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 翌日。みゆきが家に帰り、リビングのテレビでその時ちょうど報道していたニュースをチェックする。

 今日のトップニュースは知事の汚職について。誰の目から見てもたどたどしい言い訳の嵐。その姿をみて政治家としては三流だと判断する。今回話題になっていることよりも裏ではもっと悪いことしてるというのに、まだ何とか誤魔化せる程度の悪事でオタオタしているからだ。

「だいたい貰ってる桁が違うじゃないの、あんたは。百万単位くらいもみ消せなきゃ国政にはでれないわよ」

 そんなことを言いつつニュースを見続ける。その特集がようやく終わり次のニュースが始まった。それこそみゆきが見たかったニュースだ。


『では次のニュースです。本日午後、東部銀行の北千住支店で起こった爆弾を仕掛けたという犯行声明がありました。犯人は銀行、警察、マスコミのみならずインターネットも利用して一般市民までに犯行声明を出しました。現場は大変な騒ぎになった模様です。中継がつながっています。現場の藤井さん』

 中堅どころの女子アナが呼びかけると画面が切り替わり、支店の前に立っているヒョロッとした青年が映る。

『はい、現場の藤井です。本日、午後1時に銀行爆破の犯行声明がありました。その大がかりな犯行声明にかなりの警察官、爆発物処理班が動員されました。また半径200メートルの住民には避難勧告も出されました。この支店では午後からの業務を中止し対応に当たりました。警察の必死の捜索にも爆弾は発見されず、爆破予告時間を過ぎても爆発が起きなかったことから警察は狂言、犯人は愉快犯と断定。現在捜索中です』

 そういうと今度は昼間の時間の支店が映る。アナウンサーの言葉通り多くの警察官が支店に入っていき捜索をし、また住民が近寄れないように囲いもしている。

「……まぁ、ほぼ予定通りか」

 小さくつぶやく。ニュースはまだ続いていたがそこまで確認するとみゆきは自室に向かった。

 


 カムイは通常のAI搭載型と比べモノにならないほど――それは『メルヘン・システム』を除いても――性能がいい。

 みゆきがプレゼントした情報を相手がどう扱い、どういう結果になったかを報告書という形で作成できる。こういった機能を市販の物にさせようとなるとかなりの設備投資とプログラムの――こういったことをするソフトは市販されていないので自力で――作成。金と手間がかかるのであるが、カムイの持ち主はパソコンに明るくないのでそんな事実にまったく気がついていない。ただ当たり前のものだと認識している。

「ねぇ、カムイ。昨日の報告書、もうできた?」

 と実に気楽に言う。


『YES』


 もっとも当のカムイもあっさりと答えるのだが。

 みゆきはカバンを投げるように置き、制服も着替えずにモニターの前に座る。そして報告書をクリック。開かれた報告書を読みだす。

「――まぁ、こんなもんね」

 その内容にまあ納得する。


 めぐみの恋人は今日強盗をする予定だった。しかし入ろうとした銀行は狂言の爆弾騒ぎで外から見てもハッキリと分かるくらいの数の警察が配備されており流石に無謀と悟った。日を改めようと帰ろうとした時に婚約者のめぐみに出会い、説得された。めぐみは泣きながらもう過去のことは気にしてないこと、美春のことも恨んでいないことを伝えた。それでも納得しなかった彼にめぐみはお腹の中には赤ちゃんがいることを告白した。それは必殺といっても言い攻撃力を有していた。

 彼女に場所だけ教えて説得させたらこじれる可能性が多々あった。


「あたしがここまでお膳立てしたんだしね。それでもダメだった、――っていうなら見捨ててやる」


 口ではそう言うものの目は笑っている。

 彼女にとって、いやカムイにとって情報を収集することより流す方がハッキリいって簡単。みゆきはカムイに頼んで彼が銀行強盗を起こす前に銀行、警察、マスコミに爆弾を仕掛けたとハデに流した。もしも箝口令がひかれると厄介だったのでインターネットも利用した。それで野次馬が集まらせ騒ぎにさせたのだ。

