出会いと別れ
私は知らない。
何も知らない。
会話を知らない。
文字が分からない。
読めない書けないしゃべれない。
私がいる部屋以外の場所を知らない。
父親と呼ばれる存在以外の人間を知らない。
外の世界を知らない。
そして、人のぬくもりを知らない。
母親を知らない。
私の母親は、私を産んだときに難産だったらしく産むのと同時に死んでしまった。
父親は世間的にはすごくいい人だ。
誰にでも優しく、人助けをしょっちゅうしてて、いつでも精一杯生きてると。
そして、どこまでも世間体を気にする人だった。
その度合いは、周囲の人たちは身分や規則などに厳しいんだろうという程度しか認識がないが、身内の私からすると異常だ。
その世間体のためなら、自分以外の命すら笑顔で踏みにじって捨てるほどに。
話しの流れから気づいた人もいるだろう。
私は、父親に愛されたことが一度もない。
私が生まれたのと同時に、最愛の妻を亡くした。
それによって私は父親に母親殺しの忌み子としか認識されていなかった。
そして、命をかけて産んだ子供を大事にしないと世間的に非常識だと思われると瞬時に察したため、他人がいると優しくしているそぶりを見せ、普段はお金で雇われた乳母に任せっきりだった。
赤ん坊だった私からすれば特に気にすることではなかったが、胸が大きく非常に美人だった。
そして、その人だけが唯一私に心から優しくしてくれる人だった。
私が魔法らしきモノを発現するまでは。
それは、私が生まれて3歳を過ぎたとある日。
私を餌と認識して襲い掛かって来たどう猛な狼の魔物が私を襲ってきた。
それに関しては、火の魔法が得意だった乳母によって掠り傷1つつくことなく討伐された。
だが、幼い子供からすると魔物と呼ばれる存在はどこまでも恐ろしかった。
あの狼の魔物は後に、普通の中型犬サイズの魔物でかなり低ランクだったと知るのは大分後のことになるのだが、当時の私からすると十分恐ろしかった。
私は、その恐怖によって魔法らしきものを無意識に発動させていた。
生まれつきなぜか私の影は普通の人よりも色が常に濃かった。
そして、私は感情の起伏が普通の人よりもかなり少なかった。
表情がほとんど動かないほどだ。
怒っても笑っても悲しんでもほとんど表情が変わらず、心が揺さぶられることはほとんどなかった。
だが、その魔物との初の遭遇では私の恐怖の気持ちは表情や仕草ではなく影に現れた。
私の影が水のようになびいていた。
正しくは私を中心として水の波紋が広がり続けていた。
その波紋は私の影が出来ている小さな範囲限定だった。
だが、影がなびいていたことと、乳母からすると感じたことのない奇妙な魔力を感じて非常に恐ろしい存在に見えたらしい。
それから、乳母は私の前に現れることはなかった。
そして、唯一外に出ることが出来たお庭にさえも出ることが許されず、大人が3人ギリギリ座れるほどの部屋に常に閉じ込められるようになった。
とはいえ、お庭に出られたのは1日の内のわずか数分で、その1日でさえも数十日に1回程度だった。
扉が開かれるのは、食事が来る時だけ。
トイレは、いわゆるポットン式のが部屋の中にあったのでそこで済ませた。
トイレのやり方までは乳母に教わったから苦労はしたけど出来た。
私はしゃべれない。
乳母が言うには、夜泣きが数日続いた頃に父親に喉を潰されてしまい、そんじょそこらの回復魔法では治らないまでに徹底的に潰されたからなんだそうな。
そして、文字を教えてもらう前に乳母はいなくなったので、私は文字を読むことも書くことも出来ない。
だから、行動で必死に父親に身振り手振りでコミュニケーションを取ったこともあった。
だが、父親からは怒りの感情のみがこもった視線で睨まれ、動けなくなるまで殴られ、蹴られた。
