4 尋常じゃないステータスだけど
……。
え、レベルあがるの?
しかもなんかレベルの割にいろいろすげー数値じゃなかったか?
いやまあ比較対象がないからまだわからんけど。
「ふん……その表情は大方レベルでもあがったのだろう?」
「あ、わかる? にしてはだいぶおせーなって感じだけど」
赤竜を倒してからだいぶ時間が経っている。
「先ほどのドライグがたった今息絶えただけのことだ。経験値が入るのは息絶えたあとのことであるし、あまねく生物の成長は経験によってなされる。貴様がどのように生きてきたかは知らぬが、ドライグを倒すなどという経験はしたことがなかろう。その経験が希少であればあるほど高い経験値と大きな成長が得られるのだ」
「あーなるほど……」
それで一気にレベルがあがったわけね。
初期レベルが4だったっていうのは俺が元の世界で経験してきたことの現れだと。
……一七年でたった4かー。世の無常を感じるわー。
しかしまあそれにしても。
まだ表示されたままの成長率を見ながら、俺はメツ子に話しかける。
「あのさ、メツ子のステータスってどんなもん?」
「……なぜそんなことを訊く」
「いやーなんていうか、ちょっと気になることがあってさ」
「……見たければ勝手に見ればいいだろう。貴様が我から奪ったスキル――『全知』を使えば容易いことだ」
ふん、とそっぽを向くメツ子に、俺は眉をひそめつつ口を開いて。
「スキル『全知』? ――あ、使えた」
どうやらスキル『全知』は思うだけで使えるらしい。
……やばい楽しい。
まあそれはそれとして。
スキル『全知』によって表示されたメツ子のステータスは以下だ。
――――――――――――――
名前:ステラレギス
種族:竜族
性別:女
LV:9999
HP:121/121
MP:∞/∞
筋力:32
耐久:34
魔耐:214
敏捷:29
器用:47
スキル:なし
――――――――――――――
「弱っ!!」
「ぁあん!? 誰のせいだと思っている!!」
「召喚したのお前じゃん……つーかステラレギスって。ちゃんと名前あるのかよ」
俺がそう言うと、メツ子は露骨に黙った。
「よしステラって呼ぼう」
「やめろバカ!!」
どうやら触れちゃいけないっぽいことらしい。
物凄く率直な悪口が出てきた。ちょっと面白い。
いざというときに使おう。
それはそれとして。
「いやーしかし、魔力と魔耐以外二桁って……つーかこれレベルとMPの表記だけおかしくね?」
レベル9999、MP∞て。
「我の創りあげたスキル『全知』を愚弄するつもりか?」
ジト目で見てきたメツ子は、低い声で続ける。
「貴様にどう見えているかはわからないが、レベル9999、MP∞であればそれで合っている。先ほども言ったが、生物は経験によって成長するのだ。我にとって完全未知の経験など存在しないゆえ、成長もまたしない。ステータスが極端に低いのは、スキル『竜威』を貴様に奪われたからだ。………………それも数千年かけて創ったスキルなのに」
逆に言えば俺のステータスが高いのもそのスキル『竜威』のおかげってことか。
しかしだとすると。
「ということはつまり――9999がカンストってこと?」
「ふん、そんなもの貴様自身のステータスを見ればわかることだろう。すべての数値が9999で止まって――」
「いや超えてんだけど」
「は?」
「さっきレベルが4から17に上がってHPその他が9999から上がった」
「…………………………嘘であろう?」
目をまん丸に見開いたメツ子は、すがるように言う。
「きゅ、9999という値は、我の成長限界として定められたものなのだぞ……? 数千年の時をかけて『竜威』によって積み重ねられて……いや待て、それとは別に経験は積めるから……そ、そんな馬鹿な……」
ブツブツと呟くメツ子がなんかもういっそ泣きそうにさえなりはじめたことから、俺はこれが尋常ではない事態なのだと悟る。
「これ認識共有できたりするスキルねーの?」
そもそもどんなスキルがあるのかもわからないので、『全知』を自分に使ってステータスとスキルを確認する。
――――――――――――――
名前:此方悠
種族:――
性別:男
LV:17
HP:1311/10027
MP:0/10101
筋力:10024
耐久:10021
魔耐:10004
敏捷:10030
器用:10019
スキル
『竜威LV99』全ステータス超強化、全ステータス異常無効、物理魔法攻撃の超耐性。
『全知LV99』ステータス・スキルの完全把握、敵察知、解析、言語理解、概念共有。
『煉獄LV99』炎を生み出し、操る。
『凍絶LV99』氷を生み出し、操る。
『烈空LV99』風を生み出し、操る。
『雷滅LV99』雷を生み出し、操る。
『竜眼LV99』ステータス異常耐性LV80以下の相手の動きを無条件で止める。
『竜癒LV99』HPとMPが徐々に回復していく。
『竜身変化』竜に変身する。
――――――――――――――
「おお……」
これはなんというか。
メツ子のステータスを見たあとだとマジでハンパないような。
「……お?」
と思ったが、ある部分に俺は気づく。
HP:1311/10027
MP:0/10101
これ、現在値/最大値だよな。
めっちゃ減ってない?
