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24 防具屋ミザイ

 誰かさんのせいで無駄な寄り道をしたが、無事防具屋に辿り着くと、意外にも立派な店構えだった。


「へえ、露店じゃないんだな」


 きちんと看板も出ている。字は読めないけどね。


「案内ありがとな、ルーシェ」


 とりあえずここまで先導してくれたルーシェに礼を言うと、ルーシェは一度なにか言おうとしてから、口を閉じ、遠慮がちに目を伏せて。


「…………いえ……」


 ……ん? なんだ?


 引っ込み思案なルーシェらしい、いつものリアクションっていえばいつものリアクションだけど。


 とりあえずそれ以上続けるつもりはないらしく、ルーシェはこちらを見なくなってしまったので、首を傾げて防具屋に向き直る。


「いやーそれにしても……」


 大通りから一本外れたそこは、必然的に路地を通らなければならず、奥まった場所という立地のせいもあってか、薄暗くほこりっぽくて、無性にいかがわしい。


 なんかこう、いかにも危ないもの売ってそうな感じ。


 まあ大通りにバカでかい娼館があるのにいかがわしいもくそもないが、入り口から奥まで全然見通せないってのがね。


「ま、んなこといっててもはじまらないか。うぃーす、どーもー」


 そんな風に声をかけながら、俺は店の中へと入っていく。


「貴様……本当に適当だな」


 背後でメツ子が呆れるように言っていたが、適当なのはいまさらにもほどがあるので気にならない。


 というか、元の世界での俺を考えたらかなり積極的だわ。


「まあぶっちゃけ迷っていたっつーほど迷っていたわけじゃないしなー。どんな店だろうと防具もとい、服は欲しいし」


 それに多少あやしいくらいのほうが面白そうだし。


 しん、と静まりかえった店内は、思った以上に奥行きがあって、入り口からのぞき込んでいたときとは裏腹にちょっとわくわくする。


 我ながら現金なもんだね。


「ふん、防具はいいが金はどうするつもりなのだ?」


「お?」


 まさかメツ子から金の話が出てくるとは。


「もちろん、我はそんなものどうでもいいと思っているぞ? 思っているが、貴様はそうではないのであろう」


 ふいとそっぽを向き、妙に言い訳がましくそんなことを言ったメツ子は、ちらりとルーシェのほうを見る。


「我や貴様が金を持っていないのは先刻承知のとおりであるし、そやつの手持ちも――」


「…………す、すみません」


 メツ子に先んじて申し訳なさそうに謝るルーシェ。


 いやいやルーシェが謝る必要はまったくないけど。


「とりあえず金の心配はない。はず」


 たぶん。

 ……いやわからんけど。


 俺はポケットの中に入れていたそれを握りしめると、自問自答する。


 ちゃんとそれなりに高く売れるよなあ……?

 こっちの世界には絶対ないものだし。


 売れなかったらどうしよ。


 実はルーシェと合流して、本格的に街を目指すということになってから、モンスターとの戦闘時に、力の加減やスキルの燃費などを確かめる他に、なにか金目のものがないか調べたりしていたのだ。


 だが、これがびっくりするくらいろくなものがない。


 ブルーウィスプに至っては倒すと跡形もなく消えるしね。

 せいぜい、実用性がありそうなものはビッググリズリーやらマンティコアの毛皮くらいだろうか。


 しかしこれも、どういうわけか生きているときはふさふさに見えるのに、死んでしまうと途端にもっさりして、素人目にも「あーこれダメだわ」とわかる有様。


 あとはビッググリズリーの牙とかもわんちゃんあるかと思ったが、メツ子やルーシェに訊いてもあまりいい反応が得られなかったので持ち運ぶデメリットを考えて取るのをやめた。


