神獣を救え!-その3-
-アルナ-
対峙していて退治するべき相手は残りはボス1人。
で、そのボスはボス部屋(仮称)に閉じ込めている状態で現状放置中。
主にグリムさんが扉を溶接してイリスさんが周辺を結晶で押し固めてしまったから。
おまけにすっごい数の音消しの魔道具をちりばめている。
それと、放置しているのはきちんと理由があります。
神獣様をきちんと救うため
ということと、
神獣様を利用して使われている魔道具の破壊と破棄
まぁ、それは全て完了したので、とりあえずは神獣様を救うためにその部屋に向かっています。
まずは救助をして相手の施設の破壊をしてからボスを倒すのが鉄則だと翠さんが言ってましたしね。
ボスを倒してからとか考えていると相手が余計なことをして被害者となる相手を人質にする可能性があるからです。
まぁ、普通ならそこでバレたりして余計に面倒なことになるんですけど、ここにはイリスさんやリア様と言った天才たちが集まっている。
そして何よりも、何百年と生きているからものすごい知識量と技を保持する翠さんがいる。
この3人だけでも十分対処出来ちゃうし。
「この扉の向こうだね。」
イリスさんが神獣様がいると思われる扉の前でつぶやく。
「・・予想通りアホみたいに頑丈だな。」
「これ、素材がアダマンタイトだね。」
「アダマンタイト?」
ものすっごい硬くて丈夫な鉱石の1つらしいです。
翠さんが言うには、ミスリルと比べても採掘率が1%を軽くきるほど希少なんだそうです。
おまけに硬さは、世界中のどこを探してもトップ5に収まるほどの硬さを誇るんだそうです。
ミスリルは魔法と言うより魔力との愛称によって硬さが変動するからきちんとした値が不明だけど、アダマンタイトに関しては別で、魔力との相性と言いますか親和性?というよりも魔力の流れやすさって言うのかな?
それがすっごい悪いから魔力というか魔法との相性が悪いんだ。
けど、純粋な硬さだけで言うととんでもなく硬い。
鍜冶士の人たちでもこれを扱って加工出来る人は世界中でも数十人いるかどうかと言うほどしか存在しないほどなんだとか。
「翠さん、これ食べれそう?」
「前の私ならムリだったけど、妖精王となった今なら時間はかかるけど可能だよ。」
さすが翠さん。
で、扉は厚さが3メートル、高さ10メートル、幅が5メートルととんでもなく硬くてでかかった。
その範囲は普通なら翠さんの溶解する速度だと数分もあれば出来るけど・・・・・。
「とはいえ、時間かかるしまともなやり方はしないから後でゆっくりと食べるけどね。私の場合、こういうのは食べれば食べるほど強くなれるから。」
と言いながら、扉をすっぽりとゲルで覆ってあっという間に消し去った。
どうやら食べずに収納したらしい。
・・・確かに扉自体は硬くてもその周囲は普通の石とか土だしね・・うん。
それと、翠さんの能力というか種族的な力は、食べたモノの強さや貴重さに比例して自身の魔力量とゲルの量を増やし、魔力の質を高めるんだそうです。
所謂食べれば食べるほど強くなるんだそうです。
それを何百年も繰り返してるんだもんね・・・すごい。
で、魔物なら強ければ強いほど。
鉱石ならば硬さや採掘率の低さ
ただの魔力であればその質と言った感じらしい。
まぁ、それら以外でも魔力の多さは強くなれる一番わかりやすい基準なんだとか。
そして、翠さんの場合、妖精王となったことで吸収して強化する比率が上がったんだそうです。
例えるなら、1食べて1強くなっていたのが1食べて1.5強くなれるようなモノらしい。
一見地味だけど、数や相手の強さなどを考えるとそのすごさを感じる。
そして余談だけど、溶解するにしてもアダマンタイトは強いんです。
普通なら数秒で溶かされるようなモノでもアダマンタイトだと同じ量でも数分はかかる。
それほど硬いんです。
「よし、扉はなくなったね。」
そして、目の前にはものすごく頑丈そうな檻に囲われ、全身を拘束されている神獣様がいました。
そこには、リア様から聞いていた通りの姿をしたライガーさんがいました。
本来であれば神々しい雰囲気を纏っているはずが、今は生きているのがやっとという感じでした。
全身を縛られ、あちこちに針のようなモノが刺され、周囲を檻で囲われている。
