6 超魔法の超威力
《深淵の森》。
上空からはアマゾンの熱帯雨林のように見え、地面からはヤケクソのように生えた高い木々とその葉に覆われ空がほぼ見えないこの場所を、どうやらそのように呼ぶらしい。
赤竜……ドライグを倒したときはバッチリ太陽が出ていたので、おそらく今は朝~昼なはずだが、先述したとおり本当にほとんど空が見えないので正確なところはわからない。
もちろん太陽も見えてないわけだが、それでなぜ視界が良好なのかと言えば、周囲に生えているぶっとい木、こいつらの幹が全部白く、しかも微妙に光っているからだ。
なんだっけ。白樺?
あれに近い気がする。
いやまあ白樺は自ら光ったりしないだろうが。
ただ、めっちゃ光っているのではなく、微妙に光っているというのがキモで、その微妙さ加減が、道らしい道もなく、四方八方ひたすら木だらけで不気味な森をいっそう不気味にしていて大変嫌な感じだ。
まあ全体的に薄い白なので、「なんか神聖!」とか言い出すやつもいそうな感じではあるが、そんなやつには「じゃあお前ここで数日過ごしてみろよ」と言ってやりたい。
絶対嫌になるから。
「当たり前だが、この一帯の木々――ロウラシスは無駄に光っているわけではないからな」
「えっ」
あ、すげえジト目。
つーかこいつジト目多いな。
メツ子はあからさまなため息を吐いて言う。
「貴様は大胆なのか愚かなだけなのか判断に迷うな……」
「人間愚かじゃないと大胆になれねーんだよ」
そんな適当極まりない答えを返した俺に、メツ子は呆れているのが丸わかりの眼差しを向けてくる。
「ロウラシスの放つ幻魔光によって、ここら一帯は魔法の発現が著しく制限される上、魔力の低い者は必ず迷うようになっているのだ」
「あー……まあわかるわ」
魔力がどうとかは知らないが、どこ見てもほぼ変わらないし、目印のつけようもない。
これは迷う。
「つまり、このロウラシスってのの光が人を迷わせるってことね なんのために?」
「……貴様はすでに忘れているかもしれないが、ここは世界の敵たる我の居所――《終焉の谷底》に辿り着くために必ず通らなければならぬ場所だ。ここを抜けられるということは、一定の魔力を持つ証となる。すなわち――」
「ああはいはい、ラストダンジョン的な役割果たしてるってことね」
そう言われるとまあしっくりくる。
その上で、割とここが都合のいい場所であることに気づいた。
俺は全知を使ってステータスとスキルを呼びだし、いかにも魔法っぽいスキル、『煉獄LV99』『凍絶LV99』『烈空LV99』『雷滅LV99』を見ながら言う。
「なあメツ子。ここ、魔法使うの難しいんだよな?」
「使うのが難しいというより、効果が大きく減退すると言っている」
「よし、んじゃちょっと試すわ」
「は……? 試すって――あ、まさか貴様!」
そのあとの言葉は聞かず、俺はなんとなく右手を突き出して、それを口にした。
「『煉獄』!」
『炎を生みだし、操る』とあったので、まあ一般的な炎魔法だろう。
それこそ赤竜の口から生み出す火球くらいの――と思ったら。
一瞬で視界全部が炎に包まれた。
……いやいやいや。
魔法効果は減退するんじゃなかったか?
そこら中のロウラシスがびっくりするくらいあっさり火に包まれ、葉の先まで綺麗に燃えるのを見て、俺は呆気にとられる。
幸いにも『竜威』のおかげでダメージはないが、これ普通なら自分も巻き込まれるやつだよな……。
というか放置してたら、この森全部燃えるんじゃ?
「バカか貴様!! ――熱っ、は、早く消せーっ!!」
ばっちり巻き添えくってるメツ子が悲鳴交じりにそんなことを言うが。
「お、おお……消すってどうやって?」
操るもなにもないんですけど。
仕方なく俺は対になりそうなスキルを口にする。
「『凍絶』」
口にした瞬間、世界が止まった。
そう思うほどに、これまた一瞬で辺り一帯が凍りついたのだ。
「あらー……」
あまりのことに驚愕を通りこして呆れる俺と裏腹に、メツ子は自分の身体を抱きしめ、震えながら言う。
「き、き、貴様……」
「悪かったって。つーかこれも解除の仕方わからんから――」
「『煉獄』は使うなよ!?」
「わかってるよ。そこまでアホじゃないわ」
と言いつつちょっと試してみたかったり。
まあさすがに寒さにカタカタと歯を鳴らせているメツ子がかわいそうなのでやめておこう。
目につく範囲すべてが凍りついているが、さすがに森全体にその効果が及んでいるとも思えないので、さっさとその場から移動する。
ついでに今の行動でどれだけMPが消費されたのか『全知』を使って確認。
MP:9471/10101
ふむ。
『煉獄』と『凍絶』が同じ消費MPだと仮定して、だいたい300ってところか。
この感じだと残り二つのスキルも同じようなものだと考えてよさそうだな。
もちろん試してみてもいいんだが……メツ子がものすごく恨めしそうにこっち見てるのでやめる。
とりあえず魔法っぽいスキルも『竜威』さながらの馬鹿威力なのは確認できた。
この感じで『竜威』のステータス超強化とやらの消費MPもざっと確認したいんだが――
「……ちょうどいいじゃん」
俺はスキル『全知』の敵察知が発動して、右前方からなにか――おそらくモンスターが近づいているのを感じて足を止めた。