世間では、乳母がいなくなったことに併せて私自身が生涯の傷をつけるようなことを乳母にした故、乳母は失踪し、私自身も実の親でもどうしようもない状況のため、部屋に閉じ込めていると嘘が伝わっていた。
そして、殺さないのは愛した妻が残したからだと。
そして、顔の存在も知らない街の人たちを含む私が住む街の人たちは1人残らず私を憎み、悪魔の子と呼ばれるようになった。
そんな中で唯一私のお友達であり保護者は、窓からそっと入ってくる窓から時々見える青いお月様みたいなきれいな毛並みの尻尾の長い猫さんと、脚が3本ある真っ黒な鳥さん。
その鳥さんは、世間ではカラスと呼ばれる姿をしてるんだって後で気づいた。
そして、猫さんは一般的な大人の猫のサイズだって言うのも鳥さんに教わった。
私と猫さんと鳥さんの関係は、ご飯を持ってくる父親は知らない。
いない間しか来ないからだ。
私の元に来るご飯は、コップ1杯のお水と、すごく硬い黒パンって種類のパン1個だけ。
1日にこれだけ。
そのパンの大きさも、私の小さい両手を合わせても手にすっぽり収まる程度だ。
それだけなのに今5歳まで年をとれているのは猫さんと鳥さんがこっそり木の実を採ってきてくれるからだ。
それと、そのパンは幼い私にとってはどんなに頑張ってもほとんど食べることが出来ないほど硬かったのでほとんど食べることが出来なかった。
それによって父親からまた殴られたりするきっかけになっていた。
父親は、町で何か嫌なことがあったら全部私に暴力という形で毎日何回も、発散している。
しゃべれなくても聞いて分かるようになった方がいいって言って、鳥さんが教えてくれた。
その鳥さんは世間的には珍しい種類らしく、人の言葉がしゃべれる。
猫さんはにゃんとしかしゃべれないけど、尻尾で何でも出来る。
具合が悪かったりするときもお薬を作ってくれた。
調合が簡単なモノだったら出来るんだって。
尻尾で色んな形を作ってくれて私の楽しませてくれた。
ハートとか、びっくりマークとかはてなマークとか色々。
そんな感じで、部屋から出られなくても動けなくても、しゃべれなくても猫さんと鳥さんだけは私に優しくしてくれた。
そんなある満月の夜。
私は動かない、動けないので夜も結構遅くまで起きてることが多いから、お月様を毎日わずかに見える窓から眺めているのが1日の中で鳥さんと猫さんと一緒に過ごす以外で唯一の楽しみだった。
その日の夜に猫さんと鳥さんがすごく慌てた表情でやってきた。
珍しい夜は絶対来ないのに。
「マスターヤバイ!早くここから出て逃げないと駄目だ!!」
鳥さんは私のことをマスターと呼ぶ。
私には名前がないし、マスターって言うのも意味が分からないけど私を呼んでるんだと一応理解してる。
そして、どうしてという意味を込めて首をかしげる。
猫さんも速く逃げないと駄目だと尻尾でぐいぐいと私の手を引いてくれる。
「町の連中がとうとう暗殺者を雇いやがった!」
暗殺者?
「殺すことに特化した職業……あぁ……殺すのが上手な大人だ。」
殺すって言うのは、痛いことだって教えてくれた。
痛いのは嫌だ。
雇った?って?
「お金を使ってお願いしたってことだ。」
お金って言うモノがないと欲しいものも食べたいモノも人からもらえないらしく、そんな大事なモノを使って誰を殺して欲しいんだろう?
「あいつら……裏世界の暗殺者じゃなくて、公式の暗殺者を雇いやがった。マスターが悪だって……悪い奴だって偉い人に嘘を言ったんだ……マスターを偉い人が殺すのを許可したんだ。」
どうして?
どうして私は殺されなくちゃいけないの?
私……何かしたの?
私はこの部屋以外の世界を知らない。
何も出来ないのに何が悪いの?
