Ⅵ話
俺はカウンターに並べてあった刃物をすべて『倉庫』にしまうと、ランディが驚いた声を上げる
「はぁ⁉︎こ、ここに置いてあったのが一瞬で消えちまったぞ!」
「ああ、俺が預かった。それじゃあ、後でな」
俺はそういうと軽く手をふり自室に戻る。後ろの少女はランディに深く頭を下げ、すぐに俺の後ろを駆け足でついてくる。
△
自室についた俺はテーブルや椅子を部屋の角に移動させ、スペースを作るとその床に先ほどの回転砥石砥石と預かった刃物を取り出す。少女が首を傾げているので俺はかるく喉を鳴らしてから少女にはなしかける
「さて、お前にやってもらいたいのは『研ぎ』だ。昨日言っていたが研ぎの経験はないんだろ。まずは俺が教えてやるからよく見てろ」
俺は回転している砥石に水を入れる。すると、すぐに砥石が濡れ始めた。きちんと設定通り水が循環しているのを確認すると俺は一番めんどくさいであろうナイフを手に取る。両手で抑えながら包丁を砥石に当て始めた。
ギュィィッィィイイイイン……
金属と金属がぶつかるような甲高い音が響く。あまりにうるさかったので、ここは反省し『設定に無音を追加』する。
とりあえず、全体を流れるように研いでから刃先を見て見る。うん、結構いい感じに研げていると思う。数回繰り返してから反対側を研ぐ。本当は仕上げ砥などをした方がいいのだがこの世界じゃそこまで求められていないのだろう。俺は研ぎ終えると、濡れた刃先をかるく拭う。すると、くすんでいた刃先が金属特有のキラキラとした光沢が見える。
「こんな感じだ。さ、今度は一緒にやって見るぞ」
「は、はい…」
不安そうな表情の少女だが、かるく頭を撫でてやってから俺の前に少女を座らせ俺が覆いかぶさるように包丁をもつ。少女にはきついかと思ったが、さすがドワーフのハーフということもあり砥石の回転にも負けない。包丁を少女が持ち、それを俺が動かしてやる形だ。最初の砥石と刃先の当たる感覚がだんだんとなくなっていく。
「今のが研ぎだ、どうだ?できそうか」
「やって見ます!」
「おっと、その前にこれをつけろ」
俺は倉庫から黒い厚手の手袋を取り出す。これは迷宮で買っていたドラゴンが老衰で死んだので、その皮膜を使って作った手袋だ。柔軟性がある上にかなりの強度がある。強化していない剣くらいでは傷すらつかない代物だ。昔エリザベートの持っていた剣で試して見たら見事に切れなく逆に弾性で剣が跳ね返るほどだ。
「厚手のせいで動かしにくいかもしれないが、我慢しろ。指が吹き飛びたくないよな?」
俺がそういうと少女はものすごい勢いで首を縦に振る。冗談で言ったのだが結構ガチで取られたみたいだな。まあ、いい。手袋をした少女に最後に残ったナタを渡す。ナタは大きいのでそこまで心配はないが大きい分、筋力が必要になる。少女はナタをもつと、真剣な表情で回転砥石にナタをかけていく。様子を見ていたがさきほどの俺の動きを完璧にコピーしている上に、ナタの大きさなどを理解して自分なりに研いでいるのでやはりドワーフの血というわけか。ナタは研ぐのに時間はかかったがそこまで少女も疲れていない。
「さて、見せてみろ」
俺はナタを受け取ると、その刃先を見つめる。きちんと立っているし均等に研げているのでこれは百点だな。心配そうな表情で俺の顔を見つめる少女に俺は大きく頷くと、不安そうな表情が一転満面の笑顔になる。俺は刃物を倉庫にすべてしまってから机と椅子を元の位置に戻す。
時間でいうとかなり早く10分程度で三本できてしまったな。まあ、いいか。小さな桶を出し『倉庫』から少しづつ水を出し少女と俺の手を洗い、タオルで手を拭く。さて、あまりに早く終わってしまったのでランディに渡す前に少し少女にご褒美をやろう