 メツ子はまあ想定内として、意外だったのはルーシェもそっち方面の知識が全然なかったことだ。


 俺の中でルーシェは常識があり、物知りという認識だったのだが、誤算だった。


 まあ物知りというのはいろいろとアレな全裸竜メツ子とのコントラストが効きすぎてるせいかもしれないけど。


 ……なんか今も絶対装備できないゴツイ兜とか物色してるし。


「おいメツ子、触んのはいいけど壊すなよ」


 それがいくらくらいのものかはわからないが、さっきの串よりは絶対高い。

 壊されて弁償とかなるとマジ困る。


「ふん、この程度で壊れるようなら売っているほうが悪いのだ」


「なにその理屈」


 謎理論を振りかざして「ふむふむ……」とやたらめったら防具を触っていくメツ子は、妙に嬉しそうだった。


 なに……? そういうの装備してみたいの?


『竜威』があったときならともかく、今そんなの装備したら重さで全然動けなくなりそうだけど。


 ちなみにそんなメツ子を見て、ルーシェがかわいそうなくらいはらはらしている感じだったが、こればかりは気にするなとしか言いようがないので特に声はかけていない。


 メツ子と一緒にいる以上、あのくらいで神経すり減らしてたら生きていけないぞルーシェ。


「それより普通の服と店主どこだ?」


 先ほどから端の棚から視線をすべらせているが、鋼製の鎧や兜、篭手や脛当は雑多に並べられているものの、肝心要の普通の服――特に女物がまったく見当たらない。


 さすがにここにあるものだけがすべてではないはずだし、倉庫なりなんなりに在庫があるなら出してほしい。


 つまるところ店主はよ状態なわけで――しゃあない呼ぶか。


「すんませーん――あ、悪いルーシェ」


「……い、いえ……こ、こちらこそ」


 そんなに音量を大きくしたつもりはなかったが、近くにいたルーシェがものすごくわかりやすくビクついた。


 大きな音とか得意じゃないのかね。

 普通よりは耳大きいし。

 

 そんなことを一人考えていると、不意に近くで物音がして。


「ふわぁあ…………んだぁ?」


 なにやら眠そうな男の声と共に、こちらから見るとクズ鉄かゴミのように見える山のような鋼ががらがらと音を立てて崩れていき、そこから一人のひょろっとしたおっさん――というには若すぎるな。

 二十代っぽい髪の長いにいちゃんが現れた。


「ぁあ? まだ、陽も沈みきってねーじゃん……うそだろ」


 にいちゃんは手でひさしを作り、目をすがめて入り口のほうを見やると、そこの光で時間帯を判断したらしい。

 天井を仰ぐようにしてがくりと膝を突くと、再び鉄くずの布団? に戻ろうとしたので、


「いやいやまったまった。客いるから」


「……あぁん?」

 

 にいちゃんはそこでようやく俺に気づいたらしく、ぼりぼりと頭をかきながらやたらと顔を寄せて言う。


 おお近くで見るとすげえ目つき悪いな。

 つーか目悪いのか。よくそれで入り口の光とか見えたな。


「よく見えんが……うちは基本的に常連しか客と認めてない。そして夜から営業開始ってことは常連なら誰でも知ってる。つまり、お前は客じゃない。――以上、おやすみ」

 

 見事な三段論法だった。メツ子とは段違いの美しい理屈だった。

 まったくぐうの音も出ない。


「ってなるか。おい頼むよ、緊急なんだ、大至急なんだ、死活問題なんだ」


「奇遇……だな、俺の、睡眠も……同、じ……」


 あーこれダメなやつだわ。

 俺も似たようなことしたことある。

 めんどくさいってわかってると余計眠くなるんだよな。


 仕方ないここは一度引いて――と思ったら。


「あの……ミザイ、さん」


 それは劇的だった。


 ルーシェがたった一言、名前らしきものを呼んだ瞬間、別の生き物のようにがばりと起き上がったにいちゃんは、くず鉄の山っぽいところに手を突っ込んでメガネを取り出すと、ぶんぶん首を振り、やがてルーシェにフォーカスすると。


「おおおお!? うそだろ!? 本当にルーシェじゃん! 生きてたのかー!!」


 それはもう嬉しそうに手を叩くのだった。


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