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28 力の使いどころと

「いやーよかったよかった」


 ミザイの防具屋を出て、伸びをして。

 俺が心からの想いを吐露していると。


「おい……」


 メツ子さんがいかにも納得いかなげな顔で声をかけてきた。


「貴様力押しは悪手とか言っていなかったか? 最後のあれはなんなのだ」


「はっはっは、なんのことかな?」


 そう言って誤魔化そうとした俺に、メツ子は黙ってジト目を向け続ける。


 まあメツ子の言いたいこともわかる。


 さんざんメツ子のごり押し指示を却下しておきながら、最後は誰がどう見ても力押しとしか言いようのない手段に頼ったのだから。


 ちなみに、あのあとミザイには防具の代金を訊いた上で、“俺が預けるこれの価値には全然足りない”と言いがかりをつけて、いくらかの現金をいただいた。


 といってもルーシェに確認してもらって、三人旅なら一週間ほど飲み食いと宿には困らない程度だ。

 決して少ない金額ではないが、多すぎもしない。

 俺としては一応その判断にも理由があるのだが――


「まあまあ、俺は別に力押しがダメだなんて言ってないぜ?」


 肩をすくめつつ、しれっと言った俺にメツ子は目を剥く。


「んな――貴様どの口が」


「俺が言ったのは力押し“一辺倒”の話。お前は“まず力で奪え、復讐その他もすべて力で押さえつけろ、力がすべて”って言ってたじゃん。それはよくないだろって言っただけ」


「む……だが」


「俺も力を使っていることには変わりないって? そんなことねえだろ。この状況でミザイは俺に復讐しようと思うか? 周りに助けを求めるか? もちろん復讐することも周りに助けを求めることもできる。けど、反撃や周りに助けを求めるのにも大きなエネルギーを使う。もしそういった行動を起こそうと思うのであれば、それに合う見返りがなければならない。――見返り、あるか?」


 俺がミザイから奪ったのは二着の服と、幾ばくかの現金。

 あとはせいぜいちょっとした尊厳? くらいだ。


 それらを取り戻すためだけに、莫大なリスクを犯して復讐する――どう考えても理に合わない。


「それをメツ子が言ったみたいに全部奪ったりしたら、見返りとか関係なく全力で向かってきちゃうじゃん。だから力押し一辺倒はダメっつってんの」


 逆に言えば、使いどころさえ間違わなければ力押しは有効に働く。


 ……と、思う。たぶん。


「…………」


 最終的に適当極まりなくまとめた俺は、不満そうではあるが、納得せざるを得ないという顔をしているメツ子を確認すると、軽く手を叩く。


「ま、無事いろいろ手に入ったからいいじゃん? そろそろ陽も暮れてきてるし宿行こうぜ宿」


 そう言いながら歩こうとして。


「すごい……です……!」


 突然、ずっと黙っていたルーシェにそんなことを言われて、がくりとつんのめる。


「え、なに……?」


 急に。


 と思ったのだが、ルーシェは目をきらきらさせ、心から感動したように俺を見ていて、


「十分すぎるお力もある上、知恵まで……これなら……ハルカさまなら――」


「ルーシェ?」


「……ぁ。あ、あ、す、すみません!」


 軽く自分の世界に入っちゃってたルーシェは、自分のせいで先に進んでいないことに気づいたらしく、慌てて早足で歩き出す。


 ……いやまあいいんだけどさ。


 なんかこうルーシェの俺に対する評価が高すぎて、大丈夫か? って心配になるレベル。


 俺に対してジト目がデフォルトのメツ子と対照的すぎる。


 そんなことを思いつつ路地を抜け、表通りに戻ると、立ち並ぶ露店がオレンジに染まってなかなかいい感じになっていた。


 空を見るまでもなく、陽は沈みかけている。


 夕暮れどきでも人の往来は変わりない……いや、より活発になってるか?


 相変わらず男率が圧倒的に高いが、ときおり一目で夜の商売をしているとわかる女性が歩いていたりもする。


 どうやらここは夜のほうが盛況な街らしい。


 そういやミザイも本来店を開くのは夜からとか言ってたもんな。


 ラスダン寸前の街って位置づけからしても男――戦士が多いのは当然だし、そいつらが夜になって《深淵の森》とかから帰ってくるって考えれば、夜に近づくにつれて活況を呈すのも当たり前か。


 まあラスダンもなにも、ラスボスがここにいるんだけど。


「ってメツ子いるか?」


 元最強竜にしてただの食いしん坊メツ子さん。

 すぐ飯につられてどっか行くから気をつけなければ。


 と、背後を振り返ったら、案の定、少し離れたところにメツ子はいた。


 ついでにルーシェもいて、三人の粗野な男たち――傭兵っぽいおっさんに囲まれている。


 ん……あれはもしかして。


「よお、嬢ちゃんえらいべっぴんだなあ。どうだいこれから俺たちと一杯」


「む? それは我に供物を捧げるということか?」


「……いえ、あ、あのメツ子さま……」


「ガハハハ、おもしれえ言い方するなあ。おうよ、供物をたっぷり捧げようって言ってんだよ銀髪の嬢ちゃん」


「別のモノも捧げるけどなあグヘヘ」


「おいおい、んなこといったら嬢ちゃんたちがこわがっちまうだろ。おう、俺はそんなスケベなことしねーからな。ちょーっと触らせてもらうだけで」


「なにがスケベなことしねーだグハハハ」


 ……おー、すげえわかりやすく絡まれてる。


 日中、冷やかされはしても声をかけられることまではなかった。


 これはあれか。

 服の効果か?


 確かにまともな格好したらただの美人でしかないもんなー。


「ほらほら、行こうぜ嬢ちゃんたち。飯もうまけりゃ、泊まれもする、その上値段も安い実にいろいろと具合のいい店があるんだ」


 ――と、納得してる場合じゃなかった。

 それは聞き捨てならない。


「おーいおっさんたち」


 俺はおろおろするルーシェと腕を組んで首を傾げるメツ子を無理矢理移動させようとするおっさんたちに声をかける。


「――ぁあ?」


「んだてめえ」


 男に対してはわかりやすく敵意をあらわにする傭兵おっさんたち。


 うんうん、気持ちはわかる。


 俺は一人うなずきながら、真ん中にいたリーダーっぽいガチムチのおっさんに言った。


「そいつら俺の連れなんだけど」


 笑顔で言う俺にルーシェが「ハルカさま……」と呟き、メツ子は「連れ、という言葉は妙に引っかかるな」と眉を寄せる。


 それらを受けて、リーダーのおっさんはニヤリと笑って。


「あいにくだが――」


「ああいやいやそういうのいいからさ」


 俺はおっさんの言葉を無理矢理遮り、


「さっき言ってた“いろいろと具合のいい店”、案内してくれる?」


 笑みを深めた。

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