Ⅳ話 奴隷
少女が顔を真っ赤に染めながら固まる。俺も話すことがないのですばらく黙っているとタイミングよくコンコンと扉をノックする音が聞こえたので俺は軽く返事をする。
「はい」
「おう、俺だ。開けるぞ〜」
扉が開きランディがお盆にのった食事を運んできた。ランディはベッドに座る俺の姿を見つけると歩み寄ってきたが、俺の腕の中にいる奴隷の姿をみて固まったまま動かなくなった。
「ああ、運んできてくれたのか。ありがとうな。そこの机に置いてくれ。おい、立てるか」
「はい、大丈夫です」
少女はベッドから出る。ランディは少女に目線をそらさず固まったまま首だけで小娘の姿を追いかける。何をしてるんだ?ロリコンか?
「どうした?お前…ロリコンか?」
「いや、この子がさっきの奴隷なのか?って誰がロリコンだ!」
ランディが俺に吠えてくる。そのデカイ声のせいで少女が肩を震わせている。ったくビビらせるなっての…
「デカイ声を出すな。ああ、そうだが…すがたが変わって居て驚いたか?」
「『死神』の魔法か?…」
「お前もそのあだ名で呼ぶのか…はぁ…。まあ、そんなところだ。」
俺もベッドから出ると、固まった少女の背を軽く押し机に向かわせる。椅子を引いてやるが少女は、椅子に座らず椅子のの隣でしゃがむと膝を抱えながらどこか遠くを見つめる。俺はそんな少女に大きなため息をつく。
「どこに座って居る。椅子に座れ。わからないのか」
「で、でも…私は奴隷なので」
「だからなんだ。ああーめんどくさい。『命令』だ。椅子に座れ」
奴隷は俺の顔を見つめながら恐る恐る俺の引いた椅子に腰掛ける。少女の体にとっては椅子が高かったようでよじ登るようにして居たので、両脇に手をさし体を持ち上げ椅子の上に乗せる。それを視線を外すことなく見つめるランディにも同じくため息をつく。
「何を固まってんだよ。」
「あ、ああ!すまねぇ…いやー見違えたぜ。それにしてもその髪色ってことはドワーフか?」
ランディは鼻頭を軽くかきながら手に持って居たオボンを机の上に置く。少女は一瞬目を見開くがすぐに視線を反らし口をへの字に結ぶ。
「ドワーフのハーフらしい。」
「そりゃ…大変だな…親を恨むしかないな…」
店主は可哀想な物を見る目で奴隷を見つめる。少しだけその感情は共感する。他種族のハーフというだけで奴隷に落とされるという理不尽がこの世界では常識なのだ。それを含めて何かしてやりたいと思うが、そんな事口に出す程のものではない。あくまで思うだけなのだから。
少女はじっとその場から動かない。温かい料理の湯気だけが上がっている。
「おい、何をしている。冷めるだろ。作ってくれた人が居るんだ、失礼だ」
「は、はい…で、でも…奴隷だから…」
「早く食えと言って居るだろ!主人の命令は絶対なんだろ!」
ぐちぐちと話す少女の姿に苛立ちが隠せずつい声を荒げてしまう。少女はすぐに体をしゅんと小さくする。マスターと背丈や年齢も同じくらいだろうが、性格は真反対だな…
「言い過ぎだろ…まあ、冷めないうちに食べちまいな。お嬢ちゃん」
「は、はい!」
ランディは若干俺に引きながら、少女に優しい声をかける。少女は置いてあったスプーンも使わず熱々の粥の中に手を入れようとする。俺は少女の手が食器の中に入る前にお盆を引く。少女の手はそのまま机に当たる。
「何をしているんだ。食べ方すらわからないのか。」
「え…あ、あの…前のご主人様の時はこうして食べていたので…あ、あのどうすれば…」
「スプーンをつかえ。それと別に取らないからゆっくり食べろ。冷ましながら味わいながらな。」
「は、はい!」
奴隷が大きな声で返事をするので、俺の苛立ちも少しは治った。奪ったお盆を少女の目の前に置く。少女はオボンの上のスプーンを手にもって食事を食べようとする。が、再びお盆を引き少女のスプーンが机に当たる