何が駄目なの?
世間には、人をモノのように扱うどれいっていう存在があるらしいけど、私は全く役に立たないから駄目だって父親が言ってた。
だって、肌は真っ白だけど叩かれたりした跡で青くなったり切ったみたいな跡があったりとぼろぼろだし、髪は伸びっぱなしで膝の下辺りまで伸びてるけど、ぼさぼさでばさばさ、枝毛だらけ。
前髪だけは切らなきゃ駄目って言って、猫さんが爪で切ってくれた。
それから、鳥さんが整えてくれた。
それと、髪の色は真っ黒で、鳥さんが言うには、漆黒色とか、カラスの濡れ羽色みたいって言ってた。
父親は、気味の悪い色だってよく言ってたけど、猫さんと鳥さんは夜みたいに静かできれいな色だって言ってくれた。
……よくわかんないけど前髪が短くなったら見やすくなったって思う。
枝毛って毛の先が別れてることを言うらしいけど、それは髪にとっては良くないことなんだって。
そして、体はガリガリに痩せてるし、動かないから更に細い。
服は、かろうじて服って言えるくらいの布のワンピース。
私、女の子です。
けど、お月様が見えるあの窓の大きさだと確かに私くらいの体だったら通れるけど、よじ登るなんてことは出来ないし、鳥さんも猫さんも私を持ち上げるなんて絶対ムリだと思う。
死にたくない。
痛いことは嫌だ。
けど、猫さんと鳥さんが巻き込まれて一緒にいたいコトされるのはもっと嫌だ。
だから私は2人だけでも逃げるようにぐいぐいと体を外に向かって押す。
「何でだよ……マスターが何したって言うんだよ……何もしてないだろ……マスターはむしろ被害者だろ……なのに何でだよ……なんでマスターがそんな目に遭わなくちゃ行けないんだよ……畜生……なんでマスターは俺たちみたいなののために自分を犠牲にするんだよ。」
痛いことは嫌だけど、2人も一緒にいたいコトされるのはもっといやなの。
私のせいで2人が痛いコトされるのは胸の奥がキューってなるの。
それはいやなの。
産まれてから1回も流れたことのない涙が流れながら必死で笑顔を作って2人にほほえんだ。
ほとんど表情変わらないから分からないかもしれないけど。
「おかしいよマスター……畜生……悔しい……俺たちの力じゃどうしようも出来ないなんて……何も出来ないままマスターを殺されるなんて……畜生……」
すごく悔しそうに悲しそうにしている猫さんと鳥さん。
私は十分だよ。
こんなに私のために優しくしてくれただけでも十分幸せだったよ。
そして、なけなしの体力で2人を再度外に向かって追い出そうとしてたら窓が音もなくなくなった。
正しく言うと、窓がすっぽりと外に向かってくりぬかれた。
私は、頭の中がぐちゃぐちゃの状態のまま混乱して、体を縮ませる。
そして、猫さんと鳥さんが私の盾になってくれる。
すると、猫さん、鳥さん、私の3人はその窓から生えてきたすごくふっとい腕にわしづかみされて外に引きずり出された。
声は出ないけど、恐怖と混乱で頭の中がぐちゃぐちゃになりながら猫さんと鳥さんだけでも守りたい気持ちを総動員させてぎゅっと抱きしめて守る。
2人も私を守ろうとしてくれてる。
このまま、殺されるんだ。
猫さんと鳥さん……ごめんなさい。
私のせいで……ごめんなさいと声の出ない唇を動かして謝っていると
「……ここまで来れば大丈夫かな。」
思ったことと違う声がした。
そして、今まで鳥さん以外からは聞いたことがないくらい優しい声で思わず涙がこぼれたままその声の主を見たら、すっごいむっきむきの怖い顔をしたお兄さんだった。
食べられる!!