MPに至っては0だし、HPは――あ、今1280/10027になった。
1248、1214……
え。え?
「なあメツ子」
「……おい、その呼び方決定なのか貴様」
「お前も俺のこと貴様としか言わないじゃん。って今それはいいから。なんかめっちゃHP減ってってんだけどなにこれ」
俺の問いに、メツ子はまだ恨みがましげに――だが、当然のように言う。
「であろうな」
「であろうなって――」
と呟いた瞬間、HPが三桁に突入して、無性に身体がおもだるくなった。
「おお!? なんだこりゃ……!」
「ふん、やはりそうなったか」
腕を組んだメツ子は、いい気味だとでも言いたげに続ける。
「スキル『竜威』は常時発動型のスキルだ。当然スキルレベルが高いほどより多くのMPを消費し続け、MPが尽きたあとはHPを削る。うまく制御下におけば減少量を少なくすることもできるが、我の力を奪って間もない貴様では適応させるのは無理であろうな」
「……この『竜癒』とかいうスキルは? HPとMP自動回復させるんじゃねーの?」
「貴様『竜威』の超強化がどれだけのものだと思っている? 『竜癒』だけでまかなえるわけがないであろう」
「いやいやじゃあ今までお前どうしてきたんだよ」
と言ってしまってから、気づく。
その答えはすでに出ていることに――。
「気づいたようだな。我のMPがいくつであったか」
MP∞/∞……ここでそれが効いてくるのか。
「ちなみに我のそれはスキルによるものではない」
俺の言いたいことを先回りするように、メツ子は自分の下腹部に触れる。
すると、布越しにそこがじんわりと光った。
「ここに無尽蔵の魔力を生み出す《神遺物》がある。外的要因による取得物であるから、我自身の力とは見なされず、貴様に奪われることもなかったというわけだ」
「マジかよ……」
チートスキル『竜威』は無限の魔力ありきのものだった――。
目を見開く俺を見て、メツ子がそこはかとなく勝ち誇った表情をする。
「ふ、いい気味だな。まあそれもちゃんと――」
「って、逆に言えば無限の魔力あればよくて、その解決法すでにあんじゃん」
「……は?」
「いやーよかったよかった」
「――いやいやいや待て。貴様なにを言っている。どこにあるのだそんなもの」
「え? あるじゃん、そこに」
そう言って俺が指さした先――メツ子の下腹部を見て、愕然とする。
「き、貴様まさか……どんな発想をしているのだ!? 外道か!?」
「え、いや普通じゃね?」
自分の下腹部を押さえて後退るメツ子に、俺は首を傾げる。
「ああ、別に強奪しようとか思ってねーよ? ちょっと借りるだけ。つーかどう使ったらいいかわからんし。まあ身体の中に入れるとかだと困るかなー……」
《神遺物》がスキルじゃなく、モノみたいなものだってことは借りることもできるはずだ。
下腹部にあるもんをどうやって借りるのかって問題はあるが。
「ちょ……そ、それ以上近づくな!!」
「いやでも……HPやばいし……割とフラフラしてっから一刻も早く解決したい……」
これは本当。
HPは700を切ってるし、毒喰らったみたいな気持ち悪さがある。
なんか考える力も落ちてきてるような。
そんな俺を見てメツ子は明らかに狼狽し――迷っているようだった。
「ま、待てと言って……いやだが結局は……」
そうしてなにか逡巡するような仕草を見せたあと。
「――ええいっ」
意を決したように抱きついて――唇を重ねてきた。