「おい、こっちに来てみろ。」
「は、はい!」
俺の前に駆け寄ってくる少女の肩を掴み後ろを向かせると適当に三つに分け編み込んでいく。何をされているのかわからない少女は少し不安そうだが俺は黙って編み込んでいく。編み込み終わると髪をドラゴンの皮膜で作ったヘアゴムで髪を止め、その編み込みを巻くようにうなじの上のあたりで飾りのついた簪で止める。正直長い髪はいいのだが、普段はめんどくさいだろうし、少女は編み込むがすきだろうというあんな思い込むからだ。
少女は長かった髪が気にならないことに戸惑いながらも何をされたのか理解できていないようで俺を見てくるので、俺は二枚鏡を取り出し合わせ鏡のように後ろの髪をみせると少女は目を見開きながら喜んでいていた。まあ、編み込みが花のような形になっているので可愛らしさがあるだろう。
「あ、ありがとうございます!」
「ああ。さ、研いだ刃物を返しにいくぞ」
俺はそっと少女の頭を撫でてから部屋を出て言った。簪の飾りが揺れているので少女は嬉しいのが伝わってくる。いやーよかったよかった。
エントランスにつくとランディが再び帳簿を見つめながら考え事をしていた。
「ランディ、研いだぞ」
「はや!ちゃんと研いでくれたのかー?」
「ああ、バッチリだ。試してくれ」
俺はそこから刃物をカウンターの上に置くと、ランディは再び驚いた声をあげる
「うわっ!……それにしても本当にインベントリスキルを持つものが居るとはな…さすが死神…」
「まあな。あまり口外するなよ。さて、研いだものを見てくれ」
店主は鈍く光る刃物を驚きながら見つめる。
「こりゃ…どうやったんだ⁉︎ありえないくらい光ってんぞ」
「秘密だ。さ、何か試して、みてくれ。俺は少しこいつを連れて街を散策する」
「あ、ああ…わかった。気をつけな……っと、お嬢ちゃん、可愛い服着てるな。似合ってんぞ。ん?その髪…どうなってんだ?」
少女は似合って居ると言われたことが嬉しいのかその場でくるくると回り始めた。っと、編み込みはこの世界にはないのであまり口外するつもりはない
▽
俺はそのまま宿からでる。少女もすぐに俺の後をついてくる。それにしても、これからどうするかだが…たしか新聞には蚤の市があるんだったな。言ってみるか。たしか、門の前の通りだったか。っと、その前に俺は少女の首についていた重々しい首輪に手にかけると、そっと外す。少女は突然首輪がなくなったことに驚く。
「奴隷は奴隷紋があるから、首輪なんてつける必要がないだろ。」
「あ、ありがとうございます…」
少女はどこか遠くを見つめながら首をさする。長い間首輪があったせいで少し跡ができて居るな…これもいつか消せればいいか。
「いくぞ。逸れるなよ」
「は、はい!ま、待ってください」
さすがに少女の歩幅とは合わないので俺がどうしても先に行ってしまう。奴隷は主人と距離が離れると奴隷紋で身体中に痛みが走るので、少女も必死だ。俺は少女の細い手を掴むとそのまま握る。少女は驚きながらもその手を握り返してくる。
「これなら大丈夫だろう。いくぞ」
「はい!」
△
しばらく歩いて居ると蚤の市に出たようで人がたくさんいる。正直鬱陶しいな…まあ、たくさんの商品が流れるので客もこれを狙って居るんどあろう。
俺は適当に見て回る。少女はキョロキョロとあたりを見渡している。この状況に戸惑って居るようにも楽しんで居るようにも見える。