ひどい。
あまりにもひどすぎる。
その神獣さんは私たちの姿を視界に収めていたけど、反応する気力も残っていないみたい。
「とりあえず、拘束を解除しよう。」
イリスさんの声に合わせて、私たちは慎重に丁寧に対応しました。
刺さっているモノを手早く引き抜く。
こういうのはゆっくりやるから余計に痛いらしいですし。
次に拘束している檻や鎖などを全て取り外す。
それからセイちゃんが治療。
「これはホントにひどい・・。魔力をずっと無理矢理絞られ続けてるせいで魔力回路に負荷がかかりすぎてるし、弱体化と拘束、衰弱、麻痺に回復・治癒阻害の呪いが何重にもかかってる。・・これ、私くらいじゃないと治せる人いないよ・・。」
最後につぶやいた台詞はよく聞こえなかったけど、かなりひどい状態みたい。
そして、
「・・ふぅ。とりあえず、これで完了。後は何回かに分けてすればいいかな。・・さすがに1回で治せる度合いを超えてる。いきなりまとめてやったら体に負荷がかかりすぎて逆に危ないから。」
「余計なことをしてくれたなこそ泥ども。」
突如として聞こえる親父声。
全く聞き覚えのない声と生理的に受け付けない気持ち悪い雰囲気を感じた瞬間に思い当たるのは1人だけだった。
そう、この地のボスであり、元貴族の屑親父。
で、声のする方へ視線を向けて、リア様をかばいつつ戦闘態勢に入る。
見た目は・・・うわぁ。
物語でよく見る屑貴族の代表例っていうか、心の底から腐ってるアホってこんな感じって期待を裏切らない見た目だ。
おまけに、出っ腹だし脂ギッシュだし、無駄にごてごてした宝石だのをつけた趣味の悪い格好だし、ゲスな顔してるし。
うん、リア様の視界に入らないようにしよう。
と言うわけでリア様を後ろから抱っこの形から向かい合う抱っこに切り替えて私のおっぱいに顔を埋める。
当然全員が戦う気満々でフォーメーションを組み、神獣さんを守るように立ち向かう。
「てめぇ、どうやってあそこから出てきたんだよ。」
威圧をこぼしながらグリムさんがそう告げるとその男性が突然キレて叫んだ。
「あぁそれだ!あの部屋は特別防音に優れた部屋だというのに普段以上に音が聞こえない故に何かおかしいと扉を開こうとすると開かない。隠し通路を使おうとしてもなぜかその出口はなくなってただの壁になっている。で、緊急時の対応として扉を取り除けば冷えない氷で全面を覆われているし、それをコレクションでどうにか対処したかと思えば落とし穴だらけだし!!おまけに落とし穴の底にはよくわからんくっさいのが入っているし!そのにおいを取り除くのと落とし穴から出てくるのが大変だったんだぞ!おまけに落とし穴にはあっちこっちにヌルヌルしたのが塗られていて登りにくいったらありゃしない!!」
あぁ・・。
イリスさんたちが嬉々として何か色々と仕掛けてたけどそんなことになってたんだ。
けど、その辺りをきちんと自力で対処したのに加えて、身だしなみを整えてからここまでくるこの人もある意味大物っぽい気がする。
まぁ、屑だけど。
「それよりも!よくも俺のコレクションを壊してくれたな!おまけに俺の宝まで奪うとは許されると思っているのか!」
そういえばイリスさんからの情報で、この人は魔道具を集める傾向にあるとか言ってたけど趣味だったんだ。
まぁ、大半は翠さんのご飯になったけど。
「許すも何も君の存在自体が許されないから許すもへったくれもないだろう?」
ニコリとほほ笑みながらイリスさんが私たちを背中側で隠して告げる。
・・イリスさんかっこいいですし、美人ですけど・・・目が笑ってないです。
それと、すっごい真っ黒な何かを感じます・・怖い。
美人が起こると怖いってホントだ・・うん。
「うぅ!うるさいうるさいうるさい!!なぜ俺がこんな目に合わなければならないんだ!悪いのは周りのやつらだ!なぜ俺だけが!」
「そりゃあ、身分をかさに好き放題しては人様の人生を踏みにじった挙句、人を人として扱わないんだ。当然の報いだろ。」
殺気を纏ったグリムさんからのツッコミが入る。
うん、この人が処罰されるのは当然だと思う。
