうになったときに倒したり、採取のために高いところに登ってる人が落ちてきて、それを助けたり、人間関係で悩んだりその被害者になった人たち相手に色々と動いたり子供相手に色々と教えたり。
とまぁ、色んなことをして助けられたり、その現場を目撃した人たちから憧れの対象として見られるようになり、お兄様と慕う女性陣をメイン(シリルさんより年上も混ざってるけど)にそんなシリルさんのようになりたいという純粋な憧れから男性陣も混ざってたりしてる。
まぁ、男性陣は大抵兄貴とか兄上呼びだったけど。
「まぁ、そんな感じでシリルさんを兄貴分として慕う人が増加して、その人たちで1つのグループが出来たんだ。まぁ、グループと言うよりクランを作っちゃったみたいだけど」
「作ったんだ・・・と言うか同類が集まるクランかぁ・・」
「で、名前のまんまでシリル親衛隊」
「ホントにそのまんまだね。」
「と言っても、シリルさんのように頼れる存在になるために頑張ろうって感じで集まってるだけらしいから共通の話題で楽しむクランって感じが世間での認識みたい。」
「なら問題ないね。それにシリルさんだし。」
「だね。リアの弟子ってしっかり認識されてるからとやかく言われることはないし、シリルさん本人もそう言う部分は徹底的だし。」
「そういえば、リアちゃんにはファンクラブは出来てるし影の親衛隊はいるけどそれってクランなの?」
「そういえばどうなんだろ?リア、知ってる?」
(フルフル)
「一応影の親衛隊はクランらしいよ。知っての通り秘密裏に動いてるからクランとしては存在してるけど誰が加入してるかは謎だけど。」
「翠さんそうなの?てっきり、影から守るから足がつきそうなクランとか作ってないと思ってたんですけど。」
「メンバーを募集してメンバーの1人としてわかりやすくするためだけらしいけどね。だから冒険者としてクランを動かすことはなくって、それぞれのパーティで動いてる程度。ホントにただ集まるだけの組織って感じだけど」
「そうなんだ。」
「くっふっ。」
「む?気絶したか。まぁ、よく保った方だろう。フリージア様終わりました。」
あ、リクトさんが気絶してる。
終わったらしい
その後、セイちゃんが治療し、試験は無事に終了しました。
当然リクトさんは卒業資格を獲得しましたよ。
で、その戦いを軽くスルーしてた私たち3人は別として、その他でしっかりと見ていた先生たちや他Sクラスはと言うと
「さすが神獣じゃな。」
「そうですね。赤子の手をひねるかのように弄んでましたね。それにあれほど無駄のない動きは素晴らしい。ちょっと後で話がしたいなぁ。」
「ほう。ネルがそう言うほどか。」
「えぇ。とはいえ、俺はたかだか20数年生きただけの野郎ですから、神獣様と比べたらねぇ?」
「それもそうじゃな。」
「まさか本当に魔力で自身を保護するだけでその他を一切使わずに相手するとは・・。」
「神獣と呼ばれている理由が分かった気がするな。」
「えぇ。神に最も近い存在と言われるのも当然ですね。」
「ですが、今は良いですが、その主である彼女の相手・・誰かいますか?」
「・・・」
「・・・」
「既に彼女のパーティだけでスタンピートの壊滅を複数聞いてますよ?」
「そういえばそう言う話を聞きましたね・・。」
「卒業試験の試験官として参加出来る条件は、あまり接触したことのない相手で尚且つ正々堂々と真正面から戦っても勝てる実力者。」
「おまけに何も企んでおらず、善人であること・・。」
「彼女の実力は当然ですが・・知り合いもかなり多いですからね彼女・・。」
「しかも、この国の実力者のほとんどが彼女の身内・・」
先生たち「はぁ・・」
「うわぁ・・。あのリクトさんが遊ばれるとか・・」
「神獣だって言うのもあるけど、フリージアちゃんの獣魔だからという理由だけでも十分だわ。」
「やっぱり黄昏さんは凄いなぁ。私も頑張ってるのにたやすく私の魔法が破られるんですから。」
「アルナさんの念動を破るの!?・・さすが」
「リクトさんって冒険者ランクは中位から上位の間くらいらしいけど実力だけだとAはあるはずなのに・・それを考えるとフリージアさんとそのファミリーのすさまじさを実感したわ。」
「確かに。・・フリージアに頼んで卒業までの間、ハディさんに鍛えてもらおうかな。色々とにている部分は多いし。」
「私は翠さんが良いなぁ。私の魔法ってちょっと特殊だし翠さんなら色々知ってそうだし。」
「だなぁ。けど、フリージアは凄い忙しいし、暇な時を確認しないとな。」
「そうね・・まだ幼いって言うのに既に仕事に追われてるのも色んな意味で呆れるわ・・。」
「そうですよね・・影さんたちが常にあちこちでお仕事もお勉強もしている状態ですし。」
「アルナさんそれホント?」
