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遅れてすいません!
部屋に戻った俺は早速蚤の市で買った織機を取り出す。この世界でもペダルで縦糸を分けるなど構造自体は同じだ。俺はアイテムボックスから迷宮で飼っていたビックワームの繭から作った糸をセットしていく。その間少女は俺のすることをじっと見ていた。興味があるのか?…わからんな。それにこれは少女にやらせるつもりはない。無論俺も機織などやるつもりはない。ではどうするのか…
「迷宮魔法 移動」
糸をセットした織機に魔法をかけていく。まず横糸を通す『杼』に強制移動をかけ端まで行くと、ペダルを踏むように移動させまた、『杼』を移動する『設定』にした。速度をかなり上げても設定してあるので狂うこともないので楽だな。
「す、すごいです…」
「そうだな。本当ならこれくらい魔法があるんだから思いつきそうな気もするんだがな。」
少女は右に左に移動する杼を追いかけて首を左右に振っている。どこか猫のように思える光景に少し笑ってしまう。
だが、いつまで見ていても変わらないので早々に少女の頭に手を乗せ首のふりを止める。
「そうだ、お前の過去を聞いてなかったな。話せる範囲でいいから教えてみろ」
「は、はい…」
俺はそのまま少女を椅子に座らせその隣に座る。正面に座ると話しづらいと思うしあまり良い話ではないなら尚更正面に座らないほうが良いだろう。俺が横に座ると、少女は口を開けては閉じる繰り返しだ。どうやら最初に切り出す言葉が見つからないのだろう。これは俺も悪かったと反省し、最初は俺が話しながら質問していく形にする。
「そうだな。まずは自己紹介していなかったな。俺はヨウヘイ。歳はもう数えてない。」
「ヨウヘイ様……わ、私はデルです…今年で8歳になります…」
「そうか。想像より年上だったな。さて、俺は元々この世界の人間じゃなかった」
俺が何気ないことのように話すと、少女が目を見開いて固まる。そこまで珍しいわけではないと思うが、確かにこの世界の異世界人は有名な人間が多い。まあ、特殊な能力を持って生まれる場合など様々だからな。そう考えると俺も特殊な能力か?まあ、有名になるつもりは無いがな。
「勇者様なのですか?…」
「いや、俺は勇者なんかじゃないさ。逆に勇者に殺される立場だったかな?」
「殺される?…」
「勇者っていうのはどっかの国の偉い人間が異世界から召喚するだろう?俺は迷宮のダンジョンマスターに召喚されたんだ」
「召喚…ダンジョンマスター…」
明らかに少女の表情が険しくなり身が強張るが、俺が軽く「何もするつもりはないって」というと少女の強張りが少し緩んだ気がする。まあ、迷宮やダンジョンマスターなどはあまりいい印象はないか。
「メイワーンっていう迷宮だ。知ってるか?まあ、かなり有名だとは思うが」
「知ってます!傲る者は死に、遜る者のみ生きて帰れる迷宮ですよね」
「そう言われてたのか…知らなかった。まあ、案外内部はのんびりしていたんだ。その着ている服も迷宮で作ったしな」
「そ、そうなんですか…」
「まあ、俺は迷宮の魔人というジャンルだったが、先日迷宮が踏破されてしまってな…そんで今はフリーな魔人ってことだ。」
「でも、もう迷宮とは関係ないのですから勇者様や冒険者様から襲われることはありませんよね?」
「そこはわからん。多分大丈夫だとは思うが、用心はしているつもりだ。」
「わ、私がご、ご主人様を、お、お守りいたします!」
少女は椅子から降りると、両手を広げながら辺りをキョロキョロと見渡す。その様子が幼く可愛く映る。俺も歳をとったのかもな…俺はそっと椅子から立ち上がると、キョロキョロとしている少女をお姫様抱っこをしその場でくるくる回る。まるで自分の子供のように思えてくるのは、人間の気持ちが残っているんだな。