「おい、この料理は誰が作った?誰のために」
「そりゃ、作ったのは俺だしその料理はその子が食べると思って粥にしたんだが…」
俺が少女に問うとランディが困った顔でそう答える。俺はランディに「お前に聞いたんじゃない」と威圧付きの視線を送ると、ランディの顔は引きつっていた。さて俺は居直って隣の少女の目を見つめる。少女は両手でスプーンをもったまま俺の顔を見つめてくる。その顔は恐怖を感じているような顔だった。
「それで、お前がその食事を食べる訳だ。作ってくれた人に感謝の言葉もなく食べるのか?」
「は、はい!あ、あの!お食事を私に作ってくださり、本当にありがとうございました!このご慈悲は一生忘れません!」
「そこまで言わなくてもいいだろ。ただ一言元気な声で感謝を込めて「いただきます」って言えばいいんだよ」
「は、はい!いただきます!」
「ははは!ああ!味は保証するから味わって食ってくれ!」
ランディは大きな声で笑う。少女も同じく笑顔になったが、一瞬俺の顔をを見るとすぐに目をそらし下を向く。
「笑いたきゃ笑え。ダメなことは口に出す。何も言われなかったら、その行動は許されてると思え」
「は、はい!ありがとうございます!」
少女は笑顔で俺に感謝すると熱々のおかゆを掬い冷ましながら口に運ぶ。その表情は奴隷とは思えないただの少女にしか思えなかった。ったく世話がやける……
△
少女が料理を食べ終わると、ランディが料理を下げてくれた。部屋に残っているのは俺と少女のみだ。少女は何をするべきかわからないのか、俺の顔を見てはうろちょろしている。
「さて、飯も食べた事だ。こっちに来い。」
俺は倉庫から大きな木製の箱を取り出す。少女は突然現れた箱に驚きながらも、俺の顔を見つめている。軽く少女を手招きすると、テクテクと近づいてくる。俺は裾と袖を綺麗に折り上げ箱の中に入る
「服を脱げ。早くしろ」
「は、はい…で、でも!あ、あの…初めてで…あの…」
「何を言ってんだ。体を洗うんだよ。早くしろ」
真っ赤なゆでダコのような顔だった少女が、俺の一言を聞いて驚いた顔をしている。こいつは何を考えてるんだ?俺がこんなガキに手をかけるようなことすると思ってたのか。不謹慎だな
恥ずかしそうに服を脱ぎ切った少女は胸を右手で左手で下を隠している。俺は少女の両脇に手を差し箱の中に入れるその上に『倉庫』を発動し『お湯』を取り出す。
迷宮時代から日本人の血か風呂に入ることが好きだったのだが、湯沸かし器などある訳もない。それでいちいちお湯を沸かすのが面倒だった俺は迷宮で飼っていたドラゴンに乗って火山に行き温泉の湯を大量に『倉庫』に収納した。ちなみにお湯は『熱湯』『ちょい熱目』『適温』『ぬるい』の4種類ある。余裕があれば他の温泉のお湯を集めたいと思っているくらいだ。
少女は突然上から落ちてきたお湯に驚き、目に入ったのか目をこすっている。ちなみに温度は適温だ。その間に倉庫から博士お手製の『石鹸』を取り出す。これは優れもので品質的に言えば日本で普通に売っていた牛乳石鹸と同じように肌に優しい。俺は手で石鹸を泡立てると、少女の背中に泡を乗せこする。冷たい泡に驚いたのか一瞬少女の背中がビクっとなるが洗われていることが理解できたのか、すぐに背中を預けてきた。俺は頭のてっぺんから足先まで優しく洗いきる。それから泡が入ってしまったお湯と少女の体の泡を『倉庫』にしまい俺は風呂から出る。代わりに普通の温度のお湯を少女の肩が浸かるくらいに入れる。
「ゆっくりしてろ。出たくなったら俺に言え。着替えはここにあるから、タオルで体を拭いておけ」
俺は倉庫からマスターの替えの服を出しておいた。マスターの背丈と同じくらいの背丈だと思うしな。その間に俺は…実験でもするか