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名無しは記憶喪失の奴隷と旅に出る。  作者: 葉渡純
緊急依頼『奴隷狩り』
22/52

22 名無しの事前準備



キャロルの後ろをついて行き、たどり着いたのはお洒落な外観の小さな店だった。

普段はギルドと宿とその近くの食べ物屋、あとはレボルトさんの店くらいしか行かないのでこの店に来るのは勿論初めてのことで緊張する。

騒がしく人が多い商業区と違い、この辺りは人通りも少なくて静かで、私のいた元の世界だったらお洒落なアンティークとかパワーストーンが売っていそうだ。

シャーレイは「店内はそこまで広いようではないし邪魔になるだろう、外で待っているから気にせず見てきてくれ」と言うので二人には、店の外で待っていてもらっている。


キャロルが店に入って行くのに続いて中に入ると店の中は大小様々で色とりどりな石が並んでおり、中には宝石のようなものまで置いてある。

私の想像は間違っていなかったようだ。


「ここは魔法使いにとっての武器屋よ」

「武器屋?」


私が疑問を口にすると彼女は自分の背負っている杖を私に見せてきた。

彼女の杖は実にシンプルなもので素材は木、先端は緑色の丸い石を包むような形状になっている。

この緑色の石が魔石――。


「杖自体はどんな物でもいいの、肝心なのは『魔石』の方。質のいい魔石ほど魔法の威力も上がるわ」

「へー……知りませんでした」


この世界での多くの魔法使いが基本的に杖を持っている。

正確には魔石を様々な形で身につけている。

理由は魔石を使うことで何も持たない状態で魔法を使うよりも消費魔力を抑えたり魔法の威力を助長させたりすることができるからだそうだ。

ただし、質のいい魔石は本当にお値段が高くて貴重なものなのでなかなか手に入らないのだとか。

キャロルから魔法使いに関する知識の話を聞いていると、店の奥から優しそうなお婆さんが出てきた。


「あらあら、キャロルちゃんじゃない! そちらは? お友達?」

「ナナシよ、最近ギルドに入ったの」

「はじめまして、ナナシです」

「私はここの店主のバーバラよ、よろしくね」


一通り挨拶を済ませると「早速だけど、欲しいものがあるの」とキャロルがバーバラさんに言ったのでそれに続いて「マナタイトが欲しいんですけど」と私が言うと不思議そうに首を傾て「あら、魔石じゃなくて?」と聞いてきた。


「はい、マナタイトを」

「純度の低いもので構わないわ」


私はマナタイトの入っていた瓶を取り出し「これがいっぱいになるぐらい、ありますか?」と言うと少し驚きながらも「少し待っていてね」と言って店の奥に消えた。

それからしばらくして、マナタイトでいっぱいになった瓶を持って戻ってきた。


「ありがとうございます! あ、おいくらですか?」

「そうねぇ、それを買う人ってあまりいないから……五十リベルかしら」

「え……や、安くないですか?」

「一応仕入れているだけで買いに来る人なんて全くいないから良いのよ」


そう言って笑うバーバラさんにつられて笑顔になってしまう。

安い、自分の武器がこんなに安く手に入るなんてお財布的にも優しい!

もしかして私は結構お財布に優しい人間かもしれない!

――単にこれ以外の武器が使えないだけなんですけどね!!


お会計を済ませ、内心小躍りしながら愛用のカバンに入れるとバーバラさんが「妹か弟がいるの?」と尋ねてきたので何故そんなことを聞いて来るのかと不思議に思いつつも「いえ、いませんよ」と真実をそのまま口にする。