少女は最初は驚きながらも、回る景色と勢いを楽しんでいるのか笑顔を向ける。
「さて、お前の話も聞かせてくれ」
「はい!…えーと…私はエルバガンダ国のスラムで生まれました…母は私を生むとそのまま…死にました。父は…私が6歳になると、別のドワーフの人に殺されました…そして…私はハーフで…みんな私が嫌いで…叩いたり蹴ったりしてきました…お金もなくて食べ物もなくて…気がついたら私は奴隷になっていました…」
最後の方は顔がくしゃくしゃになり、嗚咽混じりだった。頬を伝う涙を必死に拭うが、止めどなく涙が溢れている。俺はお姫様抱っこの状態から、右腕で少女の体を支えると左手で少女の頭を軽く押さえ俺の胸に押し当てる。少女はそっと俺の体に手を回してくる。柔らかく小さい。だが、俺の服をつかむ腕はきちんと力が入っていた。俺は少女が泣き止むまで話をするのをやめずっと少女の頭をポンポンと撫で続けた。
しばらくすると、俺をつかんでいた腕の力が抜けた。どうやら泣き疲れたようでもう寝てしまったようだ。俺はそっと少女を起こさないようにベッドに移動しそっと少女を寝かせる。
「エルバガンダ国か……比較的近いな。あまり治安がいいとは思えない場所だな。まあ、ドワーフの駆け落ちなら仕方ないか。ここまでこれたのは運が良かったのかもな。おやすみ」
▲
少女を寝かせたが、正直早い。陽は落ちているが、俺は目が覚めている。と、いうことで少し町に行っても行ってくるか。
俺は宿から出ると、そのまままっすぐ町に向かった。すでに蚤の市は終わっており後片付けをしている人間がちらほら見える程度だ。町に出たのは特に理由はないが、改めてゆっくり見て回るのもいいだろう。
「小腹も空いてきたし、何か食っていくか。あの子も何も食っていなかったよな。起きたら何か喰わせるためにも買っていくか…何がいいだろうか…」
店を見て回りながらそう考えていると、いつの間にか町の真ん中辺りまで来ていた。ふと、いい匂いがしてきたので見ると一つの屋台があった。パンに濃い味付けをした肉を挟んだものが売っていた。ホットドックというよりサンドイッチのようなものだ。俺の腹はこれで満たすか
「すいません。一ついただけるか」
「はいよ!小銅貨3枚ね!」
手慣れている様子の店主は一瞬でパンに具材を詰め俺に手渡してくる。俺はギルドカードを手渡す。
「毎度!また寄ってな!」
俺は店主からカードを受け取ると、近くにベンチがあったので腰かける。いい匂いが俺を刺激してくるせいで唾液が止まらない。早く食らいつきたい気持ちを抑えながら、少しずづ包装をとっていく。そして、やっと姿見えた瞬間目の前が爆発した。
「キャァーーー」
「なんだなんだ!何が起こってる!」
多くの人間の悲鳴が聞こえる。先ほどの爆発に巻き込まれた人間はいなかったようだ。やがて砂煙が止むと、そこに真っ黒い肌をした男が三人立っていた。
「ははは!おい、さっき言ってたとうり賭けだからな!一番人間殺した奴が、優勝な!」
「ぎゃははは!早く始めようぜ!」
「久々に暴れられるぜ!」
三人は周りを見渡しながら舌ずりをしている。どう見てもキチ○イだが、そうでもない。奴らは…
「魔族だぁぁああああ!!!逃げろォォォおおお」
その声と共に一斉に人間が走り去っていく。魔族か…珍しい。魔力に長けた種族で、その性格は非常に凶暴。そんなところか。俺には関係ないな。
俺は先ほど買ったサンドイッチもどきを食おうと口を開く…が、先ほどの爆発のせいで砂煙が俺のサンドイッチもどきを直撃していたため砂だらけだ。こんなもの食えたものではない。俺のあまり動かない感情が静かに爆発した。
「ブチ殺す」
食べ物の恨みは恐ろしいと言う事を魔族にも教えてやろう。