私は瞬時に察して、鳥さんと猫さんを抱きしめたままそのお兄さんに背を向けて2人をかばう。
ぶるぶると震える体を無理矢理押さえつけて2人を守る。
すると、ポンと優しく頭を撫でてくれる手があった。
そして、
「……やっぱり、じいちゃんが言ってたとおりだった……畜生、だれが悪魔の子だよ。自分そっちのけで猫とカラスを守る幼女なんてあり得ねぇだろ。そんだけ優しいんだ……ぜってぇ、あの領主が腹黒なだけだ……くそ!」
じいちゃん?っていう人は、この街の人たちとは違うらしい。
私は悪魔の子って呼ばれるくらいひどい子ってことになってるけど、そのじいちゃんって人はそれは嘘だって思ってたんだって。
そして、そのじいちゃん?の知り合いがこの怖い顔のお兄さん。
りょうしゅさんって人はお腹が黒いらしい。
お腹が黒いと何か悪いのかな?
「マスター……腹黒って言うのはお腹が黒いんじゃなくて、人前では優しくいい人でも、他人がいないときにはひどいことを考えてる人ってことだ。……それより、離して……苦しい」
「に"ゃぁ……」
ぎゅっと抱きしめすぎてたらしく2人が苦しそうだったので慌てて手放す。
「ケホッ!マスターに大事にされるのはうれしいけど、抱擁は優しくしてくれた方がうれしいな。」
「にゃんにゃん」
うんうんと猫さんが頷いてた。
「それよりも、そっちの兄さんは何者だ?あそこから出してくれたのは感謝してる。俺たちを殺すって感じでもねぇ。どんな目的だ?」
「ほぅ?しゃべれるのか、珍しいな。」
「俺は頭が良いからな。で?」
「あぁ……俺は、ここの領主が裏で何かやらかしてるが証拠がないって聞いてたからここに紛れてその証拠を集めてたんだ。で、今日ようやく情報が揃ったから行動に移そうとしたらお前さんたちを見かけたから助けたんだ。んで……名前は?」
私は首を横に振る。
「え?」
「ないんだよ……あのくそ領主はマスターに人のぬくもりも、まともな飯も、名前すらも渡さなかったんだ!!……せめて、母親の方が生きててくれれば……あの人はすごくいい人だった。」
「そうか……悪い……ってか、領主の婦人とは知り合いなのか?」
「たいしたことじゃねぇよ。近くを通りがかったときに結構な頻度で餌をくれたり、本を読んでくれたりしてくれたんだ。その程度だよ。」
「そっちの猫もか?」
「あぁ、それから俺たちがこっそりマスターのお世話をしてたんだ。」
「そういうことか……で、時間がないからサクッと説明するぞ?状況は把握してるか?」
「まぁな。」
「じゃあ話は早い。俺は、あの領主の企みによって秘密裏に町の連中を経由して嬢ちゃんを殺させようと動いてた。……俺は許さない。あの領主は不正とかも普通にやってんだ……俺は、それらの証拠を今日までにやっと十分な量を手に入れた。それらの対処のついでって言い方は失礼だが、あまりにも可哀相だったから嬢ちゃんを助けたんだ。」
「ついででも構わねぇよ……ありがとう……その優しさすらもマスターには与えられなかったんだからな・・」
「マジか……くそ……どこまでもくそだな……」
「全くだ」
……それよりもりょうしゅさん?って誰?
って首をかしげてたら。
「・・・一応説明しておくと、領主って言うのはこの町で一番偉い人で、その娘がマスターだぞ?」
りょうしゅっていう偉い人の子供が私だったんだ・・。
いつも怒ってて裸でぷらぷらしてるのをぶら下げてうろついてたあのお腹が丸まるのが?
