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37 発情竜(美少女)への対応

 その後もメツ子発情期バージョンは、なかなかにこちらの想像を超えた行動をとってきた。


「とりあえず、発情“期”っつーことは、一定の時間が経てば過ぎるってことだよな? それってどれくらいの期間――ってなんで服脱いでんのお前」


 スマホと引き替えに手に入れたばかりの服を綺麗さっぱり脱ぎ捨てたメツ子は、薄明かりの下で、その白く細い肢体を惜しげもなく晒していた。


 ……てかあれだな。


 服の前に、下着買わないとダメだったわ。


 今さらにもほどがあるし、そもそもそういう文化があるのかも知らんけど。


 目の前の現実から逃避するようにぼんやりとそんなことを考えた俺を尻目に、すっぽんぽんの元最強竜さんは艶やかに微笑んで。


「発情期はぁ……我が気持ち良くなるまで続くにゃ~!」


 途中でにへっと表情を崩し、こちらに飛びこんできた。


 別に早くもなんともないし、隙をつこうとしたのがバレバレの抱きつきを――俺はあえて回避せず、甘んじて押し倒された。


 ギシギシと軋むベッド。


 仰向けに寝る俺の上で、舌なめずりでもしそうな欲しがりの表情を浮かべる全裸の銀髪美少女。


 ちょうど俺の下腹部の上にまたがるようにしていたメツ子は、体を小刻みに揺らしながら「ぁ……っ」とか「ん……ぅ」とか艶めかしい声を漏らしている。


 切なげな吐息、蕩けるような表情、この上なく扇情的な肉体。


 発情期の健全な男子ならただちにコトに至りそうなその状況で――


「――よっと」


 発情期?の健全な男子の俺は、軽い動作で上下の位置関係を逆転させる。


「……ふぇ?」


 押し倒していたはずの俺に押し倒され、なにが起きたのかわかっていないような声を出すメツ子。


 白いベッドに銀糸の髪が広がり、紅い瞳が不思議そうにこちらを見つめ返してくる。


 ……うーむ、見れば見るほど綺麗かつ可愛い。

 性欲云々を置いておいても致してしまいたくなる不思議な魅力がある。


 が、そこをぐっと我慢して、俺はメツ子の下に敷かれていた布団を引っ張り、メツ子自身をもう半回転させて、その上に布団をかけた。


 布団っていうかこれタオルケットに近いな。うっすい。


「うむぅ……なに~?」


 されるがままうつぶせになったメツ子が不満そうに声をあげたが、俺は無視してメツ子の背中に両手を置く。


 布団――タオルケット越しに感じる少女の身体は思った以上にか細く頼りなげで、微妙に不安になったが、俺はその不安をかき消すように言った。


「発情期はお前が気持ちよくなるまで続くんだよな?」


「そうだけどぉ……ぁっ」


 熱っぽい声。


 その声に、俺は手応えを感じて。


「だったら――全力で気持ちよくしてやるよ」


 この俺のマッサージでな――!


 俺は心の中で“全力でメツ子の全身をリラックスさせ、気持ちよくする”と唱えながら、その華奢な身体をもみほぐし始めた。


「ひゃ……ふぁっ」


 ベッドに顔を埋めながら気持ちよさそうな声をあげるメツ子。


 ぶっちゃけ俺にマッサージの経験などあるわけがない。


 なので、見様見真似……というか、自分が受けたことのある整体を思い出しながらのマッサージもどきだ。


 つまりこうされたら気持ちよかった、こうすると気持ちよさそうの領域を出ていない。


 それでもうまくいく自信はあった。


 なぜなら――


「やっぱ器用さすげえ……」


 そう、俺には“終焉の滅竜”より受け継ぎし『竜威』という超チートスキルと、そのスキルによって保証された五桁の器用さがあったからだ。


 マッサージで気持ちよくさせればなんとかなるんじゃね? と思ったのはついさっきだが、器用さでなんとなると思ったのは、モンスターに関節技をかけまくっていた頃だ。


 元々MP消費効率の問題でかけていた関節技だが、あるときふと気づいた。



 ――そういやなんで関節極められるんだ?



 当たり前だが、元の世界で他人の関節など極めたことはない。


 知識としてこうすれば極まるとか、極まりそうというのはあったが、実際にやったことがないにもかかわらずうまく極めることができているという事実。


 もう一つ。


 スキル『竜威』によってあげられているのは器用さだけじゃない。『筋力』とて同様。


 しかもこちらは最大限手加減したデコピンで人を十数メートル飛ばしてしまうほどのものときた。


 普通に考えれば関節を極めようとしても、その前に破壊してしまう。


 ところが、現実には破壊もしなければ、サブミッションのプロフェッショナルのように鮮やかに関節を極めまくれるという有様。


 不可解とも言えるこの状況は、関節技をかけるときの自分の意識に注目することで明解になった。


 すなわち、関節技をかけるとき、俺が意識しているのは関節がどこかと、どう動かしてやれば極まるかの二点だけ。


 言い方を変えれば、力の“強さ”を一切考慮していない。


 これが俺の『なんちゃって関節技』を筋力依存の“ごり押し”ではなく器用さ依存の“技術”にするポイントらしかった。


 つまり、力のことを考えず、技術的であるように思考し、行動すれば器用さ依存になる。


 この仮説に則って、今回のマッサージでもどう触れば気持ちよくなるかということにのみ集中した結果――


「んっ……あっ…………ひぃんっ」


「ふあぁぁっ!」


「っ――はぁうっ……くぅぅんんっっ」


 俺は元最強竜、現銀髪美少女を見事喘がせることに成功していた。


 やっていることはなんちゃってもなんちゃって、本業を前にすればにわかと言うのも申し訳なくなるような適当なマッサージである。


 それでも、きちんと気持ちのいいポイントは押さえられているらしく、メツ子は聞いているほうが恥ずかしくなるような嬌声を上げ続け、


「ぁ――んっ、だ、だめ……イっ……――ぁああぁああっ」


 一際大きな声と共に、びくんとベッドの上で跳ねると、そのまま意識を失うのだった。


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