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5 はじめてのキスはMP回復の味でした

 いきなり唇を奪われた俺は、唇のやわらかさより、抱きつかれたことで薄い布越しに感じるメツ子の肉体に驚いた。



 こいつ……すごい……すごい女の子!!



 すでに背中から抱きつかれてもいるし、そのときにも胸!! おっぱい!! やわらかい!!

 とか思ってたが、正面から来られるとよりそのやわらかさとかイイにおいとか、手足細っ感が強調されて――


 とか考えてるうちに。


 重ねられた唇から舌が進入してきた。


「――――」


 唇を分け入った舌は、そのまま俺の口腔内を這うようにしてくる。


 その動きは率直に言ってめっちゃエロかった。


 ……エロかったのだが。


 そんなことよりも、俺はその舌が触れた部分がじんわりと熱を持っていることに気づく。


 その熱さは、さながら寒い冬の夜に外から帰ってきてホットココアの入ったカップを両手で持ち、その手にココアがうっかり零れたような――


「――ぁあっついわっ!!」


 熱かった。めっちゃ熱かった。

 え、なに、元竜だから? 竜って舌熱いの?


 一瞬で意識が平常に戻った俺は、全力でメツ子から離れつつ唇をごしごしと拭う。


「なにしてくれてんの……? 痴女なの……?」


 そもそもチューとか、舌入れてくるとかいきなりすぎてマジびびる。


 困惑と驚愕をない交ぜにして問うた俺に、メツ子は頬に垂れた唾を恥ずかしそうに隠し、


「……黙れ。自分のステータスを確認してみろ」


 目を逸らし、微妙に顔を赤くしたままそんなことを言う。


「まあ確認しろっつーなら確認するけどさ……」


 なにがそんなに変わって――と思ったら。


「回復しとる……」


 さっきまでぶっちぎりの0/10101だったMPが、10101/10101になっとる……。


「もしかして――」


「ふん……貴様に死なれては我も困るからな。感謝しろ」


 どうやらマジでメツ子のキスにはMP回復の効果があったらしい。


 ――はじめてのキスはMP回復の味だった///


 とか言ってる場合じゃない。


「つーかMP自体減らなくなってるけど……『竜威』のせいで常時減るんじゃなかったっけ」


「《神遺物》――『永久竜晶』を宿した我の粘液は一定時間MP回復の強化効果がある。常態のスキル消費程度であれば相殺できるだけだ」


「おおーすげえじゃん。こんな方法があるならお前のそれ奪わなくてもいいな」


「おい!? 今貴様なんて言った!?」


「冗談だよ冗談」


 異世界ジョークだよやだなあ。

 まあ場合によっては考えてたけどな。


「冗談に聞こえんぞ……」


 鋭いメツ子さんはそう言って微妙に距離を取ってきたので、俺は口笛でも吹きそうな勢いで話を逸らす。


「いやーしかし毎回キスするってのもきついな」


 一応お年頃ではあるし。

 相手も竜とは言え女の子だし。

 いや男だったらできるとかそういう話じゃない以前に男ならたぶん俺はさっき死んでたけど。


 俺のどこかに向けての言い訳に、訝しげな眼差しを寄越して、メツ子は言う。


「言っておくが、粘液だけよこせというのは不可能だぞ。直接分泌されたばかりの粘液同士を触れさせなければ効果がない」


「ほー粘液同士を触れさせるかあ……自然とよからぬことが思いつくなあ」


 主に18禁的な意味でね。

 こう♀♂的な意味でね。


「……それと、我にも発情期はあるから、そのときは今のような行為はできんぞ。普通に見境がなくなるからな」


 照れなんだが不満なんだがよくわからないテンションでそんなことを言われて空気が微妙になる。


「……いや、そういうことしれっと言われてもね」


 発情期ときましたか。

 なんかよりヤバイ方向での情報が集まった気がするが、とりあえずスルー。


「んじゃやっぱ、別の方向での解決方法も考えておかないとだな」


 そうでなくても、キスでデメリット相殺と言えば聞こえはいいが、他者に依存していることに変わりないわけだ。

 それはあまり愉快なことじゃない。


「要は『竜威』のMP消費をなんとかできればいいんだよなー」


 勝手にMPを消費されるから困るんであって、オンオフができたり、使いっぱなしでも節約できるような形にできればいい。

 ようするにコントロールさえできればなんの問題もないわけだ。

 

「無理に決まっているだろう。我にもできなかったのだ。力を与えられたばかりの貴様にできるわけもない」


「そういうこと言われちゃうと俄然やる気でるわ」


 まあ適当だけど。

 なんにせよ、他のスキルも気になるし、いろいろ試したいのだが――


「そういやここどこだ?」


「…………今さらか?」


 呆れたように元世界最強の竜に突っ込まれて、俺は軽く首を傾げた。

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