どこかの土地で領主をしてたらしいけど、処女税?初夜権?とか言うのを絶対行使させていたらしく、名前の通りその町に住む女性は全員一定の年齢を超えると領主であるこの屑に処女をささげないといけないらしい。
おまけにそれを阻むと犯罪者としてとらえられ、多くの人たちの目の前で犯され、殺されるんだそうです。
そんなことを領主になってからずっと続けていたのにその親は止めないのかと思ったらこいつはいわゆる親殺しだった。
調査に来る国の偉い人や騎士さん相手だと町の人全員を脅して喋らせないようにしたり賄賂を渡したりして逃れていたそうです。
その脅しっていうのは、裏でやり取りしていた奴隷商人相手に奴隷として売り払うというものです。
・・それで実際に売られてしまった人は多いそうです。
で、一応言うと処女税だの初夜権だのはかなり昔に借金奴隷と同様に絶対ダメって決められたそうです。
「俺は偉いんだ!下民はおとなしく従っていればいいんだ!誰のおかげで生活ができると思っているんだ!」
「誰のおかげってその下民本人のおかげでお前はそれまで生活ができてたんだろうが、あほ。」
「貴族だから偉い?王族だからすごい?馬鹿じゃないの君。国民がいるからこそ貴族は生きることが出来る。貴族がそんな国民を支えるからこそ国民も安心して生活ができる。王族がいるからこそそんな貴族たちの道しるべとなれるし、国民も日々生きていくために汗水を流せるんだ。どちらかというと王族よりも貴族よりも国民の方が偉いしすごいんだよ。そんな彼らに生かせてもらっているんだから。」
宰相であるグリルさんとそこそこ話をしてるらしいグリムさんのツッコミと本物の元王族で現公爵当主であるイリスさんのセリフが飛ぶ。
私もメイドとして学ぶようになってから改めて実感したもの。
こういう考えを持つ人たちがあの国のトップだからこそあの国は正義に染まる国と呼ばれるし、みんなそのために頑張りたいって力になりたいって思えるんだって。
「そんなきれいごとだけで生きていけるはずがないだろう!」
「だから、そんな汚いことをするクズを片っ端から潰してるんだろ?ごみはしっかりと始末しないとな。お前みたいなのはしっかりと心を折り、体を壊すに限るだろ。」
グリムさんが速攻で言い返す。
さすがグリムさん。
クラリティ王国国民らしいセリフです。
ちなみに、あの国に長くいる人ほどこういうセリフが息をするように出てたりする。
そういう国なんですあそこは。
貴族や王族など偉くなればなるほど強いのと同時に国民であれば長くいればいるほど心も体も強いんです。
「うるさいうるさいうるさい!!貴様らは俺の手で直々に始末してやrぐぁぁぁぁ・・・がはっ!」
「・・・」
「・・・」
「えぇっと・・・」
おっさんがキレて襲い掛かろうと・・と言うより、手元から魔道具を取り出そうとしたところで、ぶっ飛んで壁にぶつかった。
よく見ると目の据わったユウ君と狂気を目に宿したセイちゃんが2人揃って鏡越しになるように同じ格好になっていた。
正しく言うと、殴り飛ばした後のような格好。
・・セイちゃんはともかく・・いや、ともかくじゃない、ユウ君もだけど武器使わずにぶん殴ったの?
あぁ、けど否定出来ないし余計なことはいわないようにしよう。
それと、2人の行動と言うよりもいきなり殴り飛ばされたことにイリスさんたちでさえフリーズしてる。
「久しぶりに胸くそ悪いのがいたねセイ。」
「そうだね。思わず殴り飛ばしちゃったよユウ。」
「こんなのいつぶりだろうね。」
「あのときじゃない?町中に呪いをばらまいてはアホみたいな金額でお金をせびってたのにもかかわらずろくな治療をしなかった屑領主」
「あぁいたね、そんなの。セイが全員を治した後でその領主をボッコボコにした後、怪我の治療をせずに町中を引きずり回した後、死なない程度に治療しながら淡々と町の被害者さんたち全員に思う存分殴らせては回復を繰り返してた奴ね。」
「人ごとみたいに言ってるけど、ユウだってそいつの敷地内の建物をただの瓦礫の山にしてたじゃん。」
「僕がそいつを殴っても良かったけどあのときは力の制御が出来なくて殴り殺しそうだったから八つ当たりしただけだよ。アレなら誰にも迷惑かけないし。」
「それもそうね。」
うぅ・・怖いよぉ。
最近のちびっ子たちって怖い。
黒髪って強くて怖い人の代表なの?