 そしてめぐみに恋人の居場所を教え、説得するように指示した。

 ちなみに今二人は彼がどこからか手に入れた銃を処分するために指紋を拭きながらみゆきの指示通りの場所に向かっている。世の中には足のつかないように銃を処分する方法はある。みゆきがサービスついでに教えたのだ。


「なまじ持っているとまた悪いことするかもしれないし、銃刀法違反だしね……」

 そこまで言って不意にみゆきは額を指で押さえる。

「……よく考えるまでもなく、あたし今回の行動も法律違反だよねぇ、今更だけど。ああ、愉快犯ってなんかバカそうだなぁ」

 普段ここまですることはないのだが今回は特別だった。父親が殺人者の子供はなんとなくかわいそうだしほっとくと随分と後味が悪い気がしたからだ。まためぐみは心労に弱そうで流産の危険もあった。

 赤の他人だけど産まれてきてほしいと思った。

 そしてできるなら幸せになってほしいと思った。


 ――それは人のエゴだろうか?


「この世の中何にも悪いことをしてないのに、何の因果かロクなコトが起きないことはよくあるんだ。たまには何の良いことをしてないのに奇跡が起きたってのも……オツなモノでしょっ」

 慈善事業もたまには悪くない。みゆきは大きく伸びをし、報告書閉じる。

「よし、この一件はこれでオシマイ。イロイロあったし、騒ぎも起こしたけどまあ平和的な解決でしょう? 誰も死ななかったんだから」

 自分なりに納得する。世界最高の情報収集家『フェアリー』の道楽には今回の事件はちょうどいい。みゆきは服を着替えるため席を立とうとしたが閉じた瞬間にチカチカと点滅する報告書のマークに気がつく。


「あれ? もう一つ報告書ある、なんで?」

 それは未開封の報告書がある印だった。

 立つのを止め、不思議に思いつつ報告書を開く。

 内容に納得し、――また驚いた。


「ほぇ~、ホントに行ったよ、あの人」

 そこには一昨日情報をあげたテイルのことが書かれてあった。

 貧乏大学生の彼は少しでも金をケチるために昨晩、夜行バスで岡山駅まで。普通列車で倉敷駅まで移動。そこからバスで行けばいいものを一時間かけ歩いて指定の店まで行き、一度はあきらめたBlu-rayを購入。その後観光も土産も買わず、なんとヒッチハイクで帰宅中だという。ちなみに今は名古屋のあたり。


「スッゴイ!! あの面倒くさがりな男がそこまでするなんて! あたし、絶対あきらめると思ってたよ!」

 みゆきは目を大きく見開く。

 彼がブルーレイをわざわざ買いに行く可能性は高くはないと思っていた。もしも行くとしても新幹線を使うものだと。

 大学が夏休みとはいえ、そこまでの手間かけるということをする人間には前もって調べて人物像からは想像できなかったのだ。


「……アレってそんなに苦労してでも手に入れたいくらい作品なのかな? 面白いのかな?」

 メールではいかにも理解してますよ、っていう顔で語ったのだが実は見たことなかった。あれはアニメ系にホームページからの受け売りだった。

 みゆきは軽く頬を叩きながら考える。

「……ねぇカムイ。『エターナル ガーディアン』の初回限定、まだ千葉の店にあるかな?」


『WAIT A MINUTE』


 しばらく待てと言うのでその間に着替えようと再び席を立つ。ブレザーを脱ぎ、ハンガーに掛けたところでカムイからの返答。


『YES』


「ふーん、まだあるんだ」

 岡山まで行かなくてもじつは隣の県に在庫があると知ったらテイルは一体どんな顔をするだろうか? 意地悪で教えなかったのでなく、人物ウォッチングのためだと聞かされたらどれほど激怒するだろうか? 

 もっともみゆきはそこには興味がないので教える気はない。今もっとも興味があるのは……。

「明日は土曜日か、……買いにいこうかなぁ」

 そのことだけだった。

ひとまずこれにて一区切りです。

また暇ができたら続きを書く予定です

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