本当に兄弟はいない、元の世界でも一人っ子だったし。


「あら、てっきり下の子の基礎訓練に使うのかと――」


そこまで言われてハッとした。

そうだ、この世界でこの純度の低いマナタイトの主な使い道といえば子供の魔力の基礎訓練だ。

RPGで言う所の『石ころ』的なアイテムなのだから、それを大量に購入したとなるとそりゃ不思議に思われるのは当然だ。

首を傾げるバーバラさんになんと言おうか、キャロルを見るが今回は助けてもらえそうにない。

当然だ、逆に今まで助けられすぎたのだ。

これからはこの店を利用することになるのだし、早い所自分で言ってしまった方がいいかもしれない。

一瞬、嫌なことを思い出しそうになるがなんとか思考を止める。



「これは、私の武器です」

「あら、そうなの」



あっさり受け入れられすぎて思わずお笑い芸人のようにズッコケてしまいそうになった。


「えっと、それだけですか?」

「あら、どうして?」


「いや、だって――」と口ごもる私の手をバーバラさんは優しく握り、迷子の子供をあやすような優しい声で話し出した。


「驚きはしたわ。 でも、それがあなたの武器なんでしょう? だったらそれでいいじゃない。」


肯定してくれた。

村のみんな以外で、初めて私がマナタイトを武器にしていることを良しとしてくれたのだ。

――それがなんだかたまらなく嬉しくて、胸が熱くなる。


「人と違うことで何か言われることがあるかもしれないけれど、それは間違いなく貴方にしかないものよ」


「だから自信を持って、誇りに思うといいわ」とバーバラさんは言った。







△▼△▼△▼△▼△▼△▼







「あの時はごめんなさい」


バーバラさんの店を出てすぐキャロルがなぜか謝ってきた。

いや、こちらとしてはここまで案内してもらったのでむしろこっちが貴重な時間を使わせてごめんなさい状態なんだが?


「いやいやそんな、むしろこっちがお礼を言うべきだし」

「私も彼女と同じ意見よ」


キャロルは申し訳なさそうに言う。


「あの時は言えなかったけれど、私も貴方のやり方を否定するつもりはないわ」

「ありがとう、もうそのことは気にしないで」


私がそう言うと少し安心したように「そう」と言うと「それからバランのことなのだけど」と以外にも彼女からバランの話をしてきた。

「彼はそこまで悪い奴でもないのよ」――と、つまり彼女なりに私と彼の関係を気にしてくれているのだろう。

バランは彼女のパーティのメンバーな訳だし、なんとかフォローしようとしているのか。

あのパーティではしっかり者のお姉さん的な立ち位置なのかもしれない。


「バランは、口も悪いし態度も悪い」

「うん」

「言葉使いも悪くて乱暴で目つきも悪い、性格もかなり不器用だし一匹狼気質で売られた喧嘩は基本二倍、三倍返し……」

「……」

「……でも、悪い人間ではないの」

「……」

「…………あ、バランはあれでいて料理が意外と上手よ」

「……うん」


――いや、全くフォローできてませんけど。

『悪い』って単語出まくってたし印象がプラスになるようなエピソードとか全くなかったんですけど!?

あと、思い出したように料理が上手いとか言われても!!

それだけじゃ前半のマイナス部分を補えないよ、無理だよ!!

「もっとこう、『不良が雨の日に子猫を拾う』的なエピソードってないの?」と私が助け舟を出すと少し考えてから「十二歳の頃にグラキエスサーベルを倒したことがあるとか……」と返ってきたので諦めた。

とりあえず子供の頃から強かったんだね、という感想しか思いつかない。


自分でもうまくフォローできなかったのがわかったのか、キャロルは仕切り直しにわざとらしい咳払いをする。


「――とにかく、今回のギルドクエストでは間違いなく頼りになるわ」


「バランの実力は本物よ」と言って微笑む。

十二歳の頃からなんとかサーベルを倒してるらしいので、相当強いことはわかっている。

「確かに、戦闘面ではお世話になるかもね」と言っておいた。


でも今回のギルドクエストで同じになる、なんてことはないだろう。


「今回は同じ場所に行くのだし、遠慮なく頼るといいわ」

「アハハ、ハ……あ?」



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