リア様も強いし、怒らせるとすっごい怖いけど・・・多分。
だって、威圧とかは感じたことあるけどリア様が本気でキレた姿は見たことないし。
「うぅぅ!い、いきなり何をする!がぁっ!」
「うるさいよ。これからお前を地獄へ連れて行くんだからさ。安心してよ殺さないよ。殺せばそこで終わりだからね。」
ユウ君・・そんなかわいい笑顔ですっごいことを言うなんて・・・君もすっかりリア様たちに染まったんだね。
けど、目は笑ってない。
「安心してよユウ。思う存分やっちゃって良いよ。私が殺さないから。」
「そう?じゃあ遠慮なく。」
「反撃しないと思ったか!・・・・っ!?」
「遅すぎ。それに単純でわかりやすすぎ。」
懐から魔道具を取り出そうとしたけど出して発動する前にユウ君が腰の剣を抜いてそれをはじき飛ばす。
その先には翠さんがいるからそのまま溶解してしまった。
「まずは余計なことを考えさせないようにしなきゃね。えいっ!」
「あぁぁぁああああああ!!!!!」
セイちゃんがかわいいかけ声と共に何かをそいつに発動させると瞬く間に全身が血だらけになってしまった。
「じゃあ治すね-。治ったね。じゃあ次ねー。」
それから先はセイちゃんによるお仕置きが淡々と続いた。
一瞬で全身が血だらけになっては治しての繰り返し。
何度も何度も。
どうなってるの?
どうやったらあんなコト出来るの?
「ほらまだまだあるんだから。これは全部あんたがやらかしたことをそのままあんたに返してるだけなんだから。」
「あぁぁ!!もうやめてくれぇ!!」
「い・や・だ♪あんたはそう言ってる人に対してやめたことないでしょ?だからいーや♪」
満面の笑みで即答したセイちゃんは再度続ける。
後で教えてもらうんだけど、セイちゃんはこれまで治した相手の怪我や状態異常全てを一瞬で再現することが出来るんだそうです。
その対象は誰に対しても可能。
・・・セイちゃんは怒らせない方が良いみたいだね・・うん。
「セイ、あまりやりすぎないでよ?僕だってお仕置きしたいんだからさ。」
「あぁごめんごめん。とりあえずはこれで良いかな。じゃあ次からユウね。治し続けるからずっと良いよ。私の魔力が続く限りって限定だけどね。」
「うん、ありがとう。」
その後は、ユウ君が拳に魔力を纏わせた状態で全身を殴り続けて、それに並行してセイちゃんが怪我を治していた。
続けると続けるほどユウ君の拳の威力が上がり、速度が上がる。
何気にイリスさんたちが規格外だから気づかなかったけど、ユウ君って普段はかなり実力を抑えてる?
どう考えてもそうだよね?
