Ⅱ話 街へ
投稿は気まぐれです
博士と別れた後、とりあえず街に向かうことにした。久々に本物の太陽光に風を感じる。迷宮にも擬似太陽に擬似風などはあったので違和感はないが、本物だと思うと新鮮に感じる。
「さて、行くか。魔法は使えるのか?『転移』」
歩いて行くのも面倒なので、転移魔法で一気に街まで飛ぶ。転移魔法はほかの魔法とは桁違いに魔力を使うため個人での使用は不可能といわれている。さて、転移先は迷宮から最も近い街のスラムだ。街の名前は『エレベスト』。王都の近くにあるため、王都への休憩地点として有名で人の数・物の数は人間の住む地域では最も多いと思う。ちなみに王都は『イラベナ』といい『エベレスト』から西に60キロほど行った場所だ。海に面しており、外国との貿易で有名だ。
さて、説明している間に『エレベスト』のスラムについた。ボロボロな木製の建物が並び、薄汚れた服を着た人間が歩いている。異世界人である俺からすると治安は良くはないと思ってしまうが、この世界ではかなりマシな方だ。
「さて、とりあえず金か。転移魔法は使えたが他の魔法は使えるのか?……」
俺は無詠唱で迷宮魔法『倉庫』を発動させる。すると、頭の中に倉庫の中身が浮かんでくるのでどうやら使えるようだ。
さて先ほど個人の使用が不可能と言われている転移魔法が使える理由だが、俺は召喚された当時、何もスキルがなく何の魔法も使えなかった。そんな俺を可哀そうに思ったマスターがコアを半分俺の体に移したのだ。そのおかげで俺はコアが使える魔法やスキルを半分授かった。だが逆に俺はコアが使える魔法しか使えない。
しばらく自身の持っているスキルや魔法を確認したが、どれも普通に使うことができた。
さて、俺は服装を変えスラムを早々に抜けて中央区の市民街に入る。道も整備されており、綺麗な建物が並ぶ。俺はと言うと中央区の商店街の冒険者ギルドにまっすぐ向かう。冒険者ギルドとはこの世界にいるモンスターなどを討伐したりする想像通りのテンプレな冒険者ギルドだ。別に冒険者ギルドに行くのは初めてではない。
理由は色々あるんだが、一番は迷宮で死んだ冒険者のギルドカードを届けるのと、お金を稼ぐ事だ。正直ギルドカードを届けなければ捜索隊が迷宮にやってくるのでDPとしては美味しいと思うのだが、マスターが猛反対していた。マスター曰く「死んでしまうのは仕方がないが、その者の親しい人間が死を知らないのは残酷だろう。」という甘っちょろい考えだ。まあ、それがマスターらしくていいところだが。
もう一つの理由のお金を稼ぐ事だが、別にDPを使えば食事や日用雑貨などは困らないがなるべく使わない方が迷宮の為にもなるという事で、一応人間だった俺が迷宮からでて魔物を大量に殺しある程度溜まってから一気にギルドで換金する事にしていた。
「久しぶりだな。」
商店街の中でも頭ひとつ抜けた大きさの建物を見上げる。最初に来た時から何も変わらない建物だ。
開きっぱなしの扉から冒険者ギルドに入る。俺の服装は黒色のロングコートにロングブーツを履き、顔は銀色の金属特有の光沢のある仮面を被っている。これは素顔を隠した方が何かあった際に役に立つだろうとダンジョンコアが昔アドバイスしてきたので参考にしたが、それが俺のセットだった。
俺がギルドに入ると、入り口近くで集まっていた冒険者達が一斉に俺の方をみてくる。皆、驚いたような表情を浮かべ完全に時が止まったかのような状態だ。そんなに驚く事かと疑問に思うが、確かに10年に一度のペースでしか来てなかったからな……てか、10年に一度でもおおいと思うのだが……あれ?人間の感覚を忘れかけてるな。いや、俺が長生きなのか
謎も解けた事だし気にせず、奥の方にある受付に向かう。この受付は前世の市役所のように壁から壁まで机で区切られており、等間隔でギルド員が座っている。用がある場合は、空いているギルド員に話かければいい。俺は固まっている小柄な女ギルド員の目の前に向かう。この場合受付嬢か。
「少しいいか。」
「あの……えー……はい!どうのような御用でしょうか?」
「ちょっと待ってくれ……話しにくい」
俺はそっと鉄仮面に手をかけると、ゆっくりと外して行く。ギルドに来てもしゃべる事は滅多になかったが、会話をするとなると流石に視野が狭いし声がこもるので、鬱陶しいかった。それに迷宮がなくなった以上俺が素顔を隠す理由はないだろう。
外した仮面を倉庫にしまうと、周りから音がなくなったのに気づく。見渡すと冒険者から受付嬢までギルドにいた全員が大きく口を開けて固まっている。