しばらく見て回ったがどれも気になるようなものはなかった。飽きてきたので帰ろうかと思ったとき、少しだけ気になるものを見つけた。日本でいう機織り機のようなものだ。中古のようだが使えそうだ。この世界では布は手織りなのでそこまで多く出回っていない。そのせいで服は基本的に中古を買うのが普通だ。まあ、新品をかうのは貴族くらいなものらしい。迷宮ではコアにDPで交換してもらっていたのでそこまで価値があるとは思っていなかった。
これは買ってみるか。店主が暇そうにしていたので声をかけてみる
「なあ、これはいくらだ」
「へい、えーと…」
商人は声を俺の格好を上から下まで舐めるように眺めたあと、手を前で身も始め明らかに作った笑顔をみせる。俺の服装は黒いパンツに白いシャツその上にロングジャケットをきている。まあ、側から見ればどっかの貴族にもみえるだろう。市民とは明らかに違う
「金貨40枚ですねぇ!はい!」
「金貨40枚ねー。これにそんな価値があるとは思えないが」
金貨1枚で市民なら一年は暮らせるほどの金を40枚とはこれはぼったくられて居る。それにこの蚤の市ではそんな大金の商品が並んでも客はどれも市民なのだからそんな大金で買えるわけもない。
「なあ、おちょくるのもいい加減にしろよ」
俺は少しドスをきかせた声で話す。そして少しだけ『迷宮スキル畏怖』を発動させる。この『畏怖』はダンジョンにかけることで恐怖感などを演出することができる使いやすいスキルだ。しかし、ダンジョン全体にかける魔法を個人にかけたらどうなるかおわかりいただけるだろうか
「も、申し訳ありません!!!!!借金の肩で抑えたものですので金貨4枚です!いや、3枚でです!」
「そうか。なら、買おう。」
俺はそっとスキルを解除すると商人は全身の汗が吹き出て俺に目をそらしてくる。俺は商人に金貨3枚を手渡すとそのまま機織り機を倉庫にしまった。突然消えた商品に驚きながらも俺は少女の手を引いてそのまま立ち去る。
さて、いい買い物をしたな。ふと横をみると、若干小刻みに震えて居る少女がいた。畏怖の影響を受けたか…俺は『迷宮スキル癒し』の魔法を少女にかけながらその頭をそっと撫でると、少女は不思議そうな表情で俺の顔をを覗き込む。
「怖かったか?」
「い、いえ…あ、少しだけ…」
「ははは。少しあの商人が悪い事をしていたからな。っと、腹が減ったな飯にするか。何か食べたいものはあるか?」
俺は話を変えようと少女に問うと、少女は困ったような顔を浮かべるので質問を変えてみる
「なら、肉が食べたいか?それとも魚か?」
「あ、えーと…その。お肉がいいです…」
「わかった。肉だな…よし、見つけたら教えてくれ」
俺はそのまま蚤の市を抜けて歩き始めた。飲食店や宿屋などが並ぶ通りを歩いていく。
通り過ぎる人間皆が俺や少女の格好を見つめては驚いて居る。まあ、こんな格好の人間はすくないか。しかし、エリザベートが言っていたが俺の服のセンスはいいようで、異世界だろうとファッションセンスなどは変わらないそうなので、少しだけおしゃれな感じあろう。
しばらく歩いて居ると、いい匂いがしてくる。ふと視線を移すと、屋台で串に肉をさして焼いていた。香ばしい匂いと肉の焼ける香りが食欲をそそる。少女も同じようでずっと屋台の方を見て居る。
「食べてみるか。」
俺は少女の手を引きながら屋台に近づく。屋台で肉を焼いていた男に話しかける
「二つくれ」
「はいよ、銅貨2枚だよ」
俺は銅貨二枚をおっさんに渡すと、おっさんは焼きたての串をそのまま俺に渡してきた。できたてのようで湯気がたっているのが一層に美味しそうにみえる。
俺は受け取った串の一つを少女に渡すと、少女はおっさんに「いただきます!」といいながら肉を食べ始めた。
「おいしぃ!!」
「そうだな。うまい。」