「・・・・・マジで、ふざけた領主だよ・・くそ・・いたいけなマスターにきたねぇもん毎回見せやがって・・」
猫さんもだけど、鳥さんは私が考えてることを理解してくれる。
心の中が見えてるんじゃないかって思うくらい正確だから、しゃべれない私にとってはすごくありがたいです。
「どういうことだ?」
「あのくそ領主は、女癖も悪いが、素っ裸の状態で無造作に飯って呼ぶのもおこがましいほど小さくて、マスターじゃ食えないくらい硬いパンと一杯の水だけを渡しに来るんだよ・・1日でそれだけだぞ!!」
で、鳥さんが私の喉を父親が潰した結果、しゃべれなくなったことも監禁していたことも伝えたら
「マジか・・・がっつり法的に裁いてやる・・」
自分のことのように私のことで怒ってくれた。
すごい怖い顔だけど、優しい人だった。
「頼む・・それで、俺たちはどうすれば良いんだ?・・見ての通りマスターは産まれてから5年間ほとんどあの部屋から出してもらえなかったから筋肉もほぼゼロだし、栄養も俺たちが渡してた木の実とか薬草とかでかろうじて生きてるレベルだから・・」
「それほとんどお前らに育てられたもんだな。」
「しゃべれなくても聞き取って理解する程度に教育したのも俺たちだしな。」
「・・・今後も娘さんを頼むよ」
「そのつもりだ。」
「で、これを使え」
お兄さんの手には黒っぽくて紫色の透明でキラキラした石だった。
大きさはお兄さんの片手くらい。
私は、きれいだなぁって思った程度だったんだけどお兄さんと鳥さんたちからするとすごく珍しいモノらしい。
「何の魔法が込められてんだ?」
「単発式の使い捨てだが、転移魔法だ」
「はぁっ!?そんなすげぇもんどうしたんだよ」
「じいちゃんが若い頃に偶然手に入れた代物らしくてな。いざってときの為にずっと大事にとっておいたらしい。それが、今回なんだとさ。」
「良いのか?マスターが助かるならありがてぇが、なにも渡すもんはないぞ?」
「構わねぇよ。俺にとっては今こうして会うのは初めてだが、大事な妹みたいなモノだ・・だから、ちょっとだけ悪い。」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
全く痛くないし、胸の奥が温かくなる不思議な感じがしてすごく居心地が良かった。
「すまねぇ、幼いとは言え、女性相手にいきなり抱きしめるなんてな。」
「良いよ。まだ幼いからセーフだ。それに、マスターにとってはそういうことはむしろ足りなさすぎるから逆にお礼を言いたい・・ありがとう。」
「そうか。じいちゃんからは、元気に育ってくれればそれだけで十分だって聞いてる。」
そう言いながらそのきれいな石がさらにキラキラと光り始めた。
「俺たちはどこに行くんだ?」
「悪いことではないが、どこに行くわわからねぇんだ。そうでもなきゃ、逆探知されるからな。」
「わかった・・俺たちが去った後は、マスターのことはどうなるんだ?」
「適当にごまかしとくさ。いざとなれば土魔法でそれっぽく偽装しとくだけさ」
「そんなんでだまされるか?」
「だまされるよ。あいつらは、適当だからな。それに、土魔法のスペシャリストだからな。」
「そうか、じゃあ後は頼む。」
「あぁ、任せてくれ。むしろ嬢ちゃんの存在のおかげであのくそ領主を訴える武器が増えた。」
「思いっきり頼む。けど・・」
「あぁ、嬢ちゃんに関してもこれまで集めた証拠と俺がランダムに転移させて逃がしたって内密にお偉いさんにだけ言っとくからどうにでもなるから安心してくれ。そのくらいどうにか出来る権力もどきは俺たちの一族にはあるんだ。・・新しい人生に幸アレ」
そう言うお兄さんの姿が段々薄れていく。
私たちを温かい光が包み込んでいく。
「じゃあな、俺のカワイイ妹・・・ホントなら一緒に過ごしたかったよ。あ、それとこれ!じいちゃんからの餞別だ!!持ってけ!!」
