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「ふぅぅ、まあこんなモンかな」

 小柄な少女が机に置かれたディスプレーに向かい、首を傾げる。

 その時ディスプレーに反射した若干乱れた前髪を見て手櫛で整える。中学校から帰宅し、今日は塾も習い事もなくどこにも出かける予定はない。だからといってオシャレに多感な時期としては少しの乱れも気になった。


「よし、OK、OK!」

 一気にここまで書き、背筋を伸ばしながら読み直してみる。

 人に送るメールなのだから本文を読み直すのは最低限のエチケットだと思ってる。――それが例えほとんどイタズラに近いようなメールだとしても。

 少女は本文の内容に合格点をつける。ほどよく相手をバカにしつつ、悪ノリ好きそうな頭の悪そうな男という感じが表現できたとニッコリと微笑む。おさげをくくっているブルーのリボンをほどきつつ、

「じゃあカムイ、このメール送って。あたし、お風呂に入ってくるよ。11時からネットしよう。それまでにホームページの管理やっといて。お願いね」

 少女は言うが早いか立ち上がり、ドアに向かう。


『OK』


 パソコンのスピーカーから合成音がすると同時にメール送信された。


 昨今ようやく普及し始め、さほど目新しい感もなくなったAI搭載のパソコン。

 AIつまり人工知能といってもSFの設定でありがちな自分で考え、人間と会話できる等といったものではない。インターネットの閲覧やメールの送受信、SNSの編集、書類作成といった簡単な作業をヘルプ機能として音声で使用者に伝えるOSの最先端技術の一種。

 人の手でできることだけど熟練者ならともかく初心者には難しいこと、戸惑うことをAIが判断し、その状況に適したアドバイスをしてくれる。できることは限られてるいるが、それでも便利なシステムとして世の中に認識されている。ちなみにメール作成も音声入力でできるのだが少女は誰もいない部屋でブツブツ言うのはどうにも好きではないのでキーボードで打ってる。

 


 風呂上がりに少し茶色がかった長髪を丁寧にブロー。お肌の手入れも完了。爪の手入れもしたいところであったが宿題があったのでそっちを優先した。学業とオシャレと趣味、女子中学生は意外と忙しい。

 宿題と明日の数学で当たる問題も終了。ノビをし身体のコリをほぐしながら時計を見ると11時前。まだ時間はあるので、一息入れるためにもお茶作ってくることにした。

 彼女の最近お気に入りのカプチーノ――家でも簡単にできる機械を伯父にねだって買ってもらった――をこぼさないように気をつけながらドアを開け、

「カムイー、ホームページにつないで」


『OK』 


 そろそろ約束の時間。カムイのみならず一般のAI搭載型でもネットにつないでホームページを開くくらいは持ち主の音声に反応して準備してくれる。だから特に慌てることはない。カプチーノをこぼさないようにユックリと歩き、机にセットしてるマグカップホルダーに置く。そこでようやくディスプレーに目をやるともうホームページのトップページが映し出されてる。

 そろそろ約束の時間。カムイのみならず一般のAI搭載型でもネットにつないでホームページを開くくらいは持ち主の音声に反応して準備してくれる。だから特に慌てることはない。カプチーノをこぼさないようにユックリと歩き、机にセットしてるマグカップホルダーに置く。そこでようやくディスプレーに目をやるともうホームページのトップページが映し出されてる。



<フェアリーの掲示板>


 基本的に白地に黒の文字で特に何の飾りもしていない。ハデにすることは難しくないがあえて無粋なまでシンプルにしている。

 このタイトルだけで中身が分かる人がいるはずもない。以下に注意書き。タイトルよりは小さい文字で――というより一応タイトルだけは通常のフォントより大きくしてあって、他の文章は通常通りというべき――書いてある。


<謹啓  このページは世界最高の情報収集家『フェアリー』のHPです。フェアリーとは世界のありとあらゆる情報を集めることを趣味とした人間です。勘違いして欲しくはないのですが情報を金銭で売買するいわゆる情報屋とは違います。従って少々不親切な運営をしております>


 これは彼女のこだわりだった。

(テレビの見すぎって言われるかもしれないけど情報屋ってなんかホームレスっぽい人とかチンピラくずれっぽい感じがするからイヤ。最近じゃあ企業とか国家施設のコンピュータにハッキングして情報を闇で売ってるオタク系もいるけどそれもイヤ)

 彼女は世の中に氾濫している情報の渦のなかに埋もれた真実に知りたいだけで、それで金儲けしたいとか世の中を動かしたいとかそんな気持ちは毛頭ない。あるのはただ強い好奇心。


<このページにあるのはBBSと入室にはパスワードが必要なチャットルームだけです。BBSに貴方のどうしても知りたい情報を書き込んでください。本気でフェアリーの情報を求めている方の中から抽選で情報を差し上げます。冷やかしで書き込まれるのは勝手ですがそういった方は絶対に抽選されることはありませんのであしからず。