ユウ君の目が据わってる状態でどんどん威力が上がってるんだもん。
それから1時間ほど経過した頃
正しくは3時間。
だって、セイちゃんのお仕置きって全身血だらけが一瞬で治すのは数十秒だから休む間もなく淡々と続くから・・それが2時間。
で、ユウ君が1時間。
ユウ、セイ「ふぅ♪すっきり!」
うん・・凄い良い笑顔でいい汗かいたぜって顔になってる2人はかわいいけど足下には怪我とかはないのに頭の髪はまだら状態で引っこ抜かれ、全身の服はぼろぼろで本人は白目剥いて泡を吹いている。
「あぁ・・うん。とりあえず縛って連れて行こうか。」
「そうっすね・・。」
キレていたはずのイリスさんとグリムさんが引きつった表情になってる。
{お二人はどうしてそこまで怒っていたのですか?許せないのは分かりますが何かきっかけがあったのでは?}
ぷはぁっとリア様が私のおっぱいから抜け出して後ろから抱っこされた状態になってセイちゃんとユウ君へ質問を飛ばす。
「神獣さんの状態があまりにもひどくて我慢が出来なかったから。」
「これまでセイが治した人たちの状態があまりにもひどかったから。」
{なるほど。代わりにやりかえして下さったんですね。}
うんうんと頷き合う幼女たち(1人男の子だけど見た目は違和感なし)
最近の幼女って怖いわぁ。
その後、ぐるぐる巻きに縛られた状態で巨大化したシャスティさんがそいつを引きずり、意識を失って気絶している神獣さんはイリスさんの魔法で作った籠に入れて、私が魔法で支え、ハディさんが下からサポートしてくれました。
ついでに言うと、この中で色々と作られた扉や家具などは全て翠さんが食べてしまいました。
つまりは、天井や壁など・・所謂土以外は一切石材扱いされそうなモノから金属類とかも全て一欠片も残っていないと言うことです。
それと、アフターケアとかでその中に漂っていた淀んだ魔力やトラップ類は全てなくされ、ただの洞窟となりましたので、私たちが抜けた後はこの地周辺に住んでいる動物たちの住処として活用されるようになったと知るのは後々の話し。
あ、淀んだ魔力って言うのは、このアホ元貴族が実験とかで作り出していた魔道具とかから漏れたりした、自然界からしても私たちからしてもあまり体調とかそう言う方面でも良くないものです。
「これは・・・」
「予想はしていたけどそれ以上だね・・。」
「と言うより、壁が増えてない?」
「増えてるね。多分あの中に収まらなかったから新しく壁を作ったんじゃないかな、バレクさんが。」
「やっぱり?」
流星の里に帰ると里と呼ばれつつも見た目は誰がどうみても城壁都市みたいなことになっていました。
何と言いますか、これまであったあの壁をくるっと囲むように更に広くて頑丈そうな壁が出来てました。
真上から見ると二重丸になってると思う。
けど、その一番外側の壁が凄かった。
高さも厚さも。
ついでにその壁の外側にはすっごい深い溝がぐるっと取り囲むように出来ていて、入口は橋が1本だけ。
しかもその橋は90度に持ち上げると言うか、つり上げるようなタイプ。
その溝は既に水が流れ、中にはお魚や水鳥がいました。
・・いつの間に住み着いたの?
この数時間の間でどこから来たの?
とか思ってくるっと周りを見てみると水の底にそこそこ大きな穴がありました。
どうやら、地下を伝ってどこかの川につながってるみたいです。
それと、その穴は1箇所だけではなく全部で5箇所は有ったので魚の種類は豊富です。
お魚料理が時々出てきそうですね。
クリアさんのご飯はおいしいので楽しみです。
お料理を習ってるところなんですよ?
それと、ラウさんのご飯は元々はクリアさんに教えてもらったんだそうです。
まさしくお料理というか主夫のお師匠様ですね!
ラウさんが主夫って呼ばれるようになった影響はクリアさんがかなり大きいみたいですし。
本人はさりげなく否定するけどラウさんを知る人は全員が主夫と呼ぶ。
私もその人だったりする、えへ。
それから私たちはアホ元貴族の身ぐるみを全て剥いで手足の筋を切断し、磔けにした状態で一旦放置してからバレクさんたちや魔術師団の皆さんと情報共有をしました。
「じゃあ、そっちは無事に全箇所を破壊出来たんだね。」
「はい。予定よりも早く終わらせることが出来ました。」
「そっちに手伝いに行った方がいいかな?って思ったけど、そっちを手伝うよりも被害者さんたちの手当とかを優先した方が良いと思ったんだよ。」
「うん、それでいいよ。実際対したことはなかったからね。」
「それで、こっちの人たちはヴェルヴンの騎士団で、団長のモリオンさんたちだよ。」
「目的は俺たちと同じでそいつの始末で、俺たちが先に対処してたからその手伝いをしてくれたんだ。」
「そうだったんだね。あなたが噂に聞く黄金戦姫だったんだね。僕はイリス。イリス・クラリティ・エトワール、クラリティ王国の元第一王子で今は公爵家当主だよ。」
「こちらこそヴェルヴン騎士団団長を務めておりますモリオンと申します。天才王子と名高いあなた様とお会い出来てこちらこそ光栄です。皆さんがあまりにも優秀で逆に我らは足手まといでした。逆にご迷惑をおかけ致しました。」
「そんなことはないよ。被害者たちの手当や引率だけでも十分手伝いになったよ。手伝ってくれなければ彼らの任務はまだ時間がかかっていただろうから。時間はとても大事だからね。」
「そう言って頂き感謝致します。」
「そう硬くならないで良いよ。公の場じゃないんだから気楽に行こうよ。」
「努力致します。」
優しい笑みを浮かべて自己紹介をするイリスさんとがっちがちに緊張しつつもイリスさんの態度がありがたくてもそう簡単に態度を崩して良いものか悩んで苦笑いになってるモリオンさん。
黄色のような金色のような色の髪がきれいで、黄金戦姫と呼ばれるほどの凄い人で何より美人!