私はしゃべれなかったけど口パクで精一杯ありがとうと伝えたら、お兄さんは笑顔で親指を立ててくれた。
鳥さんが言うにはさむずあっぷって言うんだって後で教えてくれた。
光に包まれて見えなくなる寸前に投げられた棒みたいなのは猫さんが尻尾でキャッチしてた。
そして私たちは光に包まれて意識を失った。
「マスターお~き~ろ~」
鳥さんの声がして目を覚ますと上は見慣れた天井じゃなくて、青い空と白い雲が広がっていた。
ゆっくりと体を起こすと膝の辺りで猫さんは丸くなって寝てて、鳥さんは私の頭元にいた。
それからゆっくりと周囲を見回すと草原って言う草とか小さなお花が一杯咲いて広がってるところの真ん中にいて、そこから遠くを見ると木っていう大きな立派な植物が一杯植わってた。
ぐるっと見回すと木に囲まれていた。
あの木がいっぱいあるところは森とか林って呼ぶらしい。
鳥さんが言うには、ここは森に囲まれた原っぱってところなんだって。
すごく穏やかなところらしく魔物も滅多にやってこない平和なところだって。
普通の人からするとそこは何もなくすごく退屈なところらしいけど、初めての外の世界を体験している私にとってはそれはどこまでもキラキラと世界が輝いて見えるほど素敵なモノだった。
「けどな?こういうところでは周囲を注意しないと寝てる間に魔物から食べられちゃうんだぞ?分かったな?」
お外では危ないことがいっぱいだから寝てるときも油断したら駄目なんだって。
・・眠たいのに寝ながら注意するなんて難しいことを大人の人はやってるんだね・・すごいなぁ。
「大体はチームを組んで交代で周囲を警戒したり、寝ながらでも注意出来るのは相当珍しいんだがな。」
出来る人はいなくはないけど少ないんだって。
で、チームって言うのは何人かで一緒に行動することで、その人たちの誰かが周りを見てる間に寝て、タイミングを見て別の人が見て、見てた人が寝てって繰り返すんだって。
あ、そういえば怖い顔のお兄さんが最後に投げたのって何だったんだろう?
猫さんがくれた。
これって、棒?
「それは杖だな。」
杖?って首をかしげてると教えてくれた。
「魔法って言う力を使うときに手伝ってくれたり、戦うときにこれを振るってたたきつけたりする道具だ。つまり、マスターの手助けをしてくれる存在で、いざって時はマスターを守ってくれるんだ。」
この棒があれば、私にも人並みに頑張れるんだって。
後、普通に歩くのも私は体力も筋力?っていうのもないからこの棒を使えばいつもより長く歩けるって。
この棒・・杖は、鳥さんが言うには、長さは大人の人1人分の長さがあって、すごくシンプルな作りをしてるって。
色は木で出来てるけど、きれいな木の優しい色を残した状態の自然な緑色をしている。
鳥さんが言うには、緑色に見えるけど、若い木を使ってるから緑でも青いって呼ぶんだって。
私からすれば、草みたいな緑とはちょっと違うけど、どこか優しい感じがする。
それと、これを握ってると体がぽかぽかしてちょっとだけ元気が出る気がする。
それに、私でも軽く持てるくらいすごく軽い。
何というか、重さを感じないくらい軽いと思う。
「どうやら、身体強化の魔法と、魔力練度上昇の魔法が込められてるみたいだな。」
身体強化って言うのは、その魔法を使うといつもより元気になれる魔法で、魔力練度上昇って言うのは、魔力って言う魔法を使うための元?みたいなのを操るのがいつもより上手になれる魔法なんだって。
魔法ってよくわかんないけど、不思議な力で、人によって出来ることが色々あるんだって。
私にも出来るかな?
いつか分かったら良いな。
「とりあえず、ここから移動しようぜ?あまり長居するのは良くないからな・・とりあえず、どこかの町に行きたい。」
町って言う人が集まるところを目指すんだって。
でも、見回す限り木がいっぱい。
どっちに行くの?