 また『情報求む』以外の文章は書き込めない仕組みになっております。理解は無理でしょうがご了承ください。

 なお情報屋ではないといいましたが慈善事業というわけでもありません。情報収集は趣味、それを教えるのは気まぐれです。従って悪質な方には少々手荒い対応をさせていただきますのでそのつもりでいてください。本気で欲しい情報がなくてもフェアリーの実力が知りたい方は手っ取り早い方法ですが本気で後悔していただきます>


 こんな注意書きをしていても悪質な人間はウヨウヨいる。ただ口の悪いやつからタチの悪いハッカーまで。ゴキブリのような数としつこさといやらしさ。その都度、警告通り本気で後悔させている。


<またこのホームページ自体は辛うじて合法ですが、フェアリーの持っている情報は合法な情報だけでなくかなり非合法なものが存在しております。そういう情報を守るべき立場の方――警察、もしくは民間のセキュリティーの方、ボランティアという名の自分のルールを押しつける方の介入、漏らされては身の破滅の方の保身のための行動を避けるためにそういった立場の方は入場できない仕組みになっています。ご理解の上、ご了承ください。

 上記のことをふまえて、本気で情報を求められている方は下記の入り口からご入場ください>


 この注意書きを読んで普通の立場の人は「入場できない仕組み」というは管理人の冗談の一種でそういう人間は「入るな」という警告だと思うらしい。いくらなんでもクリック押すだけの行為でその人を選別するというのは常識的に考えて不可能だからだ。


(でもあたしのカムイが一般人とそうでない人を選別して入場制限をかけてると知ったらどんな顔をするかな?)


 理解不能な事実は人にどんな行動をとらすのか。頭をかきむしるだろうか? 夢と思うのか? ――みゆきは想像してクスッと笑う。

 ちなみに警察関係者はしばしばアクセスしてくるが、その人たちは何度やっても入れないのでトップページだけのイタズラだと判断してるらしい。いくらネットで噂になっても自分で確認できなければガセネタになる。

 みゆきはマウスをさっと操作して入室する。

 数瞬後、切り替わった画面はトップページに輪をかけてシンプルなつくりとなっている。白字の画面の中央に赤色のゴシック体で書かれた『掲示板』と『チャット』という文字しかないない。

 チャットにカーソルを合わせてクリック。

 すると<フェアリーよりメールで送られた本日のパスワードを入力してください>という文字がでてくる。その下の欄にソレを入れるとチャットルームに入れる仕組みになっている。


「カムイ、ヨロシク」


『OK』


 ピッと音が鳴るとすぐに画面がチャットルームに切り替わる。

「……まだ来てないのね」

 入室は自分でもできるのだが管理人用の入室方法は依頼人用とは違い難しい。

 トップページには辛うじて合法と書いてあるもののこのサイト、実は思いっきり非合法。中のBBSは冗談だと言い張れなくはない。なぜなら実際に情報のやり取りはメール、チャットでその人本人に受け渡ししているから、ほとんどの人はどのように活動しているのか知らないからだ。

 だから世界最高の情報屋というのはある種のジョーク、もしくは願望からそんなシチュエーションをネットで演じてるだけで、世の中の人にはその遊びに付き合ってもらっているとシラを切れなくもない。

 ――しかし根本的なことが非合法なのだ。

 闇で手に入れたホームページ制作に必要な容量を、架空の名義で手に入れた回線を利用して接続している。


(……らしいんだけど)


 みゆきは詳しくは知らない。ホームページを立ち上げる際にカムイが足がつかないようにと処置したからだ。

 念には念を入れるためにこのホームページにはかなりのセキュリティとアタッキングプログラムとやらがあるので、パソコンに疎い管理人が下手にいじらないに越したことはない。ということでホームページを管理することはカムイに全面的に任せた。


(そういえば……料金はどうやって払ったの?)


 ふとそんな考えにいたり、親指を噛む。無料のサーバーでないのなら使用料が発生するはず。一応常時接続だからネット使用料は一律で、それは家から支払われている。しかしこのホームページにつなぐときだけ用心のためその回線を使ってないのだからそれには料金が必要となるはずだ。自分の通帳からは減ってないし、家の通帳からも引かれている様子はない。


(……考えると怖くなるからやめとこ)


 何をいまさら――でもある。


「あっ、きたきた」 

 カプチーノを飲みつつ待つこと数十秒、画面に「入室がありました」の文字が現れる。時間を確認するとちょうど23:30。ほぼ時間どおりに現れた。

「じゃ、カムイ。『メルヘン・システム』開始!!」

『OK』

 みゆきは返事が終わるやいなやキーボードに指を走らせる。


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