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25 ぶんどりましょう

 長髪メガネにいちゃんもといミザイは先ほどまでの眠たそうな顔が嘘だったように、目をきらきらと輝かせて、


「いやーマジでルーシェがまだ生きてたとはなー! ウケるわーはっはー!」


 豪快に笑う。


 ……うん。

 俺が言うのもなんだけど、このにいちゃんもなかなかにおかしそうだ。


 メツ子がすげえうさんくさそうに見ているし、なによりルーシェがうつむいたままというのが気になる。


 名前を知ってたのもそうだし、ミザイのリアクションからして知り合いなのは間違いなさそうだけど。


 問題はどういう知り合いか、ということだ。


「あー、あんたルーシェのどういう知り合い?」


 とりあえず、いまだにこちらを見ないので、俺はルーシェとミザイのあいだに入るようにして無理矢理視界に割り込んで言う。


「知り合いっつーほどの関係じゃねーけどなー。……ん? つーかお前誰?」


「気づいてなかったんかーい」


 まあなんとなくそんな気がしてたわ。


 この調子だとまだメツ子の存在も認識してなさそう。


 いやしかし。


「あらためて誰って言われると結構困るな……」


 もちろん名乗るだけなら簡単だ。ただ名前言うだけだし。


 だが、この場合求められているのは立場とか肩書きだろう。


 これが非常に面倒くさい。


“異世界から召喚された高校生男子でーす”と正直に言った日には“異世界から召喚?”“高校生?”と訊かれることが容易に想像できるし、“世界最強竜の力奪っちゃいましたー”とでも言おうものなら、どんな混乱が起こることか。


 ……ちょっと楽しそう。


 と思わなくもないけど、まあ現状自重するのがベターだろう。


 なので、俺はこの上なく無難な答えを口にすることにした。


「ワケあってこの二人と旅してる旅人のハルカ。あんたのところには防具……っつーか服が欲しくて寄らせてもらった。よろしく」


「旅人ぉ?」


 やはり全然気づいていなかったらしく、俺が指さしたメツ子もじろじろ見始めるミザイ。


 首を傾げ、いかにもうさんくさそうな感じ。


 あれ、旅人ってそんな珍しいもんなの?


「こーんな軽装とすら言えないような格好で旅もクソもねーだろ。嘘も休み休み言えよ」


 あ、そこか。まあそうね。そりゃ気になるよな。


 まさか世界最強の竜の力持ってるからモンスターの攻撃がオールノーダメージだったと言うわけにもいかない。


 どう言い訳したもんかと考えているあいだに、目を細めて俺――というより俺の服装を見ていたミザイは、


「てかお前のその格好なにそれ? どこ製の服? 後ろの銀髪美少女の上着も同じやつだよな?」


「お、わかる?」


 さすが防具屋……なのか?

 最初に突っ込むべきところな気もするけど。


 眉を寄せて、あやしい者を見るような目を向けていたミザイだが、やがてぶっといきなり吹き出すように笑って。


「やっぱ変人は変人を呼ぶんだなールーシェの知り合いっつーなら納得だわはっはー!」


 そのまま腹を抱えて笑うミザイ。


 笑いのポイントがまったくわかんねー……。


「いや納得はいーんだけどさ……だからお前はルーシェとどういう関係なんだよ。友達?」


「友達ー!? ぶはっ――お、お前奴隷と友達になるやつがどこにいるんだよっだはははははっ!」


「奴隷……?」


 いやまあ確かにおかっぱおっさんの奴隷ではあるっぽいけど。

 と、思ったら。


「まあ俺はアウグスのおっさんにちょーっと借りてたことがあるだけだけどさー」


「借りてた?」


「そうそう、アウグスのおっさんってうちの常連じゃーん? ちょっと手が足りないときに頼んだらあっさり。いやーそんときにルーシェがどんだけ……ああいややめとくか。お前奴隷と友達になりたいんだもんなー!」


 笑い転げそうな勢いのミザイに、ルーシェがきゅっと自分の服の裾を掴むのがわかった。


「……ルーシェがここ来たがらなかった理由がわかってきたわ」


「あーん? ばっか、アグエルで俺の店以上に質の高い防具置いてるとこないっつーの」


 ふん、と鼻息荒く胸を反らして腕を組むミザイに、ずっと傍観していただけのメツ子が口を挟む。


「それだけは我も保証してやろう。人族にしてはそこそこのものを作っている」


 この店で一番商品を物色していたのはメツ子だ。

 ミザイは俺やメツ子の着ていた服にも気づいたし、その言葉はそれなりに信用がおける。


 なにより、防具屋と聞いてルーシェは真っ先にここに連れてきてくれた。

 ミザイに会えばこうして嫌な想いをするとわかっていたのに。


 それだけこの店の作るものは信頼に足るということなんだろう。

 

 なるほどメツ子の目利きは正しい。

 そしてルーシェの気持ちはありがたい。


 ありがたいが。



 ……いやー無理だわー。



「で、近年まれに見る前向き奴隷ルーシェの友達(笑)とやらは、なにが欲しくてきたわけ?」


 にやにや笑うミザイに。


「んーそうだなー」


 俺はそれはそれは爽やかに笑い返して言う。


「クソ店主以外の全部」


「――――あ?」


 間抜け面をさらすミザイの目の前で、陳列されていたいかにも堅そうな鋼製の兜を手に取り、


「よっ」


 くしゃりと。

 紙くずみたいに握りつぶし。


「――!?」


 面白いくらい目を見開き、驚愕をあらわにするミザイに、


「んー? なに間抜け面さらしてんの?」


 とわざと空笑いしてみせ、手の中の鉄くずを見せつける。


「あ……え……あ、ああ、き、奇術?」


「そうそう、奇術奇術」


 今度は篭手を手にとって、より近くで握りつぶして。


「タネも仕掛けもないけどね」


 笑う。笑う。


 そうして何度か同じようなことを繰り返し、ミザイが顔を青ざめさせ「わ、わかった! なんでも言うことを聞くから助けてくれ!!」と言い出すまで、さほど時間はかからなかった――。


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