女性騎士の理想型と言っても過言じゃないほどの凜とした姿が個人的に凄く憧れる。
・・だって、私って見た目が凄くどんくさそうに思われる感じだし・・実際どんくさいけど。
それから、私やセイちゃんと順番に自己紹介をしている中リア様を目にしたモリオンさんと騎士の皆さんがフリーズした。
「おや?」
「リアちゃんみて固まっちゃったね。」
「知り合いだったとか?」
「それでどうなのリアちゃん。」
{この左腕である義手をもらった国でお世話になった方です。}
「あぁ、なるほど。その義手のリハビリとかでそこそこ長めに滞在してたんだっけ?」
(コクリ)
とリア様を抱っこしたままイリスさんは楽しそうにお話ししている中、モリオンさんがうれし涙を浮かべて喋ろうとしたところでヴェルヴンの騎士さんたちによって遮られた。
「フr-」
騎士全員「幼女様だぁ!あ、ヤベ違った。少女様久しぶり!!」
・・・・・リア様、どうしてそんな呼ばれ方されてるの?
そして、リア様はそれすらもスルーするの?
それを聞いたイリスさんたちはそのままフリーズ。
そして、遮られたモリオンさんはと言うと
「だからお前らはそんな呼び方をせずに普通に名前を呼べと何度も言っているだろうが!そして、どうして幼女様呼びをやめろと言ったら少女様呼びになるんだ!失礼だろうが!!」
騎士全員「じゃあ元幼女様で」
「だからそれが失礼だと言っているんだ!!」
モリオンさんのツッコミの連発が素晴らしい。
騎士全員「えー。何かつまんない。」
「つまんないじゃない!これでフリージアちゃんが貴族だったらどうするつもりだ!」
「僕と血がつながったれっきとした娘だから公爵家令嬢で、血筋だけで言うとクラリティ王国の王族だよ。おまけに言うと、僕の妻は流星姫であるニアさん、ペチュニアさんだから色んな意味で血筋はすさまじいよ。」
とイリスさんが追い打ちを笑顔でかける。
すると、モリオンさんの顔があっという間に赤から青になった。
赤かった理由は騎士さんたちにキレてツッコミをしまくっていたからです。
「部下が大変失礼致しましたぁ!!!」
と土下座をし始めたのでさすがに慌てた騎士さんたちの土下座をやめさせて
騎士全員「し、失礼致しました。フリージア様。」
「気にしないでいいよ。ただ、公の場では気をつけた方がいいよ。狂信者たちが面倒だからね。」
イリスさんの言葉で頷いた騎士さんたちをみてモリオンさんはようやく幼女様呼びをやめてくれたと嬉しそうにしている中、妙な表情になってる騎士さんたちが気になったらしく。
「お前ら、どうした?」
騎士全員「いやぁ、様呼びが意外としっくりきたもので。」
「そうか・・変な呼び方じゃないならもう何でも良い・・。」
がっくりと項垂れてました。
・・・モリオンさんは苦労を背負い込みがちな人らしい。
それと、騎士さんたちはかなりフレンドリーというか色んな意味で楽しい人たちのようです。
それから後々にリア様に教えてもらうんですが、ヴェルヴンの王様であるおじいさんは、かなりやんちゃな性格をしているらしく、モリオンさんを弄ったり、メイドさんたちと冗談を言い合ったりとしているらしい。
・・・・モリオンさん、頑張って下さい。
主にメンタル的に。