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29 リョカン

「リョカン、ねえ……」


 どうやら傭兵のおっさんたちの言うところの“いろいろと具合のいい店”というのは、そんな名前らしい。


 そのリョカンを目指して、再び表通りから狭い路地へと入りこんだ俺たちは、薄暗い道を確認しながら歩いている。


 傭兵おっさん御用達の店はルーシェも知らなかったらしく、情報の伝達には少し時間を要した。

 だが、そこは優秀なエルフさん。


「ルーシェに道案内頼んで、大丈夫か?」


 と訊いたらバッチリうなずいてくれたので、まあ安心だろう。

 そこのところマジでどこかの元最強竜さんと違うわーと思ったら。


「なんだよメツ子、その珍獣でも見つけたような顔は」


 美人が台無し……になってないあたり、マジパないわ。

 やっぱちゃんと格好を整えるって大事だな。


 俺が一人うなずいていると、メツ子はまじまじと俺を見つめながら言う。


「力押し一辺倒はダメ――貴様確かにそう言ったな?」


「うん言った。そこら辺わかってないメツ子ほんとセンスないわーとも思った」


「余計なお世話だ――というか貴様にだけは言われたくない!」


 そう突っ込んだメツ子は、勢いそのまままくしたてる。


「なにが力押し一辺倒はダメだ! 貴様がやっているのは違うというのか!?」


「あー」


 メツ子が言ってるのはあれかな。


「俺が傭兵おっさんたちを適当にのしたこと言ってんの?」


 のした、というと人聞きが悪いが、情報を引き出すための妥当な交渉手段である。うん。

 

「あれはほら、おっさんたちが素直に教えてくれればよかったのに、抵抗するから――」


「貴様明らかにそうなることがわかっていたであろう?」


「あ、バレた?」


 あの手の人間と真摯に向きあってまともな対応が返ってくると思えるほど俺はおめでたくない。


 ぶっちゃけめんどかったというのもある。


「しょうがないじゃん、あれが一番手っ取り早かったんだからさ」


 いやー人相手だと間接極めたりするのが楽でいいね。


 器用さ依存の攻撃、それも極めて少ない手数で制圧できたので、かつてない省エネっぷりを発揮したに違いない。


 あと、人間はちゃんと痛いときは痛いって言ってくれるし、これは無意識なのかわからんけど、明らかにモンスター相手のときより加減が楽だ。


 罪悪感があるのか、あるいは感情をあらわにされるので手が勝手に文字どおり手心を加えるのか。


 ……まあミザイのときみたいにちょっとキレてたらまた別かもしれんけど。


「偉そうに我に論じておいて結局力押しではないか……!」


「いやいや、そこはちょっと抵抗させてくれ。一応後腐れがないと思ってるからこその力押しなんだぜ? さっき言った理屈からも外れてないはず」


「……む」


 そこはメツ子もわかっているのか、不満げながらなにも言えない様子。


 ちなみに、傭兵おっさんたちは、訊きたいことだけ訊いたら普通に解放してあげた。


 ついでに表通りだとプライドの傷つき具合もアレかなと思ったので、ちゃんと裏路地まで誘導して事に及んだ気づかい上手っぷり。


 うん、俺えらい。


 まあ、加減したとはいえ、あの痛がり方は骨に異常が出てそうな感じだったけど――そこはまあ勉強代ってことで。


 世の中いろいろと怖いことがあるよね。


 と、俺が勝手にまとめていると、ルーシェが遠慮がちに声をかけてきた。


「あの、ハルカさま……ここかと……」


 どうやらリョカンとやらに着いたらしい。

 

 ルーシェの指し示すリョカンは、ぱっと見たところ、そこら辺に並んでいる二階建ての家と変わらない。


 いやさすがに横幅は広いし、奥行きもそれなりにありそうではある。


 ただまあ、壁とかしっかりしてそうな造りの割に、簡素な木製の扉の向こうで、男達の怒鳴り声とか、下卑た笑い声、時折交じる女の嬌声とか聞くと……うーんって感じ。


 というかこの木の扉って――


「どうした?」


 メツ子に声をかけられ、俺は「ああいや」と言ってから一応女性陣に振り返る。


 メツ子は中の様子が気になるらしく扉の向こうを見ており、ルーシェは……すげえびくびくしてる。


 ……だよなー。


 まあ置かれた境遇から想像するにそりゃそうだ。


 ここで入らないって選択肢もなくはないんだけど……気になることがあるんだよなあ。


 俺はボリボリと頭をかき、表に出さないようにしているが、明らかに怯えているルーシェに軽く声をかけた。


「ルーシェ」


「……は、はい……」


「とりあえず――大丈夫だから」


 なんだそりゃ、と自分でも思ったがそれ以外に言いようがない。


 なんかあったら守る。だから大丈夫。

 まあそれくらいの意味は伝わるだろ。伝わってくれ。


 俺はそう納得すると、割とあっさり木製の扉を押して中に入った。


 ――予想どおりというかなんというか。


 店内は、でかい樽をテーブルにしたスタンディングの立ち飲み客や、あまりいい造りに見えないテーブルを囲んで女を片手に抱きながら酒をかっくらう――いわゆる酒場っぽいところだった。


 右奥にカウンターと酒樽の山があり、そこにいかにもすぎるバーのマスターみたいなおっさんがいたので。


 俺は指を三本立てて言った。


「すんませーん、三名禁煙席でー」


 元の世界でファミレスとか行ったときのノリそのもの。


 しょうがない。本物のバーとか行ったことないし。


 それ以前に異世界でファミレス? というツッコミが入ることだろう。


 俺がまったくなにも知らない第三者なら入れる。絶対入れる。


 だが、まったくなにも知らないわけではない俺は、その対応が正解であることを予想していた。


 なぜなら――


 

「はーい三名様禁煙席ごあんなーい……って禁煙席なんかあるかいボケ!! サテンかファミレスか!!」



 そのマスターらしき男が繰り出したツッコミに、俺の予想は確信に変わる。


 男も自分のツッコミと、自分が今なにを口にしたのか――耳にしたのかに驚いているらしい。


 そうして目を見開いてこちらを見る男に、俺は白々しく言った。


「へえ……異世界にも喫茶店とかファミレスあんのか。てか、俺の言葉がなんのスキルもなくわかるってことは――あんたやっぱ日本人か」



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