って首をかしげてたら、猫さんが尻尾で指さす。
それを見てから鳥さんが空に登ってそっちの方向を見ると戻ってきた。
「向こうに町っぽいのがあった。とりあえず向こうに行こう・・こまめに休憩は取るから頑張ってくれ。」
運んでやれなくてごめんって言ってくれる鳥さんと申し訳なさそうにしてくれる猫さんを優しく苦しくないくらいの力で抱きしめてから私は一歩ずつゆっくりだけど歩く。
鳥さんは私と同じペースで飛んでくれて、猫さんは私の足下を一緒のペースで歩いてついてくる。
普通に歩くことも出来ないくらい弱いから杖を使えばどうにか歩ける・・・お兄さんとじいちゃんって人にはいっぱい感謝だね。
と言っても、鳥さんが言うところの数十メートル歩いたところで疲れました。
疲れてたけど頑張って歩き続けても駄目でした。
杖さんのおかげでいつもより元気なのにそれ以上ムリ・・
「しょうがないさ。ずっと運動出来なかったんだ。それにマスターはまだ幼い。じっくり進もうぜ?慌てる必要はないんだ。マスターが好きなように好きなことを好きなところでやりたいことをやって良いんだ。自由なんだぜ?」
自由?
「そうだ自由だ。マスターは幸せにならなくちゃ駄目だ。俺たちがそばにいる。一緒にマスターが楽しく幸せに過ごせるところをとりあえず探そうぜ?」
良いのかな・・私が幸せを求めても良いのかな?
「良いんだよ。俺たちはマスターが大好きだ。大好きな相手には幸せになって欲しいだろ?いっぱい笑顔でいて欲しいだろ?」
(コクリ)
「それは逆も同じ。俺たちもマスターが大好きだからいっぱい笑顔でいて欲しいんだ。な?」
鳥さんと猫さんの気持ちが分かった気がする。
いっぱい疲れたけど頑張ろう。
頑張って進もう。
先はまだまだ長いけど、前に進もう。
これまでみることも感じることも出来なかった外の世界。
いっぱい新しいことがある。
大変なこともあると思うけど、鳥さんと猫さんがいてくれるからきっと大丈夫。
頑張ろう。
うぅ・・でも、まだ森ってとこが見えてるのにそこにたどり着きさえしないよぉ・・うぅ・・・
しかも、森ってとこは今いる草原よりもいっぱい広いんだって聞いたよ?というより、鳥さんが教えてくれたよ?
うぅ・・・移動しながら食べられるのを探さなきゃ・・
いっぱい疲れてるし、脚も段々動かなくなってくるし、感覚がなくなってきてフラフラするし、意識がぼ~っとして来ちゃうけど頑張って歩く。
頑張らないと駄目だから。
猫さんにも鳥さんにも迷惑掛かるから頑張って歩く。
今出来るのはそれだけだから。
「マスターほら、そろそろ休もうぜ?気持ちは分かるがムリは良くないぞ?」
すごく心配した声を鳥さんがしてくれる。
けど、その時の私には聞こえていなかった。
すごく必死になって歩くことだけを考えてたからだ。
で、私はようやく草原から森に入ったところで木の根っこに脚を引っかけてそのままステンと転び、気をあっさりと失いました。
今後の展開としては、幸せ探しをモットーに各地を巡ってもらう予定なのでほのぼのベースの明るい感じになると思います。
ほのぼのかどうかは・・・キャラたち次第ですね・・とにかくシリアスはちょいちょい多いですが、明るい話しに切り替えたり、「ざまぁ!」と言えるような感じの何気なく笑える話しにしたいと思っておりますので、よろしくお願い致します。
この作品は、毎週日曜日AM1:00に投稿致します。
日にちによっては日曜日でなくとも投稿します。
例:2月22日とか、1月23日とか