「えぇ。リア様の傍にいる子たちは刺繍を、他は師団長としてのお仕事と、公爵家としてのお仕事に、都の領主としてのお仕事にお勉強、他にもこの国のあちこちをうろちょろしてリア様に鍛えて欲しいとお願いがあった人たち相手に模擬戦をしたりですね。あ、ちなみにイリスさんも似たようななものですよ。予言者として行動しつつ公爵家としてのお仕事と元でも第一王子としてやることはたくさんあるらしいので。」
「親子揃って忙しすぎるだろう・・」
「ですよね・・。普通なら部下である私やリカルさんたちが対処すべきなんですけど・・。ほとんどご自身でしちゃうんですよね・・。」
「アレ?じゃあ、魔術師団の皆さんは師団のお仕事があるとして、アルナさんたちや他のメンバーは何をしているの?」
「私の場合は学生として学ぶことがほとんどです。一応リア様の身の回りのお世話とリア様のお仕事でお手伝い出来ることを手伝う感じです。・・正しくは私が出来そうなお仕事をリア様から奪って対処するが正しいですけど・・じゃないとリア様お仕事くれないんですもん。」
「まだ幼いというのに・・」
「魔力量と練度がすさまじいですから軽くこなせちゃうんですよね・・。リア様もイリスさんも。」
「ちなみに、それってフリージアたちだからこその悩みなのか?」
「いえ。この国の貴族、王族の皆さんは皆同じようなモノですので部下である私やその他の皆さんはそんな上司から出来る仕事を奪って対処してます。それと、自身を鍛える理由は主から奪える仕事の範囲を広げるためと言うのもあります。」
「・・この国が実力主義な片鱗に納得した気がする。」
「あはは・・。それとセリカさんたちは普通の冒険者として堪能してますよ。」
「・・それ本当に普通?」
「え?」
「ちょっと軽くその人たちの行動を教えてくれるか?」
「えぇっと、カルナさんとシャスティさんたちを筆頭に団員の皆さんが付きっきりで特訓と勉強を教えて、空いた時間に冒険者として依頼を片っ端からこなしつつ困っている人たちに毎回遭遇しては解決して親衛隊を無自覚に増やしているだけですよ?あ、後吟遊詩人としてあちこちで披露してファンを更に増やしてます。」
「・・それ普通か?」
「私もジャンに同感。」
「え?」
「まず、困ってる人たちに毎回遭遇するモノか?」
「してるみたいですよ?命の危機も数日に1回くらいはあるらしいですし。」
「・・それと、そのスケジュール・・キツすぎない?」
「リア様と比べると結構余裕がありますよ、あはは。」
「え?」
「え?」
「大まかに聞いてるとフリージアさんの普段のスケジュールと同じだけどどう違うの?」
「リア様の場合、それにプラスして影さんたちが先ほど言った内容を寝ているとき以外常にフル稼働している状態です。それとリア様の場合、手を動かしながら口頭で対処とご自身で同時並行で色々してますし。まぁ、口頭で対処は10対1ですけど。」
「え!?ちょっと待って!?複数人が同時に色々喋ってるのに分かっちゃうの!?そんなことが出来るの!?」
「えぇ。リア様は一度に十数人が喋っても全てをまとめて理解することが出来ます。ですのでそれを使用してまとめて返答してますよ。それは、影さん相手でも可能です。」
「マジか・・マジであの子過労で倒れないだろうな?」
「それは私も心配してます・・・そのせいで食べる量が日々増えてるんです。」
「あぁ・・・道理でお弁当箱が増えてるわけだ。」
そんな感じで周りが色々と大変そうでしたし、私のことを主に喋ってるっぽいですけどスルーしました。
そして、お家に帰るとシリルさんがなぜか玄関で正座してました。
{ただいま帰りました・・こんなところで何をしているのですか?}
「師匠、お帰りなさい。まず、最初に謝らせて下さい。・・・ごめんなさい。」
{どうしましたか?・・とりあえずそのよく分からない謝罪は受け取りますが。}
「実は・・とりあえず、見てもらった方が早いと思うので・・どうぞこちらへ」
ものすごく申し訳なさそうな表情で言いにくそうにしています。
(コクリ)
で、お庭に案内され、そこで見たモノはおっきなサソリさんとそのサソリさんの背中の上で満面の笑みで撫で回しているセリカさんでした。
そのサソリさんは全身が白ベースの真珠の色で光に当たると色んな色に光って非常にきれいです。
そして全身が10メートル、尻尾だけで全身と同じ長さはありました。
けど、見た目は非常にきれいですがそのはさみも尻尾の先の針も非常に鋭く、全身はものすごく硬そうです。
それは、ハディちゃんと良い勝負が出来そうなくらい頑丈そう。
「あ!師匠お帰りなさい!この子ハルトって言うんですけど、私の獣魔になったっぽいのでここで飼っても良いですか!?お世話はきちんと自分でやりますから!」
と満面の笑みで言うセリカさん。
あぁ・・シリルさんが申し訳ないと言う表情になった理由が分かりました。
・・・お兄ちゃんは許嫁さんに振り回されて大変なようです。