「どうかしたか?」
「いえ……その……なんというか、あの『死神』様がこのようなお顔だったのかとは思いませんでしたので……そのあっけにとられたというか……」
『死神』__
いつからか俺はそう呼ばれていた。理由は二つ。俺がギルド来るとすぐに大量のギルドカードを受付嬢に渡すからだ。ギルドには迷宮で死んだ冒険者の遺品として回収していると伝えている。まあ、そのせいで「たまに来る死を伝える男」から皆が死神と呼び始めた。
「そうか、期待はずれだったようですまない。さて、ここにきた用事なんだがいつも通り解体を依頼する。んで、迷宮が廃宮になったからな。しばらくはこの街にいると思うからよろしく頼む」
「そんな事は決してないです!はい!」
「そうか。んじゃ、魔物を出すぞ……」
「「「逃げろぉぉぉおおお」」」
俺が倉庫から魔物を取り出そうとした瞬間固まっていた冒険者達が声を合わせて叫び出し、全員が出口を目指して走り出す。年齢も性別も関係なく、我先にと人を掴み蹴り飛ばし殴り飛ばしながら外に出て行く。なぜここまで冒険者達が必死になっているのかというと、俺が初めてこの冒険者ギルドに来た時大量のに魔物の死体を取り出した。その際、死後も毒素を出す魔物がおりギルドにいた冒険者からギルド員まで全員を教会送りにした事が今でも教訓となっているからだ。まあ、俺も流石に反省し魔物の種類には気をつかうようになった。これが『死神』と呼ばれるようになったもう一つの理由だ。ちなみにギルド員はギルドマスターが受付の机に結界を張っているので大丈夫らしい。
おぞましい量の魔物の死体がギルドの中央で山になる。どれも首や腕がちぎれたりと、地獄絵図だ。徐々に血が流れ出し血だまりが広がって行く。
「んじゃ、いつも通りこいつを売却しておいてくれ。金はギルドカードに入金しておいてくれ」
俺はそう短く言うと、ギルドから出て行く。入り口の近くには多くの冒険者が集まっていたがその集団の一人……目に傷を負いニヤニヤと俺を見てくる男。男は冒険者たちの後ろに隠れ俺よりかなり距離をとっている
「おい、死神!残念だったな!あんだけ長い事こもってたのに、先に迷宮を踏破されてよ!力があっても意味ねーな」
男は俺の事をディスっているようだが、別に俺は迷宮を踏破する冒険者ではなく迷宮に住んでいた方なのだが……まあ、一般人から見ればそう思われても仕方ないか。それにこういう輩は初めてではない。昔はギルドカードを出した冒険者の家族や恋人にボロクソに言われたものだ。しかし、癪にさわるな。
俺はその男を睨みつけながら腕を伸ばし人差し指をクイッと動かす。すると、男の体は多くの冒険者を押し倒しながら一直線に俺の元に飛んでくる。俺は飛んでくる男の首を伸ばした腕で掴む。
「何かいったか?すまない聞こえなくて。」
「ひ、ヒィ……ば、化け物!は、離しやがれ!」
俺はそっと手を離し男を落とすと、男は尻餅をついて地面に座り込む。俺は周りの冒険者を見渡してから、鼻で笑ってから商店街の方に向かった。
▽
さて、冒険者ギルドから出たが、とりあえず宿を探さなければな。俺は住民区の中にある少し大きめの木造でできた3階建ての建物に入る。見た目がボロいせいで客は少ない。ここは俺が街に来るたびに泊まっていた宿だ。ここは他に泊まっている客とすれ違わないという変わった店で、表を歩けない人間がたまに利用している。利用する客で一番多いのが…壁が防音でしかも客と出会わないという宿なためアレな行為をする客が多い。と、話がそれたな。
宿に入ると、カウンターがあり左右に扉がある。そのカウンターに腕を組んで寝ている禿げた男がいた。この男がこの宿の主人でランディだ。
「すまない、ランディ。起きてくれ」
「…ん?ああ…お前か。泊まりか?」
「泊まりだ」
「そうか、金は後払いでいいぞ。ほら」
男はカウンターの下から鍵を取り出すと俺に放ってくる。鍵をキャッチすると、男は右を指差したまま再び寝始めたのでスルーして右の扉を開ける。扉の先は階段になっておりそのまま登っていくと、一つの扉があった。それと、ここの宿は、宿自体がマジックアイテムらしい。俺は受け取った鍵を回し中に入ると、一通り見渡す。部屋はベッドと机、それと天井に照明の魔道具があるだけのシンプルな作りだ。
「さて、宿も取ったし何をするか。時間もあることだし少し外を見て回るか」
そう決めると俺は部屋を出た。荷物は『倉庫』に入っているので出しておく必要はないだろう。
俺はそっとランディを起こさないように宿を出て行く。