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9 器用さの有用さ

 結論から言うと『凍絶LV99』の手加減はうまくいかなかった。


 が、とりあえず大量の水――ならぬ氷がゲットできたので、それを食べやすい大きさに砕いて、メツ子に喰わせる。


『竜威』のせいでその調節も難しいと思ったが、筋力と同じくらいぶっちぎってる器用さのおかげか、思ったより簡単に一口大にすることができた。

 


 ……へえ。これはもしかして。


 と、なにかに気づいている場合でもなく。


「………………」


 すでに噛み砕く力もなさそうなメツ子は、一応氷を舐め舐めしていたが、それよりも前回と同じように辺り一面氷漬けにしてしまった影響が大きかったらしく、やがて口を開きっぱなしにしだした。


 ステ上でもただでさえ体力ぎりぎりだったのがマジやばい状態に陥っている。

 具体的に言うとHPが10切ってる。


「やばいやばい……」


 この後に及んであまり危機感のない俺はそんなことを言いながら、白を通り越して青くなっていくメツ子を抱え、その場を離脱する。


 一応水分は摂った。

 となれば次に必要なのは――


「食い物!」


 叫びつつ、俺は『全知』で察知していたヘルハウンドの群れに突っ込むと、そこにいたヘルハウンド4体を可能な限り手加減して傷が残らないように倒す。


 不意打ちになったせいか、いつもより楽だった。

 メツ子抱えてるのに。


「というかこれもしかして……抱えてたままのほうが楽まであるんじゃね?」


 現状少女そのものの強度しかない(?)メツ子は戦闘中常に気遣う必要のある対象だ。

 それはそれで意外と負担になってたのかもしれない。

 ……いやそれは意識失ってる今のほうがそうか。

 

 そんな口に出したら間違いなく突っ込まれそうなことを思いながら、俺はすでに意識が朦朧としているらしいお荷物メツ子ちゃんを背負い、倒したヘルハウンド4体を背後に放り投げる。


 そうして右手を突き出し、前だけ焼く前だけ焼く絶対前だけ焼く――と唱えて。


「――『煉獄』」


 超魔法『煉獄LV99』は、狙ったとおり――以上に、そこら中を炎で包み込んだ。


 ……まあ、効果範囲はやや前めに発動してる……かな?

 気持ち半分ね。そこはかとなくね。


 自分への言い訳をがんばってしながら、俺は制服の上着をメツ子に着せ、シャツの腕をまくり、


「よっと」


 頭上で勢いよく燃えるロウラシスの太い枝を折ると、メツ子から遠ざけるようにして持った。


「……いやーほんとびっくりするくらい熱くないわ」


 枝はめっちゃ燃えてるし、その燃えてる部分持ってるんだけどね。

 俺の手だけ絶対に燃えない素材でできてるみたい。


 と、ゆっくりしてるとMPがえらい勢いで減るので、先ほどヘルハウンド4体を投げた場所に急ぐ。


「お、燃えてないじゃん。よかったよかった」


 幸いにもヘルハウンドは『煉獄』の被害を受けていなかった。


 ……さーてここからがチャレンジ。


 俺はそこら辺に生えているロウラシスの枝を適当に数本折ると、放射円上に配置していき、火種のロウラシスを中央に置く。

 

 そうして、両手の指を見て、もっとも爪の長い指で――ヘルハウンドを毛皮とお肉とその他に手早く変えていった。


「おー」


 その手際の良さに自分で驚きながら、お肉(骨付き)だけをピックアップし、じりじりと直火で焼いていく。

 しばらくすると、なかなかに香ばしい匂いが漂いはじめた。


「突発的に思いついた割にはうまくいくもんじゃーん」


 俺が注目したのはステータスの『器用さ』だ。


 器用さは普段モンスターとの戦闘で意識することがない。

 ぶっちゃけ力押しと、超移動――敏捷性でどうにかなってしまうからだ。


 だが、当然その値も元世界最強竜さんのおかげでとんでもないものになっているわけで、こういった作業に向いていると思ったのだ。


 まあ裏を返せば『竜威』ありきのものなわけだけどね。


 MP確認したくねーな……。


 ともあれ。


「おし、いい焼き加減なんじゃねーの?」


 食欲がないので特になんとも思わないが、結構いい匂いしてると思う。

 俺は骨付き肉の肉部分だけを指先でさらに細かくし、ほとんど噛まずに食べられる大きさにしてから、もう瀕死としかいいようのないメツ子の口元に寄せる。


「おーいメツ子。肉が――」


 そう話しかけた瞬間だった。


「――」


 突如、カッと目を見開いたメツ子が、俺の手ごとかぶりついたのだ。


「ちょ、おま――」


 こちらの言うことなどまるで聞く耳持たず、俺の指先まで綺麗に舐めあげたメツ子は、いやその仕草めっちゃエロいんですけど……! などと思う俺などまるで気にせず、反対の手に持っていた骨付き肉を強奪する。


 あっという間にそれも平らげると、切なげな――いや超必死な目つきで、俺にぴったりと身を寄せ、


「……も、もっと……っ、もっと……くれ……!」


 懇願してきた。


「――――」


 言葉使いの荒さはともかく。


 薄布一枚がはだけ、胸元や太もものかなりきわどいところまでがあらわになっており、銀髪を顔に貼り付け、涎で口元を汚した絶世の美少女が懇願してくる姿は、なんというか――


「すげえ……いいな……うん」


 うっかりなにかに目覚めそう。


 とか言ってる場合でもなく。


 俺は元世界最強竜から飢えた美少女にクラスチェンジしたメツ子のために2本目、3本目と肉を焼いていった。


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