串を食べ終わっても、まだこばらが空いたのでそれから適当に屋台を回り、食べたいものを買った。
そして通りを過ぎたところで公園のようなところがあったのでベンチに腰掛け2人で買ったものを食べ始めた。肉から魚、餅のようなものや、ハンバーガーのようなものと屋台ならではのものが多くとても満足した。
しばらく食べてから休憩しようとベンチに座っていると、後ろから声が聞こえた
「あ、髪の毛がお花になってる!私もあれしたい!!」
振り返ると、真っ赤な髪色の少女が少女を指差しながら手をつないでいた女に行っていた。おそらく母親なのだろう。母親はすぐに少女に何か話掛けていると、少女が徐々に涙を貯めて泣き始めたので俺はため息をつきながらベンチからたつと母親の元に近寄る
「よろしければ、髪を結んであげましょうか?あの子のようには流石に髪長さ的にできないですが似ているようなものならできますよ」
「そ、そうですか!も、申し訳ありませんがお願いしてもいいですか?…この子一度泣き出すととまらないので…」
「大丈夫ですよ。さ、お嬢さん、こっちにおいで。おじさんが髪の毛に魔法をかけてあげる」
俺はそのまま母親と少女をつれて先ほどのベンチに戻ると、なにか少女が唇を尖がらせ横目で見ていた。なんだお前は…
俺はベンチに腰掛けながら少女の髪を編み込んでいく。少女は両サイドは長いのだが、前髪は邪魔にならないようにかぱっつんときられているので、右の目尻あたりから左側へ編み込んでいきカチューシャのようにする。最後、ドラゴンの皮膜は材質バレたら面倒なのでやめ組紐で髪を結んでその間にガラスで作った造花をさしてやる。完成してから少女に鏡を見せる。すると、きらきらとした目で自分の髪の毛をさわる少女。
「完成だよ。お母さんを困らせちゃうダメだぞ」
「はい!おじさんありがとー!」
「とりあえずおじさんはやめてくれるかな。」
俺は少女の頭をそっと撫でてると、母親が俺に頭を下げてくる。まあ、これはたまたま気が向いたからやっただけなのだが感謝されるのはいいもんだな。
そうおもって2人を見送ると、隣にいた少女が俺の袖を引く
「どうかしたか?」
「あの……」
少女が俺の正面を指差すので目で追うと、そこには多くの人だかりができている。なぜか、みな俺と少女を見つめている。それから、いづらくなった俺たちはベンチから立ち上がるといっきに人だかりが近寄ってきた。
「おにいさん!私にもあれやってくれないかい!」
「私にもお願いするわ!それと娘にも!お金だすわ!お願い」
「いい服だな!じつにいい。どこで買ったか教えてもらえるか」
「その服を売って欲しい!いくらでも出すぞ!」
俺の周りには女性や男性が集まってくる。ふと視線を移すと少女にも大人たちが集まっている
「君可愛いね!その服似合ってるよ。どこで買ったのかな?」
「まるでお人形さんみたい!うちにほしいわー」
「その髪はどうやってやったの?」
「いい匂いがすわ〜」
邪魔だ…ものすごく邪魔だ。しかし、たかが髪を編み込むだけで金がもらえるのは嬉しいかもしれないな。これは儲かるかもしれないな。これも計画してみるか…
「すいません。俺たちはこの街にきたばかりでして今疲れているのでまた今度ということで」
俺はそう叫ぶと少女を抱え人混みをかき分けて逃げる。しばらく追ってきたが、なんとか巻いたようで路地に逃げ込むとそのまま転移魔法で宿のエントランスにでる。
すると、突然現れた俺に店主が驚きの声をあげる
「びっくりした!どうやって入ってきた!」
「ちょっとな!さて、疲れた。部屋に戻るぞ」
俺は店主になんの説明もせずそのまま部屋にもどた