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俺は片手にサンドイッチもどきを持ちながら、ゆっくりと魔族共に近づく。さて、この魔族だがこいつらの種族は『黒翼族』という魔族だろう。今は折りたたまれているが背中に大きなコウモリのような羽が見える。これは博士から教えて貰ったことだが、魔族の中でも凶暴な種族がおりその中でも『黒翼族』は特に凶暴らしい。また『黒翼族』は強靭な肉体を持っており、ろくな刃物では傷すらつかないらしい。逆に打撃系の攻撃には弱いらしいが。まあ、どちらにしろ俺の敵ではないだろうとも言っていたな。博士が俺は魔王より強いと言っていたしな…懐かしい。
俺は散歩しているようにごく自然に魔族に近づいていく。しかし、魔族たちは俺の存在にまだ気付いていないようで辺りを見渡している。魔族通しの会話が聞こえるくらい近いというのに…
「さあ、早く始めようぜ!殺したくてウズウズすんだよ!」
「そうだな!んじゃ、始めるか!」
一人の魔族がそう叫ぶと、二人の魔族が左右に分かれ逃げ惑う人間を追いかけ始めた。散り散りになるとめんどくさいが、所詮魔族程度だ。俺の敵ではない。
一匹残った魔族が俺の存在に気づいたようで、俺を見て不敵な笑みを浮かべる。
「俺様の最初の生贄はお前d…っうわ!」
魔族が最後までしゃべり切る前に俺は腕を魔族に向け指をクイっと動かす。すると、魔族の体は俺にまっすぐ進んでくる。両足は地面についているため、走っているとは言えない。これは『迷宮魔法 移動』だ。まっすぐ進んでくる魔族の口に合わせて俺は砂の付いたサンドイッチもどきを構える。
「待て待て!なんだそれはーーーー!!!ハグっ…」
俺は魔族の口の中にサンドイッチもどきを突っ込みそのまま魔族の顔面を握り地面に叩きつける。しかし、魔族の体も硬いせいか、意識を刈り取ることはできなかった。魔族は俺の腕を握り顔面から離そうとするが、いくらいくら力を込めても腕を離すことができない。俺は迷宮の非破壊オブジェクトであり動きも力も全て世界の理の外にいる。
「今すぐ口の中のものを飲み込め。」
「っフンっガフン!」
何かを言おうとしているが、口に入っているため聞き取ることができない。早く飲み込まないので、口に親指を突っ込み無理やり押し込む。息ができないのか苦しそうだが、そんなことは気にせずそのまま親指を喉の奥まで入れていく。
そして、魔族が喉を鳴らしきちんと腹に入ったのを確認したので、そのまま肩を掴み首を捻る。
「最後の食事が俺の夕飯とは、良かったじゃないか。」
俺の腕を掴んでいた腕が力なく垂れる。俺はそっと顔面から手を離し解放する。
さて、あと二匹か…
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「ギャハハハ!もっと泣き叫べ!」
「いやぁああ!離してぇえええ!
一匹の魔族が片手に小さな女の子の頭を掴んでそう叫ぶ。少女は必死に頭をつかむ魔族の腕を払いのけようともがくが、それが逆に魔族を喜ばせる。魔族はすぐに少女の頭を握り粒し、片手に持っていた剣で少女の体を二つに切り裂く。
「次はどいつにするかなぁ〜」
魔族は少女の上半身を投げ捨てると、次の獲物を探すように周りを見渡す。しかし、すでに町の人間は遠くに逃げていた。魔族は小さく舌打ちすると、遠くに逃げた人間を追いかける。
「やめろ!魔族め!」
魔族の目の前には路地から出てきた完全武装した冒険者たちが立ちふさぐ。魔族は嬉しそうな笑みを浮かべ魔族は親指を立て人差し指を伸ばし後の指を折る。拳銃のような形だ。すると、冒険者の中にいたフルプレートの鎧を着た冒険者が前に出る
「今すぐ退け!この街から出れば追うことはない!」
冒険者はそう叫ぶと、魔族は拳銃のような形を作った手を冒険者に向ける。一気に冒険者が警戒するが、魔族が拳銃をあげると、声を出した冒険者が吹き飛ばされ後ろにいた冒険者に受け止められた。その顔はハンマーで殴られたようにグチャグチャになっており、その冒険者は動くことはなかった。一瞬で一人がヤられたことに、冒険者たちの顔に畏怖が浮かぶ。魔族は嬉しそうな笑みを浮かべながら、人差し指に息を吹きかける。
「次は誰かなぁ〜」
魔族がそういうと、一気に冒険者たちが身構える。魔族は笑みを崩さずゆっくりと冒険者たちに近づいていく。その瞬間先頭にいた冒険者が切り掛かるが、その身に傷一つ付かず受け止められていた。
「痛い痛い〜なにするんだ、ゴミムシが」
魔族は剣を振り下ろした冒険者の顔に裏拳をかます。冒険者は避けきれず、顔面に喰らい吹き飛ばされる。魔族は大きくため息をつきながら残った冒険者たちを見つめる。
一瞬魔族の体が横に吹き飛んだ。そして、冒険者地は一瞬固まると、すぐに大声の歓声になる。
「やっぱり固いな…」
「「「「「「うっぉぉおおおおお!!しにがみぃぃぃ!!!」」」」
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逃げた魔族を追っていくと、濃い血の匂いが鼻をさしたので着てみると幼い少女が頭が潰され体が真っ二つにされていた。普段の俺なら人間の死体を迷宮で見飽きているので何も思うことはない。せいぜい可哀想に程度しか思わない。だが、今回は違った。少女が俺の奴隷の少女と重なったからだ。どこからくるのかわからない不思議な怒りがこみ上げてくる。
俺は魔族のいるであろう先に走って向かうと、冒険者が魔族の攻撃で吹き飛ばされているところだった。俺は地面に迷宮魔法をかけ発動させ、すぐに魔族に近づくと魔族の顔面を蹴り飛ばした。魔族の体は吹き飛ばされた冒険者とは逆の商店に突っ込んだ。そして魔族がいなくなったことで目の前に冒険者がいたことに気づく。冒険者は俺の姿を見ると目を見開いて固まると、すぐに大きな声で叫び始めた。俺は無表情で吹き飛んだ魔族の方を見ると、すぐに魔力の流れを感じたので首を反らしてかわす。すると、俺の後ろの建物に当たったようで大きな音が聞こえる。
「ほう、闇魔法の黒球に闇魔法の幻惑で隠していたわけか。」
俺がそういうと、すぐに魔族が斬りかかってきたが迫る剣をかわすと、自分の足を【硬化】させ【重量化】し踏みつぶす。痛みにひるんだ魔族を地面に押し倒すと、魔族の剣を奪い剣に【重量化】をかけ手足の潰し斬る。そして固まっている冒険者たちを見据える。
「あとは好きにしろ」
俺はそれだけ言うと、もう一匹の魔族を探し始める
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私の名前はミラ=グラス。現在冒険者として活動している。
「今日で私もCランクに上がることができるのだな…はぁ…」
私は早くAランクにならなければいけないというのに、ここまでくるのに3年もかかってしまった。まあ、仕方ないだろう。クエストのレベルが低いせいだろう。そんなことより、今日の晩のご飯は何にしようか…あまりお金はないしな…今日も酒場で男たちにおごってもらうか?…いや、あんなことは二度とごめんだ!
「はぁ…」
「キャァアアアアア!!」
女性の悲鳴が聞こえる。私は晩のご飯のことを考えていた頭を振って、悲鳴の聞こえた場所へ急ぐ。すぐに悲鳴が聞こえたであろう場所に来ると、そこには真っ黒い肌に黒い翼の男が冒険者を襲っていた。冒険者の装備は見るも無残な形になっており冒険者自身もぐちゃぐちゃになっている。
あれだけのことをあいつがしたのか…いや、あれは魔族?…ま、ま、魔族?…
魔族…海を越えた先の大陸に住むという恐ろしい存在…王国の騎士団が総出で倒したと聞く…それが今、目の前にいる…もし魔族を私が倒せれば?…いや、わ、私が勝てるわけない!ここはおとなしく逃げる…逃げる…ダメだ!
気づくと私は魔族に向かって叫んでいた
「そこの魔族!このミラ=グラスが直々に討伐してやる!覚悟しろ!」
私は何をしているんだ!バカ!すぐに逃げろ!
頭の中ではそう考えているが、体が動かない。いや、動けない。構えた剣が自然と震えだす。
魔族は笑顔を浮かべると、ぐちゃぐちゃな冒険者から手を離し私に近づいてくる。ここまできたら!私は一気に駆け出し魔族の胴に斬りかかる。魔族は抵抗できずそのまま剣を肩から受ける。しかし、剣は魔族を切り裂くことができず肩で受け止められたいた。そこから何度も剣を振るうがどれも魔族に怪我を負わせることはなかった
「もっとちゃんとしないと、殺せないぞ〜」
「くそっ…なんて硬さだ…」
余裕そうな魔族はまっすぐ私を見つめていたが、飽きたようで大きなあくびをすると切り込んだ私の剣を右手で握るとそのままへし折る。それと同時に左手で私の胴に爪を振り下ろす。鋭く尖った爪はやすやすと私の鎧を切り裂く。鎧は外れそこから血が吹き出る。痛い…痛い…今までにない痛みにいますぐにでも泣き叫んでしまいそうなのをこらえる
「くっ…ここまでか…」
「ハハハ!お前女だったのか!」
魔族は剣を離し両手で手を叩きながら笑い出す。くそ…魔族にすらバカにされるとは…そして私はここで死ぬのか…短かったな…父上申し訳ありません…
そう心の中で父に謝ると、突然魔族の後ろに黒髪の男が立っていた。
「そんな女っていうのが面白いのか?魔族の笑いのツボはわからないな」
男は腕を組んで首を傾げている。こいつは何をしているんだ?魔族だぞ?なぜそんな距離にいる!逃げろ!
「何だ?お前…殺すぞ?…」
「どいつもこいつも口を開けば「殺す」だな。博士とは大違いだな…」
男はそっと腕を広げ首をかしげる。すると、魔族がすぐに男に殴りかかるが男はそれをすぐに受け止める。なぜ受け止めることができる!?
「話し合いも無駄か。まあ、いい。俺も早く飯を済ませて帰りたいしな」
そう男が言うと男は掴んでいた魔族の腕を握りつぶしたと理解した瞬間には魔族の頭を握っていた。
「死ね」
そういうと男は魔族の頭を握りつぶたした。